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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第七話・月下に映えるは天翔ける銀狐(げっかにはえるは あまかけるアルゲンフクス)
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13 空中要塞(スカイフィールド)

知らぬ間に拉致され姿を変えられた挙句、何故か魂胆の見えない相手の酌の相手をする事となったギラム。ロマネコンティなワインが空になり満足したのか、相手は彼を連れて部屋を後にし、廊下を歩きながら彼を別室へと案内する様に道中を進みだす。自身の前方と後方に付き添う形で付いてくる侍女達と共に案内された部屋、それは衣装室と思われる少し柔らかな布地に囲まれた空間であった。



「さてさて、まずはお気に入りの為に『衣服』を作らなくっちゃねん。お前達、良いデザインは出来たかしらん?」

「はいマダム、デッサンしたモノはこちらとなっております。」

「どれどれん。」


謎の空間に案内され周囲を見渡していたギラムを余所に、相手組は一カ所に集まり展開された電子版を確認しだした。その場に出ていたのは画像であり、どうやら侍女達三人が各々で考案した彼専用の衣服のデッサンの様である。それぞれが『一番良いと思ったモノ』を提出したらしく、ちゃんと三枚ずつその場に出されていた。


そんな画像を真剣に視る様に相手はジッと見つめた後、ギラムを手招きし画像の後ろに立つように指示しだした。相手からの要求に対し首を傾げながら彼は定位置に着くと、相手は彼の身体と画像を相互に見るのであった。

どうやら画像と照らし合わせ、一番似合いそうなモノを模索している様だ。


「ん~ そしたらトップスはコレで、ボトムスはこっちが良いかしらねん。靴はいつも通り無しでヨロシクねん。」

「かしこまりました、マダム。」

「ムーンとサンはそれぞれデザインした洋服を作って頂戴。スターはその間、彼の湯浴みの補佐をしてあげてねん。」

「仰せのままに、マダム。」


その後検討し終えた様子で指示出しをすると、相手は画像を横へとずらし再びギラムの元へとやって来た。残された侍女達は次の行いをする準備に取り掛かりだし、早々にその場から散っていた。


「そしたら今から、貴方の為の貴方だけの『衣服』を作らせて貰うわねん。お気に入りの美の結晶体だもの、材質その他諸々の妥協はしないわん。」

「……なんだか良く分からないが、しばらく『監禁される』って解釈で良かったか?」

「勿論それで良いわよん。どのみち外へは出られない場所だし、無茶して骨折でもされたら嫌だもの。」

「外へ出られない? ……どういう意味だ?」

「んー、直接見た方が早いかしらん。こっちよん。」


何やら意味深な発言を耳にし再び首を傾げだした彼を見てか、相手は扇子を閉じつつその場から歩き出し、部屋の奥へと彼を案内しだした。相手に連れられて後に続いた彼を視た後、相手は不意に空中へ右手を掲げた後、左から右へと何かを流すかのように動作をした、その時だった。



シュンッ……!


「……おぉっ。」


不意に壁だと思われた場の景色が突如として変化し、その場に全面ガラス張りで外を拝める窓へと変化しだしたのだ。そこに映っていたのは流れる様な勢いで進んでいく『雲』であり、青空は何時もよりも深く何処かを『飛んでいる』としか思えない光景が広がっていたのだ。現に下を視ようにも厚い雲で覆われている為、少なくとも『地上ではない事』だけは即座に理解出来る光景であった。


「空……って意味だったか。」

「そういう事よん。まぁ貴方の事だから、隙を見て脱走されるよりは『事実を提示する事』を先にしておいた方が効果的だからねん、情報開示は求めても良いわよ。」

「……… ちなみにだが、監禁する相手にそれをする理由って言うのは、何だ?」

「深い意味は無いわよん。貴方はアタシの『お気に入り』 それだけで理由は十分でしょ?」

「全くもって納得し辛い理由だがな……」


とはいえ濁す部分は濁される為か、彼は深い追及はする事を避け事実を受け止め肩を竦めだした。そんな彼を視た相手は満足そうに笑みを浮かべた後、再び侍女達の元へと赴き追加の指示を出し、その場を後にして行った。

残された彼は再び窓の外の景色を一瞥すると、彼のそばに『スター』と呼ばれた侍女がやってきた。


「ギラム様。遅れながらも、改めてご挨拶いたします。私の名は『スター』、これからこの空間での補佐を務めさせて戴きます、以後お見知りおきを。」

「あ、あぁ…… よろしく頼むぜ。」

「そして私と同様、マダムと貴方様の補佐をさせて頂きます。あちらが『サン』、そして向かいが『ムーン』と申します。」


「「よろしくお願いいたします、ギラム様。」」


「お、おう………」


各々で挨拶をする事を告げられたのだろう、侍女達は作業の手を止めギラムに挨拶をするのだった。



彼女達は三人共にとても良く似た容姿をしており、服装も同じ為か即座に判別するのが難しいくらいによく似ていた。しかし各々でつけている髪飾りだけは全員バラバラであり、名乗った際の名前に相応しいモノをそれぞれで身に着けていた。ちなみに補足すると、髪飾りは『橙色の太陽』と『金色の星』に『銀色の月』である。

彼から視ると背丈は自身の腹部程しか無い為、それなりに年は若いのだろうと彼は思うのであった。


「それではお先に、ギラム様の湯浴みの方をお手伝いさせていただきます。」

「スターが補佐をしている間、私達がお洋服の方を仕立てさせていただきます。」

「マダムが貴方様のより美しく雄々しく、そして勇ましい姿に変貌される事を望んでおられます。どうぞお任せくださいませ。」

「……本当に話がよく見えないんだが、拒否権は無さそうだな。湯浴みの補佐って言ってたが、背中を流すとかか?」

「基本的には『上から下まで、前面から背面まで』が主となっております。」

「なるほどな。そしたら前は良いから、背中だけ頼むぜ。この手じゃちょっと難しそうだしな。」

「かしこまりました。」


そんな彼女達の案内に沿って話を進めた後、彼はスターに連れられて奥の部屋へと通された。そこにはタイル張りのユニットバスが既に湯を張った状態で待機しており、近くにはボディソープを始めとした身体を洗う品々が一式取り揃えられていた。おまけに壁は先程一瞥した『流れる雲の浮かぶ空』が広がっており、絶景な中での湯浴みとなる事が予想された。

改めて眼にした景色に少々驚いていたのも束の間、気付けば彼の近くに居たスターは湯浴み専用の井出達となっており、スポンジと石鹸片手にその場で待機しているのであった。衣服は濡れても平気な袖無しミニスカートとなっており、何処となく見覚えのあるメイド服である。


「こちらへどうぞ。」

「お、おう。」


導かれるがままに彼はバスタブの淵へと腰かけ足を湯の中へと入れると、彼女は背後に立ち手にした石鹸で彼の体毛を撫ではじめ、あっという間に泡だらけにし身体を洗い出した。小柄な体系とは思えない程にしっかりとした力で背中を擦る一方、繊細さがあるのか優しい洗い方をされているのが彼に伝わって来た。仕事や指示の為にやっていると言うよりは忠実にこなしている部分があるのだろう、彼の広い背中をしっかりと洗うのであった。

そんな洗い方に心地よさを感じながら、彼はふと口を開き相手に声をかけだした。



「スターって言ってたな、お前さん。」

「はい。」

「あの『マダム』って言ってた相手のそばに居るみたいだが、俺みたい姿をした相手は見た事あるのか?」

「はい、何度かお目にかかっております。私達も貴方様の様な『真憧士リアナス』に該当する場に立っておりますので、その辺りの配慮は不要です。」

「……って事は、関係者って事か。契約もしたんだろうな、その様子だとさ。」

「はい。」


仕事をしながらもしっかりと返答する相手の行いを感じながら、彼はちょっとした情報収集を行いだす。マダムと呼ばれた相手が『情報開示する』と言っていた為遠慮しない部分も、彼の中には少なからず存在していたのだろう。相手も躊躇いなく自身がリアナスである事を伝えると、今のギラムはそう珍しい存在ではない事も告げるのであった。


「マダムはギラム様の様な存在が増える事を、とても望んでおります。自らの魔法をそちらに特化させ姿を変えた後、経過観察をしつつ状況と健康状態を管理、現代の因果から外れる世界を創られたいとの事です。」

「現代の因果……?」

「私達は力の無い『人間』ではありますが、魔法の力を行使する事が認められた『真憧士』でもあります。自ら創憎主と名乗られているのは、恐らくそちらが関係しているのでは、と。」

「現実的ではない、確実に世界の法則を変える魔法………か。望む奴も居たのか、その因果を。」

「はい。現在『三名』の方が貴方様の様な姿で人生を謳歌されております。ギラム様が望まれるのでしたら、マダムにお願いしてみてはいかがでしょうか。」

「そうさせてもらうかな。ありがとさん、いろいろ教えてくれてさ。」

「恐縮です。」


話をしながらも作業を進めていた為か、彼等の話が終わると同時にスターは背中から離れ、彼の右腕を洗い出した。事前に話していた内容では洗ってもらう予定はなかったモノの、彼は好きにさせる様にその時間を楽しむのであった。


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