表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第九話・現代都市の繁華は紅色に煌めく(リーヴァリィのはんかは べにいろにきらめく)
267/302

17 白虎獣人(ニカイア)

度重なる仲間達の登場と異端者達による援助によってか、敵の大将の元へと向かうべくギラムの歩は確実に前へ前へと進む事が出来ていた。本来ならば壁が存在し常に正面へと向かって走る事の出来ない建造物内なのに対し、教団員達の手によって展開された魔法の中を彼は一生懸命に走り続け、目的の場所は何処なのかと探し回っていた。


ちなみに余談を挟むと、現状大きな階段を三回分程上がっている為、階層的には十階に位置する場を彼は進んでいる。【進んでいる】と言う曖昧な表現なのは、実感が沸く光景が彼の前には広がっていないのが理由であった。



『……しっかしまあ、本当に建物の中なのかって疑いたくなる程だな……… さっきから階段を何回もあがってるのに、全く景色が外から変わらない。』


そんなギラムが現在居るのは、空間魔法が大きく展開された四階層と思わしき場所。今までとは比べ物にならない程に広々とした空間と共に建造物が立ち並ぶ中、彼の前には先程よりも唖然とする光景が広がっていたのだ。


目の前にはビルや外壁と言った壁が幾つもある中、その壁に対し垂直または平行に壁が存在し、加えて重力を捻じ曲げたかのような螺旋状のステップも存在している。かといって渡れないような橋や外壁は無いモノの、果たして何処に正解の空間が有るのだろうかと考えるくらいの『立体迷路』と化していたのだ。

それだけの大きな空間魔法が展開されていると言う事は、裏を返せば『ここで最後』とも言えなくはないが、それが正しいのかどうなのかは彼には解らない。


まだまだ応戦しなければならない事だけは解ったのだろう、彼は壁際に身を潜めつつ一息付くと、周囲を見渡し敵の姿はあるかどうか確認しだした。その時だった。


「! 居たぞ!!」

「ヤベッ……!!」


視線を走らせると同時に彼の顔が少しだけ壁よりも多く出てしまった為だろう、彼はあっさりと敵側の一人に目撃され、周囲に集いし教団員達からの魔法による攻撃が開始されだした。自らが手にする武器から単発系に属する火炎弾の様な魔法を出す者も居れば、ギラムの様に銃器を生成し武器による発砲を試みる者も居た。放たれる魔法はどれも多種多様の為『弾丸』と称した方が正しいかもしれないが、細かい所はおいておこう。


壁を背にやって来る攻撃から身を護りつつ彼は右手に手頃な飲料缶程の物体を生成すると、壁の向こうから敵の居るであろう方角に向かって放り投げた。同時に彼は身を屈ませながら顔を地面へと向け両手で耳を伏せた瞬間、飛来物を目撃した教団員の一人の攻撃が命中したその時、それは起こった。



キィーンッ……!! バキューンン!!


「「「うわああっ!!」」」


攻撃によって缶に衝撃が走ったのだろう、瞬間的に白く強烈な閃光と共に高音域の音波が周囲に展開されたのだ。先程ギラムが投げ放ったのはどうやら『スタングレネード』の様であり、視力と聴力を奪い相手の動きを制限するべく活用した様だ。

対策に対してもぬかりなく行っている所を視ると、どうやら彼の准士官時代の経験によるモノの様であった。


『うし、今の内に……!』


地面と壁から伝わって来る振動が落ち着くと同時に敵側の攻撃が止んだのを確認すると、彼はその場から走り出し彼等の横に位置する階段へと向かいだした。そして勢いよく駆け上りながら彼等の様子を尻目に上へと向かいだした時、後方の敵の一部が何かを感じ取ったのだろう。

視界が効かない中で適当な方向に向かって魔法を放った瞬間、ギラムとは全く別の方向にて騒動が勃発しだしたのだった。


「イッテッ!! やりやがったなぁあ真憧士が!!」

「こんのやろう……!! 眼と耳が効かないからって舐めんなよ!!」

「お返ししてやりますわ!! 覚悟なさい!!」



『完全に仲間割れしてるな……… 派閥での統率力低下は、シーナの言ってた通りか。』


次から次へと仲間内での哀れな戦闘が開始されたのだろう、彼等の視界が元に戻るまでの間限定で醜い争いが始まりだした。彼等からすればギラムが不意打ちで各個撃破を狙うべく行動していると考えたのだろう、これまた問答無用の魔法合戦が始まっており、幾多の閃光と異なる音達が彼の後方で広がりだしていた。

だが幸いにもギラムの居る方角へと流れ弾が飛んでこなかった事もあり、彼はあっさりと階段を昇り終え一足先に少しだけ広々とした空間へと入り込んでいた。


そこは隣接する細長い柱が点々と立ち並ぶ、地面と天井をガッチリと抑え込んだかのような円柱型の広間。柱と柱の間からは先程自身が居たであろう下の景色を視る事ができ、彼は柱を背にしつつ外の様子を窺がいだした。先程から変わらずに味方内での戦闘が繰り広げられているらしく、場所によっては煙が上がる程であり戦闘の激しさを物語っていた。


しかしコレと言った敵の気配もなく正面に位置する新たな階段が彼を誘うかのように構えていた為、彼はそのまま前へと向かおうとした。その時だった。


カランカランッ……!



「ん? ……なっ!?」


彼の居た空間に対し乾いた金属音が聞こえた為、彼は音のした方角へと眼を向けた瞬間に表情が激変しだした。彼が目にしたのは先程自身が投げ放ったスタングレネードに似て異なる爆弾であり、幾多の騒動の衝突によってその内の一つが此方へと飛び込んできたのだろう。身を隠す場も無く目にした爆弾を対処するか考えるよりも先に、彼は手元に長杖を召喚し衝撃に備える様に両手を構えだした。


すると爆弾本体から数本の閃光が飛び交いだし、まさに爆風が引き起こされそうになった時だった。



「『ワンダーン・キタキ』!!」



バシュンッ……!!


爆弾から放たれるであろう爆風に身を構えたその時、ギラムの耳に一人の存在の声と共に何かが弾け飛んだ音が聞こえだしたのだ。両眼を瞑り両腕を構えていたため何が起こったのか解らずも、彼はしばらくして静かに目を開け両腕の隙間から前方の様子を窺がいだした。


そこに立っていたのは橙色を基調とし金色の装飾品が施された装束に身を包んだ存在であり、周囲には魔法を放ったのだろうか黄色の小さい蝶の様な幻影が周囲を飛び交っていた。蝶達は発動主の周囲を暫く浮遊した後に静かに消滅して行ってしまい、事が落ち着いたのだろうかと思いつつギラムは両腕を下ろし相手の背中をしばし見つめていた。


「………」

『グリスン……じゃ、ねえな。白い虎……?』


突如として現れた見知らぬ相手に少し驚くも、目にした存在の顔付でその驚きも左程大きくは無かったのだろう。自らの相棒とは似て異なる白い肌をした虎獣人が立っており、髪色は鼠色かつ鼻先は少しだけ黒く染まっていた。


そんな相手もまたギラムの事に気付いていたのだろう、静かに歩み寄って来る気配を感じてか耳を少しだけ動かし、静かに振り返り出した。白い肌の先に秘めたマゼンタ色の瞳が、彼の事をジッと見つめていた。


「お前さんが助けてくれたのか? ありがとさん、助かったぜ。」

「……… ……この先に行くのか、お前は。」

「あぁ、そうだぜ。」

「そうか…… ………」

「?」


助けてもらった事へ対するお礼と共に目的を伝えた瞬間、相手は何かを考え込む様な仕草を見せだした。困惑に近くも思考回路を巡らせている様にも見て取れる表情を相手が見せた為か、ギラムもまた不思議そうな眼をしながら相手の返答を待ち出した。


自身の事を呼び止める獣人達は今まででも幾多と居り、その者達は必ず目的を持って自身に接触してきた事が殆どだ。ある者は制止しようと現れたかと思えば、またある者は自身の事を知るべく接触を図り、またある者は見守る為にと自身の元にやって来た。

しかし今目の前に居る存在は表情からでは考えが読み取り辛い様子しか見せておらず、もしかしたら自身を警戒しているのかもしれないとギラムは考えだしていた。


現におどおどとした様子を見せていたのが相棒のグリスンである為、正直二度目の感覚の様にも思えていた時だった。


「付いて行っても……良いか、俺も。」

「ん? あ、あぁ。目的地が同じなら、俺は構わないぜ。」

「ありがとう。……よろしく、どうぞ。」

「あぁ、よろしくな。」


そんな不思議な感覚を思わせる白い虎獣人と、ギラムが初めて接触した瞬間であった。


次回の更新は『4月20日』を予定しています、どうぞお楽しみにっ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ