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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第八話・生雫と碧路で紡がれた幻想世界(せいすいとへきどうでつむがれた クーオリアス)
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07 異繋街道(ウェルベトンかいどう)

道中にて遭遇した悪霊達を粛清させる事に対し、果たしてどれくらいの時間が経っただろうか。ギラム達一行は無尽蔵に沸き続ける存在達を相手にし続けた後、無事にその現象へ対し終止符を打つ事が出来て居た。


ちなみに洞窟内のため正確な時間は把握出来ないが、彼の持つセンスミントには『黄昏時』を示す時間帯が記されていた。



「んーっ ……何か、遊び足りないなぁ………」

「悪霊だって無尽蔵に沸ける程、魂魄の理論から外れても資源不要なわけでもねぇだろ。我儘言うな。」

「つまんなーい!」

「はいはい。……んで、だ。」


とはいえ道中を楽しんでいた一人の少女にとってみれば、終わってしまった事象へ対する不満感がふつふつと湧き出て来たのだろう。つまらなそうに洞窟内に転がっていた小石を静かに蹴りつつ、近くに居たノクターンに抗議しつつ八つ当たりをしていた。

しかし暴力的な八つ当たりではなく小言を言うだけの所を見ると、手を挙げるつもりは無いのだろう。軽く耳を伏せながら不機嫌そうな面をノクターンが浮かべる中、彼はふと別の場所に居たもう一人の相手の様子を見だした。


その相手とはギラムであり、魔法を行使して進んできたが故に疲労感がたまっていたのだろうか。軽く壁に手を突きながら頭を垂れており、普通に疲れているのが良く分かった。


「………」

「どうした、いつも以上に疲れてるみてぇだが。」

「いや、普通に疲れるだろ……… 寧ろ、お前等どうしてそんなに元気なんだ? さっきから四方八方から悪寒がしまくって……こっちはそれどころじゃねえよ!!!」

「……身体の理論から語れなさそうな神経の使い方をしてりゃ、無理もねっか。寧ろ疲労困憊のイケメンを視るのも、悪かねぇし俺は興味ある。」

「止めてくれ、そんな余力ねえよ………」

「へいへい。」


どうやら経験した事のある戦闘とは少し状況が違っていた為か、予想以上に疲労が蓄積していた様だ。軽く茶々を入れながら前へと回り込むノクターンに対し、全くと言って良い程に相手に出来ない素振りをみせるのだった。


ちなみに普段通りの応対が出来て居れば、軽く相手を払う様に手で追いやったりしている。言葉で突っぱねても行動でしない辺り、怪我をさせたくないと言う心理が働いているのかもしれない。彼が普通にその行いをすれば、相手は平気で転倒しそうである。


「……って言うか、本当になんでこんなに霊ばっかり居るんだ……? 洞窟で生き埋めになったなんて話、ヘルベゲールじゃ聞いたことねえぞ。」

「別に『送られてない』が故に沸く訳じゃねぇよ、上に墓地とかの密集地帯もナッシング。魔族系統の住処も然り。」

「じゃあ、何で………」

「そういう現実味から『外れつつある街道だから』とだけ言っておこうか。ココはそういうコトワリとは根本的にズレた場所、だから変なのが湧く。以上。」

「……妙な所で省略するなあ、本当に……… 頼むから、もっと解りやすく教えてくれないか。ノクターン。」

「………



 【ツイリール】」



「え?」

「俺のもう1つの名前、そう呼んでくれた良いぞ。」

「……… ツイ…リール?」

「おう、なんだ。」

「……… もういいよ。」

「ん、そうか。」


とはいえそんな余力もないギラムからしてみれば、いつも通りの話し方をするノクターンの応対にも多少は疲れてしまう様だ。何を思ったのか自らの名前を名乗らせ望みを叶えようと言う始末であり、本当に思考回路の読めない狼獣人である。挙句の果てにギラムはお手上げとばかりに右手を挙げた後、そのまま壁を背に腰を下ろし一息つくのだった。


その様子を見たチェリーは彼の元に近づくと、淡い蛍灯を周囲に漂わせ彼の気を紛らわせようとしていた。どうやら彼女なりの魔法による医療行為をしたかった様であり、ほんの少しではあるが彼の表情も明るくなったようにも見てとれた。



果たして『強面傭兵の表情が明るい』と言うのは良いのか悪いのか、その辺りはご想像にお任せするとしよう。



「ちなみにだが、何でギラムは俺達の手伝いをしようと思ったんだ。アリスの依頼とはいえ、別に断っても良かろうに。」

「まあ、今となっては若干後悔はしてるが……… それでもノク……ツイリールと、チェリーは困ってたから依頼を出したんだろ? 他の傭兵達が請けるとも考え難かったからこそ、俺は請けようって思ったんだ。基本的に、俺が依頼を選ぶのはその辺が基準だぜ。」

「……自分にしか出来ない仕事をしたい、だったか。」

「あぁ、そうだ。」

「………そっか。」

「?」


そんな彼の気持ちを悟ってか、軽く膝を曲げながらノクターンは他愛もない話題を振り出した。軽く目線を合わせながら話す辺りにその配慮が見て取れるが、表情はいつも通りの為果たしてその意味はあったのだろうか。ギラムもまた軽く首を傾げながら返事をすると、その言葉を聞いたノクターンは左膝の上で肘を付きながら視線を洞窟の先へと向けるのだった。


視線の先には相変わらず暗闇が広がっており、ギラムの携帯していた明りだけが頼りの状態。相変わらずその先に何があるのかぼかし続けていた為だろうか、不意にノクターンはこう言いだした。


「ココから先に進めば、もう時期出口だ。そしたらギラムへの依頼は完了、そこから先は別行動で良いぞ。」

「ぁっ、出口なのか。そりゃ有難いぜ。」

「デカイのに鉢合わせして、腰抜かすよりは良いだろ。」

「本当にしゃれにならねえよ……… 居ねえよな……?」

「多分な。」

『本当かよ………』



「チェリーも見た事無いなぁ、おっきいの。」

「そ、そうなのか……… なら、安心……か?」

「突然変異のゲテモノでも出ない限り、安心しとけ。俺もそういうのは流石に相手したくねぇから、寧ろそうなりてぇよ。」

「……ツイリールの言葉には、本当にいろんな意味が含まれてて解り難いもんだな。お前さんは良いのか、それで。」

「ん?」


軽く希望が見え隠れする中での彼の言葉には落差があり、やはり会話として成り立っているのかは保留とするべきだろうか。少女も会話に交じりながら道中の事を気にする中、ギラムはふとノクターンに気になった事を問いかけだした。



彼が気になった事、それは普段から会話の見通しがつき辛い話し方だった。それがノクターン本人の癖であれば直した方が良いとも言えるが、これが意図的なモノであれば良くも悪くも相手に影響を及ぼすと言って良いだろう。相手に思考回路を読ませない事によって情報の隠蔽や過ちを植え付ける事が出来る反面、それによって相手からの信頼度を下げる事にも繋がりかねない。そうなれば自然と『独り』に成る事が必然化してしまい、彼の将来が明るくなる事は無いだろう。


元より理解出来る部分とそうでない部分に割り切っていたギラムの様な人が大半であれば良いが、そうでないのが現実。


どうやらギラムは、ノクターンのその辺りが気になった様だ。



「俺は恐れられるタイプだったのもだが、必要以上に会話をしない相手には干渉する事は避けてた。だからこそ両極端な位置に相手は行きやすかったし、ライゼやサインナみたいに本気で慕ってくれる相手にも巡り合えた。」

「………」

「ツイリールを視てると、契約してるとはいえチェリーとはそう言うのと少し違う気がしたからさ。何か訳が有るんだろうかって、思っただけだ。」

「………鋭いな、本当に。」

「え?」

「んや、何でも。……ギラムの考えは当たってるし、前にも言ったかもだが『俺は人間嫌い』だ。仮に契約云々の話になったとしても、俺は恐らく【絆乃衣カレイダン】にまでは至れない。」

「カレイダン? 何だ、それ。」

「俺等エリナスとリアナスが、栄枯盛衰する前の時代で深い繋がりを持った連中が身に纏えていた衣服の事だ。俺等は素の力以上の実力を発揮出来るし、それに伴ってエリナス達はその恩恵を得る事が出来る、って事だ。」

「………そんなモノがあるのか。凄いな。」

「だが、それもザグレ教団を始めとした創憎主連中の続出で衰退した文化だ。今じゃ着れる連中なんてまずいねぇよ。だから忘れてくれ。」

「そうなのか…… 了解。」



「残念か?」

「残念っつーか……何だろうな。ツイリール達が望んでる事だったら、それは寂しい事なんだろうなって………思ったくらいだな。まあでも、残念側か。うん。」

「………顔に見合わず、本当に優しいな。」

「おい、一言余計だ。」

「へいへい。」


しかし実際の所、ノクターン自身が選んだ事であり、そうなる事も理解していた様だ。彼は孤独になる事を選び必要以上の干渉を避けた結果、今の様な立ち位置に付き自らを『傍観者』と自称する程。そんな彼が行使する魔法も必然的にその系統に結び付き、偽装した適用範囲と時間へ対する干渉を会得した。

果たしてそれが良いのか悪いのかはギラムには解らなかったが、それでも彼が望んだのであればそれ以上何も言う事はなかったのだった。


だがそんな話をしても場の空気を元に戻す辺り、ノクターンはノクターンなのだろう。軽く茶々を入れながら休憩を挟んだのち、彼等は再び道中を進んで行った。




だがそんな道中は、気付けばすぐに終わりを迎える事になった様だ。




彼等の心配する存在達に遭遇する事は無く、闇の空間は気付けば光に割かれ先を明るく照らし出す。何とか道中を無事に抜けた安堵感に浸りながらギラムは先に進んでいくと、そこには目の当たりにした事のない空間が広がっていた。


自然界で目の当たりにした事のない様な、青みを帯びた外壁に混じる褐色の塗料達。遠目では土なのかコンクリートなのか、はたまたレンガなのかすら解らない不可思議な建造物。普段から目にする青空よりも青みが深く、空に浮かぶ雲は可愛らしくもハッキリとした『形』を描いていく。だがその形には規則性は全く無い為、食べ物の様なモノも有れば図形の様なものも浮かんでいる。


そして何よりも驚いたのは、洞窟内では感じられなかった『空気の匂い』だ。幾多の花々の香を絶妙にブレンドしたのか、甘くも嫌味を感じさせない清い香達。静かに吹き流れるそよ風に乗って、桜色の花弁と草達が彼等の先を去っていく。



はたしてここは何処なのだろうか。



ギラムがそう思った時に解を出してくれたのは、隣に立つノクターンだった。


「……ココって………」

「お前が今一番行きたがってるであろう場所。俺達が生活するとされる場所【クーオリアス】だ。」

「クーオリアス………」



「話があるんだろ、ピニオって奴にさ。」



何もかもを見通していたのか、はたまた偶然が重なっただけなのか。ギラムはこの時初めて、獣人達の暮らす幻想世界【クーオリアス】へと足を踏み入れるのだった。


いつもご愛読いただき、誠にありがとうございます^^

本日の更新を持ちまして、年内の更新は終了とさせていただきます。年明け後の更新に付きましては、後日改めて『活動記録』の方にてご報告させていただきますので、今しばらくお待ちくださいませ。

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