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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第九話・現代都市の繁華は紅色に煌めく(リーヴァリィのはんかは べにいろにきらめく)
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03 束間昼食(つかのまのちゅうしょく)

治安維持部隊の施設を後にしたギラムはその後、都市内の収穫祭開催地へと赴くべく愛車のザントルスと共に馴れた道中を移動していた。都市内へと入り込むトンネルを抜けてリーヴァリィへと舞い戻ってくると、彼はそのまま都市中央駅近辺にある駐輪場の元へ向かうべく、ハンドルを左へと切り出した。


普段であれば電車や近隣の建物に用事の有る都民達しか利用しないその場所は、一定の駐輪数以外には姿が無く、彼が何時赴いても余裕のある空車スペースが目立っていた。しかしその日ばかりは別であったのだろう、普段よりも止められるスペースが疎らであり、もっと言ってしまえば数えられる程の駐輪場所しか存在しなかったのだ。

割かし大型車に部類される彼の愛車には中々狭い間隔しか無かった為、彼が無事に愛車を止めその場から移動出来たのは、数十分程後の事であった。



歩道を歩くだけで道行く人々とすれ違う中、彼は頭一つ分突き出た長身を生かして探し人を捜索しだした。待ち合わせのぬしは彼と同じく目立った容姿の為即座に見つかりそうなモノであったが、肝心の待ち合わせ場所に関しては人混みによって難しく成る為、今回ばかりは指定していなかったのだ。故にあちこち歩き回りながら、彼は収穫祭を楽しもうとしている都民達の表情を横目に移動ししばらくした頃、無事に探し人の存在を視つける事が出来るのだった。


ちなみにその相手は都市中央駅からそう遠くはない『中央公園広場』から視た東側、都内の歩行者天国と化した車道近辺に居た。


「……ぉ、居た居た。グリスン。」

「? あ、ギラムお帰りー」

「キュッキュー」


無事に合流すべき存在を視つけ声をかけると、彼は軽く手を振りながら相手の元へと近づき出した。彼が探していたのは自身の相棒である虎獣人の『グリスン』であり、もう一人は幼き緑龍の『フィルスター』だ。数ヵ月前から彼の家に居候と同居をしている者達であり、今では彼の表向きの仕事とは異なる用事に付き合って貰っている大事なパートナーである。


そんな用事こそが、今のギラムが置かれている立場『真憧士リアナス』と呼ばれる存在達との衝突だ。


何時の頃からか解らない『創憎主そうぞうしゅ』と呼ばれる者達を鎮めるべく行動していた彼等であったが、気付けばそれは『個人』から『集団』に様変わりしていたのは、そう遠くはない頃のお話。初めはちょっかいを掛けられる形で干渉させられる羽目になったギラムであったが、気付けば相手側からしても容認出来ない存在として認知されてしまい、結果的に『いくさ』にまで大きくなってしまったのが少し前。逃れられない運命と宿命を背負わされてしまった彼等であったが、それを今になって小言を連ねる様な存在は漢ではないだろう。


ギラムとはそんな人物である。



「どうだった? 向こうの事情聴取。」

「んーや、あんまし芳しくはねえな。予想はしてたから、まあそこまで落胆してねえのが救いか。」

「そっか…… やっぱり敵側だもんね、不利益な事を僕達に教えてくれるとは思えないし……」

「まあな。とりあえず昼も近いし、腹でも満たしとこうぜ。空腹じゃ戦い辛いからな。」

「うんっ」

「キュッ」


問題事よりも食欲を満たそうとする辺り、ある意味楽観的とも言えなくもないのだろう。相棒達に芳しくない報告をして暗い顔をさせまいと、ギラムは彼等をその場から移動させ、近くの屋台で昼食を取るべく食糧調達に出かけて行った。


祭りそのものは既に開始している為、簡単な軽食から外出先で食べられる類いの料理は屋台全般で手に入ると言っても過言ではない。ギラムが定期的に口にしている『ハンバーガー』は勿論の事、揚げ物や粉物の料理に続いてやって来るスイーツ達もまた、祭りのちょっとした楽しみ方と言えよう。

老若男女問わず楽しめそうな食事の数々に目移りしながらも、二人と一匹は各々で食べたいモノを選び、近くにあった木陰のベンチへと移動し腰を下ろすのだった。


ちなみに今回彼等が購入したのは『ハーブソーセージのホットドック』と『タルタルフィッシュのハンバーガー』そして『パンプキンポタージュ』である。


「収穫祭ってだけあって、本当にいろんなお店が出てるんだね。フィルスターといろいろ見てたけど、本当にビックリしちゃった。」

「基本は『食い物』だが、風物詩を使った『小さなトピアリー』とかもあっただろ? あの辺も名物だぜ。」

「なんか良いね、そういうの。食べ物や生き物を大事にしてるって感じがして、本当に『いろんなモノに感謝するお祭り』って思う。」

「グリスンの所は、そういうのねえのか?」

「あるにはあるけど、こんなに大規模でやるのは地帯事かな。ヴェナスシャトーでもよくお祭りに近いイベントはやってるけど、コレとはちょっと意味合いが違うから。」

「ヴェナスシャトーって…… ……確か、城塞区域だったか?」

「うん。……あ、そっか。ギラムは知ってるんだもんね、僕達の世界。」

「一応な。」



「「頂きます。」」

「キュッキッキュッ。」


道行く人々から視ればギラムとフィルスターが揃ってランチを口にしている光景だが、更に隣にはグリスンがハンバーガーを口にしているのを目撃出来る人は、都市内には数えられる程しか居ない。それこそが『リアナス』と『ヴァリアナス』と呼ばれる存在に線引きされる違いであり、現代都市を後ろ側から支える存在として彼等はそこにいる。おまけに今回はそんな休息を取りながら周囲を警戒している為、日常的に取れるランチほど落ち着ける空気ではなかった。


とはいえあんまり変わらない素振りで食事をしているギラムの為か、先程からグリスンはきょとんとしながらハンバーガーを口にしたままと成っていた。軽く指摘されて慌てて口を動かす辺り、グリスンらしいと言えよう。


「そういえば、さっきの話の続きなんだけど。ヴェナスシャトーでやってるお祭りは『神様へのお祭り』なんだ、僕達の所の。」

「グリスン達の世界の、神様?」

「そう。僕達は『メルキュリーク様』って言ってて、女神様なんだ。」

「グリスン達の女神様……… ……そういや、そんな話もベネディスがしてたな……… 寵愛ちょうあいがどうの、こうのって。」

「そうなの?」

「あぁ。ベネディスからすると、俺はどっちかっつーと寵愛を受けてる側なんだとさ。自覚は全くねえけど……」

「え、凄いねギラム!! 本来なら本当に数え切れるくらいの人しか居ないんだよ、受けられてる人!!」

「そ、そうなのか……?」

「そうだよ!! 僕が知ってる限りだと『スプリーム』だけだもん、ちゃんとした寵愛を受けられてる人って。」

「へぇー、スプリームもそうなのか。凄いな。」

「いや、ギラムも凄いんだよ……??」


「キュキッキュッ」

「……そうだね、本当に自覚がないからそう言えるのかも……」

「お前等軽くディスってるだろ、俺の事。」

「そ、そんな事無いよ!?」

「キュッ」


何気ない話から落差の激しい会話になる辺り、気付けば相棒側にも普段通りの空気が来たと言えよう。慌てて弁解しながらハンバーガーを口にするグリスンを視てか、フィルスターはスープを飲むと同時に苦笑しており、それを視たギラムは肩を竦めて何事も無かったかのようにホットドックを口にするのだった。


視る人によっては勝手に笑う幼き龍に翻弄されている強面な男性の図にしか見えないが、細かい所は置いておこう。


「神様へのお祭りか…… まあでも、解釈によってはコレもそうなんだろうな。食物の神様って概念に対して、感謝を伝えて豊作を願うわけだし。」

「そうだね。ご飯って大事だもん、美味しいモノを沢山食べられるのも良い事だし。」

「まあな。食い物で身体が出来るって言うくらいだし、ガキの頃によく言われたっけな……『肉より魚を食え』って。」

「ギラムはお肉もお魚も好きだもんね。」

「馴れもあるだろうけどな。……あぁ、そういやイロニックが妙な事を口走ってたな。」

「妙な事?」

「あぁ、元々フールと契約してた『エリナス』がクーオリアスに居るって話なんだがな。……本来なら譲渡?するはずの教団員達の中で、唯一それをしなかったとか……今のポジションに着かされた、って言ってたな。」

「元々契約してたけど、訳あって破棄されて戻された……って事?」

「みたいだぜ。……まあ今からすれば、ザグレ教団に監禁されて奴隷扱いされるって解ってたら………俺もそうするかもな。グリスンをそんな目に合わせたくねえし、奴隷なんてするもんじゃねえよ。」

「………」


「……? グリスン?」


他愛の無い話からふと思い出した事をギラムは伝えると、気付けばグリスンの口数が減り黙ってしまっていた。とはいえ落胆とは異なる表情を彼は浮かべており、どちらかと言えば『困惑』よりも『疑惑』と言った方が正しいだろう。顎元に右手を添えて考え込む体制を取っており、ふとギラムは横目で相棒を視て疑問符を浮かべだした、そんな時だった。


「………何かその話、僕覚えがあるなぁ……… 何処で聞いたんだっけ。」

「そうなのか?」

「うん。元々契約してた人が居たけど、向こう側からそれをさせられたんだよね……… んー……… ………」

『グリスン本人が……ってわけじゃ無さそうだな。寧ろそうなら、俺に敵意を先に向けるだろうし。』


話そのものの反応からギラムは憶測で考えつつホットドックを全て食べ終えると、残ったペーパーナプキンで口元を拭いだした。先程から口と手を全く動かさないグリスンが完全に集中して脳内の記憶を漁っている事を理解すると、彼は視線を下ろしフィルスターの様子を視だした。幼き龍は既にスープを飲み終え共にやって来たクラッカーを口にしており、気付けば彼の足元には食い散らかしたのであろう、残骸が点々と零れており中々に豪快な食べっぷりだった様だ。


そんな様子を視たギラムは苦笑しながら手にしていたナプキンで相手に声を掛けながら口元を拭うと、フィルスターは嬉しそうに笑顔を見せながら軽く鳴き、残ったクラッカーを一口で食べてしまった。

その時だった。


「あっ、思い出した! ギラム、」

「ん?」



スンッ………



【……? なっ、この魔法って……!!】


「さあ、始めましょうか……? 宴と言う名の『いくさ』を……」


平和な時間が一変、色彩が失われ彼等の耳元でそんな声が聞こえだすのだった………


次回の更新は『8月20日』を予定しています、どうぞお楽しみにっ

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