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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第一話・強面傭兵と願いの奏者(こわもてようへいと ねがいのそうしゃ)
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06 動揺(どうよう)

突如遭遇し、面と向かって会話をする事となった虎獣人、グリスン。彼は自分達の知らない世界から足を運び、自らの姿を目視できる存在を頼りに来たと、ギラムに説明をしていた。

しかしギラムはその話に何処か嘘があると不審に思い、問い詰めた結果、彼はギラムに言えない未来の行末を知っている事を話してしまった。事実を零した事によって嘘が発覚してしまい、彼は交渉を辞め、その場を去ってしまったのだった。




その日の夜の事だ。


彼は夕食と湯浴みを済ませ、ベットの上で横になっていた。仰向けで寝ているため視界には天井が映っており、ベットサイドに置かれた照明器具の淡い光を横目に、考え事をしていた。

『……俺を護りに来たって言ってたが、追い返しちまって良かったのかな………』

湯浴み後のまま横になったため、今の彼はズボンを履いているだけの状態。彼は静かな環境で虎獣人の事を考えており、はたして彼を返してしまって良かったのだろうかと、悩んでいた。

深い理由は何か分からないが、彼は自分の未来に何か不都合が起こる事を予測していた。その前提となる条件として、彼等が視える存在達に話しかけ、自分達の力で護れるだけの力を差し出したい。優しい眼差しの奥にある彼の心が、本当に意味していた事は、果たして何だったのだろうか。彼の行動と思いやりのある会話を思い出しながら、ギラムは身体を動かし、ベットから地面に立ち上がり、ベランダへと向かって行った。

日が沈み時間が経過した外の景色は、街灯と建物から零れる照明達によって、暗い闇の中にほのかな明かりを灯していた。その日は少し雲が浮かんでいたため星空は視え難いが、空気が澄んでいたため、雲間を抜けてちらほらと星が見え隠れしていた。優しく吹いてくる夜の風が彼の元へとやってくると、静かに髪を靡かせ、軽く空気を吸い込み、静かに吐いた。

『……まだ、何処かに居ると良いな。 アイツ。』

気持ちを入れ替え、もう一度会いたいと願いつつ、彼はベランダのガラス戸を締め、床に就いた。







それから時が流れ、翌日の事だ。

朝日が上ると同時に目覚めたギラムは、朝食を済ませ外へと飛び出していた。その日は施設で行う練習の時間までに目的地へと向かう予定だっため、時間までグリスンを探す時間に当てようと決めた様だ。すぐさま行動へと移した彼は、恐らく相手が居るであろう居場所に目星を付け、捜索を開始した。


まず始めに彼が向かった場所は、グリスンと初めて出会った集合住宅周辺の公園だった。周りの人間達には目視できない存在であっても、自分は今でも視れる事を信じつつ、彼は公園へと足を踏み入れた。時間帯は朝早かった事もあり通勤へと向かう人々とすれ違う中、彼は周辺を見渡した後、公園内に造られた花壇に目を向けた。

しかしそこには相手の姿は無く、朝方のジョギングを楽しむ大人達が数人居る光景が広がっていた。

『ココには居ないか……… よし、次だ。』

始めの目星が外れた事を認識すると、彼は次の場所へと向かって走り出した。


次に彼が向かったのは、アリンとの待ち合わせに使用した、都内の一軒家が立ち並ぶ公園だった。先ほどの集合住宅近辺に設けられた公園よりも大きいため、彼は捜索に時間がかかるだろうと考えていた。

しかし、それは予想外の出来事によって終わりを告げる事となった。

『……ん? 清掃中………?』

彼が公園へと入り込もうとしたその時、園内の入口に置かれた立札を目にした。置かれていた立札には『清掃活動中』の文字が書かれており、中ではマスクを着用し、ゴミ袋片手に掃除をする人々の姿があった。中には専用の除草機材を使って雑草を刈り取る人もおり、本格的なクリーン活動を行っていることが判明した。

そんな掃除活動の邪魔が来ないよう、園内の入口4カ所全てに立札が置かれており、ベンチは全て掃除を行う人々の私物が置かれていた。

『掃除でベンチが使えないって事は、アイツが座る場所は何処にもないって事だな。 アイツの気遣いなら、邪魔をすることも考えられないし、ココにも居ないか。』

人々の善意と意識の活動を行う園内を軽く覗いた後、彼は振り返り元来た道を走って行った。



その後も彼は、思い当ったグリスンの居場所を手当たり次第に探していた。



昨日赴いた場所からすれ違ったであろう場所、逃走中に使用した道中全てを回った。アリンと使用した喫茶店では、無理を言って奥を覗かせて貰い、彼が居ないかを念入りにチェックしていた。だが彼の姿は何処にもなく、ギラムは再び自宅へと引き返し、道中を再度確認しながら帰宅した。

そして彼が予定を組んでいた時間が迫っていた事もあり、仕方なく彼は施設へと向かう支度を開始した。施設内で着用する服装へと着替え、道中で使用するバイクの鍵を取り、普段の荷物を手にし外へと出て行った。

外へと出た彼はバイクのエンジンをかけ、エンジンが温まるまで身体を動かし、軽くストレッチを取っていた。普段から身体を動かす事の多い彼の準備運動の様子で、1サイクル行ったと同時にバイクに乗り込み、施設へと向かって走り出した。





パァーンッ! パンッ!!


「………」

その後施設へと到着した彼は、その日の練習課題である『射撃訓練』を行っていた。今回は長銃による射撃訓練ではなく、短銃による室内での練習のため、地下に用意された専用の射撃場で行われていた。練習とはいえ、使用する物は実物の物であり、弾丸も本物を使用していた。

今回彼が使用しているのは、『S&W M500』と呼ばれる他国で造られた回転式拳銃だ。銃身の長い銀色の拳銃は、彼の大きな手にしっかりと握られており、ギラムのお気に入りの拳銃であった。課題演習の際は必ず愛用する代物なのだが、使用している物は治安維持部隊で管理する物のため、彼の私物ではない。しかし確実な腕前を持ち合わせているためか、数十メートル離れた場所にある的に対し、確実に中央を捉えていた。両手で掴んだ銃から放つ立ち姿は、とても勇ましい漢を感じる姿であった。

『……フフ、今日も好調ね。』

そんな彼の後ろには、演習の記録を付ける教官としてサインナが立ちあっていた。手にしたペンを軽く回しながらルージュを釣り上げ、何処か満足そうに笑みを浮かべていた。

彼女は元々彼の指導を受けていた事もあり、彼の腕前は観察するまでも無い事は理解していた。左腕で抱える様に持たれたファイルには、実演者の成績を記録する紙が挟まれているが、彼女はほとんど記入していなかった。紙には『持ち方・体制・得点』と、観察しながら記入しなければならない項目があるも、彼はそれに値しないと彼女は考えている様だ。


つまり、視ながら記入しても、見終わってから記入しても、彼は同じという事だ。反動の一番強い拳銃が手から離れない様に握られ、撃つ度の体制は変わらず、弾丸はしっかりと中央をとらえている。そのため、勇ましさをしっかりと見届けたい気持ちがある様だ。

『……結局、グリスンは見つからなかった。 もしかしたら、もう俺には視えないのかもしれないな……… 奴が諦めたら、目視できないっていう事もあるかもしれないし、探すだけ無意味だったのか………?』

背後から見守る現役陸将の眼差しに捕らわれず、黙々と発砲するギラムであったが、意識は別の方向へと向けられていた。

早朝から街中を捜索し虎獣人の姿を探すも、彼は再び再開する事は叶わなかった。人間を捜索する時の様に『聞き込み』が使えない事もあるため、情報を収集し捜索を行う事が出来なかったのも、見つからなかった一つの要因と言えよう。しかしそれ以前に、相手は『特定の相手にしか視えない存在』と言う事もあったため、条件によっては彼自身も目視が出来なくなっているという事も、ゼロではない。結果的に何が理由で見つからなかったのかは分からないが、再度再開する事が出来ない事実だけが彼に突き付けられていたのだ。


先日のやりとりで、すぐに彼の申し出を受けていれば良かったかもしれない。どんな事が待ち受けていようとも、それが逃れられない運命ならば立ち向かうしかない。立ち向かえるだけの心持が有りさえすれば、何でもこなすことが出来ると信じたい。


でも、自分には何が出来るのだろうか?


何処か考えと結論が見つからず、葛藤する様子で彼は引き金を引いた。その時だ。



バスッ!


「あっ………」

「?」

先ほどまで的の中央を捉えていた彼の腕は、何時しか手元がずれてしまい、的の後ろにある壁へと命中した。的に命中した際の音とは違う空振りした音が聞こえた瞬間、彼は呟き交じりに失敗した事実を目の当たりにした。

そんな彼の声を耳にしたサインナは、その場から移動し、彼の横に立ち的を見つめ出した。人型に切り抜かれた黒と白の的の中央に開けられた風穴のほかに、的の背後に用意された分厚いクッション性の壁に、1つの風穴が開けられていた。威力重視に造られた拳銃から放たれた一発は、軽々と壁を貫通してしまうほどの威力であったことを物語っていた。

「………珍しいわね。 貴方が的を外すなんて。」

手にしていたファイルに結果を記録した後、彼女はギラムに声をかけた。声を耳にした彼は、申し訳なさそうに右目横のこめかみを掻いており、手にしていた拳銃は静かに地面へと向けられていた。

「………すまない。 訓練中に考え事をするなんて、俺らしくねえな。」

「考え事?」

彼女の問いかけに対し彼はそう答えると、何故手元がずれてしまったのかを説明した。説明を耳にしたサインナは再び不思議そうな眼差しを見せた後、少し考える素振りを見せ、静かにファイルを閉じた。その後彼が手にしていた拳銃を静かに受け取り、拳銃の定位置である台の上に静かに乗せた。

「今日はこれくらいにして、少し休憩しましょ。 コーヒーでも飲まない?」

「あ、あぁ……… ……そうだな。」

軽く何かを悟らせるように彼女は言うと、訓練を止め休憩しないかと提案した。提案に対し彼は少し戸惑うも、彼女は何かを理解しているかの様な眼差しを向けていたため、静かに頷き返事を返した。

返事を聞いた彼女は軽く笑顔を見せた後、二人はその場を後にした。




施設の地下に用意された訓練場を後にし、二人は階段を登り同施設の三階へとやってきた。向かったのは隊員達が好きな時に休める喫茶スペースであり、大きなテーブルと椅子が置かれ、壁際には自動販売機が備え付けられていた。自身の手持ちのお金を入れて喉を潤す事も出来れば、軽い雑談をするには丁度良い場所なため、多様な用途で使用される部屋であった。そのため、一種の『談話室』と言っても良いだろう。

現在は隊員達全員が訓練を行っているため、二人の貸し切り状態だ。部屋へ先に入室したサインナはその足で自動販売機の元へと向かい、上着から財布を取り出し、小銭を投入した。

「ギラムは何にする? いつもの珈琲?」

「あぁ、珈琲で頼むぜ。」

「了解よ。」



ガコンッ


「……… はい、どうぞ。」

「ありがとさん。」

慣れた様子でギラム用の珈琲を取り出すと、彼女は静かに手渡してきた。受け取った珈琲に対し彼は礼を言うと、プルタブを引き、栓を開け珈琲を口にした。冷たいアイスコーヒーが彼の喉を潤し、少し苦みのある豆の味が舌を楽しませていた。

一口飲み終えた珈琲で心が落ち着いたのを確認すると、彼女は近くのテーブルへと向かい、彼に座る様提案した。彼女からの提案を聞き、彼は静かに椅子へ腰を下ろした。

「それにしても、貴方が何かを悩むなんて珍しいんじゃないかしら。 何かあった?」

同じく珈琲を購入したサインナは栓を開けた後、先ほどから抱いていた疑問を彼にぶつけてみた。問いかけに対し彼は返答に困る様子を見せており、彼女はますます不思議そうに首を傾げ、珈琲を口にした。

「まぁ、私に言えるほどの悩みでなければ別に良いのだけど。 今後も少し続く様子なら、私も何か策を練らないといけないから。 もし女性の私でも話を聞けるのなら、聞かせてくれない?」

「………話せる事は話せるんだが、ちょっとおかしな話に聞こえちまうんじゃないかって、思えてな。 悪い。」

「了解よ。 ……じゃあ、話せるところで構わないわ。 教えて。」

「解った。」

軽く押しに負ける様子ではあったが、彼女の気持ちを悟ったのか、ギラムは素直に伝えだした。彼の言葉を聞いた彼女は静かに頷いた後、彼の話に耳を傾けた。

「一昨日からなんだが、ちょっと変わった奴を見かけてな……… そいつと昨日の夕刻まで話す機会があって、話をしたんだ。 名前は『グリスン』っていうやつなんだが。 知ってるか?」

「隊員達の名前はちゃんとチェックするけど、多分私達の同士ではないわ。」

「そうか…… ……それで、そいつは俺に何かを行いたくてその日はやって来たって言ってたんだが。 俺、断っちまってな……… 突拍子もない話だったし、何か裏が見え隠れしててすぐには返事が出来なかったんだ。」

「悪徳商法でも持ちかけられたの?」

「ぁ、いや。 そういう犯罪紛いな話題じゃないんだけどな。 ちょっとおとぎ話に近い話だったんだ。」

軽く曖昧な部分が見え隠れするも、サインナは彼の話に耳を傾け、彼の抱える現状を理解するように質問を返していた。

人間相手であれば話しやすい部分もあったが、相手は視えない存在が多い謎の虎獣人。話した内容も頼まれた内容も、普通の日常生活では中々出会えないやり取りと言っても、過言ではないだろう。地球上に存在しない話ともなれば、それはもう伝え辛い事この上ない。

しかし何処か現実味のある話だっため、彼は何処となく濁す以外は素直に彼女に話すことが出来ていた。

「……で、そいつの話題に疑いの目を向けてたら。 とうとう、そいつが本音を話してな………」

「本音?」

「『俺を利用するためではなく、純粋に俺と行動出来たら何かを変えられるんじゃないかって思ってる』って言われてな。 俺を本当に頼って来てくれたんだって知って、ちょっと後悔しちまってるんだ。」

「ギラムを頼って来た……ね。 ちょっと上手い話に聞こえなくはないけれど、貴方から視て、その子の言った事は本音に思ったのよね?」

「あぁ。 俺が呆れ混じりに嘘をつかないと駄目な相手に見えるかって言ったら、アイツ急に態度を変えて一生懸命に俺に言ってくれてな。 もちろん、それで今まで言い繕ってきた事が、嘘に変わった時でもあったんだが。 ちょっと嬉しくてな。」

悩み話をしていたはずのギラムだったが、何時しか普段の笑顔とは違った表情を見せ始めていた。

グリスンからの話は何処か曖昧な部分があったが、しっかりと自分の事を考えて告げた言葉が含まれていた。その言葉は何処か懐かしく、今の自分が忘れかけていたモノを思い出させてくれるような、不思議な言葉。頼りなくも幼い雰囲気を見せる虎獣人には、自分を変えてくれる力を秘めているのではないか。


疑惑に満ち溢れていたやり取りとは裏腹に、今では彼の視えない魅力に興味がわいてきた様だった。


そんな彼の言葉を聞いた彼女は話を聞きつつ、珈琲を口にした後、静かに質問を投げかけた。

「その子って、貴方から見て結構幼い感じに見えた?」

「あぁ、まぁな。 見た目の割には子供っぽい気がしたぜ。」

「出会った後の話し方と、その話題を振られた時の話し方。 何か差があった?」

「差って言う差はねぇが。 しいて言えば、不安な気持ちが無くなったみたいな気がしたな。 フォローもあったからなのかはわからないが。」

彼女からの質問に対し、彼は話し方や容姿に関する答えを伝えた。

口答による解りやすい反応からの分析もそうだが、当の本人が誰なのか分からない彼女からすれば、一番気がかりな点だったのだろう。確信を付ける部分を彼から聞きだし、その後彼女は最終的な結論を述べた。

「……じゃあ、きっと貴方の感じた感想に間違いはなさそうね。 その子の話、多分事実よ。」

「そうか………! ……また会えたら、ちゃんと話を聞いてやりたいんだが。 今朝から居そうな場所をかたっぱしから探したんだが、見つからなくてな。」



「大丈夫よ。 貴方なら。」



「え?」

彼女からの言葉を聞いたギラムは嬉しそうに返事を返すも、何処か困っている事があると彼女に伝えた。今朝の捜索で手がかりすら掴めなかった事もあるが、未だに『虎獣人が視えるのかどうか』が、気にかかっているのだろう。そんな彼の言葉を聞いて、彼女は静かに言葉を伝えだした。

「貴方って、結構縁とかが強い方だから。 干渉する事は苦手なのは解ってるけど、きっと会えるわ。 その子に。」

「……そうか。 そう言ってくれると、なんか励みになるぜ。 ありがとさん、サインナ。」

「別に良いわよ、これくらいね。」

ギラムの事を励まし背中を押すように言葉を伝えると、彼は確信は無いが自信を得た様子で、笑顔を見せ始めた。彼の笑顔を見た彼女は嬉しそうに笑顔を見せ珈琲を口にすると、静かに立ち上がり彼にこう言った。

「頑張って。 ギラム元准尉。」

「おうっ!」

励ましを受けた彼は威勢よく返事を返し、手にしていた珈琲を一気に飲み干した。


その後彼は、彼女の考えていたメニューを全て後日に回してもらう事と引き換えに、その日の演習は全て終了してもらう事にしてもらった。軽く無謀な注文であったのに対し、彼女は潔く条件を受理し、後日に全てこなせる様再度やってくる日のスケジュールに組み込んだ。新しく出来上がった予定表を受け取った彼はその場を後にし、駐輪場に停めていたバイクに跨り、勢いに身を任せ外へと飛び出して行った。

まるで夢を見出せた青年の様に、瞳を輝かせながら颯爽と走っていくのだった。

『フフッ。 そう……… 彼もまた、私と同じ運命を辿る人になるのね。』

施設内から遠ざかるバイク音を耳にしながら、彼女は窓際から外を見つめ、心の中で呟いた。手にしていた珈琲を口にしながら、目でバイクの影を追っており、何処か忘れかけていた想いを思い返している様にも視えた。

自身の上に立ち、憧れを持って輝き続けていた、数年前の准尉を務めし青年。今の彼は直系の上司には属さないものの、今も変わらずに活動を続け、自信の前に現れる姿は、何処か不思議な想いを抱かせる相手であった。



彼にとっての幸せが何なのか、彼女にはそれを理解する事が出来なかった。



しかし今となっては、その希望を見つけ出せた様子で、あの時の輝きを思い出させるギラムが勇ましく視え始めていた。再び彼直属の部下になってしまいそうな、そんな気持ちさえこみ上げてる程であった。

「………でも、こればっかりはどうなるかは解らないわね。 ギラムが契約するエリナスは、一体どんな相手なのかしら。」

口にした珈琲を飲み干した後、彼女は静かに声のトーンを落とし、静かに背後を振り返った。

するとそこには1人の影が浮かんでおり、彼女の元へと近づき軽く頷く仕草を見せた。彼女よりも背丈が高く、無駄の無い身体付きをした存在だった。


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