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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第七話・月下に映えるは天翔ける銀狐(げっかにはえるは あまかけるアルゲンフクス)
210/302

10 予感覚(すいそく)

そんな人気の少ない工場内でギラムが拉致されたという現実に気付く者は現れず、目撃情報も明確にならなかった、同じ時間軸の現代都市リーヴァリィ。クーオリアスより派遣されたピニオは一人都市内を散策しながら手がかりを探しつつ、とある喫茶店に立ち寄っていた。




リリリン♪


「いらっしゃいませ~」


来店を告げるドアベルの軽快な音と共にやって来るのは、接客をしている女性スタッフの明るくも柔らかな挨拶。代わり映えのしない出迎えを受けながら店の中へと入ると、彼はその足で手頃なカウンター席へと向かい、席へと付いた。


「いらっしゃいませ、ご注文をお伺いします。」

「『いつもの』を頼みます。」

「かしこまりました。」


注文を取りに向かった店長に対し彼はそう言うと、相手は再度御辞宜をしつつその場を離れ、注文された品を用意し始めた。ピニオがこの店にやって来たのは数回程度だが、それなりに顔馴染みである為か彼は決まってそう注文している。俗にいう『お得意様』と言えなくはないが、正直な所を言ってしまえば『ギラムと同じ物』を注文しているに過ぎない。

彼がこの店に足げなく通っている事を知っているが故の、ほぼ同一人物だから出来る芸当と言えよう。


ちなみに店長本人はそんな彼を特に気にしては居らず、いつも通りの注文である『ブラックコーヒー』を用意するのであった。余談で補足すると、ギラムは『深煎り』よりも『浅煎り派』である。


「お待たせいたしました。」


そんな注文から数分と経つ前に、彼の前には店のロゴが入ったカップと共に珈琲がやって来た。珈琲特有の苦みを感じられる香りを鼻で楽しみつつカップを手にすると、彼は静かに口にし味わいを楽しみだした。飲み方までギラムそっくりなのだから、双子と言われない方が逆に不思議なくらいの風貌であった。



リリリン♪


「いらっしゃいませ~」


お店の定番メニューである珈琲を楽しんでいた、そんな時。彼の背後から来客を告げるベル音と共に、先程出迎えをしてくれたスタッフの声が店内に響き渡った。目の前に立っていた店長も軽く会釈しながらその場を離れると、ピニオは背後からやって来る気配を感じ取り、珈琲を口にしたまま手を止めだした時だった。


「隣、良いか。」

「……あぁ、どうぞ。」


やって来た人物から告げられた言葉を耳にすると、ピニオはカップを一度ソーサーに戻しつつ返事をしだした。すると声の主は静かに彼の右側の椅子を引きながら席に着くと、店長は二人分のおしぼりと水の入ったグラスを静かに置き出した。

彼の隣に座った人物、それは『ノクターン』だった。


「珍しいな、お前さんの方から接触して来るなんて。……そう言う事は限りなく少ないって話を、他から聞いていたつもりだったんだがな。」

「あぁ、俺の興味ねぇ奴に対しては非接触が日常だ。だが、ギラムでありギラムじゃない『造形体ゼルレスト』のお前に対し、興味を持たない方が実にオカシイ……だろ。」

「否定はしないな。元より、俺が『ピニオ』だって知って接触して来る方が稀だけどな。」



「失礼いたします。ご注文をお伺いします。」

「『しいたけ茶』くれ。黒胡椒入りの奴な。」

「かしこまりました。」


意味深な二人組が、カウンター席で話していたのも束の間。静かにカウンター越しに立った店長からの声を聴き、ノクターンは淡々と注文を告げリクエストも付け加えだした。相手もその声を聴いた様子で返答を返すと、食器の入った棚を開け中から『湯呑』を出すのであった。


ちなみに補足すると、しいたけ茶を出す喫茶店カフェはここくらいなものである。



「……それで、どうしたんだ? 以前貰った『クリスタルゲイザー』へ対する、対価交換か。」

「否定はしねぇが、それよりもちと興味がありそうな話題を仕入れてな。どうだ、買うか。」

「……… 真憧士絡みか。」

「ご明察。」

「分かった、買おう。」

「んじゃ決まりな、おごりでヨロシク。」

「はいはい。」


接触してきたノクターンからの話題、それはとある情報提供をすると言うモノだった。何故二人がそんな関係を持ったのかという話に関しては、掻い摘んでだがここで少し話しておこう。




彼が初めて接触したのは、今から数ヵ月前の事。

ギラムの住むマンションに待ち伏せをし情報提供して貰ったその日、彼は教えてもらった水を購入しピニオの事を探して都市内を捜索していたのだ。ピニオへ対する興味は見かけた時から少なからず存在していたが、ノクターンからすれば『共通点』は無く、ましてや外部からの接触もある為『無駄過ぎる接触は避けたい』と考えていた。しかし接触しなければ対話もままならない事も事実だった為、隠蔽する部分も口実に『水』という媒体を仕入れるに至ったのだ。


何故ピニオに対して接触する必要があったのか、それに対してはノクターンの口から聞いた方が良いだろう。



「お待たせしました。」


そうこうしている間に注文の品がやって来ると、彼はピニオの連れである事を告げ『御代は請求はこっちで』と勝手に話を進めるのだった。話を聞いた店長は静かに目配りしピニオがそれに対し会釈すると、相手は承知した様子で返事をし、二人をその場に残して席を外して行った。



「……それにしても、ノクターンらしいな。俺へ必要な情報を与えつつクーオリアスの情報を仕入れて、これから何をする気なんだ?」

「さぁな、理由等々は殆どねぇよ。だが追々お前の手が必要になる事は明確だったからこそ、こうして視線が集いにくい場を選んで接触してるんじゃねぇか。伏せてくれてる事に関しても、感謝してる。」

「そういう内容だったのも加えて、ノクターンはギラムの知人だ。俺が信用する理由は、それで十分だろ。」

「弟分らしい言い方だな、わかんなくもねぇけど。」


他愛もない雑談をしながらお互いに注文した飲料を口にすると、ノクターンは静かに懐から花を取り出し、カウンター席の上へと置き出した。取り出したのは以前ギラムが渡された『竜胆りんどう』の花であり、どうやら周囲の環境を少しばかり変える為に持ち出した様だ。段々と周囲の音が霞掛かったかの様に薄くなって行くと、ピニオはカップをソーサーの上に戻しつつ彼の話に耳を傾けだした。


「ザグレ教団に関しては、動きを見せていた『ヒエロファント』の終息によって一時停止。ギラムの痕跡を追おうとした一部の面々は、治安維持部隊の陸将によって情報を得られず撤退。大きな動きは見せちゃいねぇ。」

「………」

「だが、奴等の話に賛同しつつ別行動を取っていた奴がとうとう動き出したらしい。その名は『エンプレス』、聞いた事あるんじゃねぇか。」

「……本当に極少数だが、聞いた事はある。名称からすると、スートは恐らく『3位』 上位の奴だろ。」

「ご名答、奴の配下である『スター、ムーン、サン』もまた行動に移ったらしい。狙いが何かは知らねぇが、近々ギラムに接触する可能性が出て来たから教えとく。」

「またギラムか……… ギラムと似てる俺であっても、奴等は俺よりもギラムを狙って来る。何でそこまで狙うんだ……?」

「さぁな、俺はザグレ教団員じゃねぇからわっからん。……でもまぁ、奴が『真憧士まどうし』って言う事が理由となっているんだとしたら、解らなくもねぇな。」

「どういう意味だ。」



「聞いた事ねぇか。『真の憧れに成り得る導士』の存在を。」

「………」


不意に彼の口から告げられた言葉を聞いて、ピニオは開いていた口を静かに閉じだした。ノクターンの発言、それはクーオリアス側に位置するピニオでも詳細が確かとされていない話だった。『真憧士』と呼ばれる存在、それは今となっては『リアナス』と同意であり近い存在として双方の世界で周知されている。



契約を交わし世界の理に乗っ取った行いをし、魔法という形で結果を創り導き出す。



何処にでもありそうな理論に従った現象を行う者として今では認知されているが、前者と後者の違いが一つだけ存在していた。それは『クローバーが必要かどうか』というものだ。



「人間だろうと獣人だろうと、少なからず自らが想う『理想』が存在する。それを束ね恰も集約した様な存在こそが、その名に相応しい身と心を得る事が出来る。」

「………」

「リアナスはその可能性があるが故に力を使えているが、結局は『クローバー』がねぇと役には立たねぇ。ただの付け焼刃程度でちるのがオチだが、真憧士はそうじゃねぇ。奴等はそんな媒体すらも使わずに、俺等獣人と同様の力を行使する存在。人間と獣人が近かった時代をくりぬいたかのように、そいつ等は存在する。」

「………その可能性を、ギラムが秘めてるって事なのか。」

「俺はそう思ってはいるぞ。ギラムを視てて飽きねぇ辺り、何かしらの理由がありそうな気はしてたが………まぁ確証はねぇから、言う程立証はしねぇけど。……そっちはどう思う。」

「否定はしないし、考えられる線が無い訳じゃない。仮にもしギラムがその可能性を秘めているって言われても、違和感を感じない辺りが少し有り得そうだから困りモノだ。ギラムが奴等の手に渡って好き勝手されるんだったら、それこそ俺は何をするか分からない。下手な破壊指令が出たとしても、平然と遂行しそうなくらいだ。」

「怖ぇ怖ぇ。ま、そうじゃないと良いけどな。マジで。」

「あぁ、俺もそう思いたいな。」


とはいえ、現状その行いを出来るものは『存在しない』とされており、エリナス達側から視ても歴史的快挙を行った時系列以外、目撃されてはいなかった。遺伝子的に見ても継承して不思議ではないモノとされていたが、何故かそうなる事は無く点々と目撃され、今に至る。自身にとってかけがえのない存在の危険を感じたピニオが眉を顰める中、ノクターンは肩をすくめながら仮説を余所に再び茶を口にするのだった。


そして双方共に『そうなって欲しくない』そう考えていた、そんな時だった。




リリリン♪


「いらっしゃいま……あら?」

「お連れ様でぇ~す。足長おにいさーん。」


不意に店内に来客を告げるドアベルの音が響き渡り、出迎えの声と共に聞き覚えのある声がやって来た。声を耳にしたノクターンが振り返りながら入り口を視ると、そこには桜色のワンピースを身に纏った小柄な少女『チェリー』が立っていた。


店内にいた一同からの視線を一斉に集める彼女であったが、手を振りながらカウンター席に向かう姿に『青年ピニオの知人なのだろう』と思い視線を元に戻しだした。ちなみに補足すると、彼女の連れであり用があるのはノクターンである。彼ではない。


「ん、どうしたアリス。」

「チェリーだってばっ 足長お兄さんが言ってた通り、あの金髪のお兄ちゃん『誘拐』されちゃったよ? どうするの?」

「ぉーぉー、嫌な予感だけはびっみょーに的中するもんだな。普段は掠りもしねぇくせによ、スクラッチナンバー1等賞でも持って来いっつーの。」

「金髪お兄ちゃん……? ……おい、まさか……!!!」



「あぁ、ギラムが拉致られた。対策、考えた方が良さそうだぞ。」

「なっ!?」


突如現れた少女から告げられた言葉、それはその場にいた二人を驚かすのに事欠かない事実であった。


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