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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第七話・月下に映えるは天翔ける銀狐(げっかにはえるは あまかけるアルゲンフクス)
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16 変換人種(エリアルス)

侍女達によって用意された昼食を口にした後、ギラムは要望通り『お気に入り』として監禁しているリアナス達の元へと向かいだした。道中の案内はスターが任され一足先に先導しており、彼はその後に続いて向かっている。

ちなみに余談だが、一つだけ解釈に語弊がある為、補足を入れておこう。



「お気に入りとして、監禁か……… 元々暮らしていた周辺では、どういう風に認知されてるんだかな。」

「それに関しては、少し語弊があるようですね。ギラム様。」

「語弊?」

「彼等は『我慢』してココに居るわけではなく、自ら『望んで』ココに居らっしゃいます。なので事実上『監禁』では無く『居候』に近いかと。」

「ぁ、そうなのか。それは……すまなかったな。」

「いいえ、構いません。ギラム様でなくとも、初めてココへ来た方々は、皆その様に捉えられておいででしたので。」


自らの解釈に食い違いがあった事を認め、ギラムは素直にその場で謝罪した。しかし相手もその話題に何度か立ち会った事があったのだろう、癇癪を起したりはせずただ淡々と返事をしつつ道中を進んでいく。軽く罪悪感は有りつつもこれ以上話題に触れまいと、彼もまた気持ちを切り替えそのまま後に続いて行った。



そんな彼等がやって来た場所、それは食堂からそう遠くはない場に位置する通路を曲がった一角。三方に枝分かれした部屋へと通ずる、二畳ほどの小さな円型の空間であった。


「ココから先が、あの方々が生活している居住スペースとなります。右側がクマ獣人、中央がシャチ魚人、左側がクジャク鳥人の御部屋です。コチラの目印をご確認していただければ、お分かりになるかと。」

「……ぁ、本当だ。扉にそれぞれマークが入ってるのか。」

「はい。それでは、どうぞごゆっくりご歓談をお楽しみください。夕食のお時間になりましたら、お迎えに上がります。」

「ありがとさん、俺の我儘を聞いてくれてさ。」

「恐縮です。それでは。」


案内と共に各々の部屋の主が誰なのかを説明した後、スターは静かに会釈をし元来た道を戻って行ってしまった。その場から離れていくスターをしばしギラムは見送った後、彼は再び扉を前にどの部屋の主と言葉を交わそうかと考えだした。


相手側から聞いていた情報はあくまで『リアナスである事』と『容姿』と『性格の印象』だけであり、その他の情報は現状何も知らされていないに等しい。面と向かって自身と同じ相手と会話をするともなれば、同情から導かれ脱走を図る相手も居るかもしれない。そうなってくれれば協力を申し込む事は可能であり、彼からしてもこの場から出る事が叶うだろうと考えていたのだった。


『……となると、一番脱走が図れそうな相手は【クジャク】辺りか。飛ぶタイプの鳥じゃないが、飛べない事も無いだろうしな。』


何個か逃走の手技をいろいろ考えた後に思考が纏まったのだろう、ギラムは手を伸ばしクジャク鳥人の住む部屋の扉をノックしようとした。そんな時だった。




ガチャッ


「……んぉっ?」

「ぁっ」


不意にノックしようとした扉が開かれ、中から彩鮮やかな緑色の姿をした孔雀鳥人の姿が現れたのだ。まさか相手が先に顔を出してくるという行いには流石に驚いたのだろう、ギラムは伸ばした手を瞬時に引っ込め相手の顔を視つつ、眼を丸くし何を話したら良いかと考えだしていた。相手も同様に扉の前に見知らぬ獣人が居るとは思わなかったのだろう、同様の表情を見せていた。



その後しばし双方で睨めっこをした後、先に行動を起こしたのはこちらだ。



「……えーっと………」

「……… ……あー、もしや君か? マダムの言っていた『新しいお気に入り』って言うのは。」

「え?」


言葉に迷っていたギラムを尻目に、孔雀鳥人は相手の予想がついた様子で声を掛け、現状の空気を打破する言葉を告げだした。相手の発言を耳にしたギラムは再び目を丸くし瞬きを何度かすると、相手はくちばしに笑みを浮かべ笑顔で彼の事を視だした。


「俺の事、知ってるのか??」

「あぁ、話だけは聞かされてたんだ。おれ達と同様の魔法を掛けつつも、この場に馴染みやすい相手が来るって話だったから。……銀狐獣人か、確かに珍しいな。」

「………」

「ふーむ。……あ、立ち話も難だな。入れ入れ。」

「ぉ、おう…… お邪魔します。」


その後相手に誘われるがままに彼はその場から移動し、相手の居住スペース空間へと足を踏み入れた。始めは一面白い空間が彼等を包み込むも、それは束の間。彼等が通って来た扉が閉まると同時に空間が歪みだし、あっという間にそこは別世界が広がるのであった。



二人の目の前に広がった場所、それは青い空と深い緑で包まれた高原地帯。山々が点々と背景に浮かぶ岩場の高台であり、ゴツゴツとした岩や砂利、草花や芝生も群生する素敵な空間であった。目の前に広がった光景に軽く驚きながら周囲を見渡していると、一足先にテントへと向かった相手から声を掛けられ、ギラムは高台の一角に設けられた生活スペースへと赴くのであった。


黄色の大きなテントと共に用意された緑色の組み立て式椅子はアウトドア用品の物ばかりであり、どうやら彼は外で過ごすのが趣味のようだ。ランタンや飯盒はんごうと言った自炊用のキャンプ道具一式は全て揃っており、テントの中には寝袋と思わしき毛布も転がっていた。


「そしたら、とりあえず自己紹介だけしとこうか。俺の名前は『パステル・ババロア』 ココでは『リーク』って呼んでくれ。」

「『リーク』だな。俺の名前は『ギラム・ギクワ』だ、よろしく頼むぜ。」

「おーよろしく。凛々しい印象が強いと思ったが、割と雄々しくて逞しい部分もあるのか。なるほどなぁー」

「……なんか、いろいろさっきから納得してるみたいだが…… いったい何を吹き込まれたんだ?」

「吹き込まれるって言うか、向こうから話してきたって言い方が正しいだろうよ。マダムはそういう人だから。」

「大分親しそうだな。」

「おう、良くしてもらってるぞ。最初はもちろん驚いたし、まさか『孔雀』になるとは思ってもみなかったけどな。ヌワッハッハッハッ!」

「まあ、そうだよな………」


そんなテントの元で飲み物を用意するリークからの挨拶を受けつつ、ギラムは椅子に腰かけ何とも言えない表情を見せるのだった。



彼の本来の名前は『パステル・ババロア』

元々は運送業の仕事をしており、畜産関係の資材や動物達を運搬するのが主な仕事としていたが、現状は一変。本人の希望もあってか名を『リーク』としており、現在は孔雀鳥人として有意義な生活を送っていた。

ちなみに呼び名を変えた理由は至ってシンプル、見た目と名の雰囲気が『合っていなかったから』と言うものだそうだ。心なしか女性っぽい名前だったのも、本人は気にしていた様だ。


体系はギラムよりも小柄かつふくよかな体系をしており、どちらかと言えばドッシリとした体形と言えよう。金色のフリンジが付いた艶やかな衣装を身に纏っており、比較的柔らかな印象をギラムに与えていた。

だがしかし、本人の笑い方が台無しにするという何とも面白い相手でもあった。



「ココでの暮らしは割と楽しいし、閉鎖感も無い。現実のしがらみから外れた暮らしって言うのは、こうも良いモノだとは思ってもみなかったさ。」

「そうなのか。」

「おれ専用の部屋が、まさにココ。おれは趣味で『ロッククライミング』とかしてたから、割とこういう場所は好きなんだ。おまけで翼の様に使える尾羽もあるから、ここからスカイダイビングも楽しめるともなれば、人間だった頃じゃ出来ない事も楽しめる。良いぞーこの姿はさ。」

「へぇー そういう考え方が出来る様になったのか。リークは。」

「まーなー ほいよ、お茶。」

「ありがとさん。」


そんなリークからの挨拶を受けつつも、彼は手渡されたカップに注がれた緑茶を手にし口にした。味は比較的苦みを控えた薄味のモノであり、お茶に慣れていない相手でもすんなり飲めそうな味わいであった。軽く飲み物へ対する感想を求められながら相槌を打つと、相手は再び豪快な笑い声でやり取りを楽しんでいた。


何かと雰囲気と豪快さが目立つ、面白い相手だとギラムは思うのであった。


「人間だった頃の家族には、会いたいとか思わないのか?」

「ん、家族? 居ないぞ、そんなの。」

「え?」

「おれは元々『孤児院』に居たから、そういう連中はとうの昔に離れた。時々会ったりもしたけど、こうなってからは別に連絡する事も無くなったな。寂しいとかもねえし、猶更か。」

「寂しく……ないのか?」

「仲間がココには2人もいるからな。おまけに近いし何時でも会える、マダムが好きにして良いともなれば、そりゃあもう万々歳! ……あぁ、でも配偶者パートナーを作って抱けないのは残念だなー ヌワハッハッハッ!」

「………」


とはいえ、そんな第一印象を崩すだけの切り返しの速さは何処か勇ましさもあり、先陣を切って自爆しそうな勢いを感じなくは無い。趣味に没頭し自らの欲望を発散するだけの条件が揃って居れば、何も文句が無いと言わんばかりの所がマダムは気に入っているのかもしれない。しかし相手の事をちゃんと理解していない事もあってか、ギラム本人は『何処が気に入っているのだろう』と首を傾げる事しか出来ないのであった。



理解してしまえば、彼も今までの現実には戻れないだろう。



そんな疑問もあってか、彼の口と手が止まった事に対しリークは不意に言葉を挟みだした。


「……あれ、おれ何か変な事言ったか? 黙らせちまったみてーだけど。」

「あぁいや。……本当に『我慢』とかしてココに居るわけじゃねえんだなって、改めて思ってさ。望んでココに居るって聞いてたが、本当なんだな。」

「おーよ! 何しろ人間よりも自由度が効くし、この姿はおれの望みに近い形だ。こーんな暮らしをしてたら、人間だった頃の行いが馬鹿げてるって思えちまうよ。」

「そうなのか。」

「そーいうお前は、ココから出たいのか? まだ来たばっかだろうから、当然だけど。」

「まあ、一応はな…… 相棒もそうだが、俺を待っててくれる奴が居る。急に姿を消しちまったら、流石にさ。」

「ふーん、まーそういう考えも有りか。何なら『ターニブ』と『スピニッチ』も呼んでやろっか? あいつ等も、お前の事を聞いてたはずだからさ。」

「良いのか?」

「おーよ! ここじゃおれ達は自由だからな! ヌワッハッハッ!」


とはいえ、気にしなくていい部分もあったのは事実。相手からの提案に対しギラムは了承すると、カップを置き何やら準備をするリークの姿をしばし見ているのであった。


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