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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第七話・月下に映えるは天翔ける銀狐(げっかにはえるは あまかけるアルゲンフクス)
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09 陽月星(じじょ)

そんなクーオリアスでのやり取りがされたのも、時間が流れた今よりも少し前のお話。ギラム達一行は実家での一時をつつがなく終え、朝食で満たされた身体と共に朝日が照らす外へと出ていた。


普段と変わらないザントルスの調子と共に出たその日は、日差しは降りるも時折浮かぶ雲に遮られる、曇天の涼しい日であった。




愛車を走らせ再び自宅に到着したのは、それから数時間後の事。段々と見慣れた風景に変わりつつあった光景にグリスンとフィルスターが視線を向ける中、ギラムは一人冷静にハンドルを切り道を右折していく。少し小高い場に顕在する彼等の住まう借家へと到着すると、彼はザントルスの普段の定位置である駐輪場に向かう前に一度停車し、その場で二人を下ろした。そして実家を出る前にと持たされた手土産を手にすると、そのままグリスンに預けフィルスターをナップサックから外へと出し、彼に入っていた袋を手渡すのであった。


「それじゃ、このまま仕事に行って来るぜ。留守をよろしくな、二人共。」

「うん。行ってらっしゃい、ギラム。」

「キッキュキ。」

「行ってきます。」


軽く手を振りながら見送る居候の視線を浴びつつ、彼は再びザントルスを操縦し元来た道を戻る様に走り出した。しかし先程まで通って来た道を途中で右折し南側の地区へと向かって行くと、その姿が遠目にグリスン達の居る場からも視えてくるのであった。

そして改めて主人が仕事に向かって行った事を確認すると、グリスンは手にした荷物と共にその場を歩き出し、フィルスターと共に中へと入って行った。


「キュー ……キキキュッ」

「そうだね。昨日までずっと居たから、フィルスターには寂しいよね。夕飯までに帰って来ると良いね。」

「キュッ」


他愛もないやり取りをしながら歩いて行くグリスンに続いて、フィルスターは袋を手にしたままその場で飛び出し、翼を羽ばたかせながら中へと移動していく。しかし都市内に住む一部を除く人達からすれば『ドラゴンが飛んでいる』だけの光景に過ぎ無い為、ある意味この景色は中々目立つモノがあると言えよう。そうでない者達からすればグリスンが視えている為なんてことないと言えるが、現実離れしそうな光景に些か現実味が薄れている事を実感しなくもない。


そんな彼等の居るこの場が現実世界である事を示すかのように、エントランスホールの扉が閉まって行った時。マンションから少し離れた民家の上で、その光景を見ていた一人の人物の姿があった。




『………ココの所見かけねぇと思ったら、どっか泊りがけで出掛けてたのか。』


その場に居たのは栗毛の様なツンツン髪が特徴的な狼獣人『ノクターン』であり、どうやらここ数日間ギラムを眼で追えて居なかった事が気がかりだった様子。空腹を満たす為に購入したのであろう『タマゴと照り焼きのハンバーガー』を手にグリスン達の姿を視た後、視線をずらしザントルスの走り去っていった方角に目を向けだした。



彼が視線を向けたのは、現代都市リーヴァリィの北側エリア。以前ギラム達がザグレ教団員の事を調べていた際に、赴いた事のある『ツイリングピンカーホテル』がある地区だ。


当時の事件は治安維持部隊が片付けた事もあった為、報道陣には必要最低限の情報を与えマスコミによる情報提供も限られたモノしか出回っていない。行方を追っていた教団員三人の所在は掴めておらず、時折ギラムの前に現れていた『フール』を除いた二人に関しては、現状手掛かりと呼べる物が無い状況であった。しかしその後に現れた『テンペランス』や『ハイプリース』を始め、再び彼等の前に立ちはだかった『ハーミット』とギラムにとって元同僚である『ヒエロファント』だった『イロニック』との接触により、彼等には少々気がかりになっていた点があった。



彼等の気にかかっていた点、それは『獣人エリナス達の居ない彼等の魔法が、現状何処まで使えるかどうか』というモノだ。



詳細が露わになったのは『テイン』と共に行動する『リズルト』によるモノであり、彼にとっても前々から気になる点から子息の彼と共に行動を取っていた。当時相対したラバーズにはその兆候が出ており、既に敵側の一部の中には『創憎主』の可能性を秘めた者達が顕在、自我は有れど切欠さえあれば何時破滅し世界の法則を創り換えても不思議ではないというものだ。彼等は共に行動する獣人達が傍にはおらず、不浄と化したクローバーを浄化する者は居らず、ましてや力を行使し過ぎたとしても彼等に気付ける予兆と呼べるモノも存在しない。


病は何時だって静かに歩み寄って来るモノであり、表立って行動しない辺りに何かしらの思惑があるのではないか。もしくは表立って行動しているうちに、彼等にとって心配要素と成るモノが存在しているのではないか。

そう言った仮説から検討し問答をサインナを始めとした治安維持部隊員が繰り返した結果、彼等にとって気がかりとなっている点がギラム達の中に情報が流されていたのだ。



【彼等の使う魔法には、限界がある】という情報モノだった。





ブゥーーン………



「………ココか。」


そんな情報を知りつつもこれと言った足取りも無かった事が、今のギラムの行動と言っても良いのかは保留としておこう。彼の上司からの連絡と要請によって参上したギラムは一つの工場の前へと到着し、移動の際に使用していたザントルスを適当な場所に停車させ、そのまま中へと入って行った。

人気は特に無くも機械音が時折響き渡る、材料の部品工場と思われる場所であった。


「すいませーん。軍事会社セルベトルガの者ですがー ………奥か……?」


中へと入った彼は相手を探そうと声を放つも、応答は無し。しかし聞こえてくる作業音を耳にした為奥へ奥へと入って行くと、彼は一つの部屋で揺れ動く人影を眼にした。曇りガラス越しに見えた為誰が居るのかはわからなかったが、作業員である事だけは確かだと思い彼が部屋へと近づき出した。

そんな時だった。




フシューーーーー………



「ん?」


彼が部屋へと向かおうとしたその時、彼は不意に何処からかガスの様な物が漏れ出す音を耳にしだした。工場内だった為『作業が一段落した時の音だろうか』と彼は辺りを見渡すも、やはり人影はなくただただ無人の中で音だけが響く現状。

少々違和感を覚えだした彼が首を傾げだしたその時、彼は異変に気付くのだった。



クラッ……


『んっ!? 何だ、視界が………!』




バタッ……!


不意に脱力感を感じた身体は膝から折れ、そのまま彼は揺らぎ出した視界と共に意識を飛ばしてしまったのだ。その場に倒れる形で転倒した彼が意識を失い倒れると、しばらくして彼の元に近づく人影が傍に降り立った。


人影が全部で二人であり、彼の様子をしばし観察し部屋の奥に居た相手に向かって合図を送ると、周囲の空気を浄化する様に風を起こし、一気に空気を入れ替えてしまうのだった。相手はギラムよりも随分と小柄であり、教団員特有の装束と共に中から幼い少女の様な顔を見せるのであった。



「ココまでは計算通り…… と、言ったところでしょうか。」

「えぇ、その解釈で間違いは無いと思います。マダムがお待ちになっている場所へとお運びするのに加え『無傷』かつ『粗相をしない』と言うご注文でしたから、コレで期待にそぐえるかと。大柄な体格の方とは伺っていましたが、確かにこの方が相手ではサンとスターだけでは厳しいですね。」

「体格的にも重量的にも、ですね。ムーン、マダムへのご報告は如何ですか?」


サンとスターと名乗る少女達は淡々と会話を交わす中、奥で待機し作業をしていたもう一人の仲間に声をかけだした。すると奥の部屋の扉が開き中から別の少女と思わしき相手が顔を出すと、その場で会釈をし行動が済んだ事を告げだした。



「こちらもつつがなく終了しました。……さて、この方をどうやってお運びしましょうか? 背負うのは確実に無理ですし、やはりここは『担架』が無難でしょうかね。」

「サンはそう思います。スターはどう思いますか。」

「ココから連れ出す点では良いのですが、世間的な目では少々難がありますね。あちらの『棺』の中にお入れして、と言うのはどうでしょうか。」

「それは名案ですね。ムーン、中に柔らかい布地をお願いします。」

「では、工場の資材庫から『綿』を頂戴しましょう。三分お待ちください。」

「解りました。ではその間に、この方の衣服を直しておきましょうか。」

「そうですね。マダムの前にお連れする前に、身形が整っていないのは叱られてしまいます。先に御開帳、と言うのも同時に叱られてしまいますからね。」

「マダムがお気に召す方なのですから、サン達はきっと『イチゲキコロリ』ですね。」

「まあ、お上手です事。どんな御姿に成るのか、とても楽しみですね。」


その後残された二人は倒れたギラムを一度仰向けにすると、倒れた拍子に付いた砂を払い、身に着けていた衣服の裾を直しだした。行いそのものはとても手際が良く、あたかも『アイロンで皺を伸ばした』かの様な出来栄えで在り、只人ではない事を改めて示す行いであった。そして距離的に一番近かったスターがその場を一度離れ、自分の背丈の倍以上あるであろう『棺』を運び出し、彼の隣に置き蓋を開けだした。


再び戻ってきたムーンと共に三人で棺の中に綿を敷き詰めると、三人で力を合わせてギラムを持ちあげ、丁重に棺の中へと入れるのだった。ご丁寧に彼の両手を組んで何処から摘んで来たのか解らない『白いカーネーション』まで置く始末であり、中々個性的な面々である。



一通りの準備を終えて空気窓が開いている事を確認すると、ギラムを入れた棺を三人で持ち上げ、静かにその場を後にして行った。


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