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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第七話・月下に映えるは天翔ける銀狐(げっかにはえるは あまかけるアルゲンフクス)
222/302

22 独自名称(ほんらいのよびな)

現代都市リーヴァリィと異世界クーオリアスでのやり取りが別々で行われていた、そんな頃。ほぼ拉致監禁状態となっていたギラムが半ば自由に銀狐としての生活をして、しばらくの日が経った日の事だ。



その日も彼は朝食を取り終え、空中要塞内をプラプラと歩き外の景色を眺めていた。彼の日中の行動と言えば『散歩』と日課の『筋トレ』くらいであり、それ以外にやる事も無ければ自室で昼寝をしたりリーク達との会話を楽しむ程度。ある意味『行える行動が制限された生活』をしていると言っていいくらいではあるが、それでもストレスが溜まっている様子も無い所を視ると、彼自身満更でもない生活をしているのかもしれない。


しかし多少の不満があると言えば、愛車のザントルスに乗れない事くらいであろう。風を感じながら颯爽と都市内を走り回る事、これも彼の趣味である。



「……ん?」


そんな地味に物足りなさを感じる日々を過ごしていたその日、彼はある部屋の前でふと足を止めだした。そこは以前『ギラム用の洋服を作る』場として案内された部屋であり、湯浴みで隣接する浴室に行く際以外は立ち寄る事の無かった部屋でもあった。部屋の奥から楽し気に聞こえてくる会話を耳にし、彼は扉をノックしながら部屋へと入室した。


部屋の先に広がっていたのは、以前と変わらない布地に溢れた色彩豊かな部屋。その部屋に集いし侍女達三人は、何やら小さな紙を手に喋っていた。


「楽しそうだな。何してるんだ?」

「ギラム様。はい『ガールズトーク』の方を少々。」

「そうだったのか。……それは?」

「お写真でございます。ご覧になりますか?」

「あぁ、視ても良いか?」

「はい。」


彼女達が手にしてた物、それは綺麗にラミネート加工されたA5サイズ程の写真だ。それぞれ写真に写っている相手は別の相手なのだろう、先に見せてくれたムーンとサンの写真の主を視て、ギラムは少し驚いた表情を見せていた。


なんとそこに写っていた相手、それは彼も良く知る知人である犬獣人の『デネレスティ』と『トレランス』だったからだ。ちなみにポーズはこれと言って取ってはおらず、どうやら最高の瞬間を隠し撮りしたかのような作品であった。


「……何で『デネレスティ』と『トレランス』の写真を、お前等は持ってんだ?」

「とある筋から入手しました。私達にとっての心の補給源ですので。」

「デネ様は至高にして、美しさの塊。見目麗しくも凛々しく、そして寛容な殿方としてのお姿、ムーンは骨抜きです。」

「トレランちゃまは、サンの理想とする輝きを放てる獣人様。何よりもその慈愛に満ち溢れた御心と眼差しは、サンの全ての想いを溶かしてくれます。」


その後写真を手にしたまま二人は語りだし、完全に虜である事をギラムに告げだした。それぞれが彼等に求めるモノは違うものの『理想を追求した姿』と言う一点に関してはブレが無く、彼女達の主人であるマダムと同様に軽く舞いながら話す程であった。そしてお互いに大事な写真が潰れない様に人差し指と中指の間に挟みながら、双方共にその場で社交ダンスを披露する始末。


類は友を呼ぶとは、良く言ったものである。


そんな二人の様子を軽く見つつ肩を竦めた後、ふとギラムは残されたスターもまた『彼女達と同じなのだろうか』と思い声をかけた。すると相手もまた静かに頷いた後、何処からともなく一枚の写真を取り出した。そこに写っていた相手、それは彼の相棒である『グリスン』だった。


「え、お前もしかして『グリスン』を……?」

「スターは『煌音きらりね様』とお呼びしています。あの御方の名前を、軽薄には使えません。」

「煌音って……… ……あぁ、グリスンのもう一つの名前か。」

「煌音様はスターの……夢と希望を抱かせてくれる御方。あの方の側近で素敵な歌声を、一度で良いので耳にしたいものです。」


自らが想う相手の事を語りだしたその後、前方で舞う二人に便乗するかのようにスターもまたダンスの輪の中に入りだした。すると二人での舞から三人でのダンスに変わりだし、両手で輪を作る様に手を繋ぎだし、あたかもキャンプファイヤーをするかのようにクルクルを回りながら感情の赴くままに舞うのだった。


小柄な三人が舞う姿はお遊戯会ゆうぎかいの様にも視えなくはないが、あえてそこは置いておこう。


その様子を改めて視ていたギラムはしばしその様子を見ていると、不意に三人は輪を維持したまま彼に近づきだし、彼を囲う様に今度はダンスを開始だした。各々が身に纏っていた衣服の裾を掴みながら舞う姿はとても可憐であり、その場で魔法でも使われてしまえば、あっという間に彼女達に巻き込まれてしまいそうな威圧感。しかしそんな恐怖心よりも『何をするのだろうか』と言う疑問が強かったのか、ギラムはしばしその様子を見ていた後、彼女達は落ち着いた様子でこう言うのだった。


「私達の主は『マダム』であり、私達の理想とする獣人達は『彼等』だけ。」

「それ以外の獣人エリナスには興味はありませんが、マダムの御意志を尊重する事も変わりなし。」

「ギラム様もまたお美しい姿を得た今、新たな世界を視て行いに移して戴いて良いのです。」

「新たな世界……?」

「私達は本来『敵同士』」

「ですが、理想とする方々とは相対するつもりはありません。」

「マダムが敵だと告げない限り、私達は繋がりの有る同士。」



「「「絶対に、あの方々とは敵対したくありません」」」

「……そ、そうか。」


彼女達の口から放たれた言葉に勢いを感じつつも、ギラムは相変わらず生返事に近い曖昧な返事を返す事しか出来なかった。自身よりもリアナスとしての自覚を持ち自らの理想、そして確固として揺らぐ事のない意志を持った者達。それが如何に真の強さに反映されるのだろうかと思いながら、彼は再び肩を竦め三人の笑顔を視るのであった。


曇りのないその笑顔こそが、彼女達の素の表情なのであろう。心のわだかまりを吹き飛ばす獣人達の威力もまた、彼は改めて知る事となった。

そんな時だった。



ウィーンッ……



「……あらん? ギラムがこんな所に居るなんて珍しいわねん、彼女達が気になったのん?」

「いや、単純に楽しそうな話声が聞こえたからな。半ば布教活動をされただけだ。」

「いつも通りで安心ねん、貴方は『美女が好き』な漢に違いないって改めて理解出来たわ。性欲ムンムンなくらいが丁度良いくらいにねん。」

「手あたり次第みたいな言い方だな……… ターニブみたいな生活、俺は送ってねえぞ。」

「知ってるわん。あそこまで行ったら『性欲の男神おがみ』に成れるわねん、絶対に。」

「なんのこっちゃ。」


彼等が集まっていた部屋にやって来た相手、それは彼女達の主であるマダムであった。相手の姿を見た侍女達は冷静に頭を下げて挨拶をすると、相手は手にした扇子で軽く顔を上げる様指示をすると、彼女達は本来の職務に戻る様に各々で散り出した。残されたギラムが会話の相手をさせられる様にやり取りをするも、話の節々に良く解らない単語を入れられる始末。


相手もまたぶっ飛んだ思考の持ち主である事を、ギラムは改めて実感するのであった。


「……そういえば、前に『エリナスを創ってる』って話を聞かされたが。その方針は、上手く行ってるのか?」

「実際の所、出来ていないわねん。リーク達を視れば解ったと思うけど、姿形はアタシ好みに成る程までは創造出来ても、まだまだ大本までは行かなかった。より本質を引き出す事が出来れば、完璧よん。」

「本質を、な……… やっぱり、一種の魔法だからか?」

「そういう事よん。クローバーに残されているであろう力は使えても、永遠ではない。ダメダメん。」

「クローバーに残された力……… ……ん?」

「どったのん?」


そんなぶっ飛んだ思考の持ち主であれど、普通に会話を振れる所はギラムの長所か仕事上の慣れか。ふと他愛が無くもそれなりに気になる情報を質問すると、マダムは現状どれくらいの行いが出来て居るのかを彼に説明してくれた。



相手の魔法によって創られた元人間の獣人達、通称『エリアルス』

人間としての本来の骨格や精神をそのままに、獣人達が固有で持つ外見と身体能力を持ち合わせた新たな種族を生み出す様に発動された、相手の誘発系魔法の頂点だ。最終的な目標としては『グリスン達』を始めとした獣人達そのものを創造する事に他ならず、リアナスとしての魔法の力も最大限に生かせるくらいにしたいと、相手は考えていた。

しかしその頂きに登れる程の結果はまだまだ行えては居らず、魔法そのものを使う事は出来ても人間だった時程の事は出来ず、劣化した魔法能力しか仕えていないとの事であった。


その為彼等は『愛でる事』には特化していても『戦闘』には出せず、ザグレ教団が全面的な戦いを始めてしまえばあっさり捨て駒の様に負けてしまう予測すら、出来て居るのだそうだ。他のエリアルス達とは違いリーク達は『自ら望んでココに居る』為、マダムもまた教団に提供をしていないとの事。改めて互いの思惑が交差する現状である事を知ったその時、ギラムはふとある疑問を抱きだした。


「確か……俺達の魔法は『テノルメ』を用いて放つはずだから、クローバー本体はあくまでその後押しする装置で、魔法の残量以前に特に何もしないはずなんだけどな…… 創る為の契約は居るけどさ。」

「……中々興味深いわねん。是非ご教授戴きたいわん。」

「あぁ。……あれ、でも俺達『敵』同士だったな。言わない方が良かったか……?」

「まあそうかもねん、ギラッチらしいわ。……ぁっ」

「ん? えっ?」


そんな疑問に対し相手が興味を持った、ほんの一瞬の油断だったのだろう。相手はふとギラムの事を別の呼び名を口にした直後、相手は口元を隠す様に扇子を動かすも、時既に遅し。ギラムから驚きの眼差しを向けられた直後、相手は瞬時に顔を隠す様に後方へと振り返り、相手の出方を伺う様に微動だにしない体制を取り出した。


咄嗟の行いを眼にしたギラムもまたしばし考える様に顎元に手を添えた後、両肩を一度だけ上げ『合えて気にしない』と言う意思表示をするのであった。こうなってしまえば彼は先々の事は気にする事は全くしない為、相手もまたタイミングを視て次の行いに移る様に言い出すのだった。



「お前達、応接室を準備して頂戴。ギラムから貴重な話をご教授してもらうわよん。」

「かしこまりました、マダム。」


互いに不穏な空気が流れるも、それを払拭出来たか出来まいか。一同は指示を出しギラムを案内する様にその場を離れたし、自ら暴露してしまった秘密に対する次のステップに移るのであった。


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