07 捜索(そうさく)
治安維持部隊の施設を後にしたギラムが向かったのは、都市内の中央寄りの場所に構える電車の停車駅だった。都市内を移動する交通手段として使われる『電車』に乗り込むためのその場所は、昼過ぎの今では外出先へと向かう人々が数人行きかう程度であり、ピーク時と違い混雑は予想されない人の量だった。
そんな電車の駅に到着した彼は、駅へと向かう際に使用した二輪車を止める『自転車置場』へと向かい、大型二輪車用の駐輪場へと到着した。既定の停車場所でバイクを駐車すると、彼は盗難防止のチェーンを取り付け、備え付けの機械に停車中の料金を前払いで支払い、その場を後にした。
愛車から離れた彼が向かったのは、午前中にも捜索した都市内だった。しかし今回は都市の中央ならではの『交通手段』をフルに使える場所に機転を置いたため、全力で探す心構えで挑むつもりの様だった。見つかるかどうかさえ分からない捜索ではあるが、彼はそういう駆け引きは嫌いではない様だ。
『……さてと。 サインナに無理言っちまったようなもんだし、今日中に何かしらの手掛かりくらいは掴まねぇとな。』
駐輪場から離れた彼は駅前のロータリーを取り囲む歩道を歩きながら、周囲を見渡した。
周りには通学を終えた学生達が、歩きながら楽しそうに喋っており、目についたファミリーレストランでのお茶をしようと申し出ていた。中には恋人と思われる2人組もちらほらと歩いており、心なしか2人の周りの雰囲気は華やかなオーラとなって見え隠れしており、とても仲が良いと思われた。何時の間にこんな現象を目の当たりにするようになったのだろうとギラムは驚きつつも、肝心の探し人を探すべく歩き出した。
駅前周辺から路地へと移動した彼は、薄暗い路地裏に注意を配りながら捜索を開始した。人通りの多い場所から見れる範囲を確認し、そうでない部分は足を踏み込んでまで全てチェックしていた。場所によっては建物の中も捜索対象と認識し、見れる範囲ではあるが目視確認を行っていた。
そんな探し物をしているギラムに対し、周りの人々は彼に気付く存在が居た。しかし彼に対し話しかける者は現れず、何をしているのだろうかと話し出す人々も現れる始末であり、半ばさらし者と化していた。だが彼は周りからの視線を気にする事なく行動を貫き、虎獣人の姿を見つけようと、必死に捜索をした。
だが捜索場所に居るのは彼と同じ『人』ばかりであり、彼の探している『獣人』の姿は無い。
中には被り物を装着した獣人紛いの存在も居るも、彼は気力と勢いに身を任せ、街中を探し続けた。飽きる事無く捜索を継続し、今会うべきだと思う虎獣人の姿を懸命に探していた。その時だ。
「おらぁあっ!!」
「うらぁああっ!!」
「?」
捜索範囲を広げようかと考えていた彼の耳に、穏やかではない声が聞こえてきた。何事かと思い声の聞こえた方角を見てみると、そこには路地を抜けた先の広場に、数人の青年達が対峙している光景が広がっていた。しかし彼等の動きは妙であり、よく見ていると普通の動きでは無い事に彼は気が付いた。
彼等は手足をしきりに動かし、何やら『魔法』を使っているかのような仕草を取っていたのだ。人差し指と中指を合わせ宙に文字を描く様な仕草をしているかと思いきや、何かを避けるために体制を低くしつつ前転をする光景など、どれもドラマやアニメにありそうなアクロバティックな動作だった。周りからすれば何の宗教団体なのだろうと思う光景であり、時折上げる彼等の声が、また妙な雰囲気を創っていた。
『何をやってるんだ? アイツ等は………』
そんな奇妙な人種達に気を取られるも、彼は再び目的を遂行しようと前を向き、目の前の路地を右折した。その時だった。
「………あっ!!」
曲がった先に広がっていた光景に対し、ギラムは驚きと歓声の声を上げた。
彼の視た先には路地裏にある下町の光景に加え、1つだけ妙な物体が紛れ込んでいた。10メートル先にはT字路があり、曲がり角の中央には青い自動販売機と共に、隣に座り込む虎獣人の姿があったのだ。よくよく見ると、相手は販売機の横に無造作に置かれたブロック塀の上に座っており、頭を垂れ落ち込んでいる様にも視てとれた。目的の探し人を見つけると、ギラムは安堵した様子で一息ついた後、静かに彼の前へと向かって歩き出した。
一歩、また一歩と近づいた彼は自販機の前で止まると、膝を曲げ彼の目線に合わせて声をかけた。
「………見つけたぜ、グリスン。」
「? ……ぁっ。」
声を耳にした相手はゆっくりと顔を上げ、目の前に移った相手の姿を見て動揺し始めた。それを見たギラムは軽く苦笑しながら笑顔を見せると、グリスンは呆気に取られながらも彼に向かって言葉を発した。
「どうして……… ……僕の事、嫌いになっちゃったはずなのに………」
「嫌いになっちまったら、俺はこんな事はしないさ。 お前が俺に配慮してくれてたっていうのは、もう十分解ったからな。」
「ギラム………」
「もう一回、話をしないか。 グリスン。」
「……ッ、ありがとう……… ギラム………」
言葉を聞いたグリスンは彼の名前を口にし、俯きながら涙を流し礼を言った。そんな彼を目にしたギラムは「それ以上泣くんじゃない」と言い、彼の頭を優しく撫でた。まるでそこに居るかのような触り心地が彼の手に伝わり、毛皮の様な柔らかくも頭の骨格が分かる感触だった。その手の温もりを感じたためか、グリスンは両腕で涙を拭い、流れてくる滴を早く消そうと努力していた。
彼が本当に優しいと言う事は十分わかった様子で、ギラムはそれ以上何も言わず、ただただ安心するまで彼の頭を撫でるのだった。周りに妙な目で見られても構わないと、彼はその行動をずっと続けるのであった。