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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第九話・現代都市の繁華は紅色に煌めく(リーヴァリィのはんかは べにいろにきらめく)
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27 迎仲間(おでむかえ)

「お帰りなさい。」


彼等にとっての一つの節目と成る戦闘が終了した後、現実世界で彼等に向けられた言葉は『出迎え』の言葉だった。他の場所にて自身と同様だが現実での行いを並行してこなしていたサインナは一人、ギラム達が潜入していた『ツイリングピンカ―ホテル』の前で待っており彼等の姿が視えると同時にそう言葉をかけて来たのは黄昏時に入る少し前。

戦闘後ではあるが左程身体面での疲労感を感じさせない彼を視てか、少しだけ安堵した表情を見せつつ相手はそう言うのだった。


「そろそろ戻って来る頃だとは思ってたわ。ラクトも無事に還って来たし、其方そちらも無事に済んだのかしら?」

「あ、あぁ……… ……無事、とは少し言い辛い結果なんだけどな……… でも、一応黒幕そのものは停止させてきたぜ。」

「……そう。それなりに報告は受けてるけど、貴方の口からも拝聴しようかしら。」

「了解。」


とはいえそんな彼女からの追及が来るのは当然であり、事後報告とはなるものの現状把握をしなくてはいけないのは彼女の性分なのだろう。釈然としない表情を浮かべつつもギラムはそう言いながらその場を移動し始め、ホテルからそう遠くはない開けた広場の一角へと向かいだした。


既に都市内で繰り広げられている祭事は賑わいが絶える事無く続いており、リアナスとして行動していた彼等の行いを知る者はそう多くはない。ヴァリアナスと称される『真憧士とは異なるヒト達』は何事も無かったかのようにその時間を謳歌しており、その高揚が別の方向へと向かわないようにするのがサインナ達『治安維持部隊』の仕事にすぎない。

だがサインナ本人も含め、元部隊員であったギラムもまたその行いとは異なる事をしており、全ては公にされる事無く粛々と片付けられ、人目に付かず真憧士達はその命の灯を散らして行くのかもしれない。


世界を変えようとする者達と相対し戦って行く彼等の未来は、果たして良い方向へ向かっているのかどうかすらも解らない。


だがそれでも行いそのものを止めず、今居る存在達が楽しく暮らす世界を護る事もまた彼等リアナスのこなしていく一つの行いになって行ったのかもしれない。先人として行動を取っていった者達の心境は彼等には解らないが、彼等はただ憧れに成り得る魔法の力を行使して行くのだろう。



ギラムの口から報告されていくザグレ教団の表と裏の目的は常人が把握するには難しいが、サインナが理解するのには左程時間を要さないのであった。


「……と、言うわけだ。もし見つかったらで良いんだが、弔ってやっても良いか。そいつの事。」

「解ったわ。貴方達の方からも、何か補足事項はあるかしら?」

「ううん、ギラムの話した通りだよ。僕もその人には匿って貰ってたみたいな感じだったから、そうしてくれると嬉しいな。」

「キュッ」

「なら、ギラムの提案通りにさせて貰うわね。」


その後ギラムと共に行動していたグリスンとフィルスターにも確認を取り終えると、サインナはセンスミントを取り出し何処かに連絡を取り出し始めた。どうやら電話の主は彼女の上層部に当たるマチイ大臣の様であり、現状の報告と共にコレから何をするべきかを簡潔にまとめ、そしてこの後どうするかを説明している様だ。

電話口ではあったが彼女の考えに対し補足事項であったり修正事項があれば相手側が付け足す程度だった為、大体の治安維持部隊の行動は彼女に一任されていると言っても良いかもしれない。


現に地面の有る場は彼女の管轄の為、空と海以外は彼女のテリトリーには間違いないだろう。とはいえ現状を理解する必要があるのもまた上層部の勤めの為、コレは業務の一環と言っても支障はないかもしれない。


「……しかしまあ、何時にもましてエリナス達を多く見かけるな。都民達の知らない騒動が理由なんだろうが。」

「?」


そんなサインナの行動を横目に、ギラムはふと先程から気になっていた事を口から零しだした。彼が気になっていた事、それは現実世界であるリーヴァリィに戻って来たと同時に視界に写る『獣人エリナス達』の姿であり、普段から見かけるグリスン達とはあからさまに異なる装束を身に纏っていたのも一つの理由だったのだろう。

隣に立つグリスンは『パンクに活動しやすくもパンチを抑えたカジュアル服』の様な井出達をしているのに対し、先程から見かける獣人達は『大きな布地を加工した様な装束』を身に纏っており、色に対しても規則性が無くパっと確認した限りでも『六色以上』存在していた。


おまけに装束から出ている顔に対しても同様であり、猫かと思えば犬や鹿シカも居り、はたまたシャチであったりワシであったり龍であったりと、本当に多様な種族が居る事を彼は同時に理解する程であった。



とはいえ目立った干渉をしてくる事無く彼等もまた別々の時間を過ごしている所を視ると、ライゼやリミダム達の様に別の目的を持った同志達なのかもしれない。憶測には過ぎないがコレと言った支障も無かった為か、サインナは改めて周囲を見渡した後センスミントを制服の中へとしまいだした。


「言われてみると、似た装束らしい服装を纏った人達が多いわね。特に干渉する理由が無かったから、気にしない事にしてたけれど。」

「ライゼとリミダムも途中で加勢に来てくれたから、同じ集団なんだろうな。クーオリアスで会った時と同じ格好だったから、多分そっちのかもしれないぜ。」

「貴方が今朝方話してた内容の件ね。二人も無事なのかしら?」

「カタが付いた後にセンスミントで確認したら、連絡が入ってたから大丈夫だと俺は思うぜ。俺も二人には無事で居て欲しいと思ってたから、ちゃんと報告が上がってて安心してた所だ。」

「彼が几帳面なのは相変わらずね、貴方に対してだけなのかもしれないけれど。」

「ん、サインナの所には来て無いのか?」

「えぇ、後でちゃんと説教しないといけないわね。幾ら『脱退扱い』でも元上司の貴方にはして、同僚の私にはしないなんて許されると思ってるのかしら?」

「……程々にしてやってくれよ、流石に尻を痛そうにしてる光景を視るのは御免だ。」

「フフッ、解ってるわよ。」


緊張感は無くも場の空気を和らげようとする辺り、彼女の配慮なのだろう。獣人達は自分達と関りがあるとはいえまだまだ知らない事が多い存在には変わりはなく、相棒として行動している者達ですら全てを教えてくれている保証もない。

しかし『頼れる相棒に近い存在』には変わりは無い為、それ以上の思考回路が出来ない辺りに信頼関係が出来ていると言っても過言ではない。一人の存在として扱っているのは彼女も同じであり、例えとして挙げられたライゼの事を気にしながらギラムはそう言うのであった。


現にライゼ本人が喝を入れられ尻を抑えている現場はギラムも何度か見かけている為、あまり他人事とは思えない様だ。ハリセンとは言え強烈な痛みが残る辺り、やはり凶器である。



そんなやり取りをしていた後、ふとギラムは有る事を思い出した様子でこう言いだした。


「あぁ、そうだ。もし見かけてたらで良いんだが、一人探してもらいたい『獣人エリナス』が居るんだが。良いか?」

「探したい相手? 誰かしら。」

「ライゼとリミダム、それに別の助っ人と別れた後に会ったんだが……いろいろあって結局お互いに名乗れず別れちまってな。ラクト達を解放してくれたのも、そいつなんだ。」

「あら、それならちゃんと正式に礼を言わないといけないわね。容姿の詳細を聞かせて頂戴。」


ギラムからの提案を聞いたサインナは再びセンスミントを取り出しその場に電子板を展開しメモが取れる状態になると、目線を上げ彼の話を真剣に聞く体制になるのだった。


彼の探して欲しいと頼んだ相手、それは互いに名乗る事は無かったが同じ目的の為に行動をしてくれた仲間には変わりない相手。白毛の肌が印象的ではあったが橙色を基調とした布地に金色の刺繍が入った装束もまた目立つ容姿であり、その手に従えた洋刀は鈍く光るも此方に向けられる事が無かった存在。途中までの導として創ってくれた蝶の形をした魔法は既に消えてはいたが、彼からしてもちゃんと御礼を言いたかったのだろう。


一つ一つの情報をメモして行く中、サインナは確認する様に呟きながら復唱して行った。そんな時だった。


「豪華な金色の刺繍が入った橙色の服装に、白色の虎獣人、ね……」

『えっ?』

「……確かに目立ちそうな容姿だけど、見かけた覚えはないわね………」

「そっか。……そしたらもう、向こうの世界に帰っちまってるかもしれないな。もし見かけたら教えてくれるか?」

「解ったわ。」



「ね、ねぇギラムっ……」

「ん? どうしたグリスン。」


彼等のやり取りを少し離れた場で見守っていたグリスンは、フィルスターを抱えたままその場へと駆け寄り心配と気掛かりな心境で複雑な表情を見せていた。どっちつかずの表情だった事もあってかギラムは不思議そうな眼を向けながら彼の言葉に返事をすると、グリスンは両耳をピコピコと動かしながらこう言いだした。


「さっきの『探してるエリナス』の話なんだけど……… それって、もしかして『マゼンダ色の瞳』に『鼻先が黒い子』じゃなかった……?」

「え? グリスン、知ってるのか??」

「う、うん……… ……でも、あの子がコッチに来てるなんて………ちょっと、驚いてて。でも白の毛色の獣人なんてあんまり居ないから、もしかしたらって思ったんだけど………」


「ちゃんと知ってるなら言って頂戴。曖昧な情報は要らないわよ。」

「あっ、ご、御免ね!? ………でも、ギラムの手助けをしてくれてたんだ。良かった………」


とはいえ話の腰を折る訳ではないが言及される辺り、彼の放った言葉に正確性が薄かったのだろう。慌てて弁解しつつも最終的には追いついた表情で話す辺りに彼の気持ちが出ており、そんな相棒の様子を見たギラムは少しだけ首を傾げながら彼の顔を視た後、ふとある事を思いだし言葉にしようとした時だった。


「……… なあグリスン、そいつって」



「ギラムさーん!!」

「たいへーーんっ!!」



「「「?」」」



彼等のやり取りの和を乱したのは、少しけたたましくも軽快な声色の女性達であった。


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