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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第九話・現代都市の繁華は紅色に煌めく(リーヴァリィのはんかは べにいろにきらめく)
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04 参開始線(みっつのスタートライン)

突如して失われた世界の色彩であったが、今のギラムは驚きは有れど衝撃的と受け止める程の出来事とは感じていなかった。何故なら今目の前で起こっている事象には覚えがあり、ましてやそれをやって来るであろう張本人達と時期に対峙すると解って居たからだ。

しかしそれが『何時来るか』解って居なかった為、それに対する驚きだったと言えよう。


相変わらず身体の自由が効かなかったものの、彼は視界の範囲内でのみの視覚を駆使して周囲を見渡しだした。すると彼等の居る場から南方寄りの前方に、独りの黒装束を身に纏った女が姿を現した。


【………未だに卑怯な手を使って来るんだな、お前等は。】

「あら、御免遊ばせ。殿方には無礼と存じますが、先程も申し上げた通りの『宴』に過ぎません。余興と無礼講ですわ。」

【………】

「フフッ、とはいえ以前と同じコトは致しませんわよ。本日のお目当ては、コ・チ・ラ。」



パシュンッ!


【! グリスン!!】


相手を目にし言葉を念じたその直後、瞬間的に聞こえた音と共に隣に座っていたグリスンが姿を消してしまったのだ。小さな粒子達の残ったその場には一枚のカードだけが残っており、どうやら彼の姿をその場に閉じ込めてしまった様だ。

色彩の無い世界に現れた黄色のカードはそのまま相手の元へと吸い込まれ、相手の右手の上へと舞い降りるのだった。


突然の事に苦渋そうな唸り声をギラムが発していると、しばし遅れて別々の方角から似たような飛来物が新たにやって来た。先程のカードと同じく色はバラバラであったが、相手はその場でカードを回収すると、静かにシャッフルしギラムに表面を見せつけだしたのだ。

そこにはグリスンを始めとしたギラムの元で行動する獣人エリナス達が揃っており、全員が先手を取られた事をギラムは改めて理解した。


【貴様……!!】

「他の方々の所も同様、貴方達の『媒体エリナス』は一度此方側で管理致しますわ。限られた魔力の中、突破出来るモノならしてみて下さいませ? それでは……」

【待てッ!!】



スンッ………!


一方的に提示されたルールと言わんばかりの結果にギラムが吠えたその時、相手はそう言いその場で一回転すると、瞬時にその場から消え去ってしまった。相手の気配が消失すると同時に周囲の色彩が再び蘇りだし、同時に音と共に環境音と重力が彼の身にやってくるのだった。


周りの都民達には一切先程のやり取りは目撃されていなかったのだろう、誰もが何事も無かったかのように次の行動を取っていた。


「チッ、やられた……! 前触れもなく仕掛けて来るとは思ってたが……… ……でも。」

「? キュッ」

『今回もフィルがこっちに居るって事は、連中は【グリスン達だけ】に的を絞ったって事になる。……とりあえず、皆の安否と大将を獲る必要がありそうだな。』


苛立ちと共に込められた力によってか、彼の手にしていた紙袋が瞬く間にぐしゃぐしゃに成ってしまうのだった。彼からしても卑怯な行いに納得がいっていないのだろう、普段以上に表情が険しく目撃した常人ならば誰もが即座に避けたくなるような形相がそこにはあった。

しかしそんな相棒の消失から彼の感情を元に戻したのは、同じく彼の元に残っていたもう一人の相棒の存在だった。


自身と同じ場に座っていたフィルスターを目にすると、相手は視線に気づいた様子で顔を上げ、静かに鳴き声を一つ上げだした。その声を耳にしたギラムは静かに表情を元に戻しつつベンチに腰かけ、周囲の人達に聞こえるかどうかの声量で相手にこう言いだした。


「フィル、グリスンが捕られた。」

「……!」

「今はお前だけが頼りだ。……来てくれるか。」

「キュッ!」

「ありがとさん……行くぜッ!」


そう言って互いに合図を送り出すと、即座に食事に使用していた道具を片付けゴミ箱に投入、彼等は共に行動を取り出した。自身と同様に仲間を取られたであろう者達と合流する事、それが彼の最初の目的と成るのだった。




一方その頃。



ブゥーン………


「そうだそうだ、過大な空間魔法の展開には膨大な魔力を要する。全員で力を合わせて行うのだぞ!」

「「「はい、エンペラー様!!」」」


ギラムとフィルスターが食事を取っていた場から南方に位置する、高層ビル達が立ち並ぶ区域の一角。以前リブルティとデネレスティが宿泊していたホテル『ゴルゴンゾーラ』の最上階にて、黒い装束を身に纏った存在達が幾多も揃って魔法陣を展開していた。


彼等が行っているのは、現代都市内を大きく取り囲み外部からの干渉を途絶させる強大な空間魔法。本来ならば『ハーミット』が得意としていた魔法であるが本人不在の為か、スートと呼ばれる階級に属さない教団員の下っ端達が力を合わせて魔法を展開していた。

しかし自らの魔法の力量差が有るのだろう、魔力を放つ者とその者達を調整する集団が別々で陣を組んでおり、中々に手間のかかる工程を挟んでいた。ちなみにその指揮を取っているのが、以前『エンペラー』と呼ばれた成人男性だった。


そんな大規模な空間魔法を大々的にやろうとする者達を尻目に、二人の存在が離れた場でやり取りを交わしていた。そこに居たのは前にギラム達と応戦した事のある教団員『フォーチュン』と『ジャスティス』だった。


「……実に手間のかかる工程を、挟む事に成ってしまいましたね。」

「仕方がありませんわ、この手の魔法全般を任せていたハーミットが居ないんですもの。皇帝としても部下に安心出来る領域を確保する事、それを第一と捉えたんでしょ。」

「ジャスティスの言う通りですね。………聊か太陽と星の位置が気に成りますが、意見出来ませんでしたから。」

「汚名のスートとは辛いモノですわ。……おまけに、アレがリーダーなのだから。」


「何か申したか、淑女諸君よ。」


「!!」


離れた場にて小声でやり取りをしていた二人の元に、突如として指示を出していたエンペラーがやって来たのだ。恰も噂話を耳にしたとばかりに声を放った主を認知した故か、二人は背筋を凍らせながらも共に顔を左右に振り出した。


すると相手は不服そうな様子で鼻を鳴らした後、二人に近づきながらこう言いだした。


「お前等の身柄は私にある、余計な他言は控えて頂こうか。味噌みそかす共。」

「………」

「スートから外れた『ゼロ』の手を借りてまで、お前等の命だけは助けてやったんだ。コレは当然の報いであって、お前等は既に死んだも同然の身。精々私の為にその力を尽くすんだな。」

「クッ………」


「なんだ、まだ意見する気か。堕落した正義ジャスティスよ。」


「………いいえ、何もございませんわ。」

「よろしい。次に例の真憧士の為の陣を張る、お前等はそこで壁役を担うのだぞ。」

「かしこまりました、エンペラー様。」


言うだけ言って満足したのだろう、エンペラーは再び鼻を鳴らしながらその場を歩き出し他の部下達に指示を出し始めた。素直に言う事を聞く者も居れば渋々従うモノも要る為、彼へ対する評価は十人十色の様である。


そんな相手が離れたのを視てか、二人もまたその場から一度離れると、不機嫌丸出しでジャスティスはこう言いだすのだった。


「全くっ、ハイプリース様とヒエロファント様が不在だからって大きな面しちゃって……! 本当に腹が立ちますわっ!!!」

「お怒りは御尤ごもっともですが、御声は抑えた方がよろしいかと。ストレス社会にまみれるだけあって、地獄耳の様ですから。」

「本当ですわね!! ………それもこれも、ぜぇーーんぶあのおとこのせいでしてよ! 次出会ったらとっちめてやりますのっ!!」

「……そうなる事を望みたいモノですね。………」


そう言って不機嫌そうなジャスティスを視てか、フォーチュンはやれやれと肩を竦めつつ懐から一枚の紙を取り出した。そこには彼女自身がその日気になった事を書き留めたのであろう文字が綴られており、彼女はその事がずーっと気掛かりだったようだ。

ちなみにその紙には、こう書かれていた。



【転換期】と。



『……教団のスート配属時以来でしょうかね、私自身の【運命フォーチュン】がこの結果を私の前に見せて下さったのは……… ……今日、大戦以外に何かが起こるのかしら………』


不思議と纏まらない思考回路の中彼女は紙をしまうと、ジャスティスの後を追って非常階段を下りて行った。




そんな魔法を展開され、外部から視れば巨大な空間魔法によって張られた魔法壁の前。しかし只人から視れば何事も無い現代都市が広がると言う、矛盾した空間が馴染もうとしていた頃。


そこには異世界より集いし『獣人達エリナス』が、各々で待機し次なる行動をまさに取ろうとしていた。


「ん~ もう始まっちゃってるって感じだねぇ、コレ。」

「パッと見でそう思わない方がオカシイっすよ。完全に『空間系魔法』の展開図じゃないっすか、コレ。」

「まあねぇー」


そこにはギラムを慕い彼に助力せんとやって来た、リミダムとライゼの姿もあるのだった。


次回の更新は『8月27日』を予定しています。どうぞお楽しみにっ

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