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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
D1話・本当の敵はそこに居た(ほんとうのてきは そこにいた)
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06 憎悪の一撃

殿内で合流したミュゼットとのやり取りを終え、一人通風孔内を移動し始めたライゼ。初めは垂直に等しい通路を一生懸命に移動する事を強いられるも即座に地面と水平になった事も有ってか、今は物音を最小限に抑えつつ匍匐ほふく前進で孔内を移動していた。

幸いにもリヴァナラスにて部隊員として行動していた事もあってか、行いそのものに一切の隙は無く最小限の高さで有ろうと難なく彼は突き進んでいた。時折他の通風孔と交差する場に直面するも、進んでいるであろう方向と方角を意識しつつ彼は道を選択し進んでいた。


そんな彼が移動を開始し殿内の騒がしさを時折感じながら突き進む事、約数十分が経過した時。彼の目の前に光は薄くも突き当りと思わしき壁が目の前に現れ、彼は両手でその壁を押し出すと、徐々に上方から光が降り注いできたのだった。



ギィー――………


『ょっ……とっ。……? 此処って、調剤室か……?』


彼が壁だと思い押し出していたのは『引出しの戸』であり、どうやら通風孔とはいえ出口そのものは『天井付近にある』と言う解釈とは異なる出口だった様だ。あからさまに地面に近いその場所から顔を出したライゼは凡その場所の見当がついた様子で顔を出しつつ室内を静かに確認すると、再び匍匐前進を再開しゆっくりと身体を孔内から脱出させるのであった。

外へと出ようとした際に尾羽が戸の一部に引っかかり痛覚を刺激されるも、彼は冷静に引っかかった羽根を解放させ、膝を付いたまま改めて部屋の中を見渡しだした。


彼が出て来たのは衛生隊の区域内の一部に存在する『調剤室』であり、主に彼が魔法として会得した『魔精薬マエル』を生成する場として利用されている場だ。外部から取り寄せた薬剤や香草、気体や鉱石類を元に調合した魔法の薬はエリナス達の身体を癒し、重症であろうと快方へ向かわせる代物として知られていた。

本来であれば『素材が無ければ作れないモノ』ではあるがライゼ自身はその障壁を飛び越えた存在として周知されており、その力でギラム達と共に戦っていたと言っても過言ではない。


とはいえ現状は罪人扱いの為『魔法が強ければ周囲の眼差しを悪意に変える』事など容易い為、その魔法も今は裏目に出ていると言っていいだろう。



『通風孔経由かと思ったら、まさかの引出し経由だったなんて……… リミダムも本当に神出鬼没っすね。』


しかしそんな現状の立場など些細な事であり、彼は装束に付いた埃を軽く払いながら調剤室の外と隣接する窓辺へと移動すると、静かに顔を出し外の様子を窺がいだした。衛生隊の区域内でも隅の方に位置する調剤室から視える景色は限られてはいたが、目視出来る範囲でも既に手打ちにあったのであろう同胞達の姿が確認出来た。

既に襲撃にあった後の惨劇であり周囲には魔法による交戦と衝突があったのだろう、壁や床には幾つもの斬撃痕や魔法での爪痕が残されていた。


負傷した隊員達の姿は幾つも確認出来たが、肝心のマウルティア司教である『ベネディス』の姿が確認出来なかった。


『……マウルティア司教殿は、此処には居なそうっすね。場の襲撃を予見してたなら何処かに退避しててもオカシク無いし、先手を打ってたのかも………』



「ぅっ……… っ……」

「……ん?」


そんな光景を目の当たりにし他の同胞達が無事である事を願っていたその時、ライゼはふと微かな声を耳にし声のした方角を目にした。彼が視線を向けた先は普段自身が衛生隊としての務めを果たす際に使用しているデスクの方角であり、その隣に位置する場にてうつ伏せに倒れていた熊獣人の姿であった。

彼よりも細身ではあるが非常事態だった事もあり応戦したのだろう、白い装束の至る所に自らの血で赤く染まった部位が存在しており、特に背部にその痕跡が強く見て取れた。


『息がある……!! 魔精薬で何とか成るか……!?』


息の根が浅くも意識がある事を理解したライゼは慌てて調剤室から跳び出すと、そのまま滑り込む勢いで相手の元へと駆け寄り出した。幸いにも纏っていた装束の素材元も有ってか、一部の傷跡の瘡蓋変わりと成っており失血死とは至っておらず、ギリギリの生命線である事を彼は確認しだした。

とはいえ身体を動かす事は到底出来ない程の衰弱振りで有り、生死の境を何とか戻って来たようにも視て取れた。


「ぉ、おいしっかりしろ!!」

「ッ……… ……ライゼ……さん? お…戻りで………」

「あんまり喋るなっ 今魔精薬で何とかするか」



「おーおー、こんな所に隠れておったか。若鳥よ。」

「ら…… ッ!!」


そんな重症患者と成っていた相手の反応を視つつ右手で魔精薬を創り出し処置しようとしたその時、彼の動きと声を耳にした一部の存在達の声が聞こえて来た。声を耳にしたライゼは視線を動かし声の主を目撃したその時、驚愕を露わにしだした。


その場にやって来たのは今回の首謀者として警戒していた『エレファント枢機卿』こと『グロリア・ドミネ』であり、彼の後方には幾多もの兵として洗脳したのであろう他の部隊員達が揃っていた。先程遭遇したフィドルとミュゼットと同じく山吹色の装束を身に纏った者達が揃っていたが、無論他の部隊員カラーである藤色と藍色の者達も居り、多種多様の戦闘員を確保していた事を彼は瞬時に理解するのだった。


追手達に見つかってしまった事を理解した彼は、慌てて怪我をしていた熊獣人をを後方に隠す様に相手を跨ぎ自らの左手に大盾を召喚すると、盾の陰に身を隠しつつ横目で創り出した魔精薬の先端を相手の身体の頸動脈目掛けて差し込み、中身を流し込むのであった。応急処置でしかないが血小板による止血効果促進と新規赤血球の生成増進作用の高い成分が含まれており、自然治癒による体力の減衰を抑える効果を期待して彼は処方したのであった。

液体が流されて数十秒と経たない内に相手の呼吸が少しだけ落ち着いた事を確認すると、ライゼは改めて視線を前へと戻し相手と対峙する様にその場から立ち上がり出した。


「………」

「クックックッ、相変わらず手癖だけは一人前の様だなあ。それで幾多の同胞達の身体で身体実験をして来たと輩ともなれば、如何なる状況下でも簡単に処置が可能な所は翁と変わらん。よく出来た右腕よ。」

「エレファント枢機卿、コレは如何なる処遇でしょうか。我々衛生隊は『生をまもる部隊』として発足され力を有する者達が集められた場所。その場を壊滅させると言う事は、外の世界での生を護るための基礎が無くなると言う事です。」

「何、この部隊が無くなろうとも処置を可能とする魔精薬の生成は愚か、魔法を有する者達が居れば何も困る事は無い。寧ろ『反逆罪』として名高い『リアナスの創造』を目論んだのだ。其方の方が重罪であろう?」

「それはあくまで『リアナスを創った』のであれば、こそ。ピニオは造形体ゼルレストであり『生身の人間ではありません』が…… 其処の見識については、議論されたのですか。」

「議論の余地など無い、全ては『ティーガー教皇様』が命ぜられた事だ。お前等の様な連中を排除しろ、とな。」

「………」


警戒する姿勢だけはそのままに冷静な口振りでライゼは問いかけるも、グロリアは既に確定事項を遂行中とばかりに勝機を露わにしており、一歩も引かない姿勢を示していた。上層部の根回しも完壁な様子で語られる口振りは策士そのものであるが、コレでも幾多と報告書を提示するも調査し何度となく敗者側に送られた事実に関しては些細な事象なのだろう。

磨かれた象牙がキラリと輝く中、ライゼは盾を静かに構え直しつつ思考回路を静かに整えだしていた。


『ココでティーガー教皇様の名前を出してくるって事は、やっぱり正式な議論と検証をされない上で出された御触れに近いな。スティール先輩が関与してるのなら、ゴリ押しなんてゼロじゃないとは思ってたけど……‥ ……でも。』

「ッ……ックッ…… ツッ…」

『ココで戦闘を行えば、虫の息に等しい他の隊員達の命の保証がない。……しかも俺の使える魔法は、あくまで『行動を制限させるモノ』ばかり……… ギラム准尉だったら、こんな絶望に近い状態でも逆境に変えられるはずなのに‥…… 力なの無さが裏目に出てばかりっす。』



「どうした、怖気づいたか? 殺られる事が決定しているのだ、少しばかり抵抗してみたらどうなのだ。」

「そんな事をしたら、俺が罪を認めたって事になります。第一、エレファント枢機卿も御存じのはずでしょう、俺の力が鳥人族の中でも底辺に等しい事は。」

「翼を失った鳥人族は皆そうであろう。議論し判断するまでも無い。」

「そうでしょうね。……スティール先輩を使ったのなら、猶更。」

「?」

「俺が知らないと思っていましたか? 貴方が元衛生隊所属の『スティール・ブラン』先輩を使って情報収集を行い、ゼルレスト計画に関与した俺達を割り出し、あくまで素体から導き出された結論を表向きの情報で纏め上げた報告書を『帝政』とした事を。」

「………何を言うかと思えば、戯言であったか。それは正式な情報を示唆したうえで導き出された報告書。それに対するお前の発言は小路付けに等しい。誰が信用すると言うのだ?」

「誰が何を信用するかどうか、じゃない……!



『正しい行いを理解する事』を、俺はして欲しいって言ってるんっス!!! 間違った情報に惑わされた他の者達、そしてこの計画そのものに関与して無い衛生隊配属の同士達に手を出した今の行いを、悔いて改めろって言ってるんっす!!」

「ッ……!」


しかしその冷静さも気付けば欠如し自らの私情に流されている所は、彼本人にとって『曲げたくない信念』そのものなのかもしれない。世間で確立した見識そのものから外れたモノを『異端視』する事が必然だと諦めていた今の彼だからこそ、目の前の事と真摯しんしに向き合いどちらが正しい事なのかを考え、視つづけてきた。


本質とかけ離れている方は何方なのか、道理に外れ道を誤ろうとしている方は何方なのか。


生まれ故郷を離れても尚その思考回路を止める機会に恵まれなかった今の彼からすれば、罪だと蔑まれても仕方の無い事に加担しただろう。だがあくまでそれは自分の話であり、関係の無い枠内だけの存在達を殺めて良い理由にはなるのだろうか。私情で自身を追いやった自らの過去の先輩の行いそのものに等しいからこそ、ライゼはは啄む勢いでグロリアに噛み付いたのだった。



仮に相手が上層部の、上司であろうと。



「何をほざくかと思えば……戯言を!!」

「戯言かどうかは決めるのは、お前じゃない! 俺達自身だ!! 俺達は皆、生きた『心創誠命体エリナス』なんだからなぁああ!!! 間違えんなぁああっ!!!」

「偉そうな口を……!! 俺様を誰と心得ているか!!」


しかしそんな自らの行いとしてやって来る行いそのものは、全て結果であり代償とも言うべき事象に等しいだろう。グロリアからの指示でやって来る攻撃と魔法の嵐は彼の盾など簡単に突破出来るだろう物量の嵐であったが、ライゼはデスク脇に身を隠す様に跳び込みそのまま近くに倒れていた熊獣人の身体を引き込みながらデスクの下へと隠しだした。

不意な行いに相手が驚きながらも動けない様子で物陰に送り込まれると、ライゼの眼を視た瞬間に彼の眼から告げられたであろう言葉を瞬時に理解するのだった。


《そこから動かないで、俺が何とかするっす。》

《ライゼさん………!》


とはいえ一人を隠した所で状況そのものが変わる事は無く、ライゼは盾を担ぎ直しながら物陰から視える範囲で周囲を見渡しだした。するとそこには既に処置の間に合わなかった衛生隊員達が次々とその場から霧散していく光景が目に写っており、彼は歯を食いしばりながら『この場に居ては危ない』と考え、別のデスク元へと移動しつつ隙を突いて相手集団に目掛けて投擲武器をその場で創り出し放り投げた。

手投弾を目にした一部の者達が魔法を放ち爆音と爆風が同時に炸裂しながら風の波が彼の元にも押し寄せると、再び攻撃の波が再開され手投弾が投げられた位置に向かって集中砲火が行われだしたのだ。


無論ライゼはその攻撃も予測しており既に別の場に退避しながら次なる手を考えており、自らの作戦に相手集団が嵌ったと感じた。まさに、その時だった。


『うし、隊員時代の動きが出せてるっす。このまま囮に近い形で此方の動きを読ませれば、無駄に被弾しないで済むは』



「全く、翼の無い奴のやる事は姑息でしかねえなぁあ。」

「ず…… ……!!」


魔法の集中砲火が行われていた場から離れていた彼の背後から、自らの背筋を凍らせる様に呟かれる声が放たれたのだ。声を耳にしたライゼは振り返りながら相手の姿を目視すると、そこには自らと同じ種族ではあるが羽根色の異なる茶鷹鳥人の青年が立っていたのだ。

自らに対し鋭い眼光で睨み付けるその顔は妬みと恨みそのものであり、ライゼにとっても忌まわしき相手の顔と名前が脳内に駆け巡るのだった。


「んなっ!! スティール先輩ッ!?」

「馬鹿が、羽根が風を切る振動はコッチだって解るんだっつーの!!」


ガッ!!


「ぐあぁあっ!!」

「「!!」」


自らと対立し衛生隊を離れる事を選び、ライゼにとって身の危険を感じさせるだけの行いをしてきた相手、名は『スティール・ブラン』

ライゼとは異なり大翼を背後に従え強き魔法を有する風の民と知られいた彼は、まさにライゼにとっての『思考が固められた存在』そのものであり、自らを特に異端視する者でもあった。


様々な負の感情を含ませた強い一撃を腹部に打ち込まれたライゼはそのまま吹っ飛ばされ区域内を転がる中、痛みに表情を歪ませながらも身体の回転に掛かる力を反転させながら腹部を抑えだした。今の一撃であばらの二・三本が折れたかもしれないと思いながらも、痛みからやって来たであろう汗を流しながら相手の事を睨みつけ出した。

しかし今の彼の表情では苦痛の方が表面に出やすかった為か、相手は一切怯んでおらず舌打ちしながら相手を見下し続けていた。


『チッ、まんまと囮に騙されやがって……… コレだから風の民じゃない連中は面倒なんだ。』



「ぅっ、ぐっ………!」

「おい! こっちに居んだろ!! 無駄撃ちすんなっ!!」

『しまったっ………!!』


荒くれ者のお礼参りとばかりに一撃を放って少しだけ気が落ち着いたのだろう、スティールは後方に居た存在達全員に目掛けて声を放ったのだ。それによってライゼがその場に居ない事を知った彼等は視線を地に転がる相手に移しだし、再び攻撃の嵐が再開されだしたのだ。

自ら被弾しまいと一足先にその場を離れたスティールは動けないライゼを尻目に黒い笑みを浮かべる中、ライゼは慌てて攻撃を受けた際に落としてしまった盾を召喚し直し空いていた右手で攻撃の波を諸に受け止める形となってしまったのだった。


先程の一撃で貰った攻撃が想像以上に辛いのだろう、左腕は常に腹部を抑える形となっており両手で盾を担げない所もまた彼にとって劣勢を示す体制となっていた。その時だった。


『くっそっ……! 盾で防ぐにも限界があるっす……!! どうしたらっ………!!』




「『パリモディアクチノイド・オクタゴン』!!」




バシュンッ!!


『えっ……魔法………!? 何処から!?』


集中攻撃が激化し自らの死を覚悟したその時、彼の目の前で広がっていた攻撃の嵐が即座に霧散し、魔力の波と思わしき空気そのものに変化が及んだのだ。先程までの空気の激しい振動や酸素濃度の濃さを一瞬にして消し去ってしまったが故なのだろう、それによって一部の獣人達が影響を受けており何名かがその場で崩れ落ちたのも目視で来た。

しかしそんな変化を起こせるのもまた『魔法』ではあるが、自らに加担する事の出来る存在が区域内に居たとはライゼも思っていなかったのだろう。


突如として後方の壁からすり抜けて来るかのようにやって来た存在の足音に、ライゼは静かに視線を上げていた。


「『誰と心得て折る』か…… 自らの欲望と教皇様の王座を狙った、醜い同胞であると言う事くらいじゃのう。エレファント枢機卿様。」



「「!!」」


その場に現れた存在、それは衛生隊という組織そのものを護り今回の騒動の発端となってしまった総司令に等しき存在『ベネディス』であった。


次回の更新は『9月30日』を予定しています、どうぞお楽しみにっ

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