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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第七話・月下に映えるは天翔ける銀狐(げっかにはえるは あまかけるアルゲンフクス)
202/302

02 実家(マイホーム)

現代都市リーヴァリィとの間を結ぶ坑道を抜けた先に広がっていた光景、それは都会の人工物に囲まれた色合いとは異なる世界。大地の彩が見え隠れする中を走り抜ける様に整備された車道、都市内であれば何処にでも用意された歩道の無い斜面が目立つ草花の道。彼等がやって来た地区であるココ『ヘレント』は、現代都市から見れば『田舎』と呼べる場所でもあった。


そんな田舎道に等しくも凹凸が最低限にまで削られた車道を走りつつ、ギラムは愛車のザントルスを操縦し目的地に向かって走らせていた。後方で彼とは違う方角へと視線を送るグリスンは左右に首を振りながら景色を楽しみつつ、またギラムの背後に背負われたフィルスターもまた彼と同じように真新しい世界を見つめだした。



今まで彼等が視て来た景色は何処も人工物が顕在しており、ビルはもちろん建築材料がむき出しとは言えない建物が数多く存在していた。無論『フローケンザー』地区の様に草原地帯とも言えるべき景色の場も見てきたが、前者と違いヘレントはまた独特な景色と言っても良いだろう。先の場所と違い人の気配もしっかりとしており、現代都市に比べれば少なくもちゃんとすれ違う人々は確かに存在していた。

現にギラムの横をすれ違う車も幾つか目撃出来ており、そんな地区に入った彼等はザントルスに運ばれ、一つの住宅が立つ敷地内へと向かって行った。




彼等がやって来た場所、それはヘレント内では比較的中間に位置する大きさの住宅に囲まれた私有地だ。ギラムやグリスンよりも背丈の低い植え込みの樹々に囲まれたその家は何処か温かく、白と黒のコントラストが印象的だった。家の一角に用意された花壇には季節の花々が可愛らしく咲いており、中には少し大きな植木鉢に寄せて植えられた『星屑草ほしくずそう』の姿もあったりと、何処か女性らしさを感じられるその家。

そんな私有地にやって来た彼はザントルスを定位置なのであろう、砂利道と輪留め用のタイヤの元へと移動させ、その場で停車した。


「着いたぜグリスン、ココが俺の実家だ。」

「うわぁー 綺麗な家ー」

「キューッ」


操縦主である彼の声を聴いたグリスンは一足先にその場に下りると、真っ先に視界に入っていた自宅の綺麗さに感銘を覚えていた。アリンやテインと言った豪邸に大きさは並ばないとはいえ、その場に建つギラムの実家は家主の管理がしっかりと行き届いている事が即座にわかる程に、清潔感に溢れていた。

定期的に塗られたと思われるペンキによって外壁は統一した色味を保っており、家と共に視界に入った花もまた活き活きとしている。同様に植え込みに対しても手入れをしたばかりなのか、庭先の一角には枝葉を回収したと思われるごみ袋が姿を見せていた程だ。


何かと周りに視られても恥ずかしくない光景そのものが、グリスン達にとっても好印象だったのだろう。とても物珍しそうに景色を眺めるグリスンとフィルスターを見て、ギラムも笑みを見せながら積んで来た荷物の整理をしていた。

そんな時だった。



ガチャッ


「?」

「あら、思ったよりも早かったのね。お帰りなさい、ギラム。」

「ただいま、お袋。」


荷卸しを軽くしていたギラムの後方、住宅の扉が不意に開く音が聞こえて来た。それと同時に顔を出したのは彼よりも大人びた女性であり、ギラムを見て笑顔を見せながら彼の事を出迎えだしたのだ。声を聴いたギラムもまたそれに返事をするかのように軽く手を振ると、彼は再び作業を開始し荷下ろしをするのだった。



彼女の名前は『カエラ・ギクワ』

ギラムの唯一存命する肉親の一人であり、彼の大切な母親であり家族である。エメラルドグリーンのエプロンにクリーム色のロングワンピースがとても印象的であり、軽装ながらも露出は控え年相応の身嗜みに気を配っている様にも見て取れた。彼と同じく綺麗な青色の瞳に金髪のセミロングであり、何処となく若い母親の様にも見て取れた。


しかし実年齢はそこそこ上の為、数字についてはあえて伏せて置く事としよう。


そんな彼女の出迎えを受けたギラムは作業を終えると手荷物を持って自宅へと向かって行き、道中にてフィルスターを呼び自身の肩の上へと移動させた。それを視た母親は新たにやって来た家族を見て笑顔を見せた後、名前を聞き幼き龍の頭を優しく撫でるのであった。


そして外での応対を軽く済ませた後、二人は家へと入って行った。ギラムの後に続いてグリスンも付いて行くと、彼は軽く配慮しながら彼を家へと上がらせた後、自宅の扉を閉めるのだった。




部屋へと上がり込んだ彼等の視界に映ったモノ、それは清涼感を感じられる白と空色のコントラストだった。手縫いと思われるファブリック達によって飾られた家具達は、長期不在と化していたこの家の長男を静かに出迎えるかのようにその場に顕在し、使い慣れた様子でギラムはザントルスの鍵を靴箱の上に置かれた、金色の龍の形をした灰皿の上へと置いていた。

後から聞いた話によると『父親の遺品』との事ではあったが、今も尚使われている所を見ると現役バリバリの活動っぷりとも言えなくはない。しかし使用用途が少々以前とは異なる為だろう、灰皿の底には他の縫物達同様に白のレースが敷かれており、鍵にも優しい定位置と化していた。


玄関から一番近い位置にある部屋へと通されると、そこはリビングだ。廊下と似た縫物ではあるが色味が少々異なる淡い橙色の色彩が眼に入り込むも、眼には優しくギラギラした印象を覚える事は無かった。木製の手作り感溢れるソファにはクッションが点々と置かれており、これまた可愛らしくデフォルト化された恐竜の足跡の刺繍が施されていた。

男児であるギラムの家にあっても違和感が無いながらも、そことなく女性らしさを組み込んだ小物達はファンシーとも言えなくはない。全面的に母親の趣味なのかもしれないが、何処か息子であるギラムを意識している感じも思わせる雑貨達であった。


そんな相互の意図と想いが交差するリビングのソファにグリスンは珍しそうに見ていると、ギラムはフィルスターと共に「二階へ行って来る」と彼と母親に告げだした。声を聴いた母親は返事を返しつつお茶の準備をしだすのを見て、グリスンは彼の後に続いて一度廊下へと移動し、階段を登って自宅の二階へと向かって行った。




自宅の二階は暖かい南側に窓を構えた廊下が続いており、奥には物置部屋と思われる個室と彼の言う『自室』がそこには有った。階段から一番遠い場に位置するその部屋へと向かって行くと、そこには大柄な彼が今でも寝られるセミダブルサイズのベットと共に、自宅のマンションにもあった作業用のデスクが一つだけ供えられていた。部屋には他に目立った小物は無く「全てクローゼットに入っている」と告げられると、グリスンは許可を得てクローゼットを開けてみた。


そこには幾つもの間仕切り用に連なったすのことコンテナが彼を出迎えだし、スケルトン素材で中身が見える状態で雑貨達が保管されていた。とは言っても、大人になった彼が普通に楽しめる様なモノは基本的には無く、彼の幼少期時代から治安維持部隊に所属する前まで使用していたモノ達がそこに居ると、ギラムは後から教えてくれるのであった。


ちなみに余談だが、雑貨の殆どは『恐竜』に関わる物であり、飾り物もあれば図鑑も文房具もそれに順じたモノが幾つも姿を見せていた。中には今の彼が携帯しているクローバーとそっくりの『蛇龍』をモチーフとした置物まで存在するのだから、グリスンも少し驚く程であった。



「……もしかして、ギラムのクローバーのモデルってコレだったりする?」

「ん? ぉ、懐かしいな。それ、俺と親父とお袋が出かけた先で買ってくれたモノなんだ。」

「ギラムの、お父さんとお母さんが……?」

「あぁ。……そういやその頃からだったな、俺の欲しがるモノがその手の類になって行ったのは。生き物全般は好きな方だったが、爬虫類は特に好きだった気がするぜ。」

「キューッ」

「そういえば、ギラムの家にも『トカゲ』の形をしたラジオがあったね。アレもそんな感じ?」

「あれは俺自身が買ったモノだが、まあそうだな。」


そんな相棒の言葉に引かれてか、ギラムは静かに手を伸ばし先程の蛇龍の飾り物を手にし軽く手で表面を拭いつつまじまじと見始めた。買ってもらった当初から自宅に存在していたその置物には彼にとって幾多の記憶と結びつく代物であり、今は亡き父親との思い出を繋ぐ代物でもあった。何かと懐かしさを覚えながらか、ギラムは自然と笑みを浮かべながら再び飾り物を元の場所に戻し、グリスンに手を引かせ静かにクローゼットを閉めるのだった。


「そしたら、俺夕飯までに外注した依頼を片付けてくるからさ。フィルとお袋を頼んでも良いか?」

「うん、良いよ。気を付けてね。」

「あいよ。」


時折聞かせてくれる思い出話で気分が良くなったのか、グリスンは何時もよりもちょっとだけ眩しい笑顔を見せながらギラムを見送りだした。そんな相棒の笑みを見てか彼も軽く手を振り返事を返すと、母親に声をかけ外へと出て行くのだった。



※単語解説『フローケンザー地区』 第三章で登場しました、リーヴァリィから離れた地区名称です。

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