10 遅来闘志(スロースターター)
メアンとイオル達が南方にてザグレ教団員達と戦闘を開始しだした、その頃。
「……っと。………」
彼女達の敷いた陣によって転移させられたギラムは、現代都市内に展開された空間魔法内の一区、北部近辺へと飛ばされていた。一瞬にして視界がホワイトアウトした後に視えた景色と共にやって来た重力を感じた彼は、体制を立て直す様に地面に手足をしっかりと付けた後、周辺を視だした。
周辺には都民達がせっせと収穫祭を行うべく準備は着々と進められており、至って普通の空間がそこにはあった。とはいえ、そんな環境は『ヴァリアナス』だから通用するのであって、リアナスの彼には通用しない。
『北部近辺……水族館が南方だから、丁度真逆の位置か…… この場所からだと、サインナ達と合流した方が速そうだが……そうなると、メアンとイオルの事が心配か……… 陣を敷いたのがザグレ教団なのは確かだが、誰が仕掛けたのかは解らなかったからな………』
その後手足に着いた砂埃を払う様に身体を動かした後、彼はポケットから携帯端末であるセンスミントを取り出した。端末を起動させ手元に電子板を展開すると、彼は現状理解出来ている事を次々と書き出し、最善と思われる選択肢は何かを考えだした。
現状では『味方と合流』するのが最適解だと思われるが、距離から検討してみると中々考え深い者があった救援すべきメアン達との距離はサインナ達との距離の倍以上あるに等しく、その場に即座に戻る事が彼には敵わない為、結局のところ『時間を要する』行いにしかなりかねない。おまけに仲間の所に辿り着いたとしても『救援出来るかどうか』も怪しく、魔法とは中々に厄介だと言わざる得ないだろう。
自らの理想、想いを反映させた力に対抗できるのは、それ相応かそれ以上の力でしかない。
どうしたものかと彼が考えていた、そんな時だった。
「………」
「お考え中の様ですね、ギラム様。」
「? ……!!」
端末と睨めっこをしていたその時、彼の左側から自身に語り掛けて来る様な声がやって来たのだ。声を耳にした彼は振り返り声の主を探すと、其処には黒い装束に身を包んだ存在が一人佇んでおり、何かを察したのか彼は距離を取る様に数歩下がりながら顔色を変えだした。
「フール、何時の間に……?」
「ギラム様が此方に飛ばされる手筈が組まれていましたので、その前です。何方が仕掛けた魔法かに関しましては、口を慎む様命じられております。ご了承下さいませ。」
「……… それで、俺に用が有って来たんだろ。聞こうか。」
「ありがとうございます。」
その場に立っていた相手の発言を耳にした彼は一度電子板を消すと、面と向かって話をする体制を取り出した。相手の様子を視たフールもまた静かに会釈をしだし、彼に要件を告げるのだった。
「お招きしました祭事に付きましては、段階を踏んで順調に事が運んでおります。下位の教団員達のご協力の元展開しました『空間魔法』につきましても、同義。」
「………」
「仮にギラム様が展開しました魔法を打開しました際には、外部にて待機済みの者達による強襲が私達にやって来ましょう。既にその者達による魔法干渉を感知しておりますので、それもまた時間の問題かと。」
『外部待機……… もしかして、ライゼ達か……?』
「しかし、その行いにつきましては私は御指示を受けておりますので。ギラム様を其方に誘導させて頂きたく思っております。」
「指示?」
「はい。以前ギラム様が私と初めてお会いしました、例のホテルへと向かって頂きます。其方が、今回の拠点。」
「……『ツイリング・ピンカ―ホテル』か。一応聞いて置くが、断ったら……どうする気だ?」
「いいえ、ギラム様はお断りしません。何故なら……」
スッ
「……なっ!?」
《キューッ……》
「貴方様の大事なパートナーの御一人を、此方が既に手中へと納めさせて頂いているからです。」
「フィル!!」
淡々と告げられる内容に対し彼は返答したその時、相手は背後へと隠していたあるモノを彼が視える位置へと取り出した。そこには金の鳥籠と思わしき工芸品に捕まってしまったフィルスターの姿があり、既に身動きが取れないのか両手足を腹部元へと置いており、主人に助けを求めるかのようにか細い声で鳴き出したのだ。
幼龍の姿を眼にしたギラムは声を上げ右手を伸ばすも、相手との距離を取っていた事もあり即座に動けず、その場に右足で踏みとどまった体制を取る事しか出来なかった。
「何時の間に……!!」
「ギラム様が此方へと飛ばされました際、幼龍様も此方に来られる事は想定しておりましたので。ギラム様の御身体の上が、何よりも落ち着かれる事は聞き及んでおります。」
「ッ………」
「お身体につきましては、御無事です。此方は少々の事では開かれない『鳥籠』でございますので、ギラム様のお得意の生成魔法で創られました拳銃でも破壊出来ません。」
「……… フィルをどうする気だ。」
「お先に此方で預からせて頂いております『パートナー』の元に、お届けいたします。どうぞ貴方様が命を懸けてこの戦を終わらせて下さるのであれば、お待ちになる相棒の方々も本望でございましょう。……とはいえ、御一緒の方がお好みかもしれませんね。」
《キキッュッ!》
「それでは、ギラム様。検討をお祈りいたします。」
シュンッ……!
「ぁっ、待てッ!!」
既に先手を取られっぱなしだった事も有ってか、彼は現状を理解し仲間の命を優先する事しか出来なかったのだろう。相手の言った事が事実かどうかを確かめる以前に、フィルスターへ対し拳銃を相手に向ける事が出来ない事もまた、相手にとっても好都合の状態だった事もあった様だ。
一人また一人と仲間と逸れてしまった事に不快感を覚える中、彼は舌打ちをしつつも改めて『相手側が本気である事』を理解するのだった。
『……クソッ、最初からコレが目的だったのか…… グリスンだけかと思いきや、フィルまでとはな……… ……本当に死地ってレベルでの戦いをさせるつもりなんだな……あいつ等は。……でも、ライゼ達が動いてくれてるならその分の気が晴れる。……俺がやるべき事をやる、か………』
スッ
「………」
その後彼は再びセンスミントを取り出すと、先程閉じていた電子板を起動し内容を再度入力しだした。現状置かれている内容に加えて相棒と仲間達が置かれている現状を憶測で書き加え、其処に自分がどう動いて行く事が理想と呼べるモノなのか。
たがそれだけでは済まされないであろう今の現状を理解し、自身がどうしたいのかを付け加えていく。それによって視えて来たモノを彼は再度その場に描き加えると、新たな電子板を隣に展開しその内容を書き綴って行く。
そしてその作業が一段落すると、彼は手元に専用端末を魔法で創り出し内容を外部へと送信すると、彼は手にしていた諸々を片付け両肩を回しながら一呼吸付いた。
『……うし。サインナ達に負荷ばかりかけてられねえからな…… 偶には本気、出さねえと、か。』
その後彼はその場を歩き出し、誘われるがままに指定されたホテルへと向かって行くのだった。
次回の更新は、月を跨いだ『11月6日』を予定しています。どうぞお楽しみにっ




