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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第八話・生雫と碧路で紡がれた幻想世界(せいすいとへきどうでつむがれた クーオリアス)
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06 霊断(あくりょうたいさん)

ヘルベゲールにて受託した依頼の現場として、ギラムが赴いた洞窟の中。そこに広がるのは彼にとって最も忌まわしく、そして自身に迫る気配が彼の精神力を特に削る様に造り上げられていたかのような空間だった。


亡骸をその場に構成し、可視化する事の叶わない『霊体ガイスト』をその場に降臨させた現象。人間達を始めとした意識体の憎悪を始めとした感情によって構成されたそれ等には、善意の心も判断思考も持ち合わせていない。ただただ近くに居る生存者を切り殺し、自らと同じ領域に立たせようとする存在なのだった。





「ぉっ、来やがったぞ。」


そんな洞窟内をしばらく進んだ先にて、ノクターンは何かを見つけたかのようにそう言いだした。声を耳にしたギラムが一瞬背筋を強張らせた後に前方へ明りを向けたその時、彼にとって目に映って欲しくない存在がそこに立っていた。


白くも青白い念体によって人骨がその場に集められ動いており、何処からともなく剥ぎ集めたのであろうボロ布を纏い、古く錆付いた金属片を各々で持っていた。一言で言うならば『アンデッド』と言い表した方が早いのではないかと思われるくらいに、あからさまに『生きては居ないであろう存在』が歩いている。肝が据わっていない相手が彼等を視たならば、悲鳴を上げて一目散に逃げてしまいそうなくらいのインパクトがあった。


しかし、今のギラムはそうではない。


「改めて聞いとくが、さっきの話……嘘じゃねえよな?」

「保障してやるよ。」

「なら……! 遠慮なく行かせてもらうぜ!!」

「チェリーも行く~」


この場にて活動する存在の事は既に聞かされていた事に加え、自身が持ち合わせる魔法の力で彼等を撃退する事が出来る。それを聞いた瞬間『対抗策』が出来たとばかりの表情を見せており、先程までノクターンに驚かされていた頃のギラムを彷彿とさせる要素は、現状何処にもなかったのだった。気付けば手元に普段から使用している拳銃が握られており、完全に蹴散らすとばかりに前へと構え発砲していた。


同様に彼の後に続いてチェリーも手元に華美な装飾の施された『ステッキ』を手にしており、その場で華麗に舞いながら洞窟内に明りを灯し視界の確保を図っていた。自身にとって言う程不要な行いであったとしても、彼女からすればギラムの補佐の為に行った魔法の様であり、光を眼にした存在達からの強襲に対しては、薙ぎ払うかのように手にしたステッキで勢いよく殴り飛ばすのだった。それによって骸骨の頭部だけが洞窟の奥深くへと飛ばされていき、軌道上に居た他の存在に激突し更なる被害をもたらすのであった。


光が無ければ悲劇として恐怖を煽るが、光が有れば惨事として処理されていた。



『……本当、かっけぇな。』


そんな二人の様子を後ろから視ていたノクターンは、一人前方にて果敢に立ち向かうギラムを視て呟いていた。つい先ほどまで弄っていた存在の様子とはわけが違った事に加え、今のギラムはノクターンは都市内で見ていた日常のギラム、それともまた違った顔付と表情をしていた。


その場に立つのは真憧士リアナスとして行動する一人の活気を得た青年であり、勇姿と雄々しさからは周りの存在達を惹き付ける印象さえも与えている。銃口から放たれた弾丸は確実に対象を仕留めているのは勿論の事、弾丸の到着よりも早く接近された際には拳や蹴りによる迎撃、はたまた行動を阻害するとばかりに長杖を手にし氷の魔法で対象を凍て付かせる。見た目から想像できる部分も有ればそうでない部分も持ち合わせる彼の行いは、ノクターンにとって最も『面白みの溢れた存在』として認知されていた様だ。


同性であれ一つ一つの動きに時折眼を奪われつつも、彼も右手に抜刀した刀を手にし静かに歩み寄り、共に応戦せんと対象を掻っ切って行くのだった。



「【ブラーム・月下げっか】!!」


そんな彼が放った魔法は、一言で言うならばとてもシンプルな魔法であった。手にした刀で描いた軌道に合わせて空気の波が生じ、そのまま月の形を描く様に直線状に飛んでいき対象を真っ二つにしていく。グリスン達を始めとする獣人達の魔法よりもインパクトに欠けるが、素直でありとても分かりやすい魔法でもあるのだった。


そして彼の魔法にて仕留められなかった存在に対しては、ノクターンも容赦なく武器によって応戦を繰り返していた。眼にもとまらぬ速さで切り刻みながら廻し蹴りを放つ事も有れば、隙をついて武器の柄で突き返し一瞬の怯みを生じさせ、またその次の行動へと繋げていく。その行いには迷いが無いのか、魔法とは打って変わって『冷酷さ』が伺える剣筋けんすじであった。



「えぇ~いっ……!」


そしてそんな彼と行動を共にする少女はと言うと、先程までの明るい魔法とは違うおどろおどろしい魔法を放っていた。掛け声と共にステッキを振りかざし現れたのは、前方に立つ存在達と似て異なる紫色の念体に包まれた、三体の骸骨であった。

翼も持たずただただ頭部が浮き三方へと飛んでいくその姿は恐ろしく、速度は無くも衝突と同時に禍々しい瘴気を周囲に放ち、吹き飛ばして行くのだった。それによって前方の道が開け彼等の歩が前へと進む事に繋がり、彼等の道中は戦闘と前進を繰り返す形となっていた。


しかし危険な存在達は、何も必ず前からやって来るわけではなかった。



《ォ”オ”ーーーン”ン”!!》



「チッ、背後かっ!」


突如として彼等が歩んだ足元から、再構成したとばかりに湧き出た存在達が再び彼等を襲い始めたのだ。前方で応戦するチェリー達よりも後方に立っていたギラムは気配を感じ即座に銃口を向けるも、その行いよりも相手の動きが早く発砲まで間に合わない。すかさず時間を稼ぐかのように彼は地面に寝転がる様に体制を低くし、両足で迫る存在を足蹴にしながら攻撃を避け、すかさず拳銃を発砲した。


それによって空振りと同時に頭部を打ち砕かれた相手はその場に崩れ落ちるも、後方に居た存在がそんなギラムを襲おうとした。その時だった。



「【ゼイツ・丑一刻うしいっこくヘイト】!!」



スンッ………!


《? 止まった……?》

「今の内に体制を立て直して、れ!!」

《ぉ、おう!》


彼の後方から魔法を放つかのように声がしたと同時に、周囲の景色が一瞬にして色彩を失い存在達の動きが止まったのだ。それを視たギラムが驚きながらも周囲の警戒をしていた時、ノクターンの声で我に返ったのか身体をバネの様に動かしながら起き上がり、体勢を立て直しながら迫っていた存在達に再度発砲するのだった。

それによって弾丸が命中するかどうかの所で再び色彩が戻り、同時に数十体の亡骸がその場に完成するのだった。


一度後方の安全を確保した事に安堵したギラムは服に付いた土を払った後、後方に立つノクターンに声をかけだした。


「ノクターン。お前、時間を止められるのか?」

「つっても、永久じゃねぇけどな。俺は基本傍観者だから、そんくらいの魔法がねぇと面倒なんだよ。いろいろとな。」

「そ、そうなのか……」

「ほら、まだ来んぞ。」

「チッ、沸かなくていい連中程沸いて来やがる……!」


しかしそんな彼等の談話すら長くは続かず、再び迫りくる存在達に手を焼かされながらも道を進んで行くのだった。


次回の更新は『12月22日』ごろを予定しています。どうぞお楽しみに

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