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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第八話・生雫と碧路で紡がれた幻想世界(せいすいとへきどうでつむがれた クーオリアス)
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18 理相解棒(りかいしてるあいだがら)

行きつけの喫茶店でのやり取りを終え、ギラムが帰宅したのは夕刻を終え夜へと差し掛かった頃。少し遅めの夕食をどうするか検討しながらザントルスと共に帰宅すると、彼はそのまま馴れた手つきで駐輪場へと赴き、愛車を停車させだした。

その後手荷物を全て回収しアパート内へと向かうと、馴れた足取りで自宅の前へと向かい、静かにカギを開け中へと入室した。



ガチャッ


「ただいま。」

「キューッ」

「ん?」


そんな帰宅の声に対し彼の目の前に広がる廊下には、なんと小さな相棒が座ったまま彼の事を出迎えてくれたのだ。本来ならば帰宅するのは数日後と告げていたのにも関わらず、何故その場で待ち笑顔で鳴き声を発してくれてたのか。


様々な疑問が頭の中で過る中、彼はふと我に返り返事をしつつ靴を脱ぐと、フィルスターの頭を撫でだした。すると相手も気持ち良さそうに撫でを堪能し、そのまま主人の後に続いてリビングへと向かって行った。


「お帰り、ギラム。」


すると遅れてもう一人の相棒であるグリスンもギラム達の元に現れ、いつも通りの笑顔をギラムに見せていた。後から来た隣人もまた驚いた素振りも無く出迎えてくれた事もあったためだろう、ギラムは軽く拍子抜けしながらも声をかけつつ、手荷物を定位置へと置き出した。

そして間髪入れずに、ギラムはこんな質問を投げかけた。


「……二人共。俺が早く帰って来た事、驚かないんだな。」

「ううん、これでも驚いてるよ。でも、聞き慣れたバイクの音が聞こえたからさ。フィルスターがダッシュで廊下に行ったのもあったし、出迎えをね。お仕事早く終わったの?」

「んー……まあ、そんな感じだな。飯食いながらでも良いか、腹減ってさ。」

「うん、良いよ。」

「キュッ」


しかしなんて事の無い回答で質問がアッサリと終わってしまうのは、既に数ヵ月を共にした仲だからなのだろうか。家主の主張を通しつつも予定よりも早かった事、そして急に戻って来た事へ対する話をギラムは手を洗った後、そのまま動きながら説明しだした。



彼が二人に話したのは、築港岬『ヘルベゲール』から幻想世界『クーオリアス』へと赴いた際、自らの用事と向こう側での要望を聞き届けた事。そして再び戻って来た現代都市『リーヴァリィ』に迫っていた、真憧士達による大きないくさが始まろうとしている事だった。


双方共に様々な偶然が重なったが故に引き起こされた事実だが、実際にこんな事が朝から夜にかけて起こったともなれば、情報過多で処理オーバーしても不思議ではない。しかし、グリスンもフィルスターも説明に対し余計な茶々を入れる事も無ければ話を遮る事もせず、ただただギラムの夕食の支度と共にしっかりと聞き漏らさない様にと気を使っているのだった。

そんな二人の様子と体制に対し、ギラムは改めて二人に感謝するのだった。


「……まあこんな感じだ。仕事が早く終わったって言えばそうだし、ひょんな事からリーヴァリィに戻されたって意味でも……帰宅した方が良いと思ってさ。」

「でも凄いね。リヴァナラスとクーオリアスと繋ぐ街道がこの世界の何処かに有る事は僕も知ってたけど……まさか前に行った島にあるなんて。」

「流石に俺も驚いたぜ。……そういや、何でノクターンはその街道を通って行こうって言ったんだろうな。グリスン達みたいに独自のルートがあるなら、わざわざあんな怨霊紛いな連中が出る所を通る理由もねえだろうに。……しかも面倒って言ってなかったっけか………?? アイツ。」

「キュー」



「んー…… あくまでそこは僕の推測になるけど、そういう道が『無い』んじゃないかな。」

「無い? どういう事だ……?」


その後用意された夕食と共に席に着いたギラムを視つつ、グリスンはふと頭の中に浮かんだ事をギラムに話し出した。



事実、エリナスのグリスン達がこの世界に跳ぶ際、自らの力の干渉に加え既に用意された手技でやって来たに等しい。それこそがリミダムやサントス達が所属する『WMS』の『輸送隊』による行いの一つであり、何も彼等が各々で此方側に干渉しやって来たわけではない。彼等には彼等の明確的な切欠と理由があってこの場にとどまっており、理由無くして旅行感覚で此方側に居ないのだ。


しかしリミダムの様に『自由に行き来する』事が出来る例外も居る為、グリスンからしても説得力に欠ける考えだったのだろう。聊か傾げた首の角度が徐々に深くなって行く中、ギラムは食事の手を止めつつ彼の話を聞き出した。


「僕達のほとんどは、輸送隊を始めとした人達の用意した『みち』を行き来してるんだ。この世界で仮に負けたとしても、意識だけに近い形でココに居るからね。僕達の身体に安全に戻る方法として用いられてるって、聞いてる。」

「………あれ、じゃあ今のグリスンは身体とセットじゃないのか? そうは見えないんだが……」

「簡単に言えば『夢を見てる状態』って言えば近いかな。夢の中で仮に事故に合ったり飛び降りたりしても、驚くけど死んでないでしょ? あんな感じなんだ。」

「へぇー それは知らなかったな……… で、その路となる場がノクターンには無いって事なのか……?」

「多分ね。……でも仮に、その人がギラムをクーオリアスに連れて行きたかったって考えたら、僕の推測はハズレなんだけどね。リアナスでも路を開く事は、輸送隊にも出来ないからさ。」

「そう言う事だったのか。」


あくまで仮説にすぎない話ではあったものの、ギラムからすれば何かしら納得する部分が幾つかあったのだろう。話を聞かされたことに対しお礼を言いつつ食事の手を戻し、彼は簡単に用意した『アイスプラントのサラダ』を口にするのだった。


ちなみにここで余談を挟むと、本日のギラムの夕食はそのサラダと『蒸し鶏とビーツのサンドイッチ』 そしてお疲れの身体にしっかりと染み渡る『アイスレモネード』である。



「………あの、さ。ギラム。」

「ん?」

「……僕が聞いて良いのか解らないんだけど……… クーオリアスで、何してたの……?」


そんな夕食を堪能していたのも束の間、不意にグリスンはギラムに対しそんな質問を投げかけてきた。再び手を止め話を聞いた矢先、彼は軽く目を丸くしながら何故そんな事を言い出したのだろうかと考えた、その時だった。


「あっ、ご…ゴメンね!! 居候なのに図々しい事聞いちゃって!! 忘れてっ!!」

『……そういや、その問題もまだ解決して無かったな。………試してみるか。』


慌てた素振りを見せだしたグリスンを視たと同時に、ギラムは席を立ち廊下の隅に置いていた手荷物の所へと向かって行った。その後中から何かを取り出し再び戻って来ると、彼は相手の名前を呼びつつあるモノを差し出した。



スッ


「ふぇっ!? ……えっ? コレって………」

「ライゼから土産にって貰ってさ。グリスンは、コレの事知ってるか。」

「う、うん………『エイデッスP』の珈琲豆……だよね? 知ってるよ。」

「なら話が早いな。コレ、淹れてくれないか。俺の為に。」

「えっ……!! で、でもお土産なんでしょ!?!? しかもコレ、高いのに………」

「だからさ。お前が俺に対して想ってる事があるのなら、お前はコレで俺にぶつけてくれれば良い。如何せん、お前さんとはチグハグな部分もあるとは前々から思ってたからさ。この機に俺も見直した方がいいんじゃねえかって、思ったんだ。」

「ギラム……」


「どうだ。淹れてくれるか、グリスン。」

「………うん。……僕も、淹れてみたい。」

「んじゃ、決まりだな。」


彼が差し出した紙袋の模様を目にし、グリスンは悩みながらもそう言いだした。クーオリアスにてライゼが言った通りの認知度である事をギラムは改めて理解する一方、本当にそれだけ不審にさせてしまう要素が一体どれだけ自身にあるのかが気になった様だ。


あれだけ美味しかった珈琲と比較してしまえば、間違いなくグリスンは落胆するだろう。


真の優しさはお互いに似ている一方、何処か消極的な相棒に珈琲豆を手渡し、ギラムは残った食事を片付けるのだった。



「………あの、さ。ギラム。」

「ん、今度はどうした。」

「話に水を差す様で悪いんだけど………ライゼ、だったっけ? その子の淹れた珈琲。どうだった?」


その後、食事に使用した食器を片付けたギラムが席に着いた時。グリスンはお湯をケトルで沸かしながら、ふと珈琲豆をくれた相手の事を気にしだした。


以前彼を看病していた際にもやって来た名称、それが『ライゼ』だ。事実ギラム本人からしても頼れる友人であり、安心出来る相棒である事には変わりなく、珈琲豆に伝わる諸説が正しければ間違いなくギラムにとってもベストパートナーと言えよう。後腐れの無い真正面からぶつかって来る所も含め、あの眼から必死に伝えようとしてくる雰囲気に、未だギラムは勝てる気がしていない。



それだけの相手がこの珈琲をくれたのなら、間違いなくその子は珈琲を淹れている。



グリスンが気にしても不思議じゃない質問に対し、ギラムは『予想通り』と思いつつ言葉を気にしながら素直にこう言うのだった。


「……… すっごく美味しかったぜ。俺好みの味だった。」

「そっか………」


「でもな、グリスン。」

「?」

「仮に俺の事を良く理解してるのがライゼだったとしても、お前が相棒だって言う事実は何も変わんないぜ。ライゼもその点は理解してるって言ってたし、お前が心配する様な要因は何もねえよ。」

「し、心配って言うか………その………」

「あぁそっか。お前の場合は『自信』だったな。」

「うぅっ…… ハッキリ言うぅ………」

「悪いな。今だけは言わせてもらったぜ。」

「キュッキュッ」


しかしギラム本人からしても、伝えるべき事は濁す事なく伝えておきたかったのだろう。落胆すると解っておきながら告げられた言葉にグリスンがしょげる中、ギラムは揶揄からかう様に苦笑しながら言うのだった。主人に合わせてフィルスターも軽く笑っており、その後グリスンが不貞腐れた顔をみせたのは、言うまでも無いだろう。


それだけ既に親しい相棒同士に、彼等はなっているのだ。


「お前が自身無いのは解ってるつもりだし、俺に対してそういうフォロー面も弱いって悩んでるのも知ってる。それに対して俺があれこれ言えば変わる部分も勿論あるが、俺はそれが正しいかどうかって聞かれたら解らないからさ。言わなかっただけだ。」

「えっ、どうして……? 相手が理解してくれたら、その方がいいんじゃないの?」

「勿論否定はしないが、下手に俺の為に時間を割かせるのも気が引けてな。現にグリスンは言わなくても理解しようって気になってるだろ。それを尊重したかったんだ。」

「……そっか。」


「グリスンはこの世界で、やりたい事があるのは聞かされてるつもりだ。それが何かはまだちゃんと解らないが、少なくとも『ハーベストカンシュタット』の先にあるモノだって言うのは推測が立つ。お前が本当に成し遂げたいモノがあって、その過程で俺が必要だったって言うのものな。」

「……… 本当、ギラムには何も隠し事が出来ないね。筒抜け過ぎちゃうよ。利用する気は……無かったんだけど、成っちゃってるんだもん。」

「俺もついさっきそう思ったくらいだからな。笑っちまうぜ、本当に。」

「うんっ」


しかしいずれは笑顔で笑いあえる所もまた、彼等の関係が良好である証なのだろう。気付けば手元のフィルターから抽出されたコーヒーがポットの中に溜まっており、分量もしっかり一人分であった。

その後ギラムが普段から使用しているマグカップに珈琲が淹れられると、グリスンは零さない様に気を付けながら相手の元に持って行くのだった。


「はい、お待たせギラム。」

「ありがとさん、頂きます。」


そして彼の口元に運ばれたコーヒーを視て、グリスンは静かに唾を飲み込みだした。一生懸命淹れたが彼の好みの味かは解らず、味見をしていない事も含め不安要素が幾つも頭の中に浮かんだ様だ。

事実この珈琲の難点がそこであり、ほぼ試飲する事が出来ないのである。


「………」

「どう、かな。」

「……なんか、ちょっと甘味があるな。でも爽やかな香りもあって、俺好みだ。」

「よかったぁーー…… 真逆だったらどうしようかと思ったよ。」

「いや、流石にそうはならんだろ…… これでも『相棒』なんだし。」


とはいえ、ギラム本人は左程味に対しては気にしていなかった様だ。既に飲んだ事のある味と確かに違うと理解しながらも、グリスンが想いを込めて淹れてくれた珈琲をしっかりと味わうのだった。




「ギラムは、これからどうするの……? ザグレ教団と戦うのは解ったし、それに対する準備もさっきまで事前に張れる部分はしたって聞いたけど。」

「とりあえず、やれるだけの事はしてみるつもりだ。戦いそのものが都民達を巻き込むモノなら、俺だって引く気はねえよ。グリスンとフィルスターにも手伝って貰わないといけないが、危険な橋だ。強制はしない。」

「キュッ!」

「ううん、僕達だってやるよ! ギラムが駄目なんて事はあり得ないし、僕はギラムのパートナーだもん! それに、負けたくない!!」

「そっか。絶対に護ってやろうぜ。リーヴァリィと、エリナス達をさ。」

「うん!」

「キュッ!」


そんな彼等のやり取りが行われた、夕食時を過ぎた夜。さまざまな思想と思惑が現代都市リーヴァリィの至る所で浮上し、衝突し対策を練ろうと動いていたのが、およそ二か月前。



既に彼等は戦いの火蓋が切って落とされるであろう、秋の収穫祭『ハーベストカンシュタット』の中にいるのだった。


今回の更新で『生雫と碧路で紡がれた幻想世界』の更新が終了と成りました。次回章の更新はしばし時を挟んだ『7月』頃を予定しています。


予定日までの間は、新しく外伝話として用意しております作品『鏡映した覚真の羽』の方を少々更新したいと思っておりますので、プロフィールページ。もしくは下記URLより跳んで下さいませ。

https://ncode.syosetu.com/n7036gx/

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