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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第七話・月下に映えるは天翔ける銀狐(げっかにはえるは あまかけるアルゲンフクス)
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29 激戦予兆(げきせんのよちょう)

一方その頃、グリスンとは別行動で艦内に潜入していたトレランス。現代都市内でのやり取りの通り、彼はデネレスティと合流しスターとは別で動いていた『サン』と『ムーン』のお相手を、それぞれでこなしていた。

しかし一言でお相手と言っても争い事とは無縁の行いであり、グリスンと同じくも、ちょっとだけ違う事をお願いされていたのであった。



「……フワフワの肌触りが、本当に病みつきになってしまいますね。ますますデネ様の虜となりそうです。」

「サンも同様の感想しか述べられません。トレランちゃまは、本当に慈愛に満ちた御心で私達を包み込んで下さいます。」

「そう言ってもらえて良かったよ。デネレスティも、同じかな?」

「俺がカワイ子ちゃんのお願いを、無下にする訳ねえだろ? ……もっと大人な楽しみ方だとしたら、ちと高くつくけどさっ」

「感無量です。」


彼女達からのお願い、それは凄く簡単ではあるものの、自らが良しと思わなければ出来ない事。二人は双方で背中合わせに座りながら各々で願い申し出た者達を膝に載せ、自らの身体で優しく抱きしめているのであった。

元より軽装着に等しいデネレスティは鍛え上げられた筋肉と地肌のモフモフ感を、トレランスは相手をあやすかの如く抱っこをしての提供。


どストライクの相手にこんな事をされてしまえば、骨抜きであろう。現に二人が良い例である。



「……でも、少し驚きかな。自分達の事をこんなに想ってくれている人達が、まさか敵側に居るなんてね。さっき見せてくれた写真も、恐らく独自のルートで入手したって言ってたし。」

「まあ盗撮にしては随分と鮮明に、って感じもしたからな。割と腕の立ちそうな奴が撮ったんだろうけど……高かったろ? 俺等の写真なんて。」



「「いいえ、端金はしたがねに過ぎない要求金額でした。世間一般はどうであれ『デネ様・トレランちゃま』はもっと高価です。」」



「ハモって言うあたり、そうっぽいな。……俺等の事、そんなに好きなのか。」

「はい。」

「そっか、そりゃ光栄だ。うんと抱きしめてやっから、満足しろよ?」


そんな二人の言葉を聞いて満足したのか、デネレスティは少々色気を魅せるかの如く笑みを浮かべつつ耳元で囁くと、力強くも優しくムーンを抱きしめだした。距離感がゼロとなり五感で満足させる勢いで攻めて来た相手に対し、ムーンは即座に白旗を上げる勢いで溺れだし、目の前に迫って来た胸板に顔をうずめ満足した様子で相手を抱き返すのであった。完全に息が出来そうに無い位の行いではあったが、どうやらその辺りは二の次らしく彼女は一切離れる気配を見せないのであった。

軽くイチャつきだす二人を余所にトレランスはいつもと変わらない笑みを見せた後、抱えていたサンの髪を優しく撫でだした。



「そういえば、君達の御主人はギラムとこの後どうするつもりなのかな? 何か知ってたら、教えて欲しいな。」

「サンは詳細を詳しくお聞きしておりませんが、エンプレス様は『仲違いするつもりは無い』との御考えです。私達もギラム様とはそのような対立関係にあるべきではないと考えておりますので、そのお考えに背くつもりもございません。」

「そうなると、ギラムは上手くすればまた日常に戻れるってわけだね。まあ彼の事だから、心配はないと思うけど。ねえデネレスティ?」

「あぁ、ギラムはイケメンだから心配なんて野暮野暮。あの色気はヤベエよ。」

「って、自分の相方は言ってるくらいだからね。ザグレ教団の今後の動きとかも、そうなるとちょっと変わって来るのかな。」

「いいえ、それについて恐らく変化は無く激化すると考えております。」

「ムーンもサンと同意見。この場に居ないスターも、恐らくそう言うでしょう。」


やり取りをしていたトレランスの会話にデネレスティが干渉し、加えて時間経過によって少し高揚感が落ち着いたのだろう。ムーンは顔を上げデネレスティに寄り添いつつも会話に混ざり、今後の教団員達の動きについて仮説かつ決定事項を交えて語り出した。



ザグレ教団の今後の動き、そして最終的な目的。それは真憧士である自らの立場を利用して現代都市リーヴァリィに変革をもたらし、自らの理想を具現化、再構築する事を考えていた。俗にいう『創憎主』の領域に関与してまでの行いを遂行する意図は解らずも、最終的にその行いをする事は既に決まっていた為、この辺りは揺るぐ事の無い事実と彼女達も考えていた。


その計画の進行に当たってギラムの存在が認知され、素質を見抜いた者達によって危険視された。それに伴い彼の存在が邪魔になり始末を検討、勧誘したり監獄したりと策を講じてみたが、悉くその計画は失敗に終わった。

エンプレスであるマダムもその策によって駆り出された者に過ぎず、ギラムが堕ちなければ次の策が動き、計画はそのまま進行していく。結果、最終的には双方の勢力のぶつかり合いとなる『戦争』が勃発すると言うのだ。


確かに互いに相対する理念の元で行動する同士達が居るのだとすれば、仲間にならなければ敵とみなされ、排除されるのは当然だ。ギラムがちょっとやそっとの事で折れる事の無い志を持っているのは事実であり、苦戦を強いられても、消そうとされるのは当然の流れなのかもしれない。計画は段階的に進行している今、恐らくそれを防ぐ手立ては、彼が下りない限り無いと言えよう。



今後の事を考えると少しだけ震えが過る彼女達を視てか、デネレスティは抱きしめていた腕の力を少しだけ緩め、面と向かって話すように顔を離し、こう言いだした。


「なーに、例え戦争とかになってもギラムはそう簡単に堕ちはしねえって。アイツは愚か、姫や周りの連中すらもそう言うに決まってる。」

「そうだね、彼は自らを貫こうとする強い心を持ってる。君達が心配する事は避けられなかったとしても、自分達は彼の行いをこれからも見て行動を決めて行こうと思う。」

「そうだな。俺も興味が湧いてしょうがないくらいだし、これからも適度にちょっかい出させてもらうとすっかな。味も占めてみてえしさ。」

「あんまり困らせちゃ駄目だよ、彼はこっち側のヒトじゃないんだからね。」

「へーいへい。」


なんの変哲も無いシンプルな言葉ではあったものの、二人はそう言い互いに眼を合わせた後に笑いだし『何も心配しなくて良い』と言わんばかりの空気を作り出していた。笑顔を浮かべて安心感を与えようとしてくれており、彼等の笑みは優しく、そして何処かに確証のある部分を感じさせてくれる力強さも兼ね備えていた。それだけの信頼によるモノを魅せてくれる二人を視てか、気付けば侍女達も笑みを浮かべており、改めて『二人を好いて良かった』と感じるのであった。


「御二人は、ギラム様が『真憧士まどうし』と成る事を想いますか。」

「あぁ、成ると思うぞ。」

「うん、自分も同意見かな。彼がきっと、この戦いを終わらせてくれるはずだよ。」

「………そうなる事を、私達は望ませていただきます。」

「エンプレス様もきっと、同意して下さいます。」



彼等のコトバと意見が一致した、まさにその時。その瞬間を狙ったわけでもなく、ただ偶然にもその行いが重なったとも言えなくないその瞬間だった。




「ギラッチ、アタシの最後の賭けに……… 勝って頂戴。」



ブォオンッ!



「ぅぉおっ!?」

「!? ギラムぅーーーー!!!」


彼等の居る部屋から離れたバーの一角、ギラムの丁度足元周辺に。突如として形成されていた足場が消失してしまい、ギラムは現代都市の上空へと放りだされてしまったのだった。


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