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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第八話・生雫と碧路で紡がれた幻想世界(せいすいとへきどうでつむがれた クーオリアス)
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10 事情聴取(うたがい)

神殿内にてベネディスと遭遇したギラムは、案内されるがままにベネディスの管理下である『衛生隊』の区域へと向かっていた。区域と言う名称はしても実際には『部屋』や『部署』と言った表現の方が正しく、幾多の層に分かれた殿内の一カ所にその場所があると、彼は説明してくれた。

道中にて他の獣人達とすれ違うも、ベネディスと共に行動している為か一切怪しまれる事無く会釈して通り過ぎており、彼等にとってもベネディスの影響力は絶大なのだろうと、ギラムは改めて感じるのだった。


追々聞かされた話でギラムは知る事となるが、既にこの事実を知っている方々も多いと思われるので、この辺りは割愛しておこう。詳しくは既存巻の『第四章・三話』を参考にしていただきたい。




「ココじゃよ、ワシの管轄である『衛生隊』は。」

「ココがそうなのか……」


そんな彼との移動を暫くして、目的地である衛生隊の区域へと通ずる大扉の前へと彼等はやって来た。扉にはコレと言った表札も無くパッと視では何の部屋かがギラムには解らないが、その辺りは獣人達にとってみれば些細な問題だったのかもしれない。

事実扉の横には認証用と思われる水晶が一つ浮いているだけであり、もしかしたらその辺りに識別する「何か」があるのだろうと彼は思うのだった。


殿内の雰囲気を乱さない統一された色彩をしばし見つつ、ベネディスが扉を開ける為に水晶へ軽く触れ、扉が瞬時に消え去った。まさにその時だった。



「おぉ、今お帰りだったか! マウルティア司教。」

「?」


扉が消え中へと入ろうとした瞬間、彼等のやって来た方向とは真逆の廊下側。その先からやって来た大柄な雄の象獣人はベネディスを視つけ、声を掛けながらこちらへとやって来たのだ。相手の姿を見たベネディスは軽く会釈をしていたが、同時に行われたその時の動きは目にも止まらぬ速さで行われていた。


彼が行った事、それは部屋の中へとギラムを送り届ける事だ。恰も相手側から視れば自然な行いに近く『彼自らの意志で入室しただけ』であったが、ギラムからすれば半ば流される形で部屋の中へと追いやられており、気付けば後方に扉が出現し、半ば幽閉される形で閉じ込められてしまうのだった。

そんな行いに半ば戸惑いながらギラムは後方へ振り返ると、そこには何時刻んだのであろうか彼の読める文字で『しばらくそこで待っておれ』と書かれていたのだ。


ココで余談を一つ挟むと、リヴァナラスとクーオリアスで使われている常用文字は、共に違う物が使われている。前者は英文字を崩した形に近い『テアル文字』を使っているが、後者は決まった法則性によって崩した記号と文字をわせた『カウス文字』を使っているのだ。

瞬時にベネディスが文字の使い分けが出来る所は、リヴァナラスとの関りが深いからであると補足しておこう。


『………訳有り、って事か。さっきの連中は。』


文字を視て即座に彼は納得したのだろう、下手に扉に触れて開かない様気を配りつつ。聞き耳を立てながら廊下で行われるやり取りを耳にするのだった。鮮明には聞こえなかったものの、そこではこんなやり取りが行われていた。




「おやエレファント枢機卿殿、今日は如何いかがされましたかな。」

「今日はちと、翁に確認をと思いましてなあ。先程部屋へ入った存在、奴は誰だ?」

「彼は以前、ご紹介とお披露目をした『造形体ゼルレスト』じゃよ。今日は『服』を着て貰っておったわい。」

「ほう。その割には随分と『人間臭かった』ですなあ。奴は……人間ではないのだな?」

「その通り、今回はちと『人間に近い身匂たいしゅうの実験』をしていたのもあるからじゃろう。その辺りの障害を生んでしまったのであれば、謹んでお詫びしよう。」

「ぬぅ………」


ギラムを他の獣人達からの接触を避けるべく行ったのも束の間、ベネディスは面と向かって相手をする事となったエレファント枢機卿こと『グロリア』とのやり取りを開始した。ベネディスにとっても双方の接触を避けたかった意向もあったが、それ以前に感づかれては困る存在と共に居たのが、主な理由と言えよう。

そう、その場に居るのはなにもグロリアだけではない。


「今日は『ティーガー教皇様』も御一緒じゃが。お忙しい中、どうされましたかな。」

「………」


大柄な象獣人の背後に立っていたのは、金色の刺繍が入った装束を身に纏う一人の白虎獣人。彼等にとって最高位の場所に立つ教皇の名を賜った存在、それが彼『ニカイア』だ。


元より発言地位が高いが故に無駄口を殆ど呟かない彼は、声を掛けられると同時に目を向け静かに会釈をしだした。そして同時に行いを返すベネディスを視ながら、彼はこう言うのだった。


「以前からマウルティア司教より報告を受けていた、彼『造形体』へ対する追加報告をエレファント枢機卿より受けてな。今日はその動向と詳細の調査に来た。」

「そうであったか。態態わざわざ御越しになる位であれば、老体とはいえワシ自ら赴きましたぞい。」

「何、俺の閉じ籠り癖へ対する策だと考えている。……エレファント枢機卿。」

「う、うむっ。そうであった!」


表情を殆ど変えずに話す相手に対し、ベネディスは老体に見合うにこやかな表情を浮かべながら応答をしだした。間に立つ存在を尻目にやり取りをする辺りもさる事ながら、ほぼほぼ蚊帳の外に置かれたグロリアの動向を探る意図もあったのだろう。

再び話を振られ咳払いをするグロリアをチラリと横目で目視した後、再びベネディスは面と向かって話す体制を取り出した。


「紹介された時からそうであったが、彼は随分と『人間』に寄り過ぎた存在だとオレ様は考えている。エリナスの手による『人間の創造』は御法度ごはっと、それをお忘れではあるまい。」

「うむ、存じておる。」

「では何故『あそこまで人間に寄った存在』に仕上げた? モデルが居るとの事だったが、その辺りに付いても詳細を窺がわせてもらおうか。」

「勿論じゃよ。彼に対してエレファント枢機卿が興味を持っていただけたのであれば、ワシにとっても光栄の至りじゃ。ティーガー教皇様よ、御一緒に拝聴願えますかな。」

「あぁ。」


そんなやり取りと共に事情聴取が始まると、ベネディスは何処からともなく一冊の本を取り出し、中から束になった書類一式をその場に出現させだした。手にした束をそのまま複製するかの如く二つに造り変えると、ご丁寧に一人一人手渡す様に書類を配り、そのまま話をするかの如く本を手にしたまま、彼はこう語り出した。


「彼のモデルとなった存在、それは既に絶命してるが『治安維持部隊』に所属していた者を参考にしておる。その者の名は『ライゼ・アングレイ』 残されていた当時のデータを忠実に再現、その結果『大人となった姿』で再現されておる。」

「治安維持部隊……だと? では例の『真憧士』と同じではないか! どういう了見か!?」

「落ち着きなされ、エレファント枢機卿。の地は人間のサンプルとしても実に興味深い場所であり、只人の人間程度を造形体にした所でワシの考えを行えるとは考えておらぬ。故に、優れた素体が必要だったわけじゃ。」

「仮にヴァリアナスでも『戦闘馴れしていない存在を造形もほうしたところで無意味』と…… マウルティア司教は、お考えだった訳か。」

「その通り。おまけに既に絶命した者ともなれば、仮にリーヴァリィにて活動していても『他人の空似』で全てカタが付く。我々を認知できない存在達の思考回路など、容易いモノじゃよ。」

「……確かに、その辺りの隠蔽は可能だな。」

「ぬぅっ………」


一方的な理由で始まった聴取であったが、徐々に雲行きが怪しくなってきたのだろう。ニカイアが素直に頷きながら事実を判別する中、近くに立つグロリアは額に汗するかの様に小さく唸り声を発しており、自らの立場が少々危うい事を悟っていた。


ちなみにベネディスがWMSに出した情報は少々事実とは異なっており、ピニオのモデルは『ギラム』であり、名前を出された存在とは全く縁も所縁も無い。しかし衛生隊に努める鷹鳥人のライゼが身分偽装の際に使用していた存在には変わりなく、既に絶命している事実もあり様々な情報隠蔽の為にと有効活用さてていると、ココで補足しておこう。

何故そのような行いがされているのかに関しては、また別の機会にお話しよう。


「な、ならば活動報告はどうだ! 行いそのものは『リアナス』に匹敵する、それこそ人間寄りであろう!!」

「確かにその様に取られても不思議ではないのじゃが……それは、ちと誤解があるようじゃ。」

「何!?」



「彼は『魔法』が使えぬ。行使しているモノはあくまで『現象』であって、リアナス達の行いとは全く別であり我々『エリナス』に寄ったものじゃ。」

「世界のコトワリに干渉し、それを行使している……と。」

「左様。造形体は所詮『造形体』にすぎぬ。リアナスとヴァリアナスの思考回路は確かに違うとの結論は出ているが、それを模索するなどワシには恐れ多くて出来ぬよ。現に手にした道具を用いて、それを可能にしているだけにすぎぬからな。」

「しかし、その行いそのものが『魔法の様に視える』というのは……やはり素晴らしいな。本当に、優れた素体を視つけられたのだろう。その行いは、功績に値しよう。」

「勿体ない御言葉。」


そんな事実と思わしき情報を出され、グロリアが苦し紛れに放った言葉も半ば空しく消されていく。淡々と告げられる事実と空想が綺麗に融合していく話の中に、どれだけの真実が含まれているかは本人でなければ解らない。しかし此処で更に補足をすると、先程放ったピニオの魔法に関して言えば、全て事実である。


彼は確かに造形体であり、ギラムの様にリアナスとしての魔法の発動は愚か行使する事すらも叶わない。彼は確かに人間に寄った存在ではあるが思考回路そのものはエリナス達が仕上げたモノの為、例え情報が沢山揃っても思考回路の分析が精密化しても、それは出来なかったのだ。

ベネディスが問われたグロリアからの一件の通り、彼等エリナス達は『人間を造る事』は許されておらず、例え非検体として衛生隊が人間を集めたとしても、造形体以上の行いは許されない。世間体からの理由も勿論それは含まれているが、神々に近い存在の彼等が神の領域に踏み込んだ行いをする事こそが、既に無礼だと考えていた。



我々は神に近い場に立つが神ではない、行使する事そのものが許される存在ではない。



そう言った理由から現状の事情聴取が始まったともいえる為、ベネディスも何時かこのような話が飛んでくる事も予見していたのだ。彼本人もピニオをギラム本人に仕上げたかったが故に、必然的に来ると決まっていた事象なのである。


「今後も彼の行いに関しては逐一報告を上げさせて貰おう。何か追加の質問はあるかえ?」

「ッ…… ふんっ、オレ様も忙しい身でな! 翁をこんな寒空に置いて病床に着かれては気分が悪い。今日は失礼させてもらおうか!」

「……そう言う事だ。時間を取らせたな、マウルティア司教。」

「いえいえ。また何時でもお越し下されよ。」


そんな事情聴取も立場逆転、グロリアは早急に次の策を練るべく捨て台詞を吐き、踵を返す勢いで廊下を競歩で去って行った。後姿を静かに追う様にニカイアが静かに目で追った後、ベネディスに一声かけ彼とは全く別の歩行速度でその場を去っていくのだった。


無事に脅威が去った事を心の中で喜びながらベネディスはヒラヒラと手を振った後、再び衛生隊の区域を仕切る扉を開けるべく、水晶に触れた時だった。




スンッ……!


「おぉっと。」


扉が瞬時に無くなり身を支えるモノが無くなった為か、そのままギラムが倒れこむ勢いでベネディスの横を通り過ぎたのだ。慌てて体制を立て直す様に右足に力を入れ踏ん張ると、それを視たベネディスは軽くギラムの額を小突き、そのまま中へと引き戻した。

再び意図しない方向へ身体が持っていかれる感覚を感じながら、ギラムは額を軽くこすりながら彼の顔を視だした。


「聞き耳を立てられる程、壁は薄くなかろうて。」

「あ、あぁ…… 急だったとは言え、何か訳有なのは解ったからさ。念の為、な。」

「フォッフォッ、用心深い所は職業病かのう。……じゃが。」

「?」



「お前さん、ココが室内である事を忘れない方が良いぞい。」

「え? ……うぉっ!」


気付けば室内に居た獣人達の大半の視界を集めており、ベネディスの帰還と同時に会釈して散り散りになって居たのだ。聞き耳を立てていたが故に其方が疎かになって居たのだろう、相手に指摘をされ「全くもってその通りだ」とギラムは感じるのだった。


次回の更新は、月を跨いだ『2月3日』を予定しています。どうぞお楽しみにっ

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