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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第六話・狩猟より退けし蒼き護人(しゅりょうよりしりぞけし あおきもりびと)
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12 仕事手法(やりかた)

病人の投薬生活が始まった夜が明け、次の日の事。その日もいつもと変わらない時間に起床したギラムは、同じ場で寝ていたフィルスターと共に日課であるランニングを行った後、朝食を共に取り私服ではない制服姿に身を包んでいた。朝特有の澄んだ空気の中で行う早朝ランニングはとても気持ちが良い物であり、翼を羽ばたかせながらついてくる小さな相棒との時間はとても有意義なモノだろう。


何時と変わらぬも心の状態が普段よりも良いモノに変わった事を感じながら、彼はグリスンの看病をフィルスターに任せ、愛車と共に出勤した。



「おはようございます。」

「おはようございます、ギラムさん。今日もお疲れ様です。」

「あぁ、ありがとさん。」

自宅からそう遠くはない場所に位置する、軍事会社セルベトルガ本社。愛車と共に出社はしても徒歩で来ても左程苦ではないその場所に彼は到着すると、受付嬢達に挨拶をし廊下を移動しだした。


その日の彼の出社は他の事務として仕事をする社員達よりも遅いが、朝からバリバリ仕事をする者達が丁度賑わいを感じ出す頃だった。昼食までの時間は普通に仕事が熟せるだけの余裕がある時間に赴いた彼ではあるが、本来『外仕事』として契約を交わしている彼に『定時』というモノは存在しない。そのため俗にいう『重役出勤』になろうとも誰かに文句を言われる事は無く、こうした気ままな時間に出社をし仕事を片付けているのである。

ちなみに今日は呼出等ではない為、尚更時間に縛られずに出社していると補足しておこう。



そんな彼が所属場所である『総務部』へと到着すると、デスクに向かう前にと上司の元へと顔を出した。


「おはようございます。」

「おぉ、おはよう。今日は自主的に来たのか。」

「明日は用事が出来たので、近々声をかけられる前にと来た次第です。そろそろだと思ったので。」

「察しが良いのとお使いに慣れた証拠だな。んじゃ、コレ渡しとくぞ。」

「?」

変わらぬ挨拶を慣れない敬語で取り交わした直後、彼は上司からクリップで止められた数枚組の書類を手渡された。突然やって来た書類を受け取った彼はその場で内容を確認しだすと、そこにはその日片付けて欲しい仕事がリストアップされており、あたかも出来る上司と言わんばかりの綺麗な依頼書がそこにはあったのだ。電話で急に呼び出して仕事を申し付けていた数ヵ月前とはえらい違いであり、彼は軽く驚きながらも書類について質問しだした。


ちなみに余談だが、元々仕事が出来ない上司ではない。彼に対して『そうはしなかった』上司である。


「………ウチクラ。仕事の回し方が変わって来てねえか……?」

「ん、そうでもねえぞ。前に入社した奴が仕えない奴だったから、それなりにいろいろ試行錯誤してみたんだよ。お前さんがそういうって事は、案外外れたやり方でも無かったんだろうな。……それに、ギラムには書面が一番効く。」

「……俺もそっち側か。んで、依頼料はコレと。」

「あぁ、どうだ。」

「分かりました、お引き受けします。……だがな、この『雑誌』の使いだけは何とかならねえのか。」

「お前以外に頼めねえからな。」

『それだけは他に回して欲しいんだがな………』


経緯は何であれ、上司の彼がそうしようと思った事は良い兆候であり、それに対しての文句はギラムも持ち合わせてはいなかった。部下に仕事を振る際には上司が合わせると言うのはおかしな事ではなく、寧ろ相手のペースと仕様に合わせられる上司程『仕事が出来る相手』と言っても過言ではない。


相手に共用させるのならば、まずは自ら譲歩し信頼関係を築いた上でのやり取りを勧めて行く。対人関係での初歩的な行いに過ぎない行動ではあるが、これもまた仕事のうちである。



とはいえ変わらない部分がある事だけは事実な様子であり、それに対してはギラムも何も言わずその場を離れ持ち場に移動しだした。上司のデスクからそう遠くはない場所に位置する自らのデスクに着席すると、彼は手荷物を引き出しの定位置に入れ、軽く肩を回し仕事をする気持ちに切り替えだした。そんな彼を見てか、隣に座る同僚のマクビティが声をかけて来た。


「今日もお疲れ様ですね、ギラムさん。」

「あぁ、お疲れさん。……ま、こうやって書面にリストアップして来てくれるだけ良心的なんだろうさ。俺への依頼の流れも解ってる証拠だし、こうすりゃ伝え忘れて仕事の漏れもねえって意味なんだろうよ。」

「他の雑用は私達で何とかなりますが、ギラムさんに直々に回るお仕事っていうのはどんな物なんでしょうか。」

「基本は『報告書』関係だが、一部のリスト修正なんかは俺に回すらしいぜ。その仕事に関わってる奴じゃないと、いちいち説明しないといけないとかなんとか。」

「確かに、そちらの仕事は内部の私達には解らない事ですね。頑張って下さい。」

「ありがとさん。」

「ギラム、ちょっと来い。」

「ぁ、はい。」


そんな他愛もない同僚とのやりとりをしていた後、不意に上司からの呼び出しを受け彼は席を離れた。軽く競歩の勢いで素早くその場に到着すると、ウチクラは軽く忘れていた口振りで彼に一言告げつつ、別の纏まった書類を彼に手渡しだした。再びその場で手渡された書類に眼を通してみると、そこには先ほどとは全く違う書式で描かれた『依頼書』がそこにあったのだ。


聞く所によると彼用にと弾かれていたモノをセットで手渡すのを忘れ居てたらしく、再度呼出て渡したと言うのだ。詳細を聞き依頼書の目的地や現在地に眼を通し、彼も納得した様子で理解し再度受領を告げた時だった。


「お前さん、仕事熱心なのは結構だが偶には家に顔出すとかしてやれよ? こういう時じゃねえと、しねえんだろ。俺等と一緒でさ。」

「……否定出来ない部分が、図星だと自分でも思います。有難うございます。」

「ん、任せたぞ。」


中々耳に痛いコメントを貰いながら彼はその場を離れると、再びデスクに戻り依頼書の内容をチェックしだした。主な仕事内容はどれもバラバラではあったが、基本的な内容は【食料調達】であったり【備品の納品】と言った外部からの発注物。依頼主の外出間を埋め合わせする他者との【世話役】と言った時間を提供する物もあれば、はたまた【修繕依頼】や【荷物の運搬作業】と言ったちょっとした力仕事となる依頼も含まれていた。しかしどれも共通していたのは『同じ地域からの依頼』と言う事であり、どれも全て『ギラムの実家』の有る地域からの依頼だったのだ。


彼は元々現代都市リーヴァリィの生まれでは無く、都市から離れた田舎出身の青年だ。現代都市治安維持部隊に入隊が決まった時から実家を出ており、その頃から部隊寮での生活をしつつ現在のマンションの一室に住んでおり、実家に顔を出している日数は比較的少ない方に部類される。その為こういったタイミングを用いて実家に帰れる様、ギラムの様な傭兵達への制度がこの『特定地域の依頼志願システム』である。合法的に実家に帰れる上に仕事による利益も生まれると言うのだから、一石二鳥のシステムと言えよう。



しかし彼の様な田舎出身の彼の地域の依頼がピンポイントで来るかと問われれば否な為、正直に言ってしまえば偶然重なれば良い位のシステムである。ゼロではないくらいに依頼が舞い込んでくる軍事会社ならではのシステムも、彼にとってはとても都合の良い環境と言える。


『世話役日と納品期限が重なるから少し前にするとして、食料調達に合わせた日の方が良さそうだな。……フィルとグリスンも、たまには違う空気を吸わせてやるか。』


珍しく複数枚重なった依頼書の期日を確認し行う日取りを決めると、彼はセンスミントを取り出し自らのスケジュールをカレンダーに記入しだした。電磁版に次々と入力されて行く情報は彼の予定に誤差が無い様に務めており、入力主が本人であれミスは許されない。仕事が出来る人ならではの行いと言えなくはないが、社会人であれば当り前とも言える行動とも言えよう。入力した情報を照らし合わせ再度行動日を決めると、彼はその日に実家に帰宅する事を決め依頼の執行を確定させるのであった。



その後再び彼は席を離れ依頼書を手に上司の元へと向かうと、一声かけた後自ら決めた行いに対して報告をした。


「失礼します、ウチクラさん。」

「ん、どうした。……もう目を通したのか?」

「はい、全てお引き受けします。この日に行いたいと思うので、先方への連絡をお願いします。」

「あいよ、しっかりやって来い。」

「はい。」

「後、雑誌早めにな。報告書は定時で良いから。」

「……はい。」


とはいえ自ら決めたスケジュールを狂わせる予定も、彼にとってはゼロでは無いのだろう。半ばオチを決められたかのように腑に落ちない気分に成る中、彼は依頼書の束を上司のデスクに戻し、渋々買い出しに向かうべく本社を後にするのだった。


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