表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第八話・生雫と碧路で紡がれた幻想世界(せいすいとへきどうでつむがれた クーオリアス)
248/302

17 果合書状(おてがみ)

一方その頃、舞台は再び戻っての『現代都市リーヴァリィ』 ピニオと別れたギラムは都市中央駅を後にすると、その場から左程遠くはない駐輪場へと向かって行った。


そこは以前、テインの邸宅に治安維持部隊を招集した際、グリスンとフィルスターを待機させていた場所だ。人気も薄く通勤の際に使用する自転車やバイクを停める人達が殆どの為、基本的に大多数の視線を集める事も無い。そう言った観点から彼が選んだのだろう、その場にザントルスを召し寄せ、幾多の機関へ対し繋ぎを取りに向かって行った。


要件は勿論、数か月後に行われる収穫祭『ハーベストカンシュタット』にザグレ教団が関与する事だ。リアナスとして選ばれたが故の使命感か、はたまた前職場での正義感へ対する行動なのかは解らない。それでもギラム本人が心で想った事に対し嘘をつくまいと、ただひたすらに行動へと移している様にも見て取れた。



そんな彼の行いは開始した時間帯が幸いしてか、最低限の行いを日中に終わらせる事が出来て居た。一番初めに向かった『治安維持部隊』でのやり取りはサインナに仲介してもらい、そのままマチイ大臣の元で簡潔に報告。部隊そのものの動きに対しては双方に任せつつも、テロ紛いな行いがやって来るに際し自身がどうしたいか、その辺りもギラムはしっかりと伝えていた。

半ば過去の職権と交友関係に対する乱用とも言えなくはないが、背に腹は代えられないと言った表情であった。


次に彼が行ったのは、道中を移動しつつ治安維持部隊では把握のし辛い『富裕層』へ対する包囲網。仕事の延長戦で友人関係を構築していたアリンとテインを始め、異国より来訪していたリブルティへ対しても、その情報を共有していた。

一般市民であるギラムでは到底関与する事の無い場において、普段から接点を持って居る彼等は強力な助っ人とも言えよう。センスミントを片手にやり取りをする姿は、普段の仕事風景と何ら変わりない光景にも見えた。



しかし彼が行っていた行動は、何も『人間』に対し焦点を当てたモノだけではない。



治安維持部隊での報告に同席していたコンストラクトに加え、アリンとテインの元で行動するスプリームとリズルト。加えて人伝えではあるが、リブルティと行動を共にするデネレスティもまた、彼にとって頼れる情報手段として利用していた。獣人達は各々で独自のネットワークを構築しているという話はグリスンから聞いていた為、リヴァナラスに居る彼等にも情報を回しておいて損は無い。


様々な角度から必要であろう存在達に片っ端から話を持ち掛けられる行動力もまた、ギラムの長所とも言えそうな光景であった。




リリリン♪



「いらっしゃいませ~」


そんな彼の行いが落ち着いたのは、陽が傾き数十分程で黄昏時を終える頃。軽い休憩がてら立ち寄った馴染みの喫茶店にて、彼はドアベルと店員による来店挨拶を受けていた。

店内は日中に比べて人気は少なく、その時間から夕食を摂る者や彼と同じくお茶をするべく立ち寄った者達がちらほら。普段よりも会話の量が控えめという、ちょっとだけ落ち着いた空間がその場に広がっていた。


そんな店内の様子を軽く見た後、彼は入り口からそう遠くは無いテーブル席へと向かって行った。

馴れた様子で席に着き一息つくと、彼の元に女性店員がやって来た。


「ご注文、承りまーす。」

「コーヒーのブラックを、デカフェで頼むぜ。」

「かしこまりました~」


半ば顔見知りに近い店員に注文を告げると、相手はお辞儀をしつつ席を離れ、カウンター内にて行動していた店長に注文を告げだした。その後了承した様子で返事をすると、女性店員は馴れた手つきでグラスに水を注ぎ、おしぼりと共に再び彼の元へと戻って来た。

そして相手の邪魔にならない様にと声をかけながらテーブルに置く物を置くと、再びその場を離れるのであった。


そんな店内でのひとしきりの流れを視た後、ギラムはポケットからセンスミントを取り出した。テーブルに置いた端末から電子板を展開し、自身が行った行動を確認しながらおしぼりで手を拭き、静かに水を口にしだした。


『……サインナに根回しを頼んだから、治安維持部隊方面は大丈夫。アリンとテインにも俺から出来ない連絡網を張ってもらったから……後は、セルベトルガ方面でどうするか……か。下手にカサモトへ情報を流すにしても、ヴァリアナスじゃない面々への説明ってなると……確かに難しいモノがあるな。マチイ大臣の時に求められた感覚を思い出すな、こりゃ。』



「失礼いたします。コーヒーをお持ちしました~」

「? あぁ、ありがとさん。」


そんな彼の思考回路を巡る行いにしばし様子を見た後、再びその場に女性店員は舞い戻り彼の注文の品を運んできた。配膳の際に使用していたトレンチの上に乗った珈琲を馴れた手つきでテーブルに置き出すと、ギラムは我に返りつつ新ためて女性店員にお礼を告げた。

その時だった。


「あと、すみません。」

「ん?」

「失礼を承知でお伺いします。『ギラム・ギクワ』様でよろしかったでしょうか?」

「え? ……あぁ、そうだが………」

「ぁ、良かった。お店で此方こちらをお預かりしていまして、貴方様にお渡しして欲しいと。」

「俺に?」


普段であればお辞儀をして早々に去るはずの相手が、今回は珍しくその行いを即座に行わなかったのだ。おまけに彼に対し預かり物があると言うのだから、ギラムもまた驚いたのは言うまでもないだろう。

相手から手渡されたモノを視て、彼は手を伸ばし品物を受け取り出した。


店員から差し出されたモノ、それは白地に淡い水色の装飾が施された手紙。ハガキサイズ程のシンプルな代物を受け取った彼は手紙の表と裏をしげしげと観察し、差出人は誰だろうと確認しだした。

しかし両面共に名前と思わしきモノは無く、目視出来る範囲で理解する事が出来なかった。


「……… ちなみにだが、誰からか解るか?」

「いいえ、お名前までは…… ただ、お仕事の出来そうな『女性』の方からでしたよ。」

「仕事の出来そうな女性……… ……まあ、誰かは解らないがありがとさん。とりあえず貰っとくぜ。」

「恐れ入ります。では、どうぞごゆっくり。」


謎の書面を受け取った彼はとりあえず相手にお礼を告げると、女性店員はお辞儀をしその場を離れて行った。再び独りになった彼は手紙を開封しつつ中身を確認すると、そこには便箋一枚による手紙が入っており、他に何か仕掛けは無いだろうかと確認しだした。


しかしコレと言った工夫も仕掛けも無いただの手紙であると気付いたのは、それから数十秒後の事。

軽く『取り越し苦労だっただろうか』と思いながら、ギラムは文章に目を向けだした。

そこにはこんな内容が記載されていた。



【拝啓 真憧士『ギラム・ギクワ』様。


紅葉の彩りが現代都市内に舞い降りるときが近づきます今日この頃、如何お過ごしでしょうか。

先日の面会に立ち会って頂き、改めて感謝の意を記させて頂きます。

先刻申し上げました通り、我々は計画を実行に移す事が最終決定いたしました事を、ココで改めてお伝えします。


つきましては祭典の最中、貴方様には舞台裏にて私達のおもてなしを受けて頂きたいと考えております。

相棒の方々も含め沢山の方々を御招きし、宴の準備を整えてお待ちしております。


貴方様が真の憧れであるかどうかもまた、同時に見定めさせて頂きます。

どうぞご覚悟の志をお持ちになって、いらしてくださいませ。 敬具】



手紙に記載されていた内容、それは何処か企業宛に送られてくるかのような硬めの文章だった。恰も企業勤めのサラリーマンやオフィスレディが送ってきそうな代物であり、このようなモノを送りつけて来る友人にギラムは心当たりがない。

おまけに書面内に『真憧士』と書かれているのだから、一般人ではない事も明白である。


目で走らせながら読んでいた内容に対し気になる部分に焦点をあてたその時、彼の中でふと候補者が一人頭の中で浮かびだした。それは先日からしばしば面会を望んで来た、敵側の存在。


『………フール、か……? 今度は手紙と来たか。レパートリーが豊富だな、本当に。』


おおよその検討が付いたその時、ギラムは軽く左手で頭を掻いた後、肩を竦めだした。毎度の事ながら動きの読めない相手からしょっちゅうやり取りを持ちかけられる事の多かった毎日、彼からしても多少の疲れがあった様だ。仲間ノクターンであろうともフールであろうとそうして来る相手が居る所を見ると、一種のブームのようにも感じられる。


だがしかし、そんなブームは現代都市リーヴァリィには存在しない。



『……… ………』


とはいえ手紙を受け取って返事をしないのは、ギラムの性分では無いのだろう。ザントルスの中に積んでいた荷物をその場に持ち込んでいた事も有り、彼はそこから筆記具を取り出し手紙の裏面に返事を書き出した。


表面とは違い彼の書く英文字は、少々大きく時折ゴツゴツとした字体となっており、男らしさが滲み出る書き方であった。しかし文字を書く事自体は馴れている様子でサラサラと返事を書き終えると、再び封筒の中に手紙を戻し封をするように人差し指で接触面をなぞり出した。

すると、微量の煌めきと同時に手紙はノリで張られたかのように接着しており、他言無用の開封が即座に解る仕様に変えられているのであった。



真憧士同士のやりとりを、関与しない人々に知られるわけには行かない。



そんなギラムの配慮からされた行いの様にも見てとれた。



「すまない、ちょっと良いか。」

「? ぁ、はい。どうなさいましたか?」

「コレの事なんだが。また同じ相手が来たら渡してもらえるか、面倒事で悪いんだが。」

「いいえ、大丈夫ですよ。お預かりさせてもらいますね。」

「あぁ、ありがとさん。」


差出人不明の返答をつづった手紙作り終えると、ギラムは軽く冷めた珈琲を一気飲みし荷物を手にし、女性店員の元へと向かっていった。その後声を掛け同じ相手に手紙を渡すよう伝言を頼むと、料金の精算をし店を後にしだした。

軽く落ち着かない時間を過ごすも、そんな素振りを全く見せないギラムの去り姿であった。


次回の更新は『4月22日』を予定しています。どうぞお楽しみにっ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ