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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第九話・現代都市の繁華は紅色に煌めく(リーヴァリィのはんかは べにいろにきらめく)
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07 永遠渡七月(えいえんをねがえるものたち)

ショッピングストリートの入口近辺にて、ビル街の立ち並ぶ近隣区域にてアリンと合流したギラム。自らを召喚主の元へと案内するかの如く現れた創誓獣インドラと共に、彼等は一度その場を離れ人気の少ない道を選んで目的地へと向かいだした。


ちなみにその目的地そのものは徒歩で約十五分程の位置にあり、彼等にとって馴染みのある喫茶店『ミドルガーデン』であった。



「……あっ、来た来た。ギラムー」


目的地へと向かう道中を警邏けいらしながら移動していると、彼等の元に呼び声が聞こえて来た。声のした方角へとギラムが視線を向けだすと、その先には店の周辺に植えられた樹々に隠れつつも手を振る少年の姿があった。


声の主を視つけるや否や彼等が移動しようとしたのも束の間、それよりも先に行動を起こしたモノが居た。それこそが、創誓獣であるインドラだった。


《………》

「お帰りインドラ。ギラム達を案内してくれてありがとね。」

《ガァッ》


自らの元へと駆け寄ってきた猛獣を手名付けるかの如く言葉を交わしながら、テインはインドラの首元に手を当て優しく身体を撫でだした。すると相手は気持ち良さそうに目を細めながら感覚に浸った後、その場から瞬時に姿を消し微量の煌めきを残して消失してしまうのだった。

どうやら召喚した後に満足する行いをされると、彼の召喚魔法が終わる仕組みの様である。


そんなテインの動きを視ながらギラムは合流すると、テインの案内に沿って店の裏手へと向かうべく路地へと移動しだした。その道中もアリンの背後に立ち周囲を警戒しながらギラムは安全を確認した後、裏手へと引っ込んで行くのだった。


「さっきの動き視てると、ギラムって本当に『部隊上がりなんだ』って思っちゃった。警護とかも完璧だったりする?」

「言う程した事はねえが、心得は有るつもりだぜ。」

「ぉー」


「私も時々ギラムさんと御一緒する事がありますが、さりげなく気遣って頂けてるので本当に安心感が違いますよ。」

「さっすがギラム、女の子のハートも護りながら射ぬいちゃいそうだね。」

「出来てたら独身じゃねえよ。」


そんなギラムの動きを視てテインは賛辞を贈るも、どうやらギラム本人はまだまだ行いそのものに満足しては居ない様だ。部隊員として指導と教育を受けて鍛錬を積んできたものの、実際にその行いに従事した事はなく経験としても彼は完璧とは思って居ない様子。アリンからの評価のみに等しい行いだった事も相まってか、彼は肩を竦めつつ自らの身に相応の配偶者が居ない事を呟いた。

その時だった。


「おっ待たせー」

「おぉメアン、お前も無事で何より……って、なんだそれ。」

「え? カフェオレのフラペチーノ。飲むー?」

「いや、いらん。」


彼等の元に場に似つかわしくない陽気な声が聞こえ、ギラムはもう一人の待ち合わせ主と思い振り返った時だ。その場にやって来たメイド見習いこと『メアン』の姿に安堵したのも束の間、相手の手にしていた物の方が衝撃的だったようだ。


彼女が手にしていたのはカフェの店長お手製の『カフェフラペチーノ』であり、苦目の珈琲と甘い牛乳を配合した飲料の天辺に迫力満点の九分立ち生クリームを豪快にハート型にして添えられていたのだ。お飾りと言わんばかりに散りばめられた彩り豊かなチョコチップも可愛らしく、ネット上に投稿する写真に持って来いの物体であった。

ちなみに余談を挟むと、そう言った写真もメアンとイオルは活動と称して時折配信している。


「姿が見えないと思ったら、買い出しに行ってたのか。」

「喉乾いてたの思い出したの、美味しいよー」

「はいはい。まあそれは良いとして、状況だけ確認してもいいか?」

「うん、勿論だよ。」


そう言いながら四人は奥の物陰へと引っ込むと、テインは身に纏っていた衣服のポケットから何かを取り出し始めた。彼が取り出したのは葉書程のサイズの白い紙であり、彼から視て左上には可愛らしい黄色のヒヨコをモチーフとしたクリップで止められていた。


「僕の創誓獣達が調べて来てくれた限りだと、都市中央駅から少し離れたポイントを中心に東西南北。それぞれ決まった大きさの『空間魔法』が展開されてるみたい。基本は横に伸びてるけど、線引きした所から空に向かって壁が出てるって考えてもらって良いかも。」

「『円形』じゃなくて『筒状に』って事か。ちなみにそれは、仮説か?」

「半分はそうだけど《ノジコ》がスジ雲ギリギリまで飛べてたみたいだから……多分間違いないよ。」

「そうなると、その魔法を展開してる連中をどうにかしないといけないな……… 発生源とかは解ったか?」

「ううん、残念ながら…… 怪しいのはそのポイントだけど、ビル群の辺りだからちょっと正確な位置までは解らなかったんだ。」

「なるほどな。」


彼が読み上げたのはインドラと同じく自らが召喚した創誓獣達による活動報告書であり、主に空中を飛べる存在達のモノだったようだ。以前彼の邸宅にて召喚された『チュウヒ』はテインの元に居た為、今回は新参の鳥達がメインで活動していたらしく、ギラム本人も初めて聞く名前に少しだけ不思議そうな眼を向けるのだった。


ちなみにノジコは『黄色い小鳥』であり、他にもいろいろ召喚していたがそれは別の機会に語るとしよう。


「で、メアンは茶の次いでだったな。トレランスは見つかったか?」

「ううん、トレランも見つからなーい。急に『カード』みたいな形状に変わったと思ったら、強風で持って行かれちゃったのー」

「リズルトもそうなんだよね……… ギラムとアリンさんの所も?」

「はい、私もスプリームさんが同様の現象に見舞われたのを最後に行方知れずに成ってしまいました。……ですがスプリームさんの事なので、私達よりも先に行動を起こして下さってると思います。」

「そうだな、グリスンも恐らくスプリーム達と一緒って考えて良さそうか。……そうなると、グリスン達を探すグループと展開魔法をどうにかするグループに分かれないといけないか……… 難題だな。」


「んー 要するに、トレランを捕った相手をとっちめれば良いんでしょー? なら早く探してあげなくっちゃっ」

「それが出来たら苦労しねえんだって。敵の中枢は愚か、誰が今グリスン達を捕えてるかすらも解らねえのに、お前何処を探すつもりなんだ……?」

「全部!! 結界内に要るのは確かなんだろうしー、探せば良いのよ!!」

「所構わず探しつつ、教団員と応戦するのがオチな気がしてならねえな……… まあでも、結局はそうなりそうだしそれが一番なのかもな。」

「そうなんですか?」


メアンの突拍子ない提案に頭を悩ませる中、ギラムは冷静に考え彼女の言った事も一理あると考えだした。現に目的が二つ見つかったモノの『明確な目的地は何処か』と問われた際、ギラム本人もちゃんとした回答を持ち合わせて居ないのが現状だ。闇雲に都市内を探し回るにしても先程の様にザグレ教団員と応戦する確率は高く、仲間達が居るとはいえ下手な被害を出せば周囲を囲われ一網打尽にされかねない。


自ら独りとフィルスターだけならば何とかなる可能性はあれど、現状は戦闘に不慣れなアリンとテインを同行させ安全な場までを送る優先度の方が高いだろう。例外的なメアンに関しては頭の隅に置きつつ、ギラムはアリンの質問に対しこう答えるのだった。


「如何せん情報が無さすぎるからな、憶測を如何に確証へと換えるかが先決だ。領域魔方の陣を敷いてる奴等を叩く班と、グリスン達を助ける班に分かれるしかなさそうか。……まあ正直言っちまうと、戦力分散になるのがネックだがな。」

「どうしてー?」

「テインとアリン、それにメアンもそうだが『無事が保証できないから』だよ。……今回の騒動は規模が大きすぎるし、ゲリラ戦は何処に犠牲が出るか解らないからな…… それだけは避けたいんだ。」

「ギラムさん……」


心中を吐露するかの如くギラムはそう答えると、アリンは改めて心配そうに彼の顔を視だした。雰囲気や表情以上に仲間の事を考え繊細な部分まで配慮してくれる彼に対し、私達は確実に『お荷物』に成っている可能性が高い。だからと言って戦場を離脱しようにも敵わない状況で、果たして何が最善かつ彼の為になるのだろうか。


テインも同じことを考えていた様子でお互いの視線が一瞬合う中、メアンは人差し指を口元に添えつつ口をすぼめ、考え込む仕草を見せだした。そんな時だった。


「なら。それを任せられる人材が要れば、その心配は軽減出来るってことね。」

「?」



「サインナ、イオル!」


そんな場の空気を払拭するかの如く、その場にやって来たのは凛とした女性の声。声を耳にした集団が顔を上げ視線を向けると、そこには紅色の軍服に身を包んだサインナの姿があったのだ。どうやら途中から話を耳にしていた様子であり、彼女の近くに立っていたイオルもまた彼等の元へと駆け寄り出した。


「皆さん、ご心配おかけしてすみませんっ! 初歩港ちゃんと一緒に動くにも動けない状態が続いてて、サインナさんの御力をお借りしてました。」

「ギラムおにいちゃーん。」


ポフッ…!


「うぉっ! ……えっ、ヒストリーは無事だったのか!?」

「はい、初歩港ちゃんは『にんじゅつ』と呼ばれる行いが得意なので。変わり身の術ですっ」

「ヒストリーの得意技~ 皆は無事……?」

「俺等は何とかな。……だが、グリスン達は手を打たれちまった所だ。」

「こっちも同じ状況よ。でもラクトの事だから、あまり心配はしていないわ。」

「えー 皆全然心配して無いのー? ドライ過ぎなーい??」

「アンタが過保護なだけでしょ、彼等を何だと思ってるのよ。」


続々と集まって来た味方の姿を目にしたのも束の間、ギラムの眼の前でメアンとサインナは軽めの口論をし始めだした。どうにもお互いの意見が合わない様子で二人の表情が引っ切り無しに変わるのを視てか、気付けばギラムの表情も明るくなりいつもと変わらない笑顔を見せられる程にまでなっていた。


ギラム本人が出来る行いは限られている上、恐らく自分一人だったらどんな無茶だって行使してしまうだろう。だが仲間達がその足枷に成る行いは相応しくない、それを担える存在が居るのならば頼ってみても良いのではないか。


そんな事を好天的に考えさせてくれるやり取りを眼にした後、そりが合わないメアンを余所にサインナはギラムの元へとやって来た。


「貴方の居所か掴めてよかったわ。ギラム元准尉の事だから、味方を心配する余りに『非効率な手段』を取らないか気になってたの。当たりだったわね。」

「御明察過ぎて頭も上がらねえよ。……だが良いのか? 計画そのものを勝手に決めた挙句、片方を任せちまって……」

「ええ、それだけの事を現状の陸軍部隊サンテンブルクでもやってるんたもの。これくらいが出来なくて、貴方の『信頼出来る部下(みかた)』は語れないわ。……貴方は貴方の、今したい事をして頂戴。それこそがギラム准尉、貴方にしか出来ない事よ。」

「………」


自らを軽く叱咤しながらも励ますかの如く告げられた言葉を聞き、ギラムは改めて仲間の存在感と言うモノを感じ出した。自身が勝手な計画を練るかもしれない、それによる被害を味方が被り下手なカバーを強いられるかもしれない。ツメの甘さ一つで変わる未来の重みを感じ、自身は知らぬ間に安牌を取ろうとしていたが、実際には違っている。


仲間と言う存在が現れた時、その計画の可能性は大きく変わり自らの力だけでは無しえない事も出来るだろう。一人で駄目なら二人で行い、そして二人でもカバー出来ない所を他の仲間達が協力して手助けをする。


理解している部分もあればそうでない『大きな未来』を信じさせてくれる、そんな仲間達が今は自分と共に居てくれる。


これ以上にない心強さを感じながらギラムは頷いた後、サインナの左肩に手を乗せ静かに「ありがとさん」と呟いた、その直後だった。


「皆、聞いてくれ!」

「?」


「俺達はこれから、教団を計画を潰しに行く。そのためにまずは……



『グリスン達を助けるグループ』と『領域魔法を潰すグループ』に分かれる。いいな!」



「「「はいっ!」」」


その場に響いた声は展開された領域魔法の外に広がる、綺麗な紅葉に等しい活気に溢れた声であった。


次回の更新は『9月28日』を予定しています、どうぞお楽しみにっ

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