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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第八話・生雫と碧路で紡がれた幻想世界(せいすいとへきどうでつむがれた クーオリアス)
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01 珈琲(コーヒー)

夏空のうだる暑さと紫外線から解放され、徐々に秋の空気を感じさせつつあった現代都市リーヴァリィ 軽装着に身を包んでいた都市の民達の衣服にも変化が現れだし、動植物達の動きと彩りに対しても暦の流れを感じさせる、そんな時。


突如として飛来する形で再びこの土地に足を着ける事の出来た存在の元に、一本の電話が入っていた。





【……そう、そんな事が起こってたのね。】

「何かと巻き込まれる日々が多くて困るが、それでも一部の戦力が削れたのも事実。治安維持部隊にも追々動いてもらう事があるかもしれないからさ、その辺りも追々連絡回しておくぜ。」

【えぇ、そうしてもらえると助かるわ。マチイ大臣にもコチラから話を廻しておくわね。】

「あぁ、頼むぜ。」


現代都市リーヴァリィが顕在する土地の西側、その場において少し小高い丘の上へと建設されたアパートの東棟、最奥に位置するその一室。木製のテラスがある庭へと出られるガラス戸を開けず、あえて室内にて会話をする一人の青年がそこに居た。


褐色の鍛え上げられた肉体に金髪のオールバックヘアーが印象的なその青年は、センスミントと呼ばれる電子機器を用いて、その場にいない存在とのやり取りを交わす。電話の主は幾分若い女性の声であったが、何処となく凛とした印象を与える声色は人生においてどのような経験を得たが故の声なのか。

強面な雰囲気を漂わせる彼を臆さない、しっかりとした相手の声だった。


電話のやり取りからして、どうやら少し内密な会話の様だ。



【ところで、身体の方は平気なのかしら?】

「身体?」

【貴方、人間だけど獣人の血を継いだ存在なのよ。一度でも姿をそちら側に変えたっていうのは、本来『あり得ない身体反応』なの。そこの所、良く分かってる?】

「あ、あぁ……… まあ、サインナの言う事ももっともだな。悪い、少し緊張感が薄れてた。」

【貴方が望んだ事なら言う事無いけれど、私としては『人間』のギラム元准尉の方が好きなの。それだけは理解しておいてね。】

「了解。」


サインナと呼ばれた女性からの忠告に対し、青年はバツの悪そうな表情を浮かべながら電話越しではあったものの、空いていた左手で頬を軽く掻きつつその場で頭を下げだした。お説教交じりではあるが自らの身を案じて告げられた言葉に対して、彼自身弁解する事も下手な良い訳をするつもりも無かったのだろう。あからさまに返答に迷うその表情、それは追及に慣れていないイマドキの青年の様な表情。


強面であろうとも、しっかり心がそこにある瞬間であった。



とはいえ、そんな追及をネチネチとする様な存在では相手は無かったのだろう。再び素の表情に戻った彼とのやり取りも程々に、電話の主は報告を聞き届け回線を切っていた。



その後センスミントを片手に彼はその場から移動すると、同室内にてそのやり取りを遠目に視ていた存在の元へと近づき出した。柔らかなラグの上に置かれたガラステーブルの元に座っていた存在、それは翠色の装束を身に纏った猫獣人だった。


「報告も理儀地にやってるねぇ。ギラムの性分なんだろうけど。」

「ザグレ教団員自ら言われた事を鵜呑みにするわけじゃないが、危機感を持っておいて損はねえからな。リミダム達の居る世界からも、一応危険視してる部分はあるんだろ?」

「まあねぇ。」

「なら、回せる情報は多いに越した事はないさ。サインナの事だ、うまくやってくれる。」

「信頼してるんだねぇ。ギラムの彼女?」

「ちげえよ。」

「なぁーんだ。」


リミダムと呼ばれた存在からの茶々を軽く流しつつ、彼はテーブルの上にセンスミントを置きその場に腰を下ろしだした。常に笑顔を浮かべている相手の反応は完全に『おもちゃを見つけた幼子』の様であり、まだまだいろんな会話を楽しみたいと言わんばかり。しかしそこで相手の思惑に乗ってしまえばダラダラと時間を過ごす事に変わりはない為、適当な所でギラムはあしらっている様だ。


フワフワの尻尾が左右に揺れ、完全に楽しんでいる相手に軽く肩を竦ませた、そんな時だった。



「……ってかお前、何で俺ん家居るんだ。」

「残業ぉ~」

「残業? 何のだ。」

「ギラムの観察ぅ。ライゼね、今日忙しいの。」

「……訳が解らん。」


ふと自室内にリミダムが居た事に対して、ギラムは改めて首を傾げ質問をしだした。相手側にも予定があってやって来た事は確かだが、何時の間に侵入しその場に根を張る勢いで座っていたのか。ある意味驚きと言わんばかりであったが、事実は多少異なる事をココで補足しておこう。


実際には普通に玄関から招き入れられ、そのままギラムが電話を出たため不法侵入ではない。ただ単に応対する相手が彼しかいなかったが為、改めて忘れられていた事実だっただけだ。普段常駐しているに等しい居候は、只今ただいま不在である。


「ところで、今日グリスンの姿無いねぇ。フィルスターはそこで寝てるけど。」

「ラクト達に情報を回す事と、俺の捜索を手伝ってくれた事の礼回りをしたいって出かけてるぜ。スプリーム達にも結構探し回ってもらってたらしいからな。」

「想われてるねぇ、ギラム。良い事良い事。」

「だな。……あ、まだ珈琲淹れて無かったな。」

「ぁ、オイラ『カフェオレ』で~」

「はいはい。」


出かけている相棒の所在について説明した後、ギラムはその場から立ち上がり一応客人であるリミダムへの応対をしだした。もう一人の隣人であるフィルスターがソファの上で寝息を立てているため下手に大きな音は立てない様に配慮している辺り、彼なりの気遣いだったのだろう。アイランドキッチンスペースに移動しだした彼を視てか、リミダムも続いてその場に移動し、その様子を背伸びしながら一生懸命に覗き込むのであった。


ちなみに補足すると二人の背丈差は倍近くある為、室内の設計上どうしてもそうなってしまうのである。ギラムが大きいのかリミダムが小さすぎるのか、あえてそこは触れないでおこう。


「そう言えばオイラ。ギラムがどんなコーヒーを持ってるかって、見た事無かったなぁ。なんか珍しいのとかって、あるの?」

「言う程珍しいのはねえつもりだけどな。普段飲む『モカ』もあるし『アイスコーヒー』用のもあるが……後は、最近買った『ペンタゴン・サントス』って豆だが」

「レーヴェ大司教の珈琲!? 飲む飲む飲む飲む飲む!!!」

「別にサントスが作った珈琲じゃねえからな……? 名前で惹かれ過ぎだろ。」

「オイラはそういうのでも、食べ物の開拓はするもんっ! ねぇねぇ、早く淹れてぇ~ 飲みたいぃー」

「わかったわかった。」


とはいえマイペースな相手に話を合わせるのは、彼にとっても少々疲れる事なのかもしれない。長期間家を留守にする前に仕入れていた珈琲豆に対し異常な興味を見せる相手の注文も有り、彼は袋の封を切り珈琲を淹れ出すのだった。


一言で『珈琲コーヒー』とはいえ色んな種類があるのは、どの国どの世界においても一部共通する事と言って良いかもしれない。豆のまま購入して挽いて淹れる人もいれば、事前に豆を挽いた状態で購入しフィルターを通して楽しむ者も、この世界には普通に存在する。

彼の場合は後者に当たる事が多く、豆で購入した際に使用するコーヒーミルも自宅にはあるが、今回はたまたま挽いてあった物だったので、リミダムの注文に即座に応えられる結果に至った様だ。ちなみに注文する際に『カフェオレ』と指定したのは、単純にストレートが飲めないのが理由である。豆乳ソイではなく牛乳ミルクを好む辺り、猫らしいと言っておこう。


しばらくしてケトルで沸かせた湯で淹れられた珈琲をカップに注ぐと、彼はそれぞれ手で持ち再びお客人の待つガラステーブルの元へと向かって行った。既に飲む場所でスタンバイしている辺りリミダムらしいが、先程とはちょっとだけ違う光景があった。


「はいよ、お待たせ。」

「ありがとぉー」

「おう。………なあ。」

「んにゅ?」



「それ。どっから出した。」



ガラステーブルの元で待つリミダムの元には、ギラムの言う通り何処から出したのか『お菓子』の入った色彩豊かな缶が鎮座していたのだ。銀色を主体としながらもシールに描かれた紅葉が可愛らしいその品は、話を聞くとリミダム達の居る世界『クーオリアス』にて購入した物だそうだ。

使用している食物に関しては特に変わったモノは使っていない為、普通に人間相手でも大丈夫だと言うのは本人の談である。


「オイラの手土産だよぉ。ギラムのお茶菓子の趣味、オイラ知らないから適当に見繕って来たぁ~ ぁ、出した場所は装束の中ねぇ~」

「………そうなのか。 ……クッキーか?」

「そぉー 好き?」

「まあ、そこそこな。」

「ふぅーん。」


突如現れたお茶菓子に軽く驚くも、困惑する程ではなかったのだろう。改めて中身を確認し好みを告げた後、何とも言えない回答だったためかリミダムも軽く口を尖らせていた。

ギラムが嫌いではないモノだった為『嬉しい』所もあるが、しかし確然と好きではない為『残念』な部分もあったのだろう。彼に対しての不満は一切ないが、自然とそんな表情に成ってしまった様だ。


そんな彼の表情を余所にクッキーを手にすると、ギラムは口にしながら感想を述べるのだった。しっかりとした触感の中に柔らかなココナッツの味わいを感じながら、彼は珈琲を口にしていた。


「ん、美味いぜ。」

「なら良かったぁ。ギラムって、お菓子何が好きなのぉ~?」

「菓子か? ……ラムネが多いかもな。」

「ラムネ? ふつーの?」

「あぁ、シガレットタイプが多いけどな。……コレだ。」


その後質問される形で好みのお菓子を問われると、彼はカップをその場に残し席を立ち出した。そしてアイランドキッチンの元に置かれたバスケットに手を伸ばすと、中から彼の手に収まるサイズの箱を取り出しリミダムに見せるのだった。


それは以前から彼が愛食する事の多かったラムネであり、シガレットタイプの細長い代物。長さは彼の人差し指程のモノで色味は白く、しかし香りはしっかりとしているのか箱からでも解る程であった。



「……『モーニング・フラット』 柑橘系かな?」

「そうだな。」

「りょーかい。今度そーゆーのにするねぇ。」

「別に無くても良いんだぞ、お茶菓子。気持ちは嬉しいが。」

「良いの良いの、オイラが用意したいだけだもんっ ライゼもそう言うんじゃないかなぁー」

「あぁ、ライゼなら言いそうだな。俺がこういうの好きなのも、多分知ってただろ。」

「ぁー……… ……聞けば良かった。」

「今度聞いてみな。クーオリアスの物は解らないが、ライゼの事だ。俺の好きそうな物くらい見当つけてると思うぜ。」

「そうする~」


そんな客人とのやり取りを交わしながら現代都市内で生活をするのが、今作の主人公。自らの身に刻まれる事と成った刻印によって真憧士の素質を得るも、似たような存在達との闘争を行う事を余儀なくされた強面傭兵。


彼の名前は『ギラム・ギクワ』

現代都市リーヴァリィにて傭兵を生業とする、一人の青年であった。


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