14 仕組(しくみ)
「クッ……… ……まさか、地面から生えるなんて………」
安全を確保するも出血した部位に痛みが生じ、ギラムは表情を歪ませていた。突発的な行動に対する読みはまだまだ弱く、相手がどんな行動でどんな攻撃をしてくるかを予測する事は出来ていた。
しかし魔法は何処からでも発生させることが可能であり、彼の様に仕掛けをせずとも発動させることが出来るのだ。切れ味のいい剣の一撃で負傷した様子で、彼は痛みに耐えつつ相手を視ていた。
「強者であっても、現実に依存している割合は高そうだなぁ……… お前。」
「………」
「まぁ、そういう奴だからこそ安全性は高いんだろうな。 至近距離にも強く、真憧士にはもってこいだ。」
折れた剣を再生させる事無く敵はそういうと、彼の表情が再び歪んだ事に気が付いた。
彼は空想等に慣れた生活は行っておらず、ただ単に思い付きと爆発に何を付け加えるかを意識した魔法を中心とし、使い方が上手なだけに等しい。だからこそ非現実的な魔法を仕掛けられてしまえば、とっさの判断と受け身に徹し攻めには入れないのだ。
その上真憧士で至近距離に強い人材は、中々いないため重宝されると敵は口にするのだった。
「お前、利用されてんだなぁ。虎っ子に。」
「………何故、そう思うんだ。 アイツは根っからの子供で、まっすぐ俺の目を見てくる奴だぞ。 利用する理由があるのか。」
「あるさ。 創憎主を量産させてるのは………奴等だからなぁああ!」
「何?」
そんなギラムを見ながら敵は叫び、創憎士を創っているのは奴らだと言い始めた。何故その結論に至ったのか解らず彼は顔をしかめるも、それも相手の策略なのかと思い、様子を見ながら質問を返した。
「量産、って言うのは気に食わないな。 お前も元は真憧士だと言うのか。」
「あぁそうさ。 この世界で唯一信用していた獣に………俺は裏切られたんだ!! だから俺は孤独であり、創憎士になってこの世界を俺の望む姿に変えると決めたんだ!」
「………」
「『契約は破棄出来ない』って言う言葉を後々耳にした時は意味深だと思ってたが、まさかそれに気づいた俺達への策だとは思わなかったがなぁ……… 上手に作ったもんだ、馬鹿げた獣共も。」
質問に対し敵はそう答え、元は真憧士であり堕ちた存在なのだと言い始めた。彼なりの考えも持ち合わせている事をギラムは分かっていたが、契約の裏に隠された事実は何も知らない当事者に過ぎない。経歴も浅く、相手の言葉は説得力があった。
ましてやグリスンが再度確認した『覚悟はあるのか』と言う意味の裏を説明されてしまっては、説得力が大きかった。
「奴らが俺等を利用する。 ………だったら、俺達だって獣共を利用しちゃいけないなんて、誰が決めたんだ? この世の中でありえない事が起こせる力を得た今だからこそ、俺達は神となり腐った現状といらない上司共を根絶やしにする事が出来るんだ!! こんな魅力的な力を、何故好きに使わない! そんなのは平和を理由に正当化している馬鹿共がする事だ………でも俺は違う! 憎しみが絶えない世の中から、憎しみそのものを消す事に意味がある! だから俺はこの力を使うんだ! 何が悪い!!」
『利用………な。』
まるで演説活動を行うが如く敵は高らかに叫ぶと、力を使って世界を創りかえると主張しだした。敵を取り囲んでいた現状がどんなものだったかは解らないが、彼にとって不条理であり、憎しみに満ちた現状が相手の心を蝕んでいたのだろう。自身と同様に苦痛を抱える存在達のためにも、彼は創りかえるべきだと叫んでいた。
相手の言葉を耳にしたギラムはしばしその意味を考えた後、その場にしっかりと立ち上がり、腕の痛みを気にせず言葉を口にした。
「………それは、お前の正当化している理由に過ぎないだろ。」
「何だと………?」
敵の立証する力説に対し、ギラムはその理由さえも正当化している言葉に過ぎないのではないのかと返し始めた。
奴らに利用されるのなら、俺達も利用して何が悪い。互いにメリットがあるからこそ組んだ理由があり、裏切られた相手を殺し好きに使う事が何故いけないのか。憎しみそのものを根絶やしにし、苦しむ者達が安息である地を形成する事。それは世界を創りし神がする事であり、自分達がするべき事ではないと彼は考えている様だった。
「間違いを犯さない人なんて、この世界に居やしないぜ。 誰だって過ちは犯すし、どんな場所にも気に食わない奴が居る。 ………でもさ、そんな奴らを根絶やしにしたら『平和だと思う瞬間』が何処にあるんだ。」
「………」
「そいつらが居なくなったら、そう思う時すらも失うって意味でもある。 創造って言う事を俺はしたことが無いから解らないが、何かを得るなら何かを失うのは当然だ。 正義の面構えにしか感じないだろうけど、俺はそう思うぜ。」
「失う前に、得れば良いだけじゃねぇか。 何言ってんだお前。」
「永遠と繰り返す気なのか。 お前は、その行為を。」
「ッ………」
創りを変える事は、今まで保たれていたバランスが崩れ新たに再形成させる事を意味している。下げるほどの環境と、上げるほどの環境があるからこそ考えられ得られる感情が存在する。それが失われてしまった時、最低の位置と最高の位置が同等になってしまったら、何時幸せだと感じる時が存在するのか。
理に叶った事を彼は告げると、失う前に得る行為を例えしたとしてもその行為を永遠と繰り返すのかと言いだした。その行為を続ける事は馬鹿でしかないと、告げるのだった。
「せっかく良い考えがあっても、1人じゃ気づけないデメリットがある。 ………それを教えてくれるのが、他人だと思うぜ。 もしグリスンが俺の事を利用して契約したと言うんだったら、俺はそれを否定してやるよ。
アイツは、そんな考えを持つ奴じゃないぜ。 敵さんよ。」
考えそのものは良くても、気づけない点が何処かにある。それを気づかせてくれるのが相手であり、消す理由にはならないと彼は言葉にした。
敵の言う事が例え事実であったとしても、契約を求めてきたグリスンはそんなに根が黒い存在ではなく、ましてや憎しみで生きる敵の考え程、低能だとは思えない。もし騙されるのであれば、信じて騙された方が良いと、彼は考えている様だった。
「俺は信じるぜ、グリスンの事を。 お前と契約をした奴も、きっとそうだったんじゃねぇか?」
「ッ………! なら……馬鹿だと思う前に、俺はいらないと思う奴等から先に消してやらぁあ!!!」
「なっ! 止めろ!!」
自らが考える事を告げたうえで信じると言うと、ギラムは敵と契約し命を絶ったエリナスもそうだったのではないかと口にした。だがそれが事実かは解らず、敵はその考えを飲まないと言わんばかりに、別の場所で動けずにいたグリスンを見つけ襲い掛かった。
手には先ほどの剣よりも大きく切れ味の良さそうな大剣をかかげ、猛スピードで彼に切りかかった。遠くからギラムの話を聞き意識が彼の事でいっぱいになってしまっていた隙をついて、視界に敵が入り込んできた事に対しグリスンは反応しきれないでいた。飛び出した刃が鈍く光る剣を敵は手にしており、それで自身を一刀両断しようと敵はすぐそこにまで迫って来ていた。
距離上受け身をとっても切られてしまうと、グリスンは思い目を強く瞑った。
「死ねぇぇええええーー!!!」
敵の気合の入った叫び声も耳に入り、グリスンは切られる覚悟で居た。
その時だった。
「させるかぁああ!!!」
バキンッ………!!
「………! 何ッ!!」
「剣が……… !」
彼等の耳に一声が聞こえると同時に、空を切り金属がヒビ割れる音が生じ出した。音を耳にした両者は剣を目にすると、そこには弾丸が撃ち込まれひび割れてしまった剣の姿が目に映った。
切られるかと思っていたグリスンは驚くも意識を戻し、瞬時にその場に立ち上がり、敵を武器で右方向へと叩き飛ばした。建設現場の資材の中へと飛ばされた地面を転げ、周囲に鉄筋をまき散らしていた。ひとまず安全が確保された事を確認すると、グリスンは何故剣が割れてしまったのかと周囲を見渡した。
すると視線の先には、1人銃を構えて立っているギラムの姿があり、彼の手にしていた拳銃からは微量の煙が出ていた。
「………何とか間に合ったか! グリスン、大丈夫か!?」
相方の無事を確保したギラムは静かに銃を降ろすと、心配そうにしつつ彼の元へと駆け寄った。彼の無事を確認すると同時に銃口から上がる煙を目の当たりにし、彼は息を吹きかけ、荒野のガンマンの様な仕草を取り一人苦笑していた。
「ギラム……… 『生成系』の魔法を、もうコントロール出来ちゃったの………?」
「魔法にもジャンル分けとかされてるのか? ………まぁ、一番パッと思いついたのがこれでな。 百発百中で狙い通りに打ち込めるわけじゃないんだが、気合でなんでも打ち砕けそうな気がしてさ。」
先ほどから彼が行っていた魔法の区分を口にしたグリスンであったが、ギラムは気にせず思いついたのがこれだと拳銃を見せていた。ただの拳銃にも関わらず素材が分からない剣を打ち抜くほどの威力を放ったのは事実であり、どれだけの威力を叩き出したのだろうと、ギラムは不思議そうに手にしていた武器を見ていた。彼を見たグリスンは唖然とするも、事実出来てしまった事を想い、それ以上は何も言うことが出来ずにいた。
そんな時だ。、
ガラッ………
「?」
不意に彼等の耳元に鉄骨が倒れる音が聞こえ、音のした方角を彼等は目視した。するとそこには先ほど吹き飛ばされた敵の姿があり、鉄骨の端で皮膚が切れたのか、所々に出血が見られていた。それでもフラフラと立ち上がり、言葉を口にしていた。
「俺は……俺の世界を創り上げる……… 決まりなんぞに従って、偉そうにする上司なんか………!! 全員消えちまえばいいんだ!!」
「………」
「お前等も一緒だ。 いつか低能で部下を使いパシりにする、どうでもいい重役になっちまうんだ! お前らなんかいらない!! 俺が創造者になってやるんだ!!」
どうやら正気は薄れてしまった様子で、ただ願望の為に行動している事を悟らせる様に、敵は言葉を口にしていた。その言葉を聞いたギラムは軽く驚くも、相手は人であり元は普通の存在であったことを改めて理解していた。
考える矛先は何時しかズレてしまい、世界を敵に回してしまうほどの考えに至り、力を行使する存在になってしまった。エリナスと契約した際の志は何処へ行ったのかと、ギラムは静かに敵の言葉を聞いていた。
「消えちまえば良い………! 俺を捨てたアイツと同じく、お前等も死ねば良いんだ!!」
その後敵は落ちていた別の剣を手にし、傷ついた足を懸命に動かし、彼等の元へと駆け寄り襲い掛かってきた。そんな行動を目にしたグリスンは慌てて彼を守ろうと武器を構えるが、その行動の前に再び空を切る弾丸の音が響き渡った。
パアァーンッ!!
「………あぁっ………!!」
その音と共に再び剣は砕け散り、周囲に粉々になって崩れ落ちてしまった。壊れた剣を目にした敵は再び涙目になるも、弾丸を放った主であろうギラムを睨みだした。銃声と共に起こった現象を目の当たりにすると、グリスンは隣で銃を構えているギラムを視ていた。
彼はまっすぐ前を向いて敵を見ており、右手だけは前に出し銃口を剣だけに向けていた。あくまで人は撃たず、壊れてしまった考えの元凶となっている剣だけを撃ち抜いたのだ。
奴は悪くない、悪いのはその考えに至らせた現状だ。
それだけを思わせる、静かな行動だった。
「もう止めな、そんな考えを叫ぶのは。」
「ッ………」
敵の動きが止まった事を確認すると、ギラムは静かに銃を降ろし敵に向かってそう言い放った。行動を否定されてしまった敵は苛立っているかのような表情を見せ、軽く力を行使している彼を睨んでいた。
「自分の世界なんて創り出しても。 お前、きっと満足しないと思うぞ。」
「お前なんかに………何が分かる………!! 俺は立派に働いてきた、その上でこの力を使っていた!! あからさまにおかしい周りの状況を、何で放置するんだ!!」
静かに言い放たれた言葉を耳にし、敵は歯を食いしばりつつギラムに対し叫んだ。
企業で良くある上下関係の中で行動し、彼なりに立派に行動してきた事。何か不憫があれば力を使い、偉そうにするも尊敬できない上司などを放置しなければならない現状。それを何故変えようとしないのかと、敵は必死にそう叫んでいた。
「不要であっても、その場に居なければならない奴なんだろうな。 お前の言う上司って言うのは。 ………でもな。 代用が聞くとか聞かないとか、そういうのは意味合いでしかねえだろ。」
「………」
「周りは皆同じだと思うぞ。 部下が上司を尊敬出来ないっていう気持ちを持っているのは、お前等だけじゃない。 上司だって責任者が気に入らない事なんて、世の中あり得る事じゃねえか。」
そんな敵に対しギラムは喋る事を止めず、世の中でそう考えているのは自分だけではないと言った。
誰だって考える事であり、辛いのを言っている風景を目の当たりにしないだけ。何処か暴走する前に止まれる配慮があり、苛立ちながら突き進んでいないだけなのだと言うのだった。
「解ってるかのように………言うな……! ……お前なんて!!」
「ああ。 役に立ってるなんて、思っちゃいねえよ。 代わりは居るだろうし、偶に意見が食い違って上司が気に入らない時だってある。 ………そんな気持ち、何時までも抱えてて良い事あるのか。」
「………」
意見が正しいかの様に思うも、解っているかのように言う口ぶりが気に入らない様子で敵は意見を言おうとした。しかしそんな相手の言葉を遮りギラムはそう告げ、自分もいらないと思われていても不思議ではないと言った。常に必要とされ続ける存在など居ない、誰かが必要とするが一部はいらないと感じても無理はない。
それで世界は回っており、バランスと取っているのだと。
彼は静かに告げると、銃を持ったまま敵の元へと近づいた。その行動を見た敵は再び剣を召喚し構えるが、ギラムは再び冷静に剣だけを打ち抜き、手にしていた柄を蹴り飛ばした。その後痛む手を抑える敵を目の前に、彼は一言告げた。
「一回止まりな。 ………無理し過ぎなんだよ、お前みたいな奴等は。 皆さ。」
「………」
「止まれる様に、手助けしてやる。 ………その心境は、夢だと思えばいい。」
言葉を告げるも敵が静かにしているのを見た後、ギラムは静かに銃口を相手の額に付けた。その様子を見た敵は驚き彼の顔を見るも、ギラムは軽く笑顔を見せ「心配しなくても良い」と言った。相手の涙で崩れた表情を見た後、彼はゆっくり引き金を引きながら呟いた。
「………ゆっくり、休みな。」
パシュンッ………!
言葉を告げたと同時に、彼は静かに引き金を引いた。それと同時に敵は撃たれた拍子に身体が後方へと反れると、ゆっくりと仰向けになりながら地面に崩れた。見開いていた眼はゆっくりと光を失い、静かに敵は目を瞑り、気を失ってしまった。
だが額からは血は流れておらず、ビー玉の様な球体が額に強く当たったかの様に皮膚は赤くなっていた。