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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第八話・生雫と碧路で紡がれた幻想世界(せいすいとへきどうでつむがれた クーオリアス)
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15 失世界憧(うしなったせかいへのあこがれ)

一方、ギラムとピニオがザグレ教団からの宣戦布告を受けていた頃。幻想世界クーオリアスの城塞区域『ヴェナスシャトー』の外へと出ていたライゼは、再び関所を通りWMSの殿内へと戻って来ていた。


行きと違い誰かと共に行動する事も護衛する事も無かった為か、帰路については割と足取り軽くいつも通りの歩調で彼は帰還していた。道中のマルシェにてガラス瓶に入った飲料水を購入した以外、コレと言った寄り道もする事は無く、淡々と業務を終えその足で戻ったと言っても過言ではないだろう。リミダムとは正反対と言って良いほどに、業務に逐一真面目な彼である。


そんな彼がWMSの殿内へと戻って来たのは、ギラムと別れて約一時間が経った頃。道中にてすれ違う人々と軽めの挨拶をした後、彼は再び衛生隊の管轄区域へと戻るのだった。



ウィーン……


「只今戻りました、マウルティア司教殿。」

「戻ったか、ライゼよ。道中問題は無かったかえ。」

「時折名前を呼ぶ事に躊躇ためらいがあった事、それに対する俺の忠義の弱さを痛感しました。申し訳ございません。」

「お主は相変わらず生真面目じゃのう、それくらい良い良い。」

「寛大な御言葉、恐れ入ります。」


区域内へと戻ったのも束の間、彼はその足でベネディスの居る部屋へと向かって行った。矢継ぎ早に報告を済ませつつ問いかけへ対する返答をするも、彼を生真面目と称するのはベネディスも同じだった様だ。

深々と頭を下げるライゼに対しベネディスはそう言うと、近くに置かれていたカップを手にし残っていたお茶を口にしだした。


「それで、目的は達成出来たのかえ。」

「えっ……?」

「お主の人生にとって、リヴァナラスで至高の変化を与えたのは『ギラム』じゃろうて。そんな張本人がワシ等の世界に来たのであれば、達成したい野望の一つや二つ。若造のお主に無い訳がなかろう?」

「………全て見抜かれている所は、今でもマウルティア司教殿には頭が上がりません。はい、ご配慮くださりありがとうございました。おかげで……ギラム准尉に差し上げたかった贈り物に加え、俺の本当の心を伝える事が出来ました。」

「そうかそうか。良かったのう。」

「はい。」


そんな相手からの問いかけに対し、ライゼは驚きながらも素直に先程まで行ってきた事を報告しだした。事前にギラムに告げた言葉とは少々異なる部分はあれど、それでもライゼはしっかりと報告しようと思っていたところもあったのだろう。


自らがやりたかった事、そして自らが告げたかった事。


それら全てを嘘偽りなくやり遂げた事を報告すると、目の前に立っていたベネディスは微笑ましそうに笑みを浮かべだした。恰も子供や孫の成長を見守ろうとする老人の様な表情であり、その笑顔に釣られてライゼもまた笑顔を見せるのだった。



それから二人の間で交わされたのは、他愛もない雑談とギラムと言う存在に対する話。しかしそれは歓談とは少し懸け離れた次元に存在するような、少し闇を感じるやり取りであった。


「……… マウルティア司教殿。」

「ん、なんじゃ。」

「ギラム准尉がこの世界へ足を踏み入れたという事は……近々、リヴァナラスでの戦闘が始まる事を意味してると俺は考えています。俺達とは別の、一つの節目となる『いくさ』が来るのではないか……と。」

「……そうじゃな。元より、それは必然的に決まっていたが故に、何時それが起こるかが明確でなかったに過ぎぬ。ギラムが此処へ現れた事、それは確かに予兆やもしれぬな。」

「俺は………衛生隊の面子の中でも、下っ端で……無力な鷹鳥人です。自らの翼を失ったが故に堕ちた魔力と、歩むべき人生とも言える街道みちの変化。その事実を自ら痛感してる事を理解したうえで、謁見します。」



「俺を、その戦に参加させて下さい。マウルティア司教殿。」


彼の口から告げられた言葉、それは自らの意志と信念で構成されたモノだった。初めは意図しなくも徐々に惹かれ、尚且つ自らの『憧れ』とも言えるべき存在に出会えた事へ対する、様々な想いから告げられた言葉。



自身がどれだけ無力であったとしても、コレだけは決して曲げたくない。



そんな彼の想いから告げられた言葉を聞き、ベネディスはカップをテーブルの上に置きつつ面と向かって問う様に目を向けだした。


「何故、自らの無力さを理解した上で申し出た。ライゼよ。」

「力は他に劣り、創憎主の領域に立たんとする真憧士達からすれば、俺はただの『モブ』に過ぎません。……ですが、それでも……俺は、ギラム准尉と共に戦いたいのです! 彼を護りたいのです!!」

「……… 護ったが故に、帝政の名の元で引き起こされる『大戦』に巻き込まれると……解っていて、か。」

「はい。仮にそうなる事が必然だったとしても、俺は……ギラム准尉なら、勝ち残れるし解決してくれるって、信じてますから。」

「そうか。」


ライゼの口から告げられた言葉を耳にしてか、ベネディスは静かに振り返りつつ近くのガラス窓の元へと向かって行った。

部屋の天井から床までの大きさを誇るガラス窓の向こうには、徐々に傾き出した陽の存在があった。暖かくも直視する事の出来ない存在に照らさた城塞区域の景色は広く、大きな壁を有に超えたその場所から視える景色は絶景であり、少し離れた山地まで視野を広げる事も出来た。


だが広大な自然の先とは違う異世界にはどんな危険や事件があるかも解らず、そんな場に危険を承知で赴かんとする彼に対し、果たしてどんな言葉を告げるべきなのだろう。


自身の顎元に蓄えた髭を軽く撫でながら考えた後、振り返る事無くベネディスはこう言いだした。


「……正直に言おう、ライゼよ。ワシはお主が戦に赴く事は反対じゃ。お前さんの魔法の力は弱く、エリナス達の中でも劣等種と言われるレベル。翼を失った事へ対する障害は、想像以上じゃったろうて。」

「はい………」

「相手を護る事は愚か、自らを守り切る事すらも怪しいお主を先陣へ送る事は、老体であっても望まぬ。それは無謀であり、無茶に値するからのう。」

「………はい。」



「じゃがな、ライゼよ。」

「?」


言葉を告げれば告げる程に表情を暗くするライゼを悟ったのか、不意にベネディスはそう言いながら振り返り出したのだ。会話の調子が変化した事に気付いたライゼが静かに顔を上げるのを視つつ、静かにその場から歩きだし言葉を続けだした。


「お主は常に、真っ直ぐな眼を向け自らの心と意志を伝える事が出来る存在じゃ。それは衛生隊の面子の中においても群を抜き、先々代様がギラムの命を紡いでくれた事にも、それは現れておる。」

「………」

「ワシの提案を素直に受け取ったが故の、今のお主が使役する魔法の力。それはリアナスに近くエリナス達が選ばなかった領域であったが、お主は既に完璧にマスターしておる。今までの行いに対して、ワシは理解しているつもりじゃ。」

「マウルティア司教殿………」

「お主がギラムを護りたいというのであれば、お主はそれをすると良い。お主ならばギラムを護れるとワシも思うし、護って欲しいとも想っておる。……ワシは先刻、ピニオを造る存在としてギラムを選んだ事に後悔したくらいじゃ。」

「えっ? それは、何故……」


段々と励まし混じりな会話を耳にしたライゼであったが、これまた不意に会話の調子が変わったのは言うまでもないだろう。すれ違いざまに口にした言葉を聞いた彼は振り返りながらベネディスを追うと、後姿を向けたまま何故そう想ったのかを言い出した。


ベネディスはそう思った理由、それは衛生隊の区域へと向かう際にギラムと交わした他愛もないやり取りだ。この場に赴くまでにわりと調子よくやって来られた事に加え、普通に考えれば『あり得ない』とも言い難いくらいに起こった彼の洋服へ対する措置。考えれば考える程にイレギュラーな彼へと起こって来た事柄を見返して行くと、彼は『普通ではない』という表現が、果たして本当に正しく言える存在なのだろうか。


意図しない中で起こったその現象はまさに『神の寵愛を受けた』と言う表現が、一番正しくも妥当なのではないか。


気付いてしまった事実へ対する懺悔の心を抱きつつも、ベネディスはライゼに話しつつこう続けだした。


「相手の命を助けた引き換えに、ワシが延長戦で行っている事に対し何時罰せられてもおかしくはない。……しかし仮にそれが運命であったとしても、ワシは今後の衛生隊を律してくれる……心強い存在を見つける事が出来た。それが、ライゼ。お主じゃよ。」

「俺、が………?」

「ライゼよ。ワシからの条件を満たせる存在を見つける事が出来るのであれば、ワシはお主をリヴァナラスでの戦に赴く事への許可をし、申請をしよう。」

「!! ありがとう……ございます!! マウルティア司教殿……!!」



「じゃが、勘違いはするな。お主を見送る事は許可するが、帰って来ないという事は許さぬ。それこそメルキュリーク様を始めとした神々からの罰を請けると、心得ておくのじゃよ。」

「はい……!! ………して、どのような条件でしょうか?」

「何、お主の魔法が得意とする分野でワシはお主を推薦する方向で考えているというだけじゃ。お主が此処へ配属されたのは、何もワシのコネと考えだけではない。衛生隊はその名の通り『存在達のせいまもる部隊』なのじゃからな。それだけの素質と心構えが無ければ、この部隊は成立せぬ。」

「では……俺がその場に赴いた時、存在の生を紡ぐ行いをしろと……そう申されるのですか。」

「そうじゃ。故にこの場以外で、お主がその行いを後押しできる者を選抜せよ。それが、条件じゃ。」


概念と呼ばれていた彼等が抱いた、誰かの為にと成し得たい想い。1つのハジマリから生まれたその想いは、何時しか伝染し周りへと広がって行き、良くも悪くも幸運な事象に繋がったのかもしれない。ライゼと同じように自らの考えを告げたベネディスは、老体とは思えない程に瞳を輝かせ、目の前に立つ若き鷹鳥人の青年にそう告げるのだった。


次回の更新は『3月26日』の予定です。どうぞお楽しみにっ

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