表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第九話・現代都市の繁華は紅色に煌めく(リーヴァリィのはんかは べにいろにきらめく)
279/302

29 詩先有(だれかのために)

場の空気を再び整え、グリスンの手にしたギターから奏でられるのはロックな音調。激しくも有り場の空気を鼓舞するには相応しすぎる程の音響に周囲の人達が惹かれる中、後方で待機していた獣人達もまたうっかり任された仕事を置いてしまいそうになる程の勢い。

現にリズルトが圧倒され音の調子から手伝いが不要と感じたスプリームが腕を下ろす中、彼の歌が始まった。


{考えが認められない それが世の末生きる道

 攻める心意気よりも 相手を護る事を選んでみよう}


{周りからの蔑視は威圧的 君は孤独の中へと堕とされた

 それでも拳は 握り続けた}



『……あれ、何だ………? この感覚………』


とはいえそんな歌が他の人達の脳裏に染み込んでいく中、違和感を感じた者が一人居た。それは先程一声を上げたギラム本人であり、グリスンの口から語られていく歌詞に何処か引っかかり、その違和感が何なのかを理解するかのように再び歌に耳を傾けだしていた。


{強くなるにはどうするか 最強になるとはどんな事

 人を認めさせる 距離を置く事別話 それを解っていたいから}

{夢を叶えてみたくて 憧れになる事を選んでた

 その生き方に惚れる人 少なくない}


{誰もが彼に 成りたかったんだ}



『………あぁ、そっか。……アイツの言ってた【歌】が出来たんだな。』


そして段々と理解した様子で心の中で呟くと、彼の脳裏に有る日常でのワンシーンが呼び覚まされるかのように浮上しだしたのだった。



彼が思い出したやり取り、それは留守にしていたグリスンが隠し事をしたとして軽めに追及された時の事。世間的には大した事ではなく些細には変わりなかったが、それでもグリスンはまだ内緒にしたいと言って居た時の事だ。


【僕ね、何時かギラムに聞いてほしい歌があるんだ。】

【? 何だ、それ。】

【それは、まだ秘密。ちゃんとした歌詞と歌にしたいから、それまで待って欲しいんだ。……絶対に創ったら、ギラムに初めに聞かせてあげるから。】

【あぁ、解った。期待しないで待ってるぜ。】

【うんっ!】


彼が創っていたモノが何なのか、当時は理解する事が出来なかった。しかし彼の生きている中でその一瞬を切り取ってでも創りたいと願ったモノには変わりはなく、その想いが形と成り出来上がったモノが何なのか。

記憶と歌声が瞬時にリンクされ一つの仮説が出来上がったその時、彼の表情にも再び笑顔が灯るのだった。


『【龍の意志と生きる者】……か。………ありがとさん、グリスン。』




{彼は1人の男だが 1人の存在に変わりない

 誰もが苦労を強いられた 才能何て存在しない}

{だけど限りなく強いモノ 意志を常に持ち続け 夢に向かって突き進む

 新たに巡る運命に 夢のためにと闘うよ}


{周りは救われ(はじ)めてた 誰もが異変に気が付いた

 誰もが口をそろえだし 同じコトバを唱えてた 君は変わらず紡ぎだし 次第に異変に気が付いた}


{誰もが君(俺)を 否定しない現状に}


彼の歌声はその場で続き、音源もまた曲の調子に合わせて激しくも有れば時折落ち着いた調子にも変わって行く。サビから次の歌までの伴奏もまた彼一人で担い、そして調子を狂わせない様に気にしながらもステップを踏み周りを歌と姿で魅了して行く。

彼が今まで見せた事も有ったが公で見せる事の無かった歌声の場、それが今この場で完全に完成した事が明らかになったのだろう。


動きそのものは彼が魔法を放っている時と大差は無い為、彼の普段の行いもまた一つの演奏だったのかもしれない。足元からは閃光とはまた異なる優し気な光が湧き出ており、気付けばその光も形作り何処か煌めくも蝶の様にも見えなくは無かった。



{君は恐れを抱かずに 前を視続けた 巡り合う事を望んだ 蒼き龍をその身に秘めて さらに前へと歩き出す

 共に向かう仲間に出会え 君を慕う相手も現れた}


{彼はもう独りじゃない 彼はもう孤独じゃない 君は立派な 憧れになったんだ

 それを僕は見続けていた 君にはずっと内緒でね}



{それを伝える 今が来るまで}


煌めきの名を背負って生きて来た奏者と成りし虎獣人の彼が奏でた歌は、祭り事に関わっていた者達全ての気持ちを暖かく、そして優しい気持ちへと変えて行くのだった。歌声を聞いた者達は皆笑顔を浮かべ拍手を送り、そして現代都市内に再び送られてきた電力供給によって街全体がライトアップされ、公園内に設置された街灯に明りが灯って行く。


その明りはまるで『紅色の灯』の様であり、黄昏時の気持ちから宵闇の時間へと繋ぐにはこれ以上にない公演となるのだった。



ーーーーーーーーーーー



とはいえ、その想いの全てが『リヴァナラス』のみに存在していたわけではない。彼等の居る世界から離れるもそう遠くはない『クーオリアス』に存在する区域、一角に設けられた部屋でもまたその歌声を耳にしていた存在がいた。


それはギラムがお礼を言いたいと言った張本人、白毛の虎獣人『ニカイア』であった。


『………相変わらず、君の歌はオラの心に響き渡る……な。君にはその名の通り、本当に煌めきが良く似合う。………グリスン。』


陽が陰り段々と室内の明かりが自然から人工的なモノへと変わる中、目の前を揺らぐ蝶達からやって来るグリスンの歌声。それはニカイア本人が条件的に発動する様に仕込んだ魔法の一種であり『グリスンが新たな歌を創り、そして歌う気持ちになった時』にだけ発動するモノ。

彼が昔から聞いて来たが故に絶対に逃したくないと望んだ、彼の想いから放たれた魔法であった。


そんな気持ちの暖かさと哀愁漂う表情を浮かべていた、その時だった。



コンコンッ

スッ……


「…… 入れ。」


彼の居た室内に入室を希望する音が聞こえ、ニカイアは静かに蝶達の姿を消し魔法を強制的に掻き消してしまったのだ。そして完全に魔法の気配が消えると同時に声を放つと、勢いは有れど相手の気に触れない程度に扉が開かれ、入室主の姿が露わと成ったのだ。


彼の居た部屋にやって来た相手、それは象獣人の『エレファント枢機卿』こと『グロリア・ドミネ』であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ