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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第九話・現代都市の繁華は紅色に煌めく(リーヴァリィのはんかは べにいろにきらめく)
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14 場立不者(ばにたちいれないものたち)

※ご案内

何時も当方の自作小説をお楽しみいただきありがとうございます。更新前の確認作業を行おうとした本日『最新話が更新したのにも関わらず不在に成っていた』為、先程再投稿させて頂きました。

次話につきましては予定通り『1月23日』に更新しますので、もう少々お待ちくださいませ。

現代都市内にて行われている収穫祭『ハーベストカンシュタット』の視界に移らない、一部の区域と一部の区間。都民達が各々自由に行動している中、ギラムと共に行動していた仲間達の一部もまたその祭りの中へと戻って行った頃。


ツイリングピンカ―ホテルにて戦いが起こっていた時間軸、ショッピングストリート近隣に店を構えるカフェ『ミドルガーデン』にて。近くを通り過ぎていた存在達を横目に、一人の存在が周囲を見渡しながら目に見えない『何か』を追っていた。



「………」


喫茶店の入口からそう遠くはない遊歩道を静かに歩いていたのは、ライゼとリミダムの行動から遅れて中へと入って来た白虎獣人の青年『ニカイア』 高貴な装束に身を包んだまま歩いていた彼はしばし視線を周囲に向けつつ、自らの感覚を頼りに一方へと向けて進路を取っていた際、その場に立ち入ったと言えよう。


人間達に目もくれず歩いていた彼はふと足を止め、何かを感じ取った様に歩いて来た北方へと振り返った。そして自身を追い越し去って行く風の波を追うかの様に視線を空へと向け、そのまま風が去って行った南方へと顔を向けだした。


『………転移、させられたか……… なかなかえにしが繋がらない、相手なのかもしれないな……』


恰も何かを悟っているかの様に心の中で呟いた後、彼は再び歩を進め進路を南へと向けだした。しかしその足取りは先程から変わらずに一定であり、駆けたり跳んだりはしておらずただただ流れに身を任せているかのようにも見てとれた。


誰かを追って歩いては居るが、その相手に対し執着心と言うモノが感じられない。


そんな風にも見てとれる彼の歩みは聊か妙ではあったが、ニカイア本人は何も気にしていない様子で喫茶店の前を通り過ぎて行のだった。





一方、そんなニカイアが去って行ったカフェ『ミドルガーデン』の店内から抜けられる裏の庭園。以前からギラムが誰かと会う際に使用していた個室兼喫茶スペースのその場所に、二人の存在が周囲からを身を隠す様にその場で密会を取り交わされていた。


「お待たせいたしました。」

「どうも。」


店の店主の了承を得てその場にやって来た事もあってか、注文を受けた品を店の主人自らが運んで来た。やって来たのは素朴な味わいだが素材の味そのものが楽しめる『しいたけ茶』であり、ご丁寧に店のロゴが刻まれた湯呑ゆのみに入ってやって来ていた。

普段ならばコースターの上に置かれるであろう飲み物に対しては『折敷おしき』の上に置かれており、何処となく店主のこだわりを感じるチョイスであった。


そんなお茶を目にし会釈をすると、注文主であるノクターンは静かに湯呑を手にしお茶を口にしだした。まごう事無き『しいたけ』の味わいが口に広がる中、相席していた密会主であるピニオに対しこう言いだした。


「……で、何でこんな所で油売ってるんだ。本心は出向きたいんじゃなかったっけ。」

「可能ならそうしたかったが、今回は少し強めの命令を受けてな…… ベネディスにも考えが有るのは解ってるから、ほんの少しだけ外出許可を貰っただけだ。」

「御苦労なこって。」


お茶を楽しみながらも相手に対しそう言うと、ノクターンは湯呑を再び折敷の上に戻しだした。彼の問いかけに対しピニオは少し渋そうな顔をしながらそう答えると、此方も注文したであろう珈琲を口にしだした。


彼が注文したのは普段からギラムが愛飲しているモカ寄りのブラックコーヒーであり、アメリカンに似ているが少々異なる代物だった。添え物として一緒にやって来た砂糖とミルクに対しては手は付けずそのまま飲んでおり、彼もまたこの珈琲の味わいが好みなのだろう。


口に広がる味わいの至福感とは裏腹に、胸中は穏やかではない様である。


「でも、珍しいな。今日は店内じゃなくて裏手に呼出なんて。」

「今日はバイト君が休みなんだと。テイクアウトデーだったから、ちょっと無理言って奥へ通して貰ったんだ。……今日は人目に付きたくねぇんでな。」

「人目に……?」

「『浪人ろうにん』だと面倒事が多いんだよ。ましてや今日は『祭』と『戦』が同時に起こってる。目につきゃその後に支障が出る。」

「………」


しかしそんな胸中はさておき、ノクターンもまたピニオと同類の立場に居るのであろう。本人にしか解り得ない口振りで理由を簡素に答えると、此方もまた聊か不服そうな表情を見せていた。


とはいえ元から彼の眼孔が鋭い事もある為、正確には口元が不服そうと言った方が正しいかもしれない。半ばへの字に成りかけている表情を視てか、ピニオは少し呆気に取られた表情を浮かべていた。


「……まあ難だ。とりあえず、状況だけ聞いて置いても良いか。俺もそう多く時間が取れないからさ。」

「ん、了解。」


しかし双方共に用事があって集まった事には変わりない為か、早々に目的を済ませようとする心持はあったのだろう。互いに了承した上で静かにアイコンタクトをすると、ノクターンは何処からともなく竜胆の華を一輪取り出し机の上へと置き出した。

すると段々と周囲の空気に変化が生じだし、彼等にしか聞こえないであろう空間があっという間に形成されるのであった。


「ギラムにちょっかいを出した教団下っ端共は、全般返り討ち。一部は『罠』と称して転移魔法を仕掛けたが、まあその件は左程気にしなくても良いだろ。」

「……良いのか、それは。」

「本人達もそう口にしてたから『考え』は有ろうけど『害』はねぇよ。味方として行動してた一部の面々は、事が落ち着いたと同時に祭りの方に戻った。ヴァリアナス共には視えてねぇ障壁を展開してる教団員共の方も、後一時間もすれば堕ちるだろ。」

「そうか………」

「ギラムが飛んだ先で接触したアリスと姫君も、同様に教団員達と戦闘。戦況は悪くねぇから心配はいらねぇし、ギラムもギラムで無双っぷりを披露しつつ慕う獣人二人組が援護と壁役として参戦した。……『ライゼ』って言えば解るか。」

「あぁ、俺の所で行動してる鷹鳥人だ。……って事は、もう一人は『リミダム』か。」

「御明察。」


彼等が持ち出しと確認をしている内容、それはその日の短時間内で起こったギラム周辺での出来事。現状不参加を命じられている『ピニオ』としては戦況がどうなっているのかは解らず、無理を言って外出許可をもらっている身の上か情報収集手段の接点がノクターンにしかなかった。その為急ではあったが面会を取り付け、今の現状に成っていると言って良いだろう。


半面『ノクターン』はと言うと今回の戦そのものに対しての接点を拒んでおり、チェリーが小言を漏らした通り『事実上の不参加』に等しい。とはいえピニオの面会希望を無下にする気は無かった為か、本人としても都合の良いこの場に焦点を当て、時間帯と状態を視て合流していたのだ。


何故そこまでして接点を拒んだのかに関しては、また追々話すとしよう。


「流れとしてはギラムが断然有利に進めてるが、この後どう転がるかは解らん。向こうも向こうで一筋縄とまでは行かねぇだろうし、黄昏時まではこの状況は続くだろう。」

「……… ……まだ四時間近くは有るな…… ギラムの体力は持つのか……?」

「それに関しては、俺は心配しちゃいねぇよ。あのイケメンの体力は常人以上っつー見解に関しては、寧ろ愚門だろ。」

「まあ、そうかもしれないが………」

「……ま、心配するのは道理か。弟分は大変だな。」

「………」


どうにも逃れられない戦に身を投じる事と成ったギラムの身を案じるピニオであったが、ノクターンからすれば『心配性』と片づけれてしまいそうな言い草だ。双方共に『気掛かりな点』は有れど『身を案じる度合い』に関しては完全に一致してはおらず、半ば鼻で笑われている感覚すらも覚えるであろう。


事実そのつもりで本人も言っているのであろう、ノクターンの眼は完全に笑っていた。


「……ノクターンは、この件に手を出す気は無いのか。」

「ねぇよ。さっきも言ったが、後の支障が有るからアリスを放って一任した。ピニオからしたら、いろいろ知ってるであろう俺を出した方が気が楽なのは解るがな。」

「………」

「とはいえ、俺達には俺達にしか出来ねぇ事をするしかねぇさ。独りで出来る事なんてたかが知れてるが、それを成さんとするのが『ギラム』だ。……俺は、この先のギラムを視ていくだけだ。」

「……解った。」


しかし聞くべき状況と本人の見解をひとしきり聞いて、納得した部分もあったのだろう。ピニオは静かにそう言いながら残った珈琲を一気に飲み干すと、静かに席を立ちノクターンに対しお辞儀をしだした。


「とりあえず、情報は感謝するぜ。ベネディスにも聞いた内容は話すが、良いか?」

「情報元さえ伏せてくれりゃ、俺は構わん。」

「了解。……あと一応聞いて置くが、対価は何だ。お茶代か。」

「んや、今回は良い。……でも、そうだな。」

「?」


礼の言葉を聞き会談が終わったかと思いきや、ピニオから告げられた言葉は少し異例だったのだろう。問いかけに対しノクターンは眉を潜めながら右腕をテーブルの上に置きながら手の甲で顎を支えだし、何か考えている仕草を取り出した。

視線は右側へと向けたまま左手で湯呑を手にしお茶を口にすると、彼は何か思いついた様子でこう言いだすのだった。


「なら、後の未来の保険でも掛けておくか。」

「保険……?」

「ギラムが仮に『独り』に成った時、俺は『ギラムが接点を持ちかけてくる』と考えてる。その時の俺がどうするかは解らねぇが……もし共闘する事になった時。……ピニオ、お前はその戦況を視ていて欲しい。」

「戦況を? 加勢じゃなくてか?」

「あぁ、加勢は要らん。あくまで視るのが主体、その後は………お前がどうするか、自分の意志で決めろ。」

「……… それが対価か。」

「そう言う事。『抑制』かもな、ある種の。」

「解った、受けよう。」

「ん、じゃあそれで。よろしくちゃん。」


ノクターン本人にしか見えない脳裏の光景に何が映ったのか、少し不明確な状況の話に対し彼は対価を要求しだした。簡単に言えば彼の言う通り『抑制』に繋がるであろう行いだが、既に決まった事象では無い為『保険』と言う名目でもカタが付きそうな案件。頭の隅にでも置いといてくれと言わんばかりの言い方ではあったが、ピニオはそれを了承しその場を後にするのだった。


その後独りとなったノクターンは手にしたままだった湯呑を折敷の上に戻すと、机の上に置かれた竜胆の華を消しつつ、椅子の背もたれに身を預ける様に体重を掛け出した。少しだけボーっとしたかった様子で裏庭から視える都市内の空を見上げた後、静かに飛んで行く子鳥の後を眼で追いながらこんなことを考えるのだった。


『………ま、つってもこういう微妙ーな予感は地味に当たるから困りモノなんだけどな。ギラムは如何せん、独りで何事も成し遂げようとし過ぎる…… 出来ちまうのも原因なんだろうし。』



「……世の中は必然で満ちてる、か……… 解らねぇもんだな。」



そして考えがまとまった様子で座り直すと、湯呑に残ったお茶を一気飲みし店を後にするのだった。


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