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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第九話・現代都市の繁華は紅色に煌めく(リーヴァリィのはんかは べにいろにきらめく)
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05 憧追獣人達(ギラムをおうものたち)

ザグレ教団員達の手によって展開された巨大な魔法壁、それは一般市民であるヴァリアナス達からすれば『捉える事の出来ない障壁』だった。彼等からすれば時折『空気が白んで視える程度』の変化であり、侵入する事は叶わないが意図的に『彼等を反らす心理』が働いているのだろう。


都民達は違和感を覚えない勢いで『壁沿いの道を移動する』行動を取っており、概念そのものすらも教団は掌握している様にも見て取れた。



そんな彼等の行動を遠くから目視するも、一切接触する事を望まなかった獣人達。彼等は異世界『クーオリアス』より集めれられた存在達で今回集団を形成しており、目の前に展開された魔法壁を突破するべく五つのグループに分かれて行動していた。


「AとBグループは東方から干渉、DとEグループは西方からだ! 連中に好き勝手暴れさせるな!」

「「了解!!」」


集められた集団の指揮を取るべく司令塔を担っていた獣人達の声が響く中、彼等は双方から魔法を放ち壁を突破するべく行動していた。それぞれが得意とする魔法を集約して一点突破を狙う者も居れば、中には彼等の補佐をし魔力の底上げを図る者達も居る。

だが彼等が行おうとしていた行動そのものは一つであり、一致団結して実行しているだけに過ぎなかった。


そんな四つのグループが行動を起こしている中、一つだけ別の場でその行動を視ている者達が居た。それこそが今、ライゼとリミダムが置かれているCグループであった。


『んで、俺達は現状待機って事っすね。……まあ魔力値で考えてみても、俺が出しゃばるシーンじゃねえのも納得だから良いんすけど……歯痒いなぁ。ギラム准尉がもう既に頑張らないと行けないって、意気込んでる頃だっていうのに。』


人間達を巻き込まない場所から幾多の魔法が障壁に命中する光景を視てか、ライゼは独り両手を後ろに回して後頭部付近で組みつつ、普段とは違う表情を浮かべていた。


自身が慕い行いを補佐したいと願った相手が自分とは違う先頭に立ち、今頃どんな行動を強いられているのだろうか。仲間を助けるために行動しているかもしれない、はたまた敵と遭遇し既に憧れに相応しい行動を取っているのかもしれない。


様々なケースから視ても『心配』かつ『煮え切らない想い』が強いらしく、彼は落ち着かない素振りを見せていた。


「……待機は退屈っすね、リミダム。………ん、あれ。リミダム??」


そんな思いから呟かれたであろう言葉を吐露した後、不意に彼は近くに居たであろう友人の返事が無い事に気が付いた。待機命令にも関わらず一体何処へ行ってしまったのだろうかと思いライゼは辺りを見渡すと、自身の居場所からそう遠くはない住宅街の屋根の上にリミダムの姿を見つけるのだった。

どうやら相手の居る屋上はバルコニーに成っているのであろう、彼の近くには柵がありそこから身を乗り出す勢いで何かを眺めていた。


探し人を視つけたライゼは近くに居た犬獣人に一言断ると、その場を離れ彼の居る屋上へと向かうべく建物の近くへと移動しだした。その後軽く膝を曲げて勢い良く跳躍すると、あっという間に彼の居るバルコニーへと移動しリミダムの元へと向かうのだった。


「どうしたんっすか、こんな所で。」

「んー 何かこの魔法ってウニョウニョしてて、あの辺が気になるなぁ~って。」

「あの辺?」


相手の元へと赴きライゼは移動しながら質問すると、リミダムはそう言いながら右手を上げ指先で何かを示しだした。彼等の視線の先にあったのは先程から目の前で展開されている『空間魔法』の障壁であり、依然として壁ではあるが意志を持って居るかの如く不規則かつ不気味な動きをしていた。言うなればリミダムの称した『ウニョウニョ』が正しいが、細かい所は置いておこう。


そんな彼の指差した先の障壁付近はと言うと、そこはより他の箇所に比べて動き激しく、時折障壁そのものの色が薄く成っていた。


「………なんつーか、浮き沈みが激しいスライムにしか見えないっすね。クレーター手前って感じ。」

「だからかなぁ、あの魔法そのものの厚みが均一じゃないんだよねぇ~ 急遽って感じもするし、他者同士の魔力の融合系故の意志の食い違いって言うのかなぁ……? ま、どっちでもいっかぁ~」



ポンッ!


「ん?」


とはいえ想った事を語る以前に身が動くのは、リミダムの性分なのだろう。気付けば相手の手が動き足元に彼専用の『浮上板フロートボード』が登場しており、既に走行準備を終えた様子でリミダムはライゼの顔を見上げながらこう言うのだった。


「ライゼ、ギラムの所行きたい?」

「え? ……そりゃまあ、前線で戦ってるって思うと……今すぐにでも行きたいっすけど。」

「うん、オイラもそう言うかなって思ってた。ギラムを助けたいし、護りたいよね。……じゃあさ、行こうよライゼっ!」



グッ!


「うおっ!!」


リミダムの言葉とライゼの身が動いたのは、ほぼ同時と言っても過言ではないだろう。彼の身が前方へと引かれそのまま浮上板の上に足を乗せた途端、リミダムは浮上板を操縦しそのまま上空へと飛び出してしまったのだ。


重力に逆らう勢いで浮上したかと思えばそのまま後方に引っ張られる勢いで前進してしまえば、まあ当然とも言えなくはないだろう。ライゼ自身の身体が非常な危機感を感じたのだろう、気付けば足腰に踏んだりを利かせリミダムの両肩をガッチリと掴んでいた。


「リ、リミダムッ!!」

「しっかり掴まっててぇーーー!!!」


集団へ対する意見を無視し各々の想いを優先させた結果か、リミダムは一切迷いが無い様子で目の前の障壁に向かって突撃を開始したのだ。既に身の自由の大半が失われたに等しいライゼに成す術が無いまま、リミダムは装束の中央についていたブローチを右手で取り外し、そのまま空中で武器へと変換させ魔法を放つ体制を取り出した。


そしてそのまま障壁に向かって突っ込んで行ったのを、残されたCグループの獣人達が一斉に目撃し声を上げていた。


「! 隊長!! 一部の隊が障壁に突っ込んでいきます!!」

「なんだと!? 命令無視か、呼び戻せ!!」

「無理です! あの速度では間に合いません!!」



「ライゼ! 屈んでぇえ!!」

「言われなくてもそう成ってるっすーー!!」

「『エイネスドルール・ウェルカム』!!」


他の獣人達の声を掻き消す勢いでリミダムは武器を振り上げた直後、彼は前方に対し強力な風の魔法を放った。周囲の向かい風すらも味方に付けるかの如く放った彼の魔法は、そのまま歪んだ拍子に湾曲になった障壁へと衝突し、部位の一部が裂けてギリギリ屈んだライゼが通れるくらいの大きさの穴が生じたのだ。


しかしゆらゆらとうごめく障壁はそのまま再生するかの様に周囲から包み込み、彼等がそのまま通過したと同時に穴は塞がれてしまうのだった。気付けば障壁は何事も無かったかのように彼等の立ち入りを許しており、獣人達は彼等の突入を視てか驚きと同時に高揚した様子でこう叫びだした。


「し……Cグループ部隊の一部が、内部へと侵入しました! 障壁の厚みが部位によって異なるようです!」

「よし、ならば他の部隊にも連絡! 魔力測定の出来る者の意見を考慮し、随時障壁突破を目指せと伝えろ!」

「了解しました!!」


独断ではあったが結果的に良くなったのだろう、その場に集いし獣人達はそう言い次々に連絡を入れるかのようにやり取りを開始するのだった。




「………」


一方その頃、ライゼ達とは違い後方に陣を敷いていた別の獣人達一行。彼等は配置された獣人達へ対する司令塔を担う者達であり、そこにはリミダムの上司であるサントスの姿もあったが、他にも二人程見知った顔触れが揃って居た。


その場に居たのは彼等の居る集団の長である『ティーガー教皇』こと『ニカイア』 そしてその補佐をするべく場に参じていた『エレファント枢機卿すうききょう』こと『グロリア』であった。


ちなみにサントスは同じく補佐側ではあるが導入した部隊員の参戦数がダントツで多かった事も有る為、二人よりも前方で指示を出しつつ後方へ振り返りながらこう言いだした。


「ティーガー教皇様。Cグループの一部の者達が障壁内部へと侵入を確認、それにより他のグループにも手法を伝え魔力層の薄い障壁から内部侵入を試み始めました。」

「そうか。……Cとなると、主戦力ではない援軍側の者達で構成されていたな。」

「はい。我等輸送隊を始めとした者達で構成され、唯一『衛生隊』の者も居りました部隊です。」

「………イレギュラー故の行い、か……」


報告を受けたニカイアは少し考え込む様子で顎元に手を当てており、一足先に突破した者達の顔を思い描きながら再び前方へと視線を向けだした。今もなお揺らめきながら彼等の壁として立ちはだかる魔法壁を目にし、彼は手を下ろしながら静かにこう言いだした。


「エレファント枢機卿。」

「はっ!」

「指揮を一度、君に譲渡する。この場を取りまとめ、内部侵入を試み例の真憧士達を除く創憎主達を排除せよ。」

「御意! ……して、ティーガー教皇様は……?」

「……野暮用だ。」


何を想ったのか命令を告げられたグロリアは敬礼しながらも首を傾げつつ、発言主であるニカイアをただただ見送る事しか出来なかった。しかし視線を送られても動きを変える素振りを見せないまま、ニカイアはその場を離れ残された上司二人はお互いに顔を見比べるも、ハッと我に返った様子で再び指示出しにぎょうじるのだった。



一方集団から一時的に離脱したニカイアはと言うと、司令塔として構えたビルの屋上を離れ、そのまま住宅街の天井を跳びながら移動し障壁付近へと向かっていた。先程のライゼと同じく足腰に力を入れつつも左程苦ではない様子で移動しており、歩道へと降り立つと同時に数歩で壁に触れられそうな場まで移動すると、彼はその場で立ち止まり周囲の壁を黙視しだした。


相も変わらず不気味な動きを見せ続ける魔法壁は気味が悪いが、ニカイア本人は左程心理を揺さぶられる光景ではなかったのだろう。先程のリミダム同様に魔力の濃度を識別する様にジッと見つめた後、不意に右手を肩の高さまで上げ周囲の魔力を集わせ出した。


すると空気の流れに誤差が生じたのだろう、障壁の一部が恰も溶け出す様に徐々に小さく霧散し始め、壁の一部の色彩が薄れて行ったのだった。


『濃度の比率が不安定な障壁なら、外部の空気を弄れば………自ずとそれはボロを出す。の部隊は異例者いれいもの達で構成させたが、間違いではなかった……かな。』


そんな行動を暫く続けていると、ニカイアの前方に彼が余裕で通れるほどの壁が突如として出現したのだ。溶けてしまった壁を修復しようと周囲の障壁がゆらゆらとうごめくも、先程のリミダム達が半ば強引に突破した時と違って修復は遅く、急がずとも彼の侵入を余裕で許してしまうのだった。

そして無事に内部侵入を成功させると、彼は右手を下ろし魔力の吸収を止め再び周囲を見渡しただした。


空間魔法が展開されているとはいえ、内部は至って外側と変わりはなく、陽の明かりも影の濃さも何ら変化はなかった。別空間に迷い込んだとは到底思えない程の世界にニカイアは少しだけ不思議そうなモノを視るかのように、くり抜かれた都市内を一瞥し静かに目を閉じた。


『……この空間で一番強い魔力の近辺に、アレが居るはず。………見定めて…やらないとな。煌めく未来の為に。』


その後彼は視界の効かない状態で空間の波長を読むかの様に神経を鋭く研ぎ澄ませ、自らが感じた『強い相手』の方角へと顔を向けだした。彼の向いた先に合ったのは現代都市内でもビルが立ち並ぶ区域であり、彼はゆっくりとその場に向かうべく歩を進めだすのだった。


そして彼の動きに合わせてなのだろう、溶けた障壁も彼の存在が離れる程にゆっくりと壁へと戻って行くのだった。


次回の更新は、月を跨いだ『9月9日』を予定してます。どうぞお楽しみにっ

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