01 平和だった時間
長らくお待たせいたしました、『鏡映した現実の風シリーズ』の第1シーズンの後半。Dサイドの更新を開始しました。諸々の挨拶文は経過報告の方に上げておきますので、良ければ其方も合わせてどうぞ
自らの切欠を知る事となり、それを意図的に使いこなし、気にして行動する事の出来る存在は果たしてどれくらい存在するのか。一つの概念と称して単語に直す事が可能だったとしても、それを体得し意のままに使いこなせているかと問われれば、事実その解へと辿り着く者はそう多くは無いのかもしれない。
誰もが上の存在になる事を人知れず望むが、誰もが同列の存在に成り変わらせるかの様に操作して行く。周りを貶め自らが上に成り上がりさえすれば、必然的にその場に辿り着き、結果的に最後の一人に成る事を彼等は信じ、それを疑わない………
しかしそう簡単に事が進む程、世界が多枝に渡れど簡単に捻じ曲げられる様な生を送る事は叶わない。自らの身体が一つであるように、磨き上げていけるモノもまた一つでしかない。
叶えたい願いは沢山有れど、得られる願いはほんの一握り
仮にもしその概念を覆す存在が現れた時、世界はどのように変わって行ってしまうのか。
その回答へ対する周りの意見は、おそらくこうなるだろう。『神のみぞ知る世界』と………
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現代都市リーヴァリィを中心とし、周辺地区に住む者達と共に日々の豊穣を祝う祭【ハーベストカンシュタット】 俗に言う『収穫祭』であるこの祭りはリーヴァリィにて盛大に行われ、都市内に住む者達もまたこの日を楽しみにしている人も少なくはない。
目で楽しみ、口で楽しみ、そしてやり取りを交わし舌鼓を打つ。誰もが単純に楽しめるこの祭り事の裏側で、一部の者達による闘争が行われ居た事を知る者は、そう多くは無い。
願いを叶える為に犠牲を厭わない者達、しかしその行いに相対する考えを持つ者達、代償として仲間の命を懸けられ救うために向かった者達。楽しさとは裏腹の美しくも儚い策略の舞台が静かに幕を閉じ、表裏を静かに調和するかのように歌を奏でる一人の存在。
彼の歌声によってその物語が一つの節目を迎えていた、そんな時間軸の裏の事。
雄は独り、異世界にて行動して居た………
「ありがとうございましたー」
軽快な声と共にお客人を見送るかの様に告げられる、優しくも威勢の有る声。雑貨店の店主であるその者からの声を受けながら外へと出た相手は、両手で抱えられるかどうかの大きな段ボールを持って外へと出て来た。
空よりも深い青色の髪に綺麗に整った顔付に対し、性格が比較的やんちゃな事を思わせるかのように着けられている鼻絆創膏。桃色の瞳が印象的な青年は扉が閉まった事を確認すると、荷物の詰まった段ボールを担ぎ直し次なる目的地へと向かうべく、近くのベンチへと向かい荷物を一度下ろしながら一息ついていた。
「……ふぅ、結構買ったな……… でも、コレくらいなら治安維持部隊の頃の銃器とかの方が重かったし、割と軽い方っか。」
そんな事を呟きながら青年は両肩を軽く回しながら一息つき、軽く溜まっていたであろう乳酸を流すかのように身体を動かしていた。
彼の名前は『ライゼ・スクアーツ』
しかしその名前は今の彼には通用はせず、今は仮の名前である『ライゼ・アングレイ』と言った方が正しいだろう。前者は『鷹鳥人』の時の名前であり『人間』の姿の時に使える時の名前では無い。
しかしどちらの姿であろうと『ライゼ』である事には変わりはなく、その事を一番理解してくれている相手もまた彼にとって誇らしく、そして最も彼の憧れとする姿に相応しい相手。だがそんな相手との行動も名残惜しく思う時間はそう多くは無く、今の彼は別途用意された雑務をこなすべく、リーヴァリィの街を単独で行動していたのだ。
ちなみに何故『人の姿で行動しているか』と言うと、エリナスの姿では出来ない任務をこなす為である。とはいえ、やっている事は『買い物』でしかない。
「えーっと………後はコレを、指定の発送先に送れば終わりか。住所住所っと……」
そんなお使い任務に対し愚痴を一つも零さず淡々とこなす所は、彼の性分なのだろう。一息ついた後にズボンのポケットに忍ばせていた携帯端末である『センスミント』を取り出すと、その場で電子板を展開し荷物の送り先を確認しだした。
彼がリーヴァリィへとやって来て行動してきた日数は年数単位と言う事もあり、割と獣人達の中では周辺地域の地理に詳しいと言って良いだろう。その時の肩書は『現代都市治安維持部隊』として行動していたが、今ではその肩書も無いただの青年であり、そして既に落命した存在の名を使っている亡霊とも言えなくはない。
だがそんな彼を認識したとしても、都市内に住む大半の者達は彼等から視て『ヴァリアナス』と称されており『認知はされど記憶には残り辛い思考回路の持ち主』に指定されていた。
世界の均衡を保ちつつも自身の生活を優先し、そして接点を持ったとしても自らの欲望に有益かどうかで行動が変わって来る者達。良くも悪くも魂の価値感に合うかどうかで全てが変わる為、優れたる存在の末端として称されていたのだ。
そんな彼等にとっての優れた存在、それが『リアナス』であり『真憧士』と呼ばれる者達。だがその名に相応しい存在は今のリーヴァリィには居らず、エリナスである彼等を認知出来るかどうかで枠組みに該当しているだけに過ぎない。
だがそんな存在達が多い世界であったとしても、ライゼにはこの世界でやらなければならない事があり今この場に居るのである。
『……あれ、この住所って………ギラム准尉のアパート?? ……… ………』
そんな荷物の送り先として指定されていた場所、それはライゼにとっての憧れの相手であり自ら『理想の相棒に成りたい』と思った相手の住処。彼もよく連絡を取っては足を運んだ事のある場所の一つであり、何故そんな場所に大量買いした荷物を送り届けるのか、疑問に思っていた。
ちなみに大量買いした品物、それは割と日持ちする『ビーフジャーキー』である。
『………あぁ、きっとマウルティア司教殿からの『気配り』的なやつかな。今回の騒動は創憎主達の行いが殆どだけど、エリナス達の救出作戦を遂行させてくれたのってギラム准尉やサインナ陸将達の配慮のおかげだし。納得っす。』
しかし雑務の裏がどんな理由で有れ、ライゼからすればアッサリ納得する理由に心当たりがあった。つい先ほどまで接点の合ったその者へ対し彼は日頃から沢山の恩恵を受けており、恩に関しては幾ら返しても返しきれないとも考えていた。故に今回は物で御返しするのだろうと彼は理解すると、改めて箱の中身を確認しその品物の一つを手に取った。
今回彼が買ったのは『ヤタガラス印』の『ビーフジャーキー』であり、ライゼにとっても割と見知った商品だ。何故ならこの商品は元々クーオリアスに存在する物で有り、それを誰かがリーヴァリィへと持ち込み卸した結果根付いた商品の一つでもあった。
この世界には他にも沢山の商品がクーオリアスの物であるが、それを知る事が出来るのは一部のリアナスとエリナス達だけであり、ライゼもその一人にすぎない。
噛み応えのある干し肉には独特の香辛料が使われており、酒の肴には勿論、おやつとしても人気のモノだ。おまけにライゼを始めとする『鳥人族』にとっても数少ない無害な食物であり、猛鳥類側に位置する鷹鳥人のライゼにも安心して食べられる代物であるからだ。
とはいえ彼等の食に関する話に関しては割と長くなるので、また別の機会に話すとしよう。
「コレ、お願いしまっす。」
「はい、お預かりします。」
そんなビーフジャーキーの詰まった段ボールを再び持ち込んだ先、それはリーヴァリィ内で配達業務を行う業者の詰所。荷物を受付に渡しつつ伝票版を受け取ると、彼は手慣れた様子で指先で文字をつづり、送り先であるギラムの借家を記入するのだった。ちなみに送り主に関しては自身の名前を書いており、住所は過去の勤め先である『現代都市治安維持部隊』に成っていた。
その後必要事項を記入し終え受付が確認すると、彼は金子を払い配送手続きを終えて外へと出て来た。
「ん、んーーーっ……… ふわ~ぁあっ………」
再び道を歩き出した矢先、少し疲れを感じたのかライゼは歩きながら身体を伸ばしだし、一息つきつつそのまま欠伸をしだした。そして周囲に人の眼が無い事を静かに確認すると、路地へと入り込み何処からともなく大きな盾を召喚し、彼はその場で自身にかけていた魔法を解き出した。
シューンッ………スンッ……
「フゥ。流石に連戦後の雑務となると、身体にくるっすね…… リミダムは多分ギラム准尉達と一緒だろうから、先に帰ろっと。」
自らの武器に秘められた魔法を解き放ち本来の姿に戻ると、ライゼはそう呟きながら盾を消し、現在地を確認しつつ自らの世界へと戻れる扉のある場所へと向かって移動して行った。そんな彼の行いが平和に済んでいる今の時間軸の『リヴァナラス』、そして彼の還るべき本来の世界『クーオリアス』
この物語はそんな異世界に位置する彼等の世界の願いが発端となった、悲しい惨劇の物語である………
次回の更新は『5月22日頃』を予定しています、どうぞお楽しみにっ




