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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
序章・初花咲いた戦火の叙景(ういばなさいた せんかのじょけい)
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02 大臣のお気に入り(だいじんの おきにいり)

そんな彼の仕事ぶりは、人を良く見ているだけではない。体力は他の隊員達よりも一回り多く、なおかつハードなトレーニングもめげずに取り組んできた実績が今の彼の身体付きだ。盛られた分厚く出た胸板は逞しく、服の上からでは解らない腹筋も割れ目が非常に良く出ている。腕や足もボディに負けないくらい鍛え上げられており、普通に隊長では無く『SPセキュリティポリス』として行動が出来そうなくらいに屈強そうな身体つきをしていた。

もちろん彼の自慢になりそうな部分ではあるが、彼はそんな強みもあまり自慢げに話す事はない。

もう1つの強みと言える部分でも、その考えは良く出ている。



バンッ…! バンッ!!


施設内の地下に設置された射撃練習場では、短銃による射撃訓練が行われていた。遊びで両手持ちの構えを取って撃つ者も居る中で軽く指導を入れつつ、彼も銃を手にし目標を静かに見定める。その後ゆっくりと引き金を引き弾丸を発射させ、見事に額を打ち抜く技量も持ち合わせていた。

「うわぁ… やっぱ准尉はすげぇな…」

「何か、片手で撃ってても絶対様になるよなっ カッケェー!!」

「ハードボイルドって奴か…?」


「ほらほら、雑談してないで練習しな。 しっかり練習すれば、これくらい出来るようになるからさ。」

「おーっすっ!」

紅色のロングコートを纏い手のサイズに合った銃を構え撃つ姿は、さながらガンマンと言った所だろうか。治安維持部隊という拘束がありそうな雰囲気さえも圧倒させる様なその撃ち姿は、隊員達を何処か魅了させる漢を感じさせる。若い隊員達と左程年齢が変わらないのに対し、その雰囲気は一体どこから感じさせ、そして何故そこまで魅了させる様な撃ち方が出来るのだろうか。

隊員達の憧れにもなりつつあるが、それでも彼は謙遜する。そこがまた、ある意味眼差しを集める態度なのかもしれない。

「准尉! 無礼ながら、また片手での射撃をお願いします!」

「ぇっ、また片手か? …お前等本当に好きだな。」

「お願いしまーーーすっ!!」


「…まったく。 一度だけだぜ。」

「あざーっすっ!」

そんな厳しいポジションに居る中、その年齢差がない事から親しまれているのもまた1つの例として挙げておこう。普通であればそんな申し出をする事すらしないであろう部下達が、理想をさらに憧れに変えるべく彼に申し出る。無論早々にそんな事をするものではないと准尉の彼も思うものの、断った所で彼等が諦める事はしないため受理する日はすんなり返答するのだった。

仕方なく彼は部下達のおねだりを聞くべく、使っていた銃に弾丸を1つ入れ安全バーを降ろした。左手で構えた先に再び目標を見定め、引き金を引いた。



パァーンッ!!


「…おぉーーー!!!」

彼の放った弾丸は先ほどとほぼ同じ場所で目標を撃ち抜き、隊員達の歓声を集めていた。軽く撃った反動で腕が上がる所がまた彼等の理想に近かったのか、歓声に続いて拍手が次々と練習場内に響き渡る。現状で使っているのが今いる面々だけの為、基本的に上からの注意も無く事なきを得る事がほとんどであった。

「ほらほら、練習に戻れ。 あんまりサボる様だと、午後のメニューをハードにするからな?」

「おーっすっ!」

その後やるべき事をやって満足させた後、彼はそう言い部下達を持ち場に戻すよう促した。部下達は見るモノを見れて満足した様子で返事を返し、駆け足で持ち場に戻って行った。

「…ふぅ。 あんまりやると怒られるのに、アイツ等もこりねえな。」



「ギラム准尉。」

「? マチイ大臣。」

そんな調子のいい部下達に軽く振り回されつつも銃を台に置いた時、後方から声が掛かった。誰が来たのだろうかと彼は振り向くと、そこには彼よりも豪華な紅色の服装に身を包んだ初老の老人が立っていた。


彼の名前は『マチイ・ルイーネ』

現代都市治安維持部隊の大臣であり、陸軍部隊を含む部隊4つの全ての指揮を執る最高責任者だ。ギラムの上司の上司の、それまた上司と言うとてもかけ離れた位置に居る人であり、部隊皆の『親父』の様な存在である。

「今日も部下達を飽きさせず、満足させるやり取りを拝見させてもらった。 片手の腕前も、前より良くなったんじゃないかな?」

「恥ずかしながら、時折部下達にせがまれ断るのが難しくなってきまして… 准士官とはいえ、部下に圧倒される面はまだまだ未熟です。」

「いやいや、謙虚になる事は無い。 そのやり取りが上手い事も、部下を纏める面では信頼になる上、銃の練習も監視員である君の腕を落としかねない。 ワガママを常に聞く様にとは言わんが、その腕前を落とさぬ様気を付けたまえ。」

「はい。 ありがとうございます、大臣。」

そんな父親的な存在は時折部下達の仕事を見る様に訪れ、上司との話で部下達の功績を耳に入れようと出向いていた。半ば抜き打ちに近い行動ではあるがそれもまた彼のプレッシャーを減らしてくれる行動であり、身内の少ない彼にとってとても嬉しい事だった。優しげな眼差しを向けられ、ギラムは静かに笑みを返していた。



「…ところで、目元の傷の具合はどうかな。 あれから医者の元に何度も出向いているそうだが、それ以上の完治は無いそうじゃないか。」

そんな彼との他愛もないやり取りをした後、大臣は彼の顔に刻まれた傷跡の事を気にかけていた。彼の右目付近に刻まれているのは、赤く翼を生やしたかのように広がる古傷であり、彼の顔をさらに強面に仕上げている。

だがこれは彼自身が望んで刻まれた物では無く、ある事件に巻き込まれた際に出来た物であり、一時期『失明』する事を覚悟しなくてはならないくらいの大きな怪我を負った際の名残だ。無事に手術も成功し失明は免れがれるも、治癒だけでは治りきれなかった皮膚が無残にも刺青の様に残っているのだった。その怪我のおかげで彼は他の部下達からも恐れられる事も多く、話をしない限り避けられる事の方が多かった。無論今の仕事場の様な場所でなければ、もっと他人との距離は開くだろうと思い彼はその場を離れず、大臣の期待に応えるべく仕事を全うし部下達の配慮を忘れないようにしていた。

自分の様に浮いてしまう存在を1人でも減らし、もっと自分に誇りが持てるようになりたい。それが、今の彼の望みなのだ。


「君が良ければ、私の信頼する医師へ招待状を書くんだが… 君は良いのかい、そのままで。」

「大臣のお心遣いはとても嬉しいですが、俺は今のままでも大丈夫です。 無理に顔を変える事は両親にも悪い上、こうなった以上は准士官としての仕事を全うする様、全力を尽くすだけです。」

「…そうか。 では、気が変わった時にはまたいつでも言ってくれたまえ。 君の功績は、これからも楽しみにさせてもらうよ。」

「ありがとうございます。」

そんな密かな望みを察してなのかは解らないが、大臣はこうしたやり取りをして彼の事を一番に気遣っていた。若くして理由を持って入隊した彼の事を一番理解しているのがマチイであり、彼の父親が数年前に亡くなった事も把握している。母親は遠い故郷で1人働きながら生活している事もあってか、彼は決して仕事に抜かる事無く絶対に親に心配をさせたくない一心で働いていた。

ただただ真っ直ぐなその一心で居る事を悟り、無理を言わずに彼の好きなようと、相手はその場を後にした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 少しずつ語り口から組み立てられてく、組織図、そして治安を維持するために欠かせない訓練の日々、彼らが困難に直面しても働けることが楽しみ。
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