表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第六話・狩猟より退けし蒼き護人(しゅりょうよりしりぞけし あおきもりびと)
195/302

20 鷹鳥人(ライゼ)

突如としてその場に現れたのは、自らが良く知る慣れ親しんだ部下の一人。蒼色の髪と憎めない笑顔が特徴的なライゼであり、どのような手法を用いてやってきたのかは分からないが相手の展開する空間魔法を潜り抜けて来たのだろう。全身の痺れが落ち着いた様子でその場に立ち上がると、軽く地面に突き刺さった盾と思わしき巨大な武器を背中に抱え直した。



不意に現れた相手に驚きを隠せなかったイロニックであったが、見知った顔だった為かその感情も長く彼を支配する事は無かった。


「……おやおやおやぁ、誰かと思えば元准尉の下っ端少年ですか。ド派手な登場の仕方は、彼の真似事ですかな?」

「もちろん、俺にとっての最大最強の准尉だからなっ。憧れにするのは当然だろ?」

「それはそれは、いささか愚問過ぎる質問だった様ですねえ。」

「ライゼ、お前どうしてここに。今はまだサインナの指示したメニューをこなしてる時間だろ?」


そんな彼に対しギラムは現実的な疑問を彼にぶつけ、何故その場に現れたのかを問いだした。元上司であり友人からの質問に対して彼は後腐れ無い理由をその場で告げだし、軽く振り返りイロニックと対峙する体制を取り出した。ちなみに彼の言う理由とは『サボり』であり、それに加えて『野暮用』というモノであった。


正直に言ってしまえば、ちゃんとした回答にはなっていない。



「イロニック二等陸尉。先ほど准尉に言った言葉、撤回して下さい。」

「撤回? 私が何を言ったと言うのかね?」

「今更隠すなって。……もうそれとなく言っちまったんだろ、准尉に怪我を負った時。何をしたのか。」

「………」


しかし彼には彼の目的があってその場に現れた事、その事実だけは変わりなかったのだろう。彼は上司である相手に臆しない体制で言葉を告げだし、相手の発言が詰まる様な事を続けて言い出した。


その場に居なかった彼が言われた張本人であるギラムよりも、その事実にあたかも詳しいかのように。事実に対する真相を把握している確率が高い様に言い出したその言葉は、とても重みがあったのかもしれない。


相変わらず不気味な笑みを浮かべていたイロニックはやれやれと言わんばかりに肩を竦めた瞬間、ライゼは相手の意図を悟ったかのように眉を顰めだした。


「……… ライゼ。」

「今まで黙っててすみません、准尉。確かに彼の言う通り、貴方の中には人間では無い血が混じっています。この事を知っているのは、本来であれば俺とマチイ大臣だけのはずだったんですが………どうやら漏洩してしまったみたいです。」

「漏洩って…… じゃあ、今の俺は何だって言うんだ?」

「准尉は准尉であって、人間でありリアナスです。それだけは、俺が絶対に保証します。」

「絶対って…… ……本当に、どういう事なんだ……?」


先程から事実確認に勤しむ事しか出来ずにいたギラムであるが、そんな中でもライゼは発言に対して撤回する事も無くただただ事実に安心感を与えるかのように言葉を続けていた。ギラム本人からすれば、突如『自分は人間ではない』と言われている様なモノであり、当り前だと思っていた事が異なる事実ともなれば混乱するのは当然だ。誰しも即座に適応する事はあまりにも難しい内容であれば尚更であり、ましてや『人間』という枠組みから突如外されてしまえば、現実味もまた薄れてしまうだろう。



果たして今目の前に居る二人は、自分の何を知っているのか。



疑いの感覚すらも抱けずに事実確認を急ぎたい彼の意図を感じ取ったのか、イロニックは再び苦笑しながらこう言い出した。


「クックックッ。仕事が変わってしまったせいか、貴方の眼も中々衰えてしまったみたいですねぇ。これだからケモノ交じりの人間は嫌いなんですよ、ましてや貴方の中に注がれたのが『キツネ』だと言う事も。」

「イロニック。お前、何を知ってるんだ! 言え!!」

「そうですねぇ……… せっかくですから、死ぬ間際の今だからこそ教えて差し上げましょうか。貴方は一度、失明と共に命の危険すら問われる事態に会っているんですよ。三年前に。」

「三年前……… ……まさかっ!!!」


そんな彼等から告げられた時系列を聞いた瞬間、彼はある光景が脳裏に過った。


それは今の傭兵として行動する前、彼がまだ治安維持部隊のサンテンブルク准士官として活動していた時代。現在の目元に刻まれた紅い痣が、まさにその時代に出来たモノであり彼にとっても中々に痛手となる切欠であった。



当時の現代都市治安維持部隊は今と行いは大差はなく、外部においても内部においてもその行いは変わりなかった。しかしまだ彼が『獣人エリナス』や『創憎主そうぞうしゅ』と呼ばれる存在達を知らなかったその時、彼は一度治安維持部隊にて外部からの侵入者による一撃を諸に受けてしまったのだ。

まだ当時陸将では無かったサインナが被害に会う光景を黙ってみる事は出来ず、自らの身を顧みずに飛び込んだ結果、彼は身体では無く顔面にその一撃を受け、目元に致命的な怪我を追ってしまった。皮膚は愚か眼球に対しても損傷が出たであろうその時、彼は視界が赤くなったと同時に暗くなった景色と同時に意識を失ってしまい、次に目を覚めた瞬間には現在の痣と共に行動を余儀なくしていた。



彼にとってその空白の時間、そこに謎が隠されていた様だ。


「貴方は施設内に紛れ込んだスパイの一撃をもろに喰らい、眼元を初めとした幾多の器官を損傷し出血多量となった。本来であれば立つ以前に、搬送途中で命を落とすはずの貴方が、今こうして立っている。おまけに双方の眼はしっかりと私の事を捕えている。それはなぜでしょうかねぇ。」

「………」

「解らないようですねぇ。いやいや、これだからケモノは………」

「ッ…… ……けも」



「ケモノケモノって……! いちいち奴等を愚弄するな、イロニック!!」

「の……? 准尉………」


そんな彼の時間軸を語る様に言うイロニックの言葉に対して、ライゼの発言を遮ってギラムはそう叫び出した。突如としてやってきた言葉にライゼは驚き振り返る事しか出来なかったが、その眼は確実に怒りに満ちており彼に対しての発言が本当に納得出来なかったのだろう。あたかも全身の毛を逆立てる獣人の様な怒りっぷりであり、強ちイロニックの言う『ケモノ染みたギラム』という表現は間違いではないのかもしれない。


実際の所どうなのかは、また後で語るとしよう。


「おやおや、ケモノらしく遠吠えですかな? 威勢だけは一人前ですねぇ。」

「お前。動物達が俺達よりもどれだけ大変な思いをしてこの世界を生きてるのか、知らないからそう言えるんだろうが! 俺達よりも確実性のない世界で、命を懸けて生きてるんだぞ! それを自身の世界観に当てはまらないからって、全てを否定するんじゃねえ!!」

「………」

「たくさん生きて、俺達よりも短いかもしれない命を一生懸命に生きてんだ! お前が俺を幾らののしろうと、俺は別に気にしない。だがな、そうやって無関係な奴等を非難するのだけは許さねえぞ!! イロニック!!」

「准尉……… ………」

「フッ。これだから……貴方と言う人は嫌いですねぇ。新しい世界観を視るたびに、それをあたかも正当化させてしまいそうな貴方が………」

「俺は間違った事は言っていないつもりだ。昔の俺と今の俺が違うのは、当然だろうし当たり前だ。俺はもう、この施設の人間じゃねえ。ただの傭兵であって、ただの一匹の男だ。」




「……… やっぱり、准尉は准尉だな。俺に変化をくれた、准尉らしいコトバだぜっ」

「?」


そんな二人の言い合いに対して何かを感じたのだろう、ライゼは不意に呟き交じりに言葉を漏らした。不意に聞こえた部下の言葉を耳にしたギラムは我に返りながら相手の顔を見ると、そこには哀愁に満ち溢れるも何か希望を感じ取った存在の様な表情をしていたのだ。始めて視る顔を眼にしたギラムはどうしたのだろうかと首を傾げていたその時、ライゼは一度空を仰ぎ気持ちを切り替えた様子でギラムを視だした。


そこに写っていたのは紛れもない部下のライゼであったが、その表情はとても清々しいモノであり覚悟が決まった様な桜色の眼をしていた。


「准尉。貴方に対し、リヴァナラスではありえない手法を使って命を紡いだのは俺です。その手法を提案し、マチイ大臣に無理を言って貴方を引き渡して貰ったんです。命を救う引き換えに、ある血を提供するって。」

「えっ、ライゼ。どういう事だ、それは。」

「そうだな…… 今となっては、もう隠しておく必要もねえだろうし………お見せします。」



スッ


そう言ったライゼは先程から背中に背負っていた盾を手にすると、その場で地面に軽く付き刺し盾に重心を預けたままポールダンスの如くその場で回転し始めた。すると次の瞬間には周囲の空気を巻き込むかのようにつむじ風が発生だし、同時に視界が徐々にぼやけ出し彼の身にまとっていた迷彩服に交じりながら、風がその場を薙ぎ出したのだ。何をしたいのか分からなかったギラムとイロニックであったが、次の瞬間にはその場に見慣れない存在が盾に掴まってその場に立っていた。


その場に立っていた相手、それは見覚えのある部下の髪色である蒼色の羽毛を視に纏った若々しい鷹鳥人の青年だったのだ。衣服はそのままに全身そのものに魔法をかけていたのであろう、それをはぎ取った本来の姿がそこにはあった。しかし何処となく見知った部下と同じ雰囲気だけは残っており、先程まで見せていた桜色の瞳もそのままであった。


「!! ライゼ、お前……エリナスだったのか!?」

「そう。俺の本当の名前は『ライゼ・スクアーツ』 マウルティア司教が指揮を執る、衛生隊の部下です。訳あって俺も、この施設に潜り込んでいたスパイに近い存在です。」

「……ライゼも……エリナスだったのか……… ハハハッ、そっかそっか。そりゃあ気付けない俺の眼も、劣ってる証拠かもな。」


改めてその場に現れた存在に対し一同が驚く中、彼はそう言いながら再び盾を背負い直しイロニックと対峙する体制を取り出した。



本当の名前だと告げた彼の正式な名前は『ライゼ・スクアーツ』

リミダム達と同じくクーオリアスで活動する鳥人であり、その中でも『タカ』と呼ばれる種族の青年だ。背丈や体形は『アングレイ』と名乗っていた人間の時と大差は無く、あくまで人間として見せるだけの『魔法』を自らの身体にかけていた様だどういった経緯でその様な行いをしてその場に居たのかまでは分からないが、少なくとも彼の言っていた通り『スパイ』として居たのだろう。


全ての覚悟を決めた様な眼差しのまま言い出す彼の背後で尾羽が揺れる中、ギラムは不意に額へ右手を添えながら苦笑しだした。その声を聴いたライゼは軽く驚きながら振り返り、何故笑って居るのか分からないと言わんばかりの眼差しを向けつつ彼に声をかけるのであった。


「いや、笑ってゴメンな。何でか俺の周りには、俺の事を気にかけてくれるエリナスが多いんだって知ると、自然と嬉しくなってな。グリスンもそうだが、ノクターン達も気づかない所で俺にフォローをしてくれてたって聞いてさ。俺は嬉しいんだ。」

「どうして……ですか? 俺は、准尉の事を監視して……マウルティア司教殿に報告をして………貴方を、被験体に近い形で命を留まらせたのに。」

「それはな、ライゼ。俺からしたら、初めはライゼがそう思わなかったとしても、俺の事を助けたい一心でしてくれた事だと思えるからだ。あの時の俺は死ぬ事も視野に入れて、サインナを庇った。どれだけの致命傷を受けるかもだが、想定以上の痛みに意識が飛んだくらいだ。……現に俺は死にかけたし、そのままライゼが何もしなければ俺は生きていなかった。」

「………」

「だからこそ、命を助けてくれたライゼには感謝するぜ。俺が人間の様で人間でないって言われても、リアナスになってた時からそんな気はしてたからさ。動物達は俺なんかよりも強い身体も意志も持ってるから、傭兵として行動している支えには丁度良いくらいだぜ?」

「准尉………」


緊張感とは無縁過ぎる感情に何度となく場が乱されていたが、それでも彼等にとって一つの節目と成りつつある様だ。ライゼにとって覚悟を決めた時でもあれば、イロニックにとって制裁をする時でもあり、ギラムにとってみれば新たな事実を目の当たりにした瞬間。誰もが即座に受け入れたく、行いたくても出来なかったその瞬間こその空気であり、いろいろと現実離れが起こりつつあるリーヴァリィの真憧士達や獣人達に対する運命なのだろう。


どんな時であっても、どんな事を知っても、どんな風に思ったとしても。ギラムはライゼの事を見捨てる事は無く、イロニックに対しての概念を簡単に変える事は無かったのだった。



彼は味方であり、また彼は敵である。



変わらず苦笑しながら話すギラムに対してライゼがぽかんとした表情を見せていた、まさにその時だった。



「涙とは、似つかわしくないやりとりですねぇ……!!」

「!! 准尉!!」

「うおっ!!」


そんな彼等のやり取りを見て煮え切らない思いを抱いたのだろう、イロニックは突如として手にした武器による衝撃波を彼等に向けて放ったのだ。不意に乱れた風の感覚を悟ったライゼは慌てて自らよりも身体の大きいギラムを押し倒し、そのまま地面に倒しながら背にした盾で魔法を弾き飛ばした。

先程同様に鈍い金属音が響き渡った瞬間にギラムが我に返ったその時、ライゼは体制を立て直し盾を左手で構えながらギラムを護る体制に入った。


「ッ! イロニック……!!」

「私も騙された側として、貴方達の敵となりケモノ全てを消し去るとしましょうか……!! ケモノとなる前の……戦友を助けるために!!」

『戦友?』

「無駄な事を……! そんな事、させるわけねえだろうが!!」


怒りに我を失いつつあるイロニックへ対しライゼはそう叫ぶと、その場に立ちあがり右手を彼方へ向けながらその場で指パッチンをしだした。すると彼の手元に治安維持部隊内でも比較的容易に使われている小銃が現れだし、彼はそれを手にし銃口を相手に向けながら敵意を露わにだした。しかし彼の手元に現れた銃器は黒でも銀でもない『紅色』の代物であり、どうやら彼の魔法によって創り出された代物である事が解った。


それを眼にしたイロニックは左足を下げながら体制を取り、完全に対峙する様に相手を睨みつけた。


「チッ。やはり貴様も、自身の魔法を持っているわけですか。トリ。」

「そりゃあ当然さ。俺達エリナスは、独自の魔法と意志を持って生きてるんだ。俺達が護りたいと想った相手リアナスを、確実に守れるだけの力がなぁああ!! ………ぜってぇギラムを死なせはしない……!! 俺はあの時誓ったんだ!! 司教殿のために被験体を探していた俺が………俺にとっての憧れと成った存在を利用した報いを……一生忘れねえって!!」

「戯言を。模作武器で、何が出来るのか!!」

「なめんなぁあ!」


その後双方共に行える自らの力を行使した戦いの火蓋が、駆けだすと同時に切って落とされた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ