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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第六話・狩猟より退けし蒼き護人(しゅりょうよりしりぞけし あおきもりびと)
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23 祝詞(コトバ)

不意打ちとも言えなくはない相手からの一撃を受けてしまい、負傷してしまったライゼを背後に隠した現状。ギラムは再び舞い戻った氷龍と並んで対峙する中、イロニックは先ほどから笑みを崩さず怪しげな眼光と共に掌で鞭を軽く叩く仕草を見せていた。


正直に言ってしまえば、先程から面と向かって応戦している相手の顔は尋常ではない。普段から何かと突っかかって来る傾向があった彼ではあるがココまでの不気味な笑みは浮かべてはおらず、あってもせいぜい『相手を不快にする様な微笑』と言った方が正しいだろう。完全に創憎主の領域に踏み込んだ上で応戦していると言っても、過言では無かった。


ギラム達からすればザグレ教団員全員がこの手の連中と考えて居る為、必然的な変化と言っても良いのかもしれない。



そんな彼との応戦は身に染みている以上に、とても手ごわいモノと化していた。


『それにしても、これじゃ攻防一戦だ…… ライゼはもちろん守りたいが、それよりもサインナとラクトの事も心配だ。早くケリを付けねえと。』


下手に仲間の位置を動かさずに相手の攻撃を反らした後、ギラムは自身の力と共にラギアとの連携攻撃を繰り出していた。相手が狙って来るのは自分と踏んでいた事もあったが、元よりイロニックは自身を倒しその上で別の策略の元で計画を進行するつもりである事は明確であった。先日伝達係としてやってきたフールの発言をそのまま信じれば現にそれが正しく、仮に標的をライゼに移そうものなら全力で護るつもりで戦っていた。


そんなギラムの考えを知ってか知らずか、ラギアは空中を舞うかの様に移動しつつ咆哮を放ち、周囲に自らの領域を展開する様に相手をじわりじわりと攻め続けていた。無論氷龍自身が本気を出して応戦しているかは怪しい所だが、それでもギラムにとってより良いタイミングで援護をしている事には変わりはなく、イロニックにとっても双方共にとても厄介な存在と化していた。

先程から人数的に不利な部分を諸戸もしない攻め方をしていたとはいえ、こうも人間紛いな立ち回りをする相手が居ては簡単に攻略も出来ないのだろう。しかしそれでも変わらない喋り方と笑い顔を浮かべている辺りを見ると、既に正気ではないのかもしれない。



段々と変化しつつある戦況と共に、ギラムが疲労感を感じ始めていた時だった。


『このままじゃ拉致があかねえな……… なんとか突破口を創らねえと。』




《力が欲しいか、汝よ。》

「ん?」


不意に自らの思考を読み取ったのか、彼の耳元で囁く様な声が聞こえてきたのだ。突如聞こえて来た声に軽く声を上げて辺りを見渡した時、遠方で舞っていたラギアが視線を向けながら瞳で訴えかける様に言葉を続けて来た。


《汝がこのいくさめっする力をほっするのならば、我はその為の力をくれてやらない事は無い。》

「……… 俺には多すぎる力だ、それは出来ない。」

《身に合わぬ事は言わぬ。汝の身体が耐えられなければ、我はその様な提案などはせぬ。助けたいのだろう、仲間と呼べる者達そんざいを。》

「………」


あくまで自身にしか聞こえて居ないかの如く言葉を続けてくるラギアに対し、ギラムは視線をずらしイロニックと応戦しながらその声を聞き流していた。どうやら相手側にもそれ相応の力の蓄えがある様子であり、自身とは違いまだまだ立ち回れるかのような口振りでギラムに話しかけている様にも感じ取れた。

口元を一切動かさずに伝えて来る辺り、その様な意図があると言っても良いだろう。


そんな創誓獣の問いかけを聞きつつ相手の攻撃を弾き返したその時、彼は長杖を振りかざし再び周囲に氷の壁を展開しだした。攻撃を見かねたイロニックが再び距離を取りながら壁を粉砕する様に武器を動かす中、彼はラギアの声に返答する様に言葉を告げだした。


「………会得し過ぎた力は、身体の崩壊を招くはず。現に真憧士達が創憎主側に傾く事例が出始めてる……そっちの制御は、ラギアなら出来るって言うのか。」

《造作もない。》

「何故、お前にはそこまでの事が出来るんだ? 創誓獣のルーツは俺にはまだ理解出来て居ないが、魔法で創りだした存在なら……それをコントロールするのはクローバーのはずだ。」

《然り、その考えは正しい。だがそれも只人ただびとの真憧士に通用する解釈で在り、全存在達に通用する知識モノではない。お前はそれを凌駕りょうがする。》

「俺が……?」


会話に集中する様に護りを固めたその時、ギラムは視線を再び反らしラギアと面と向かって話す様に顔を向けだした。それを視たラギアも応えるかのように首を動かし身体を向ける中、相手に諭されない様に周囲に吹雪を発生させイロニックの動きを封じるかのように応戦を続けだした。無論それによってイロニックからの反撃も予想しており、武器から放たれる刃を蛇口しながら華麗に避け、尚も足止めをするかのように行いを続けるのだった。


しかしその間も、彼等の間でやりとりは続けられていた。


《汝は人間であり真憧士リアナスとする一方、相対する存在達が言う様に只人ではない。幾多の出来事によって紡がれた自らの身体はその領域を超え、既に『変化に適応する形』と成った。汝が望み我が承諾すれば、それも可能という事だ。》

「………」

《無論、只人が生涯の中で起り得る確率が乏しい事を行うわけだ。その身に対する一時的な損傷そんしょうも大きいだろう、望まなければそれでも構わぬ。当然の選択だ。》

「……… ……身体を失う可能性はあるのか、それは。」

《否、損傷であり損壊そんかいではない。汝の身体の造りだ、それは保証しよう。恐れるか、自らを失う事を。恐れるか、身にそぐわぬ力を得る事を。》

「……自らと言うよりも、仲間達からの見解で……だな。俺は俺自身の選択でココまで来れた様で、そうじゃない事実が幾多も目の前でやって来たんだ。軽々しく大事な事を決めて、失う訳にはいかないって意味さ。例え戦況を覆す事が出来る術と、それに必要な条件が揃って居ても……な。」

《………》

「それでも、ラギアがそれだけの事を言って来てくれた事に対しても解らなくはない。それだけの選択をしなければイロニックは止められねえだろうし、ライゼの命を危険にさらす事にも繋がりかねない。サインナとラクトが今どんな状況下も解らない上に、領域外のリーヴァリィに生活する仲間達の事も気がかりだ。コレが罠だとしたら、俺は相当な選択ミスをした事になるからな。」

《……… ……自らよりも、他者を選ぶ選択をするか。汝は。》

「俺は、俺だけの力で生きては来れなかった。だったら今度は、それだけの事をして俺自身にしか出来ない事をしたい。……まさか傭兵って言う仕事を選んだ時以上に、こんな感覚を得られる事態が来るとは……思ってもみなかったがな……!!」

《……それでこそ、真憧士である汝らしい選択だ。我に相応しいぞ、ギラム。》



「貸してくれ、ラギアの本当の力を!!」

《心得た。》


そしてやり取りが終了しギラムの瞳が先程以上に希望に満ち溢れたその瞬間、彼はラギアからの問いかけに承諾する様に叫び出した。声を耳にしたイロニックは目の色を変えて武器を先程以上に大きく振りかぶり、刃で氷の壁を粉砕する速度を上げだした。


段々と迫りくる相手の姿を余所にギラムはラギアをみつめた、まさにその時だった。


《身に感じし祝詞ことばを叫べ。さすれば我は応じ、放ち、奴の動きを封じよう。》

「コトバ……?」

《さあ、考えている暇は無いぞ。前からだ。》

「んなっ!?」



ガィン!!



行いに対し受理しまさに行動に移すと思っていた矢先、不意を突いて来たのはまさかのラギアの方だったのだ。契約をするも諸段階で躓くかのような感覚に陥った瞬間に告げられた言葉を耳にし、ギラムは慌てて長杖を構えやって来たイロニックの攻撃を面と向かって受け止める体制を取り出した。


武器同士が衝突し鈍い金属音が響く中、先に叫んだのは相手の方だった。


「ブツブツと独り言を言っている暇が何処にありますかああ!!」

「クッ!!」

ってやると、私は言ったはず!! ケモノ染みた貴様の血を全て取り除き、真人間へと変えて世に送り出す事が私の務め!! 戦友を石碑に納めなくて、何が二等陸佐か!!!」


そしてギラムが手にする長杖を弾く様に鞭を振りかざし放った一撃を見て、ギラムはあえて攻撃を避け距離を開ける様に後方に下がりだした。しかしそれでも間合いを詰めて攻め続けて来る相手を視た彼は懸命に攻撃を防御し、相手の叫び声を聞きながらも少しずつ少しずつ後方に推される様に動かざる得なかった。


行動を見かねたライゼが武器を手にし援護を試みようとするも、下手に行動すれば再び標的が移りかねないと判断し銃では無く盾を構える事を選んだ。様々な想いが互いに交差しだした、そんな時だった。


「ケモノに騙された身として、せめてもの贖罪を行うだけ!!! 身に染し罪を認め、悔やみ、懺悔ざんげし、全てを捨てろ!!! ケモノ何て……ケモノなど………!! 私には要らない!!!」

「!!」



ガキンッ!!


「クッ!!」

「そう叫びたければ……そう叫ぶが良い!! だがそれが俺との関係性があるか、それを決めるのはお前じゃない!! 俺自身だ!!」

「何をっ……!!」


相手の発言を耳にし眼の色を再び変えたギラムは、相手からの攻撃に対し反撃をするかのように長杖を振りかぶったのだ。不意の動きを見かねたイロニックは咄嗟に鞭でその一撃を防御し、間一髪で一撃を免れた時、相手と視線がぶつかり合った。

普段以上に強面な彼から向けられた殺意に近い眼光に、一瞬相手はたじろいでしまう程に彼は怒りを覚えていたのだ。


「勝手に罪に溺れて、創憎主扱いされたらこっちだって迷惑だ!!! その戦いに巻き込まれたグリスンやライゼ達、他の真憧士だった創憎主達を……お前達の様な連中に殺されてたまるか!! そんな考え、俺が根本的に変えてやる!!!」

「!?」


応戦の最中に自らが感じた感情を、彼はそのまま言葉に乗せて武器を振るった。あたかもグリスンが放った事のある氷の魔法の如く、武器の軌跡に合わせて波間の様な氷の彫刻が出来上がり、即座に炸裂するかの如く弾け飛んだのだ。この行いには驚きを隠せなかったイロニックは、武器で弾きながらも後方へと下がらざるを得ず、距離を開けだした。


そして間髪入れずにギラムがラギアの名を大声で叫んだ、まさにその時だった。


《叫べ、真憧士ギラムよ。》

「……凍てつく風、全てを創り換える風と成りこの場にげ……!! 『氷撃ひょうげきの……青龍乱舞せいりゅうらんぶ』!!!」



パキンッ!!


《グルァアアアアーーーー!!!》

「ッ!!」


彼が祝詞を叫び武器を天へと掲げた瞬間、それは起こった。



空間から聞こえてきた亀裂音は、まるで硝子の作品が砕ける予兆とばかりの様な音だった。ラギアの周囲をまとっていた冷気が音と共に溢れ落ち、あたかもダイアモンドダストの様な煌めきを放っており、見えない殻を破ったかの様な行動の後、状況は一変した。溢れ落ちた冷気はラギアが身体をくねらせたその瞬間、猛烈な吹雪と化して襲いかかり、イロニックは足腰に力を入れてしまい身動きが取れなくなってしまった。

同時に氷点下の猛烈な冷気を浴びさせられた結果、周囲の空気に含まれた水分を次々と凝固させはじめ、あっという間に氷漬けと化し両足を地面に固定してしまったのだ。



ピキッ……! パキッパキンッ!!


「クッ、足がッ……!!」

「ギラム准尉……!」

「ぅっ………ぐっ………!!! はぁあああああああ!!!」


足だけでは留まらない氷は段々と上半身へと登りだし、太腿から腰から全身へと相手の身動きを封じだした。余程強力な力を放っているかの様に軽くギラムが唸り声を上げつつも、気合を入れて再び雄叫びを上げだした時。あたかも身体を覆う水晶の如くイロニックの身体が封じられ、決着が付いたと察し動きを見せた者が居た。


その相手とはラギアで在り、使役主であるギラムの元に居た相手は身体をくねらせイロニックの傍に瞬時に寄りだし、氷漬けと化した相手の耳元でこう呟いた時。周囲に薄くも、響き渡る悲鳴がとどろいた。


《終わりだ。》

【ぐぁぁああああああーーーー!!】



パキンッ!


呟き声と共にケリを付けるかの如く、ラギアはそのまま相手を閉じ込めた氷晶の中へと入り込み、あっという間に氷を粉砕し中から外へ向かって力を放ったのだ。すると再び硝子が砕け散ったかの様な音と共に氷は四方八方へと吹き飛ばされ、同時に閉じ込められていたイロニックも共に上空へと放り出されてしまった。


自らの力を無力化されたのだろうか、無気力な状態で吹っ飛ばされた彼はそのまま歪んだ上空を朧気な瞳で見つめた時、勝敗を悟り心の中でこう呟くのだった。


『私の………戦……友…………が………』



バタンッ……!


後悔と共に敗北者と成った事に悔やみつつも、イロニックはそのまま地面へと落され気を失ってしまった。余程強力な力によって衝撃を与えられた事もあったのか、ギラムが魔法を放った時以上に身体の至る所に傷を作っており、それだけの威力があった事を物語っていた。


そんな極度の温度差による行いで発生した霧が周囲を覆う中、一人遠くから光景を目にしていたライゼは圧倒されつつも自体が終息した事を知り、我に返った。自らの身体が痛む事を忘れて勢いよく身体を動かしギラムの状態を確認すると、軽く息切れしつつ何処となく放心状態の様にも感じられた。

しかし肩で息をするのとはまた少し違った状態である事を見て様子を見ていると、身体が落ち着いたのかその場にしっかりと立ち、ライゼが発した声に返事をするのだった。


「! ライゼ!」

「えっへへへ……… 面目ないっす、助けるどころか助けられてばかりっすよ。」

「何言ってんだ、俺だってそうだったんだぞ。お相子だろ、お相子。」

「そっすね。………ラギア……」

《汝に呼ばれる世は無い。我は再び眠りに就くだけだ。》


何事も無かったかのように自らの元に駆け寄る憧れの存在に笑顔を見せつつも、ライゼは傍に居る氷龍の方が気になって仕方が無かった。自らを透き通った身体と同じくらい澄んだ瞳で軽く一瞥した後、相手はそう告げ静かにその場から消え去ってしまった。


何かと不思議な感覚を抱かせる存在に驚きを隠せないで居た彼であったが、ギラムは何処か違う様子でこう呟いた。


「………ありがとさん、ラギア。」


そして同時に、彼等の戦いが無事に終了した事を倒れたイロニックの姿を見て、彼等は認識するのだった。


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