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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第六話・狩猟より退けし蒼き護人(しゅりょうよりしりぞけし あおきもりびと)
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17 伝達(でんごん)

友人達とのやりとりを終えたギラムはその足で職場へと赴き、俗にいう『重役出勤』とも言えそうなくらいの出勤をしていた。しかし実際には事務職ではない彼の勤務は少々勝手が異なる為、実際にそう言えるかは保留しておくべきかもしれない。仕事の確認の為だけに出勤した彼は受付にいつも通り挨拶をした後、所属場所である部署部屋へと足を運んでいた。



「お疲れ様です。」

「ん? おぉ、お疲れさんギラム。」


夕刻となった彼の出勤に合わせて挨拶をすると、彼に気が付いたウチクラは返事をし再びデスク前の画面へと視線を戻した。その日のデスク前に展開されていた画像は仕事の内容と思われる文書ばかりであり、どうやら真面目に仕事をしていた様だ。

しかし一部の画像は俗にいう『如何わしい画像』の為、相変わらずの部分はあったのだろうと彼は内心理解するのであった。


そんな彼が自身のデスクへと赴くと、そこには一つの書類の束が置かれていた。複数枚の書類がセットになった束を眼にした彼は手に取り中身を軽く捲りつつ、席に付き内容の確認をし始めた。


「今日は非番ですか? ギラムさん。」

「あぁ、ちょっと仕事の確認をな。コレって、恐らく追加の分だろ?」

「多分そうだと思いますよ。お昼時に席を外そうとした際、ウチクラさんから頼まれて置いておきました。」

「そっか、ありがとさん。」


書類の中身におおよその検討が付いていたのか、彼は隣に居たマクビティに確認を取りつつデスク内の機器を起動した。その後送られていた自身宛のメールを確認しつつ、書類の中身に眼を通しだした。


一つは会社に依頼が舞い込み受領された事を証明する書類で在り、普段の依頼書とは違いあくまで企業側のデータベースに沿って作成された物だ。日付や受領者の名前が簡易的に書かれているだけの為、ある意味『社内連絡』の程度の書き込み具合である。

そしてもう一つは依頼主からの依頼書のデータで在り、こちらは珍しく手書きでは無く電子機器で打ち込まれたのか書体が全て揃ったモノとなっていた。依頼主と大まかな内容が掛かれた書類に目を通すと、彼は所持していたセンスミントを起動し自らの仕事の一つに依頼書の内容を入力していくのであった。


追加された今回の依頼、それはある場所での待ち合わせ後『品物の運搬をする内容』であった。報酬は相場にあったモノとなっており、内容物は『小麦製品』となっていた。


『……そしたら、丁度回ろうと思ってたしこれから行ってみるか。』


新たにやってきた依頼を受領するべく手続きを進めた後、彼は再びセンスミントをポケットの中に入れデスク内の機器の電源を落とした。その後書類の束を手にし上司の元へと赴くと、新たにやって来た依頼を請け負う事を告げた後、書類を止めていた金具を返却し企業側の処理をお願いするのであった。


「では、お先に失礼します。」

「お疲れさん、大分手際が良くなってきたな。流石うちの稼ぎ頭って所か。」

「恐縮です。……ウチクラさんに拾って貰った後に結果が出せる様になったのも、ご縁があったからこそだと思います。本当に、ありがとうございます。」

「改まって頭を下げる程でもねえから、今後も頼むぞ。うちの部署の給与にも反映されるからな。」

「はい。」

「報酬として、俺の秘蔵のコレクションをやろうか?」

「遠慮しときます。」

「お堅いこって。」


その後慣れたやり取りを交わしながらその場を後にすると、彼は忘れ物が無いか再びデスク周りを確認した後、近くのシュレッダーに書類を投函し職場を後にした。





「では、これをお願いします。」

「はい、お預かりします。」


職場でのやり取りを済ませた彼は、事前に職場の駐輪場へ移動させていたザントルスと共に現代都市内を駆け回りだした。仕事場で受領した外注の依頼を受けるべく、事前に片付ける事の出来る『商品の回収』を中心に、依頼先での活動内容の再確認であったり相手の情報など、可能な限りの行いで少しずつ依頼完了の為に働いていた。

簡易的ではあるが纏めて置いたメモを頼りに、彼は東西南北と様々な方角へ向かって愛車を走らせた。


本来の予定では来週に全ての仕事が片付く目処が立っており、その前に実家に帰宅する手筈となっていた。事前に家へ一報も入れている為、双方でバタバタすることも無いだろう。なかなかの手際の良さである。


『……さてと、これで一通り済んだな。後は追加で来てた分の回収か。』


その後荷物を愛車に運び込み一息付いた彼は、センスミントを取り出し仕事の漏れがないかを確認し出した。既に終わった準備の内容には赤いチェックを入れ、帰宅時に再度確認するだけで良くなっていた。そんなメモの一つに、今だチェックが入れられていない依頼が一つだけあった。

それは今朝仕事先に赴いた際に受領した『品物の運搬』であり、待ち合わせの時間と場所の関係上一番最後に回していた依頼だ。合流地点は都市中央駅の裏手であり、比較的人気が少なくザントルスを駐車させても迷惑が掛かりにくい場所である。


何故そのような場所を指定したのかは不明だったが、彼は左程気にしない様子で愛車に跨り、依頼品を積んだザントルスを発進させた。




そんな彼が目的地に着いたのは、夕刻を通り過ぎ既に夜の闇に包まれた頃。都市内に点々と立つ街灯と建造物から零れる灯によって、街中が昼間と違う顔を見せ始めていた。都市中央駅からも同様に明かりが内部から外部へと向けられて放たれており、見上げる程に高い位置に造られた巨大時計もライトアップされていた。


約束の予定となっていた時間よりも少し前に到着した事をセンスミントで確認した後、彼は適当な場所にザントルスを停車させ、合流予定となっていた一つの街灯の元で待機しだした。依頼書の内容ではその場で荷物の受け渡しを行った後、目的の場所に約束の日付までに持って行くと言うとてもシンプルなモノだった。

しかし時間と場所が怪しげな取引が行われていてもおかしくないシチュエーションと化している為、中々に怪しい依頼とも言えよう。とはいえ彼は余り気にしていない様子でのんびり待っており、依頼主がどんな相手なのだろうかと考えていた。正直に言ってしまえば、現に怪しい依頼は先日受けたばかりでありテインやリブルティの様な例もある為、一長一短と言えよう。


そんな事を考えていた、まさにその時だった。




「……お早い到着ですね、稼ぎ頭の二つ名は伊達ではない事を知りました。」

「?」


街灯を背に夜空を見上げる形で待機していた彼の耳元に、不意に女性の声が聞こえだしたのだ。彼は軽く驚き体制を直し周囲を見渡すも、辺りには人影は無く何処からやって来たのかすらも解らなかった。

しかし確実にその声は耳元を過った為、そう遠くはない位置から発している事だけは彼にも解った。


「……… 依頼主にしては随分と用心深いんだな、姿を見せないとは。物品のやり取りがし辛く無いか?」

「ご意見としてはごもっとも、淑女から紳士へ対する無礼を承知で行っている事は事前に詫びましょう。真憧士ギラム。」

「!! ………って事は、お前はザグレ教団の関係者か。」

「はい。解りやすく『フール』とだけ名乗っておきましょうか。」


『アリンとサインナが対峙した教団員を消した奴か……… 職場まで割れて居たとはな。』



その後淡々と告げられてくる言葉に返事を返しつつ、彼はある一点から声が放たれている事に気が付いた。それは彼の立つ街灯から東方側、テインの邸宅とは別の位置にある路地の一角からそれは告げられており、夜の闇に紛れながらも街に流れる風で揺れるローブの動きが見えた。

光の下からようやく視野に入れる事が出来た彼ではあったが、あえてその場からは動かずにそのままやり取りを告げ、彼女からの目的を聞こうと話を持って行った。


すると彼女もその予定だった様子で即座に要件を告げるも、別の話を先に振って来た。


「今回はご依頼という名目で貴方を呼ばせて頂きましたが、闇討ちではない事を事前に断らせて頂きます。それをご理解の上で、お話を聞いて頂けますか。」

「流石に二度は無いと思うが、また『クローバーを寄越せ』とか言うんじゃないだろうな。」

「警戒はごもっとも、しかし同じ内容での作戦遂行は成功率が落ちる事は世間でも行われている事実。今回の私の目的は『伝達でんごん』に過ぎません。」

「伝達?」


どうやら彼女の目的は元より『依頼』ではないらしく、ましてや敵側に位置する者で在りながら戦闘を行うつもりは無いとまで言ってきた。不意に告げられる言葉に首を傾げるギラムではあったが、どうにも滲み出る敵意は感じられず即座に応戦する気もないともなれば、彼もまた派手に動く事も出来ない。

ましてや双方の場所が割れて居たとしても彼は彼女の魔法を知らない為、下手に動けば自らが不利だと悟ったのだろう。


しばしの間小康しょうこう状態が続いた後、彼女は淡々と伝達を告げだした。



「私達の上位スート『ヒエロファント』様からの伝達です。【今宵から三日以内に、ハーミットを回収するべく作戦を遂行する。貴方にはその場に立ち合ってもらうべく、元職場までお越しいただきたく存します】と。」

「………」

「【貴方がもしこの時間内に訪れなければ、元職場の関係者を全員消してごらんに入れましょう】と、申しておりました。如何されますか、真憧士ギラム。」

「………拒否権はある様で無いって言っておきながら、来るかどうかを尋ねてくるなんてな。お前は伝達の為だけに寄越されたってわけか。」

「否定はしません。」

「ご苦労なこって…… ………分かった、どの道昔でも仲間の命が掛かってる以上、出向かないわけには行かねえな。上の連中が出てくるなら、尚更だ。」


告げられた内容に対し彼は理解するも、相手側の意思疎通がやはり不可思議に感じていた。あくまで彼等は自らよりも優れた存在達と考えており、自分を見下し上から目線で指示を煽って来るのは当然と考えて良いだろう。

だがそれでもやり取りを交わし同意を求め敵側へと引き込もうとする辺りを考えれば、それだけ彼は確実に教団員達に眼を付けられていると言って良いだろう。ましてや何度も襲撃され抹殺を図られた程だ、そうでない方がオカシイ。


そんな話をしていた彼ではあったが、その後やって来た言葉に再度首を傾げざる得なかった。


「良いお返事を頂けて光栄です。対価として依頼の品に沿えて、私からお答え出来る事を一つお教えしましょう。」

「ん? ……それも、伝達の内か。」

「いいえ、これは私自身が感じた事柄へ対する内容に過ぎません。不要であれば、それもまた貴方の選択。」

『まるでノクターンみたいな奴だな……… 敵なのやら、味方なのやら。』


どうやら彼女には彼女の目的があるらしく、私用で新たに要件を付け足して来た。これまた驚きを隠せない彼ではあったが、身内に近い話し方をする相手が居る事を想い出すあたり、自らが慣れている証拠と実感した様だ。


軽く考える様に視線を空へ仰いだ後、彼はこう言い出した。



「………分かった。そしたら一つだけ教えてくれ。」

「はい、どうぞ。」

「お前等が捕縛してるであろう、クローバーの糧としてる『獣人エリナス』達についてだ。奴等の命は無事なのかどうか、教えてくれ。」

「……… ……残命ざんめいを聞いて、如何されるおつもりですか。」

愚問ぐもんだな、助けるに決まってるだろ。俺等のこの力は、元々奴等の協力あってこその力に過ぎない。素質があったからって言うのは俺達自身に関係あるが、切欠は間違いなく向こう側だ。……俺はそんなエリナス達が苦しい目にあってるのなら、助けたいって思っただけさ。世間から認知されない存在であったとしても、な。」

「……… ……まるで生き写しですね。」

「え?」

「いいえ、こちらの話です。貴方がどのような想像をされているかは解りかねますが、彼等の命については最低限保証されている事は約束しましょう。私はあくまでその場に立ちあう事もしておりませんので、どのような扱いをしているかについてもお答え出来ません。……ですが、そうですね。」



「貴方がもし仮に彼等をお助けしたいと強く願い、その力をその為に使いたいと言うのでしたら……… その身全てを掛けて『エンプレス』様に志願してみるのも良いでしょう。」

「エンプレス……? さっき言ったヒエロファントって奴よりも、そいつは上なのか?」

「事実上『第三位』の方ですので、教団の権力ほぼ全てを握っていると言っても過言ではありません。エンプレス様は前々から貴方様へ対し強く興味を持たれております、全てを賭けられますか? 自らとは異なる、獣人達の為に。」

「賭けても良いぜ、そう易々と身を犠牲にするつもりはねえけどな。」

「分かりました、お話だけはさせて頂きます。それでは、明日みょうにちから約束までの期間、ヒエロファント様の元へお越しいただくのをお待ちしております。」

「了解。」


その後やり取りを終え背後から物音がすると、彼は振り向き音の正体を確認した。足元を見ると街灯の元に小さな小包が残されており、彼は軽く警戒しつつも箱を手にし蓋を開けた。中を開けるとそこには冷気に包まれていたのか白い霧と共に、中から苺の白いホールケーキが現れた。

良く見るとバースデーカードの様な物まで添えられており、そこには手書きでこう書かれていた。



【貴方様の今後の活躍、期待しております  愚者フール



『………そういえば、ちらっとだが名前には聞き覚えあったな。エンプレスって、誰の事なんだ………?』



そんな謎の幾多も残された現状の中、彼は考えながらもその場を後にした。


いつも『鏡映した現実の風』シリーズの方をお読み頂き、ありがとうございます。この度こちらの作品の『1週間前読みサービス』の方を開始しましたので、ご連絡します。以下のURLにてジャンプした先で公開しておりますので、よろしければご検討くださいませ。

https://www.pixiv.net/fanbox/creator/811276

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