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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第七話・月下に映えるは天翔ける銀狐(げっかにはえるは あまかけるアルゲンフクス)
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04 晩餐(ディナー)

買出しの依頼をリミダムに任せた後、ギラムは一人ザントルスを走らせ、一足先に依頼主の自宅を訪れていた。目的地では既に老夫婦が調理する為の準備を整えた状態で待っており、どうやらそれなりに首を長くして待っていた様だ。

依頼へ対する品々が詰まった箱を一足先に老父に渡し終えると、ギラムは老母へ対し『海ブドウ』の件を伝え、再び時間を改めてやって来ることを伝えるのだった。彼からの報告を受けた老母はにこやかな笑顔で承諾すると、彼は一安心し挨拶を済ませた後、再びザントルスを走らせその場を後にして行った。


その後も彼は時間を潰すかの如く、依頼を一気に終わらせる勢いでヘレント内を隅から隅まで移動していた。【修繕依頼】として受けていた物置小屋へ対する行いは予想よりも早く終わらせるに至った上、畑を囲う策の修繕に関しては力仕事でも材料調達をする事無く既に準備まで整っていたくらいだ。

彼がこの地区の依頼を過去に何度も片付けている事もあった為か、依頼側も既に彼を信用し物事を片付けてくれるまでの準備すらもやってくれている程だ。元より必要な物資の調達は依頼側の仕事であり傭兵の負担するべき部分ではない為、かえってこの方がスムーズに仕事が行えると言って良いだろう。ギラムもまたその様な依頼に巡り合えたことに感謝をしつつ仕事をこなし、依頼料と引き換えに労働力を提供するのであった。




そんな彼が仕事を終えたのは、リミダムとの約束をした時間に差し掛かる丁度十分前。集合場所として指示した依頼主の家の近くへとギラムがやって来ると、既にそこには袋を片手に待機するリミダムの姿があった。

地区内をそよぐ風に装束を靡かせながら彼を眼にした時、見慣れた笑顔と共に手を振り出し彼の到着を喜ぶのであった。


「お待たせリミダム、待ったか?」

「ううん、今来たとこぉー はいコレッ、頼まれてた『クビレヅタ』だよぉ~」

「ありがとさん、注文通りだな。」

「どぉーいたしましてっ んじゃオイラ、向こう行ったら用事出来ちゃったからもう帰るねぇー バイバーイ。」

「ぉお、世話しないな…… 気を付けてな。」


しかし到着したのも束の間、自由人なリミダムでも用事の一つや二つは出来るものなのだろう。小柄な猫獣人は荷物と領収書をセットにしてギラムに手渡すと、再び手を振りながらその場を後にして行った。黄昏時で伸びた影が不規則な動きを見せるも、気付けばリミダムの姿は歪みながら消えてしまい元の世界へと帰って行った事を知るのだった。


その後彼は再び依頼主の自宅へと伺い海ブドウを手渡すと、依頼完了のサインと同時に金子を受け取りその場を後にして行った。




ザントルスと共にギラムが実家へと戻ったのは、それからしばらくした頃だ。丁度太陽が沈み夜の闇に包まれつつあった田舎道の道中を、気を付けながら帰宅する程に道はとても薄暗かった。愛車のライトによって周囲を照らし速度を落せば安全に帰宅出来る為、その足で彼は自宅に戻って来たと言って良いだろう。

現代都市内の街灯と室内灯で溢れた、明かりの多い空間とはえらい違いである。


その後昼間と同様に定位置へザントルスを停車させると、彼は荷物を回収し自宅の扉を開けるのだった。



ガチャッ


「ただいま。」

「お帰りギラムー 遅くまでお疲れ様。」

「キッキュー」


そんな自宅へと戻ってきたと同時に、彼を出迎えてくれたのは居候と小さな相棒だった。普段とは違った間取りで出迎えられたギラムは多少驚くも日常的な光景である事を思い出し、彼等に返事をしつつ靴を履き替えだした。

手荷物をフィルスターが受け取りしばし視線を送られていると、遅れて母親の姿もその場にやって来た。


「お帰りなさいギラム。フィルスターちゃん、今か今かってずっとココで待ってたのよ。」

「あぁ、リーヴァリィでもそんな調子なんだ。なあフィル。」

「キュッ」

「フフッ、良い家族が出来たのね。気になってる相手、連れて来ても良いのよ?」

「残念ながらそういう縁は無いぜ、お袋。こんな仕事だし、下手に残すのも気が引けるしな。」

「もうっ、あのヒトと言う事までそっくりに成っちゃって……まあいいわ。ご飯出来てるわよ、食べなさい。」

「あぁ、了解。」


再びエプロン姿で現れた母親に対し軽くやり取りをしながらリビングへと向かうと、既に出来立ての料理の香りが彼の鼻孔をくすぐりだした。昼間と同じく『デミグラスソース』を用いた『ハンバーグ』が今夜のメニューの様であり、付け合わせとして用意されたサラダは葉物と吹かし芋を用いて、山盛りてんこ盛りの『クリスマスツリー』と化していた。

若干季節外れの様にも感じなくはないインパクトを醸し出す食卓には久々に驚かされるも、ギラムはいつも通りの笑顔を見せながらグラスを手にし、飲料水を注ぎ席へと着いた。彼と同様にフィルスターとグリスンも空いた席に腰かけ一息ついてギラムを視た後、食卓の食事内容を見て双方共に尻尾を左右に振るのであった。


そんな相棒達を横目にギラムは改めて食卓を彩る食事内容を見て、ふとある事を思い口にしだした。



「………なあ、お袋。」

「んー?」

「何か……量多くねえか? 何時にもまして。」

「あら、そうだったかしら。ギラムが朝から晩まで仕事して来たから、空腹過ぎると思ってつい作り過ぎちゃったわ。残しても良いわよ。」

「まあ、それなら良いんだけどな……… いただきます。」

「いただきまーす。」「キュキッキュー」


半ば能天気だが気楽な返答を貰った彼は軽く首を傾げた後、それ以上は特に気にする事無くその場で合掌し食事を取りだした。先にフィルスターのを取り分け彼の前に食事を用意すると、次にグリスンの分を皿に盛り付け自身からそう遠くは無い場所にその皿を置くのであった。彼の隣に座っていたグリスンはそれを見て静かに皿を手にし銀食器を手にすると、彼と並んで食事を取りだした。


今宵の食事内容、それは彼にとっても思い出の味と言って良い程に彼好みの味付けであった。淡泊たんぱくかと問われれば濃厚と言えるが、その味を追求する者にとっては薄くも感じられる、絶妙な野菜とソースの味わい。独自で配合された合い挽き肉と共に加えられた野菜達は触感を残す程度に形は有れど、無駄に主張する事も無い細かさ。

パン粉を混ぜてオーブンで焼かれた絶妙なハンバーグは、彼が最も好きな家庭料理と言って良いだろう。借家であるマンションには『大きなオーブン』が無い事もまた、普段は食べられない要因と言っても過言ではない。


そんな大好きなハンバーグと共に用意されたサラダ、これは殆どが彼の自宅の周辺で栽培されていた『家庭菜園』で育ったモノ達が主役となっている。ルッコラを始めとしたレタスやベビーリーフ達は適度に鮮度を保ち触感が残る中、ホクホクに仕上げられたマッシュポテトは塩分控えめの味付けとなっている。

しかし反面『黒胡椒』だけは健康的とも言えなくはないぐらいにしっかりと掛かっている為、どちらかと言えば慣れてない人から見ればスパイシーなサラダと言って良いだろう。彩として追加されたミニトマトは甘い品種の為、その辺りで相殺していると言う事にしておこう。


眼でも楽しく口でも楽しい、久々に家族が多く温かみ溢れた献立に舌鼓を打ちつつ、彼等は楽しい食事の時間を共にするのであった。


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