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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
D1話・本当の敵はそこに居た(ほんとうのてきは そこにいた)
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07 想いを託した者達

戦場と化した組織内の一室にして行われていたやり取りを霧散し、突如としてその場に現れた衛生隊の長『マウルティア司教』こと『ベネディス』 元々の空間内に独自で形成した魔法の領域を展開し、事の次第を見守り状況に応じて姿を現すつもりだったのだろう。


リヴァナラスへと赴き行動しているライゼ以外の計画に関与した者達とは既に話を付けており、惨劇が始まった事を悟り身を隠す事を命じていた。しかしその命令に従う者とそうでない者が現れるのは必然だったのだろう、一部の者達は他の部隊員達の姿を隠す手助けをすると共にその場にとどまり、後からやって来た者達の襲撃に襲われるも、身を挺してその場を護る事を選んだのだ。

無論場を離れた者達は壊滅し事が落ち着いた際には再度部隊を発足させ同様の業務をする事を約束しており、組織内の団結力は他と同じかそれ以上に強固だったのかもしれない。


もしくは『ベネディス本人』へ対する信頼もあったのだろう、命令した本人ですらその返答には驚きつつも本人達の選択を否定する事は無かったそうだ。



そんな衛生隊内で交わされていた約束の数々を知る由もなく、異世界で行動していた自らの右腕とも言える相手が還って来た。本来ならば即座に姿を現し自らの命令を与える所であったが、その隙も無く襲撃されていたが故に手を差し出すのが少しばかり遅くなったのかもしれない。

だがそんな事は些細だったのだろう、彼の放った魔法は極めし領域故の強力な魔法だった。


「んなっ!! 翁、貴様何時からそこに!!」

「マウルティア司教殿……! 御無事で……!!」

「やはり、儂の眼に狂いは無かった様じゃのう。元同士として行動していた者を右腕に添える事を選んでいれば、この程度の惨劇では収まらなかったと視える。ライゼよ、お主は良く頑張った。此処まで無事に辿り着いた事も賞賛に値しよう。」

「……ッ、勿体ない御言葉です……!」


深手を負いつつも現れた上司の言葉に一瞬涙を浮かべるも、ライゼは顔を左右に振りつつ頭を垂れ感謝の意を示しだした。【周りは全員敵と思え】と先輩に告げられた時から心細さを感じていた彼にとって、今の言葉ほど心が現れる感覚に至れるモノは無かったのだろう。


過去に衛生隊内で行動していたスティールが裏切り、自らを貶めるだけの行いとして組織を壊滅、上層部の存在すらその行いを利用してきた。


絶望の淵に立たされていたと同時に戦場内である事を理解すると、彼は静かに膝を付きつつ立ち上がろうとすると、その行いを静かに阻害するかのようにベネディスが左手を伸ばしてきた。掌を広げ自らの動きを阻害された事に一瞬驚くも、見上げた先の相手の顔が敵対する者を直視していた事も有ったためか、彼は特に拒む事はせず静かに大盾を構え直すのだった。


「……さて、エレファント枢機卿。儂の部隊に所属する者達を随分と可愛がってくれた様じゃのう。中には既に絶命し姿を消してしまった者達も居る様じゃが……それは一つの生命の定めとして、受け入れるしかあるまい。同じ組織内での仲間割れなど、ティーガー教皇様が聞かれたら如何なる処罰を下すのやら。」

「ハッ、そのティーガー教皇様直々の帝政だと申しているではないか。俺様自身の勝手な考えだとお前等は申し立てている様だが、証拠も証言もあるのだ。それ以上に何を求める?」

「求める、じゃと……? フォッフォッフォッ」

「!! 何が可笑しいか、翁!!」


相対する形で対立していたベネディスはグロリアの発言に腹を擽られた感覚に陥ったのだろう、調子の良い時と同様の笑い方をし始めた。不意に老人らいし笑い方をされた相手は癇癪を起し噛み付く勢いで反論するも、その言葉も対した効力を成していないのだろう、ベネディスは一切怯む事無くこう告げだしたのだ。


「コレが可笑しいと言わずして何となるのじゃろうなぁ。エレファント枢機卿、お主は本当に盲目がちじゃのう。温厚寄りと言われる象獣人にあるまじき猪突猛進振りとは、笑い話にもならぬよ。」

「んなっ!」

「外堀を埋めたが故に率先して行動しているからこそ『正義に護られている』と感じている様じゃが、ティーガー教皇様がそのような行いを正義と見なす『保証』が何処にあるのじゃろうな。」

「……何が言いたい……!」



「お前さんは『踊らされている』と言う事じゃよ。ティーガー教皇様がそのような行いを即座に視抜き、何故今までお咎めが無かったと思う? お前さんに支持され上へあがった恩義などと言う発言は、控えて欲しいのう。」



「俺様が踊らされている……だと!? 何を根拠にそう言える!!」

「儂はコレでも無駄に年は取っていないつもりなのでのう、お主の行動そのものに『ティーガー教皇様が目を光らせない理由は無かろう』と言う推測じゃよ。あの御方はお主の発言を逐一聞き判決を下していたが、その報告回数も増えればわざわざ此方に足を運んでまで付き合う通りも無かろうて。全くもって御苦労な事じゃよ。……まあ、お主は元より『魔法』へ対する見識は甘い部分が目立っていたが故に、見張られている事へ対し見抜けぬのも無理は無かろうて。」

「侮辱とは、良い度胸をしているではないか……翁! この状況下でお前達の勝ち目があるとでも思うてか!!」

「『勝ち目』云々で全てを決めるのは、良くないのう。……じゃが『有利』なのは否定せぬな。」



スッ


バシュンッ!!


《んなっ!! な、なんだコレは!?!?》


憶測と推測から告げられた言葉に襲い掛かる勢いで行動を示そうとしたその瞬間、ベネディスは罠にハマったとばかりにその場に仕掛けていた魔法を起動させたのだ。瞬時に風と光を織り交ぜたかのような煌びやかな壁が目の前に展開されると、彼等は身動きが取れない様子で壁を叩きながら抗議の声を上げだした。

幸いか生憎か壁そのものは音を通しやすい構成をされていたのだろう、通常の声の通りを少しだけ阻害するかのように籠ったような声があちこちから聞こえてくるのだった。


「安心せい、ただの防護壁じゃよ。如何せん衛生隊内において『病原体』を持ち込まれては困るのじゃよ。常に身体には気を使うべきであろう?」

《我は汚染などされておらぬ!!》

「頭は既に手遅れの様じゃのう。フォッフォッフォッ」


とはいえ老体故に若人を揶揄からかう所は変わらないのだろう、何時もと変わらない笑い声を上げながら彼等を尻目に後方へと振り返りだした。そこには先程から待機しているライゼの姿があり、ずっと変わらず大人しくしていた事に加え脇腹を抑えていたのを視ると静かに処置を開始しだした。


しかし今出来る魔法による手当ては応急処置に過ぎず、折れた数本の骨による神経の断絶を元に戻す事、加えて生じていた痛覚を抑える事くらいしか出来ない。本格的な魔法による療法はちゃんとした下準備を行わずに行使する事は難しく、今その場で即座に出来る最大限の処置であった様だ。


「ありがとうございます。……マウルティア司教殿、俺は……」

「ライゼよ、お主が無事にリヴァナラスから戻り混乱の殿内を突破し衛生隊に辿り着いた事は賞賛に値する。だがお主は今、手を出すべきではない。その盾と意志と魔法は仲間を護るために使うのじゃ。」

「で、ですがっ……! こんな状況の殿内をどうにかするにも、あのヒトに対して説得だけでは……!!」



「するなっ!! 司教わしからの申し渡しじゃ!!」



「ッ!!」


処置によって身体の痛みが緩和された事でライゼは立ち上がり無事である事をアピールするも、自らの意見は通らず強い叱咤によって阻害されてしまった。突然の事に驚き両目を閉じてしビクつく彼に対し、ベネディスは優しく手を伸ばすと静かに頭を撫でだし、怒っているのではないと改めて告げるのだった。


「……ライゼよ、お前にはまだやるべき事がある。おまけにこの殿内の状況を打破するにも、衛生隊は既に壊滅状態。この場に立つも生き残っているのは儂等だけじゃ。戦力が足りなさすぎる。」

「………」

「とはいえ、一部の者達には既に身を隠すよう申し渡しておる。この場に残る事を選んだ者達は儂の指示を拒むも、次なる『衛生隊を創らんとする意思』を未来に託す為にに残ったのじゃ。お主が悲観的になる事は無い。」

「えっ……? じゃあ、トラバスさん達は……」

「その通り、儂の次代となる『マウルティア司教』となる者に希望を託したのじゃ。」

「次の、マウルティア司教……?」



「ライゼよ、生きている今の儂の口から告げられるうちに告げておこう。次代の『マウルティア司教』と成るのじゃ。」

「!!!」


突然の言葉に驚きを隠せないライゼであったが、先程から表情がコロコロ変わっているのはあえて置いておこう。先程から冷静に事を対処していたベネディスの口から悪戯な行いに対する笑い声は時折あったが、面と向かって命令された時とは少しだけ異なる違和感を彼は覚えだした。


普段の仕事や任務とは違う、これから先の未来を見据えた発言。壊滅状態に等しい現状を復興する為、次の行動に繋げる可能性を見据えた言葉。そのどれもが重く自らの可能性を示唆しささせる、強烈な言葉であった。


「マウルティア司教殿! 俺にはそんな資格も力も有りません……!! いきなり告げられても……困るっす………」

「何、即座に決断せいとは言わぬ。現に儂も先代に告げられた時は躊躇った上、即決即断など出来る身分では無かったのでな。ましてはお主は衛生隊に付いて日も浅い。当然じゃ。」

「で、ではどうして……俺を………」

「お主には『衛生隊の長』に相応しい素質があるからじゃよ。それを妬む者達からの妨害は幾多もあったようしゃが、その妨害さえも『障害』として乗り越える壁に変えられる程に。な。出会い頭の時は可能性を見極めるべく提示した内容であったが、今となっては自信を持って言えるからこそ、儂はお主を片腕としたのじゃからな。」

「マウルティア司教殿………」



「とはいえ、流石にこれ以上は持たぬか。向こうさんも待てない様子、鼻息の荒さから血圧が上がり切っている様じゃ。身体に悪いのぅ。」

「えっ?」


静かにやり取りをする事すら許されない戦場に壁を張るも、限界を迎えたと悟ったのだろう。ベネディスは自らの行いで張り巡らせた魔法の障壁が破られたと察したその時、再びライゼを背後に隠しながら彼の胸板を強く後方へと押し出すのだった。

次回の更新は『10月31日』を予定しています、どうぞお楽しみにっ

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