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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第七話・月下に映えるは天翔ける銀狐(げっかにはえるは あまかけるアルゲンフクス)
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11 誘変換魔法(しんかのまほう)

現代都市リーヴァリィにて、ピニオとノクターンがチェリーからの報告を受けていた。その頃。

彼等の居る人間側の世界、通称『リヴァナラス』のとある上空での事だ………




ブゥーーーン………



「マダム、御用意が整いました。」

「ご苦労様ん、貴女あなた達。」


青く澄んだ空に広がる幾多の雲達、あたかも綿菓子の様に柔らかくも水蒸気のため触れられない不可思議な景色の中。上空に浮かぶ奇妙な飛行物体の中で、女性陣と思わしき存在達のやり取りがあった。

人であれば到底たどり着くことが出来ない、地上から何万と離れたその場所に、彼女達は居た。



「念の為聞いて置くけど、注文通りかしらん?」

「はいマダム。『無傷』は勿論『粗相』をしない行いで、お連れいたしました。」

「周囲の目からのカムフラージュとして、棺にお入れしました。」

「御体に傷が着いては姿に影響しかねませんので、柔らかな綿でお包みしました。」



「「「仰せのままに、お連れしました。」」」



「流石ねん、褒美は別室に用意してあるわん。先にちょっと休んで、ベットメイクと食事の用意、後『衣服』を用意しておいて頂戴。」

「かしこまりました、マダム。」


上下関係と思わしきやり取りの中、マダムと呼ばれた相手は部下達にそう言い席を外させた。三人の部下達は丁寧にお辞儀をしてその場を離れると、別室へ向かうべく部屋を後にして行った。

ちなみに『褒美』というのは、ちょっとお高いケーキだそうだ。


「……さ・て・と ちょっと失礼するわねん。」


そんな部下達が部屋を後にすると、残された相手は腰かけていた紅い二人用ソファから立ち上がり、少し離れた場に置かれた棺の元へと向かい出した。すると、棺の下からは台と思わしき物体が擦り上がりだし、相手の背丈に合わせた丁度良い位置で停止し、棺が開けやすい高さへと変えるのだった。

そんな棺の元へと相手は向かうと、両手を使って蓋を開け出した。



ガコンッ


「……ん~~! これぞ、アタシが求めた究極の『素体』……!! やっぱり、何時見ても美しいわぁ!!」


棺の蓋が開かれると同時に、中から幻想的に見えなくはない『霧』が突如として沸き出し、相手は中に納められたギラムを目にし歓喜の声を上げ出した。丁寧に敷き詰められた綿の中で眠る彼の姿は、あたかも長い眠りに着いた不死者の様であり、手元に置かれた花で封印されているかの様にも見えなくは無い。

未だに目覚める気配の無い彼を見ながらも、相手は棺の回りを高揚した感情と共に舞い出した。


「この盛り上がった胸筋、綺麗に割れた腹筋、肉厚ながらも邪魔をしない上腕二頭筋、太く逞しい首筋と太腿!! どれをとってもパーフェクト!! 性格も雄々しいと来てるのだから、100%じゃ足りないわねん。最高ッ! おまけにこの凛々しきフェイスラインさえも愛おしいと言えるのに、更に美を高める如く刻まれた傷跡こくいん!! 必然的に入れられたとしか言い様が無いのだけれども、彼からすれば無粋の極みかしらん。でも最高ッ!!」


独りでもお構い無しで語られる彼の魅力を誰が賛同するのか、その辺りは置いておこう。定期的に指で示される彼の魅力を一頻り語った後、相手は棺を形成する要を取り外し、同時に綿もその場から流れ落ち地面へと落下した。

柔らかな綿と静かに落ちた木片の音が周囲に奏でられるも、彼は微動だにしなかった。



「……とはいえ、一人盛り上がってても気を失ってる所が彼らしいわねん。さてさて、クローバーをちょっと拝借してっとん。」


そんな彼の寝顔を見て満足したのか、相手は彼のゴーグルに手を掛けクローバーを優しく取り外した。装飾品と化していた彼の貴重な品を一瞥した後、そのまま彼の胸元に戻し相手は懐からある物を取り出した。


相手が取り出したのは一本の『白墨チョーク』であり、軽くその場に屈み地面に何やら文様と思わしき陣を記しだした。綺麗な円形の陣で彼を取り囲むように刻んだ後、追加で記されていく幾多の記号と不可思議な形をした数字に、直線的に引かれた線と形を崩した彼等の常用文字である『テアル文字』達。

徐々に完成していく『魔法陣』がその場に展開されていくと、相手は最後の記号をつづり一息着く間もなくその場に立ちあがった。


「はい、準備おっけーん。………さぁてぇ、行くわよん。」


どうやら下準備が整った様子で相手は白墨をその場から消すと、再びギラムの横顔を見て笑みを浮かべ出した。先程から彼にご執心なのがよく分かる表情と言動っぷりであるが、相手が誰なのかは現時点では解らない。

それでも興味津々の気分と共に数歩離れた後、相手はその場に『羽根の付いた扇子』を取り出し、天に向けて掲げながら台詞コトバを語り出した。


「『響け、響け、鎮魂ちんこんの鐘…… 香れ、香れ、至福のみつ…… 華が歌いしかなでる風よ、の者に相応しき姿へと変われ…… 天体の星々の煌めきと共に、太陽と月の光を浴びて、生命いのちかたどりし存在へと変えよ。』」



シューー………


風の入らない空間に何処からともなく風が集いだし、相手の身に着けていた衣服とギラムの髪が靡かれる。棺から出ていた霧がその軌道を見せるかの様に舞始め、描かれた魔法陣に対し結果を成すかの様に集い始めた。

その時だ。


「『いざ導かれん。幻想世界エデンに踏み入れよ……! ギラム!!』」



カキンカキンカキンッ!!


陣に集い出していた風が不意に形を成し、その場に正八面体で形成された水晶壁が展開されたのだ。あっという間に白い空間に取り込まれてしまったギラムの姿が見えなくなって行くのを確認すると、相手は開いていた扇子を閉じ口元に笑みを浮かべだした。


「ん~、成功ねんっ ……さ・て・と、目を覚ますまでお茶にしようかしらん。」


自らが発動した魔法が無事に成功したのであろう、相手はご機嫌な様子で静かに振り返った。ノリノリなのがよく分かる後ろ姿であり、華麗に美尻を左右に振りながら少女達が後にした扉を通過して行った。


『目を覚ました後の反応が、とぉーっても楽しみだわぁん。』





『………』


そんな相手の魔法に閉じ込められてしまったギラムはというと、未だに眠り続け違う光景を目にしていた。

彼が見ていたのは白い空間、先程棺から出て来た霧の様に遠くは見通せない水蒸気に等しき光景。その場に立つのとは違う『浮く』感覚を覚えながら、彼は眼を瞑ったまま空間に身を委ねていた。


そんな時だった。



【我は視る、汝に封じられし記憶の時空とき。それは場に集いし騎士達の、闘争と鍛錬を積む場。汝は他者を護る為、自らの身を投じ死を選んだ。】


彼の耳元に聞き覚えのある声が過りだし、彼は眼を開けようとするも瞼は重く開かない感覚に襲われた。一瞥する事は出来なかったが声の主には覚えがあり、恐らく彼の近くに居る存在『ラギア』であろう。身の危険を感じなかった事も有り、彼はそのまま声を聴いていた時だった。


【代償亡き行いが無い様に、汝に対しても栄枯の時空に相応しく、対等に。自らの身に刻まれし傷跡、その記憶の表を語る。………だが。】



【お前の身体と周りに集いし者達の手技だけでは、命は愚か再びじんせいを紡ぐことすら敵わねえ。故に必要なモノ、それこそが錬成せし代償となる『生命の』】


ラギアの声と思わしき声に続いてか、今度は聞き覚えのない重みのある声が聞こえて来たのだ。声の主は恐らく『高齢の男性』であろうと彼は認識するも、やはり先程と同じく瞼は開かず、誰がその言葉を告げているのかが分からない。

近くに居る気配は感じる事は出来ても、認識する事が叶わない相手。一体誰なのだろうかと、彼は疑問を覚えつつも言葉を再び耳にした。


【俺は相応しき存在とされたが、俺にはお前を助けるだけの『義理』も『道理』も無かった。……だからこそ、お前はその時の行いを知り身体に宿したとしても、若き芽吹と成りし存在の行いを忘れちゃあいけねえよ。】



【我は知っている。汝は常に仲間の為にと身体を張れる勇姿があると。】

【俺は聞かされた。お前はココで終わらせるべきじゃない存在だって事をな。】



【【どんな場においても、お前{汝}は生きられるとな。】】


不可思議な存在達によって告げられた言葉を耳にした時、彼は不意に重く開かなかった瞼が自然と開く現象に襲われた。それにより目にする事が出来た存在は二つあり、一つは予想していた氷の竜『ラギア』の姿だった。以前から目にしていた美しい姿を見せていたが、そんな相手と並んでいた相手は見知らぬ存在であった。


背後の井出達ではあったがその場に立っていた相手、それは白い装束に身を包み大きく長い尻尾を持ち合わせた存在。ギラムとは違ったガッシリかつドッシリとした井出達が印象的な、銀交じりの毛をした狐の姿であった。




「………ん、んー……」


「あら、お目覚めねん。」

「?」


そんな存在達の夢から目が覚めたのは、それから間もなくの事であった。


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