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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第七話・月下に映えるは天翔ける銀狐(げっかにはえるは あまかけるアルゲンフクス)
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05 交声(やりとり)

そんな楽し気な食事を終えた彼は一足先にシャワーへと通されると、フィルスターと共にセットで湯浴みをしだした。普段はグリスンと共に入れている入浴を彼が変わったのには理由があり、母親が後片付けやテレビを楽しむ為『時間の猶予を創るため』に一緒に入ったのだ。彼等の後にグリスンが入り終える頃になれば丁度良い頃合いと成る為、下手にシャワー音を気にさせる事無く夜を過ごせると彼は判断したのだ。


久々に主人であるギラムとシャワーを浴びれると知ったフィルスターが燥いでいたと言うのは、恐らく言うまでもないだろう。彼の広い背中や肩を始めとした部位を飛び回る勢いで洗っていた為、ギラムにとってもちょっとだけ慌ただしいバスタイムと成っていた。ちなみにフィルスターの身体はさっさと洗い終える程に小さかった為、寧ろそちらの方が手早かったと言って良い。


双方共に泡だらけとなった身体をしっかりと流し終えると、共にバスタオルで身体を拭きしっかりと心身共にリフレッシュするのであった。

ちなみに余談だが、バスタオルだけは自身でやると言って聞かずギラムの使用済みバスタオルで一生懸命にフィルスターは拭いていた。どうやらそれだけは譲りたくなかったらしく、別途で用意したフェイスタオルは出番無く定位置に戻されるのであった。その後肌着を着用し出歩ける恰好になると、彼はその足でリビングに居るであろう母親に声をかけた。


「お袋、先に上がったぜ。」

「分かったわ。今日もお疲れ様、ギラム。」

「ありがとさん、先に休ませてもらうぜ。」

「えぇ、お休みなさい。」


その後リビングに再び顔を出し飲料水をグラスに注ぐと、彼はそのままフィルスターと共に自室へと戻って行った。相変わらず使用済みのバスタオルを身体に巻き付けのんびりとしており、どうやら使用したボディソープの香りと彼の湯上りの香りが気に入ったのだろう。タオルから顔を出し彼の頬に顔を擦りつけながら鳴いていた為、ギラムは優しくフィルスターの顔を撫でながら部屋へと戻って行った。



自室には既にグリスンが待機しており一人のんびりと雑誌を見ていた為、彼はそのまま声をかけシャワーを浴びて来る様提案しだした。提案を聞いた相手は頷きながら開いていた雑誌を閉じて定位置に戻すと、軽くその場で身体を伸ばしつつ部屋を後にするのだった。

ちなみに彼が読んでいた雑誌、それは不定期で発売されていた『ヘルベゲールに生息する恐竜達』のモノである。どうやら普段の生態系や気候を学んでいた様だ。


「……アイツも恐竜好きなのか。」

「キキュッ キューキキキュッ。」

「ぁ、俺が原因か。………ふあぁあー… 流石に疲れたぜ。」

「キュー キキキュッ?」

「ん、フィルも見たいのか。良いぜ。」

「キュ―ッ」


しかしその雑誌が気になるのは、グリスンだけでは無い様だ。戻された雑誌を指さしたフィルスターに対しギラムはそう言うと、雑誌を手にしながら室内に雑魚寝し、彼の相手をするのであった。楽し気に雑誌を視だすフィルスターの尻尾が左右に揺れる中、それを見ていたギラムは次第にやって来た睡魔に導かれるまま、気付けばその場で寝息を立てだしていた。




一方その頃、部屋を後にしたグリスンは階段を下りキッチン前の廊下を通ろうとしていた。リアナスではないと思われるギラムの母親に対しては彼から何かアクションを取る事は無く、無意識ではあったものの夕飯は普通に彼の分まで用意されていた程だ。自身をちゃんと捉えられる目を持っていればそれなりの対応を取っていたが、そうでなければ何も出来ないに等しい。

とはいえ見守る事くらいは出来る為か、グリスンは扉の脇から顔を出しキッチンを覗き込み中の様子を伺いだした。


キッチンに居た母親は一人、リビングに設置されたテレビを付け放送されていたドラマを見ていた。丁度週替わりで放映されていた男女のラブロマンス物と思われる内容であったが、相手は紅茶を片手にのんびりと過ごしていたと言って良いだろう。忙しい主婦の束の間の休息、と言えそうな光景であった。


そんな光景を眼にしたグリスンはしばし相手の様子を見た後、その場を離れようとした時だった。



「……ありがとうね。」

「えっ……?」


バスルームへと向かおうとした矢先、彼の耳に入って来た言葉は少々驚きを覚えるモノだった。自らを捉えるのは愚か、視線すら向けず会話を交わす相手すら居なかった空間に聞こえた言葉は、とても不可思議かつ奇妙なモノだ。一体誰に向かって言ったのだろうかと思った彼は辺りを視わたしそれらしき相手を探すも、存在は愚か霊の姿すら視えない。

空耳かと思いグリスンは軽く首を傾げた後、ふとある事を思いこう返答するのだった。


「………どういたしまして。今日は、ありがとうございました。」

「………」


彼が告げた言葉、それは先程の夕食を始めとしたその日の行いそのものへ対する礼だった。自身はどちらかと言えば『招かれざる客』と言える立場におり、ギラムの家では実質『居候』の為この場にやってきて良い存在ではない。しかしそれでも無意識とはいえ応対をしてくれた相手に対し、何かしら伝えたかった言葉はあったのだろう。


言葉を口にししっかりと自身の言葉で告げた後、彼は静かに頭を下げ、浴室へと向かって行くのだった。彼の言葉に対する返事は無かったモノの、彼としても満足のいくやり取りだった様だ。気付けば自身の尻尾が左右に揺れているくらいに、グリスン本人もご機嫌なのであった。



その後湯浴みを済ませた彼は再び廊下を移動しギラムの部屋へと戻ると、既に寝息を立てる相手と交じって、身体を休めようと彼のベットに横になりだした。雑魚寝したギラムの身体には既に毛布が掛けられフィルスターが懐で丸くなっているのを視た為、寝床がそこしかないとグリスン本人が察した結果なのであった。


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