03 働者(うごきつづけるモノ)
相棒達を実家へと置き外出する事を母親に告げたギラムは一人、バイクを走らせ懐かしの土地での依頼をこなしだした。主な依頼は事前に現代都市内で回収した『物資の運搬』が殆どであり、比較的運びやすいモノは当日に、そうで無いモノは既に顔を出す前に運び込んでいたのだ。当日である今日はグリスンとフィルスターがセットでやってくるともなれば、そうなるのは必然と言えよう。
しかし母親からすれば『そんなに大荷物だったのかしら』のレベルである。
そんな諸事情で荷物を分けた彼は、一件一件回りながら依頼をこなして行く。もちそんその作業をその日の内に片付けるのは中々大変だが、それでも彼は楽しそうに仕事をするのであった。
ちなみに楽しい理由をあげるとすれば、一つはコレだ。
「こんにちはー」
「はいはい。……あらカエラさんの所の坊っちゃんじゃない! 久しぶりねえ~元気にしてた??」
「ご無沙汰してます。体調の方は何時も通り。」
「そうよねぇ、余程の事が無ければ外を駆け回ってた記憶しか無いものねー ぁ、配達ご苦労様。お茶でも飲んで行ったら??」
「お気持ちだけ頂いて置きます、こちらにサインだけお願いします。」
「はいはい、ご苦労様~」
彼の生まれ故郷であるこの地での依頼、それは彼にとって顔馴染みの人々を相手にする、挨拶回りも含まれているといっても過言ではない。元より顔の広かった母親が一人で家を守っている事も周知の事実であり、暇を見て仕事をしにくる彼もまた、目立って居たと言えるだろう。ましてや過去とはいえ父親と同じ『治安維持部隊の一員』だったのだ、知らない方が稀である。
そんな馴染みの人々との挨拶も程々に、彼は手際よく荷物の運搬を終えるのだった。陽が昇った後の正午過ぎ、彼が運搬関連の依頼を終えたのはその頃だ。一度自宅へと戻った彼はその足で母親特製の昼食『デミグラスオムレツ』を口にし一息着くと、間髪入れずに次なる依頼をしに向かって行った。
彼もだがその足となるザントルスもまた、働き者である。
彼が次に向かった場所、それは同じ地区内でも比較的大きなスーパーだった。次に彼が行うべき依頼は【食料調達】であり、その為の買出しにやって来た次第だ。
依頼主は夫妻で暮らす老夫婦であり、地方へ巣立ちした子供家族を出迎える料理の材料調達というモノだった。普段であれば定期購入し届けてくれる運搬サービスや月一定の回数でやって来る販売車を利用しているらしいが、その日だけはそう言ったモノでは作れない物を用意したかったとの事。
その為今回彼が買うのは比較的『鮮度』の良い生ものばかりであり、魚や肉と言った身体に良さそうなものがそこには書かれていた。加えて海辺から遠い事もあってか『海ブドウ』と言った変わり種も書かれているのだから、中々に難易度の高い依頼と言っても良いかもしれない。入口でゲートをくぐりカートを手にすると、その足でリストアップされたジャンルの品物を次々と手にして行った。
そんな依頼での簡単なモノは比較的楽に手に入ったが、肝心の変わり種はギラムにとっても中々に曲者であった。元より食用とは言え一部の海洋地域でしか取れないモノが地元のスーパーで売っているかも怪しく、ましてや都市内で普段利用している『コフェンティオ』ですらあるかも解らない。普段から見慣れているつもりであった鮮魚売場を行ったり来たりしながら売り場を物色していた、そんな時だった。
「いらっしゃいませぇ~ 何かお探しですかぁー」
「ん、あぁ。ちょっと変わったモノを探し……… ん?」
品物に視線が向いたままかけられた声に反応するかのように、彼が返事をしつつ視線をずらした時だ。同じ目線の先に居るであろう店員の姿を探すも見当たらず、その事に対し彼は違和感を覚え不意に視線を下ろした先に、なんと見慣れた人物が立っていたのだ。
翠色の装束に曇天の中へ彩を足したかの様な浅葱鼠色の肌をした、小柄な猫獣人。
「はぁーい。」
「ぇ、リミダム? 何でこんなところに居るんだ??」
「ライゼとレーヴェ大司教の言付も兼ねてギラムにアイスをおねだりしようとしたら、リーヴァリィのお家がもぬけの殻だったから、知人にアタックして居場所突き止めて来た感じぃー ついでにお昼。」
「………何か随分と御苦労な事をして来たんだな。お疲れさん。」
「ありがとぉー ギラムに合えて良かったぁ、何か奢ってぇ~」
「依頼中だから、後でな。」
「えーーー」
「文句言うな、領収書に出るだろ。」
「む”ぅ”ーーーー」
普段であれば現代都市内に出没するリミダムであったが、この日だけは例外らしくギラムを探して『ヘレント』へとやって来たそうだ。一体どんな情報手段を使って突き止めたのかは不明だったが、おおよその検討が付く部分も有る為、今は保留としておこう。
そんな彼にランチをせがまれながらも無視しつつ、彼は再び探し物を探して売り場の品定めを再開しだした。その行いを視たリミダムも揃って売り場を見始めた時、何を探してるのか問いかけだした。
「でも珍しいねぇ、依頼でお買い物なんて。しかも日用品って言うか、食材? だよね。」
「あぁ、老夫婦が子と孫の為に手料理を振る舞うんだとさ。そのために『海ブドウ』が居るらしいんだが、そんなマニアックなモノってあったかなーって思ってさ。」
「海ブドウって……『クビレヅタ』の事?」
「クビレ…? ……あぁ、確かそういう名称でも呼ばれてたっけな。詳しくはねえけど。」
「……… オイラが代わりに買って来たら、ギラム喜ぶぅ?」
「え? ………まぁ、ココに無かったらしばらく店を回らないと行けないからな…… そうしてくれると助かるが、宛はあるのか?」
「一応ね~ 保証は出来ないけど、リヴァナラスよりは見つかる可能性は高いと思うよぉ、鮮度の良いやつ。」
「そうなのか。………そしたら、頼んでも良いか? リミダム。」
「良いよぉ、ギラムの頼みだもんっ 報酬は増し増しで。」
「はいはい、ちゃんと用意してくれたらな。期限は『夕刻前』までなんだが、間に合うか?」
「大丈夫ぅ、二時間もあれば買えるから。」
「了解、依頼側にも後から持ってくるって伝えとくぜ。そしたら、よろしくな。」
「はぁーい。ぁ、その前にご飯欲しいかも。」
「あぁ、そうだったな……… パンで良いか?」
「良いよぉ~『クラブハウスサンドイッチ』で。」
「はいはい。」
不意に現れた救世主に近し存在の協力もあってか、彼は売り場を離れ適当なパンを手にし、会計をしだした。何かと信用して良いのかわからない相手からの提案ではあったが、なんだかんだで受け入れてしまう辺り、本当にお人よしなのかもしれない。
そんな事を思いながらギラムはセンスミントで会計を済ませると、一足先にリミダムにパンを手渡し合流場所を決めると、ザントルスに材料を積み込み搭乗した。その後エンジンを入れ発進しようとした、そんな時だった。
『……あれ、そう言えば何か用事があるって言ってたような……… ……まあ、いいか。』
ふと彼がやってきた用事を思い出すも、既に居ない相手の事だ。気にしても仕方ないと思い、頭を切り替え彼はその場を走り出すのだった。




