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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第七話・月下に映えるは天翔ける銀狐(げっかにはえるは あまかけるアルゲンフクス)
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07 主菜(ベジタブル)

墓参りを終えたギラム達一行は、そのまま寄り道をする事なく自宅へと戻って来た。コレといった買い物や用事が無かったのが一つの理由だが、それよりも先に彼には『やるべき事』があったからだ。



自宅へと帰還した三人は一度バイクから下車すると、その足で家の裏手へと回りだした。彼の実家の裏手、そこには生前の父親と母親が汗水流して造った『家庭菜園』のスペースが設けられている。自宅を囲う生け垣を柵に約二十畳程の畑かあり、隣接する形で植林された小さな果物の木々達、そしてそれらに水を与える為に引いた小さな水道。


都市内で見れば大きな土地ではあったが、近隣から見ればまだまだ小さなその場所に、母親が農作業を行っている姿があった。何故作業をしている事を知っていたのか、それは彼が出掛ける間際に作業用の支度をしていた母親の姿を見ていた為であり、その手伝いも兼ねて一直線でその場にやって来たのだった。

普段から軽装だった事もありその足で裏庭へと赴くと、彼等は揃って農作業をし始めるのであった。




その日は秋晴れと言って良い程にカラッとした良い天気であり、風も穏やかだが少しだけ汗ばみそうなくらいに温もりを感じる陽気。肉体労働をするのには丁度良い条件が揃った中で、彼は一人畑の至る所に置かれていた雑草や小枝の山を回収し、ゴミ袋に詰めて自宅の駐輪場付近へと運び出していた。追々作業を終えた後にゴミ処理場へと持って行く事も考慮した動きらしく、中々に無駄のない動きを取っていた。

変わってカエラは彼等が帰宅する前に畑の作物に水を上げた後、点々と生えつつあった雑草達を抜いていた。湿った大地の影響で土が舞う事無く作業をしている辺りは慣れなのだろう、こちらも息子同様に無駄を省いた行いを取っていた。


雑草達は養分を余計に吸い取り成長していく為、良い作物が育つ土壌である事を教えると同時に、放置しておけば厄介な存在に成る事は間違いない。土に余り触れた事の無いフィルスターと並んで母親は作業をしており、新たな子供が出来たかのように会話を挟みながら楽し気に作業をしており、ある意味彼が『新たな子供』として扱われている様な気もしなくはない。

普段は独りで黙々と行っていた事も有るのだろう、こういった環境も新鮮かつ楽しい様だ。ギラム曰く、普段よりも生き生きとした表情を見せていた。


そんな家主と関係のある相手とは別の場所、畑の外周寄りの場所ではグリスンも同様に雑草抜きとゴミを集める作業をしていた。普段から着用している手袋と音楽機器達、加えて丈の長い袖無しの上着は汚れない場所に一度置き作業をしている所を見ると、本人もそれなりにやる気を持って挑んでいる様だ。ギラムがゴミ袋を持って行くのを視た彼は、ひとしきり集められるだけのゴミを集めて彼に手渡し、雑草を抜いては袋に詰め再び袋を手渡すといった流れを繰り返していた。

囲いとして植わっている生垣は手入れする程では無かった事も有り、こういった作業に落ち着いたと言っても良いだろう。


ギラムもまたそんな彼の意図を汲み取ってなのか好きにさせており、母親と接点を持たずとも彼なりに行動している事を評価するのであった。無論フィルスターも同様であり、自分が同時にするべきである事を担っている事に感謝するのであった。



「……しっかし。留守にしてる期間が長いとはいえ、畑をずーっと維持するのも大変だろお袋。」

「否定はしないけれど、貴方もちゃんと帰って来て手伝ってくれてるから助かってるわよ。フィルスターちゃんも手伝ってくれてるし、本当助かるわ。」

「キュッ」

「そいつは良かったぜ。何か作物採れそうか?」

「そうね……… たまには『豆』でも茹でて食べようかしら、ギラムも食べるでしょ?」

「あぁ、頂くぜ。」

「じゃあそうしましょ。フィルスターちゃん、あの豆を採ってこの籠に入れてもらえるかしら。」

「キキュッ」


他愛もないやり取りをしながら昼食の献立が一つ決まると、フィルスターは母親から手頃なサイズの籠を受け取り、一人自宅寄りの畑へと向かって飛んで行った。その姿を視たグリスンは手にした作業のキリが良かったのだろう、その場に立ちあがり手に付いた土を払いながら移動し始め、フィルスターの作業を手伝う様に採れそうな豆を見繕い出すのだった。


今回彼等が収穫を依頼されたのは『四角豆』と呼ばれる豆であり、別名『ウイング・ビーンズ』と呼ばれるモノだ。四方にヒダの様な皮を付けているのが特徴であり、切った断面からそのような別名が付いたとされている豆である。茹でてサラダとセットにしたりスープの具材にしたりと使い道が多く、ギラムが帰宅した日には『フライ』として出てくる事が多く、彼にとっても慣れ親しんだ食材であった。


とはいえ実際に生えている豆を相手にした事が無いフィルスターにとってこの行いは初体験であり、頼み事をしたとはいえ無事に出来るかは少々怪しい部分がある。それを考慮し自身も手伝いに行こうと思った矢先のグリスンの行動だった為、その行いもギラムにとっては大助かりである。別の場所で作業をする母親を余所に、相棒達に豆の事を任せて再び手にした袋に雑草達を詰め込むと、彼は畑に出来た溝を直す様にスコップで土を盛り直し、同様に彼等の元へと向かうのであった。



「キュー……… ……キッキュッ!」

「うん、それなら大丈夫そうだね。どう? ギラム。」

「あぁ、丁度食べ頃のやつだな。二人は、それで何食べたいんだ?」

「んー ……僕は無難に『野菜炒め』とかかなぁ。コレを入れると、見栄えが良いから気に入ってるんだ。」

「キュー キークッ」

「フィルスターはやっぱり『スープ』なんだね。ギラムは何にしたいの?」

「俺は大体コレだと『揚げ物』だな。他の根菜とセットで揚がった奴とか、結構旨いから好きなんだ。自宅じゃ揚げ物もしねえしさ。」

「……言われてみると、揚げ物してる所視ないね。出来ないって言うより、やらない感じ?」

「まあそうだな。後始末も大変だって言うのは、知ってるしさ。」

「キキュッ」


隅に集まって話をする男共のやり取りは、何かと美味しそうな話とも言えなくは無い。いろいろと献立に談議するも、結局の所『ギラムに一存する』という方向性だけは変わる事は無く、昼食のメニューは『揚げ物』となった様だ。食べられそうな豆を一通り回収しセットで揚げると言っていた『人参』を収穫すると、一同は後片付けをし自宅へと引き返して行った。


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