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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第六話・狩猟より退けし蒼き護人(しゅりょうよりしりぞけし あおきもりびと)
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05 夜道(よみち)

遅めの昼食と共に始まった、時間差によるお茶会込みの美女達による報告会。流れで同席する事となったリミダムが食事をゴチになりながら満喫する中、ギラムはアリンとイオルからの話を聞き、各々で事情を把握すると共に次の指針を立てながらの状況把握。同士であるリアナス達が困らない様に道を示しながら、彼はその時その時のやり取りを楽しみつつ、時間を過ごすのであった。

そんなお茶会が無事に終了しネットアイドルと別れた後、二人が住処に戻って来たのは夕刻を周り黄昏時となった頃だった。居候中の相棒の身を案じながら帰宅した彼は、扉の鍵を開け中へと入った。




ガチャッ ウィーンッ………


「ただいま。」

「おっ邪魔しまぁ~す。」

道中で買い物がてら寄り道したビニール袋を手にしながら帰宅すると、ギラムは玄関先で靴を脱ぎルームシューズに履き替えだした。遅れてやって来たリミダムも同様にサンダルを脱ぎながら素足になると、彼の後を追って廊下を歩きリビングで大人しくしていたフィルスターを眼にした。

寝室から一番近い位置に座った状態で待機していた幼い龍は尻尾を振りながら主人の帰りを視ると、心なしか嬉しそうに鳴き声を上げだした。

「キュッ」

「ただいま、フィル。」

「キューッ。……キュイッ?」

声を聴いた主人からの返答に満面の笑みを浮かべるも、遅れてやってきた相手に対しては少し違和感があった様だ。首を傾げながら声を上げた彼に対しリミダムが返答をすると、ギラムはグリスンの面倒を見てもらうために呼んだことを説明するのだった。



そんな説明を受けたフィルスターは理解したのかは解らないものの、いつも通りの返事をしながら定位置であるギラムの左肩の上へと飛び乗るのだった。最近はご丁寧に翼を広げて移動してくる為、ギラムは手慣れた様子で軽く首を右に傾けながら待っている程であり、お互いに一連の流れが出来ていると言えよう。二人の様子を見ていたリミダムが軽く羨ましそうな眼差しを向ける中、ギラムは寝室で寝ているであろうグリスンの様子を見に行った。


普段ならばギラムの寝床である大きなベットの上に横になっているグリスンは、彼の帰宅に気付いたのか寝ては居らず目を開けた状態で彼の事を出迎えだした。軽く手を振りながら返事を返している所を見ると元気そうに視えるが、それでも熱は下がっては居ないのか何処かぼんやりとした眼差しを向けていた。

「グリスン、具合どうだ。」

「お帰りギラム。……うん、まだちょっと………」

「そっか、なら無理すんなよ。リミダム。」

「はぁーい。……ってことで、衛生隊の代わりにオイラが視てあげるねぇ。」

「………何か持ってたっけ。」

「ううん、ヤブ。」

「えぇー………」

「ま、仮だからな。ヤバそうならちゃんと頼むからさ、今だけ辛抱してくれ。」

「う、うん……… ギラムがそう言うなら、良いけど………」

「信用ゼロだねぇ、普通に味方なのに。」

あからさまに敵か味方か分からない隣人の登場に、グリスンは珍しく少し気乗りではない返事をしだした。知り合った当初から仲違いしていた事も有ってか信頼関係は築かれてはおらず、弱った自身の現状に付け込んでギラムに接触してきたのかと思えば、そんな返答にもなるだろう。おまけに所属の場とは関係ない行いをしようと言うのだから、不信感が丸出しである。

とはいえ現状頼れる相手が居なかった事も有る為、ギラムはそんなグリスンを宥めながら診てもらう事を勧めるのであった。



渋々了承しグリスンは少しだけ掛布団を下へとずらすと、リミダムは携帯していた金具を手にして武器に変えると、そのまま彼の上に掲げながら相手の状態を見始めた。普段の魔法と同様に台詞ことばを口にしながら何かをするわけでは無く、ただ単に相手の身体を診ていると言った表現の方が正しいだろう。元より魔法に対する素質が高かったリミダムには『魔法を放つ』事も『魔法で治す』事もでき、苦手な分野が少ないと言う中々の天性の持ち主。

そんな相手がその気になれば何でも出来てしまうのはよくある話であり、不信感は拭えないが腕は確かと言えた。



武器を手にしたまましばしの時間が経つと、眼を閉じていたリミダムは静かに目を開け武器を下げだした。それによって事が終わった事を知ったグリスンはお礼を言いつつ布団を上げると、リミダムも笑みを見せながらその場を離れギラムの隣に移動しだした。

「どうだった、リミダム。」

「パッと見た限りだと、ファーストオピニオンは『風邪』だねぇ。水属性の魔法の負荷を添付されたって感じ。」

「魔法の負荷?」

「そ。オイラ達の魔法って、シンプルなモノからアレンジまで十人十色で同じ魔法っていうのは基本無し。だから、それに状態負荷を付けるとより効力が高くなったり集中したり出来るからって、使う人もいるんだよねぇ。今回はリアナス?の魔法だったけど、気候もちょっとあったのかな。相まってその症状が出てるっぽい。基本は『ダルさ』と『熱』っぽいから、変に『頭痛』とか『吐き気』とかが出なければ大丈夫だと思うよぉ。」

「……仮にだが。それが出たらどうしたらいいんだ?」

「そしたらまたオイラ経由か、もしくは他のエリナス達からで良いから『衛生隊』に連絡を入れてくれればいいよぉ。早めに対処してくれると思うから。」

「そっか、ありがとさん。スプリーム達かサントスに頼めばいいんだな。」

「そゆことー ……ぁ、でもレーヴェ大司教は忙しいからオイラの方が良いかも。別に大司教から直々に伝手を使う程じゃないしぃ。」

「了解。」

診断結果を簡素ではあるが適切な要点を絡めて説明を受けると、ギラムは理解する様に頷き現状の相棒がどんな状況なのかを知った。不思議と相手の話に対する違和感や疑心感は彼には無いらしく、ただただありのままに受け止めその後どうしたらいいのかを聞いてしまう程。現状が現状と言えばそれまでかもしれないが、確かにリミダム達から言われ続けている『信頼し過ぎ』というのはあながち間違いでは無いのかもしれない。



主人と仮のヤブ医者が話をしている間はフィルスターも定位置から離れ、グリスンの布団を直し両手で再び枕の固さを調節している程。そんなギラムが受け入れられているからこそ、現状がどうであれ頼れる相手の言葉はしっかりと耳を傾ける事にしている様であった。

リミダムもそんなギラムに嘘偽りなく言葉を告げるのだから、本当に敵側なのだろうかと首を傾げてしまいそうである。しかしそれでも改めて言おう、彼は敵側の存在である。

「んじゃ、コレは選別な。多めに入れといたぜ。」

「わぁーい、オイラのアイスぅっ ギラム、ありがとぉー」

「こちらこそ、ありがとさん。気を付けてな。」

「はぁーい。じゃあねぇ、フィルスター」

「キュー」

無料ではあるが取引に近い診断を終えると、ギラムはリミダムに選別として用意していた物資を入れたビニール袋を手渡した。それはつい先ほど帰宅途中で寄り道した場で購入した物であり、二人が並び選んで買ってきた「コーンアイス」である。チョコレート味とバニラ味の物が三つ入った袋を受け取ったリミダムは嬉しそうに返事をすると、手を振りながらその場を後にした。



少し賑やかではあるが落ち着いた状況になった事を理解すると、ギラムは軽く胸を撫で下ろし相棒が無事である事を改めて理解しだした。足元でギラムの身に着けていたズボンを引っ張るフィルスターを眼にした彼は手を差し出し相手を肩に載せると、次の行動に移るべくこう言うのだった。

「……さてと。そしたら飯にすっか。」

「キュッ キキューイッ」

「ん、フィルも腹減ったか? あいよ、急いで用意するぜ。」

「キューッ」

「グリスン、お前も何か粥くらい食うか……… ……あれ。」

「zzz………」

『……さすがに本調子じゃないって事か。無理もさせてたしな。』

しかし彼の考えに対する動きは一時的に中断され、相棒が再び寝入っていた事を知った。改めて病人である事を理解するかのようにギラムは静かに目を向けた後、寝室とリビングを仕切る扉を静かに閉め肩に乗ったフィルスターに目配りしだした。

主人からのアイコンタクトを受けた幼い龍は小さな指を一本立てながら口元に移動させ、その意図を汲み取ったかのように「静かにしてます」とアピールするのだった。


幼くも賢い小さな隣人の行動を視たギラムは優しく頭を撫でた後、二人は揃ってキッチンへと向かい静かに夕食の用意をしだした。





そんなギラムの家を後にしたリミダムはと言うと、再びクーオリアスへと戻るべく目的地に向かって現代都市リーヴァリィ内を移動していた。他のヴァリアナス達に交じって歩道を移動しながら手土産として渡されたコーンアイスを口にしながら移動しており、濃くも味わい深いチョコとナッツの付いたアイスは食べ応え満点。半ば頬の毛にまで付きそうな勢いでかぶり付く少年紛いな青年であったが、美味しいのであれば文句はない。

元より誰にも見えて居ないのもあったのだろう、世間などには目もくれず道中を移動するのであった。

「……ん~、アイス美味しぃッ。ギラム奮発してくれた感。」

市販かつ安価ではあったものの味が好みであったのだろう、リミダムは軽くコメントを零しながら横断歩道を歩き出した。頬の毛に軽く付いたチョコレートを拭いながら再び道中を移動し点々と街灯が付き始め、近くの公園に差し掛かった。

その時だった。



「……うにゅっ?」

「? よっ」

公園のある市街地手前に用意されたニュースペーパー置き場の近くに差し掛かったその時、彼は不意に足を止め一点に眼を向けた。そこは木陰ではあったが街灯の明かりで相手の顔が見えるギリギリの場所で在り、彼とは違った井出達に身を包んだ蒼い鷹鳥人の姿があった。

顔見知りの様子で軽く右手を上げ挨拶をすると、リミダムは軽く駆け寄り歩道から芝生の上へと向かって行った。

「珍しいねぇー こんなところに居るなんて、オイラと同じでサボり?」

「違う違う、仕事が夕方に終わってお前が来てるって聞いたから見に来ただけだよ。別件の方の報告書も、ちゃんと作っとかないといけないからさ。」

「仕事熱心だねぇ、そこまでしなくても十分信頼は獲得出来てるだろうにぃ。タグが若いからかもだけど。」

「司教殿に逆らう理由は毛頭ねえけど、もう一人の為にもな。」

「そっかぁ。……ぁ、アイス食べるぅ? 多めに奢ってもらった。」

「ぉ、じゃあ貰おうかな。」

「良いよぉー」

顔見知りかつ親しい間柄の様子で話し出す二人はその場を移動し、道中の先にある公園に向かって歩き出した。相手はリミダムよりもスラリとした身のこなしで整った顔立ちをしており、紅い瞳が印象的で若く活発な青年に相応しい鳥人。

しかしこう見えて共に同い年なのだから並んで違和感しか残らないものの、お互いは気にしていない様子で道中を楽し気に移動し、目的地の途中にある公園へと入って行った。



夕刻を周り段々と市街地の明るさが人工的なモノへと変化する中、二人は街灯に照らされたベンチへと移動し共に腰掛けだした。そしてリミダムが手にしていたビニール袋から残っていたコーンアースを取り出すと、その内の一つを隣に座る鷹鳥人に渡すのだった。

共に慣れた手付きで包装を剥がす所を見ると、リーヴァリィに流通する物資の暮らしに慣れている様に見て取れた。

「それで、そっちはどぉ? オイラ達の所よりも制約が多いし、結構面倒なしがらみも多いっしょ。」

「まーな、確かに面倒な部分は多い。准尉も二年前に脱退して以来、俺の唯一の癒し要素も無く成っちまったもんだしさ。ちょい退屈かも。」

「あぁ、噂の。そんなに惚れる人だったとはねぇ、オイラもビックリだよ。君、リアナスどころか『人間』への興味すら無かったのに。」

「人間も獣人も似たような部分があったから、尚更な。リミダムに会うまではそうだと思ってた、変えてくれてサンキューな。」

「どーいたしまして。そうなると、そろそろこっちでの仕事も潮時なのかもねぇ。一応順当に経緯は報告して終わって来たから、別に何時脱退しても良いんでしょ?」

「そうだな、全部片付いたらケジメを付けてからそうしようとは思ってる。でもまだちょっと先になりそうだから、その話も保留だな。」

「んー、やっぱり人間達のルールって面倒だよねぇ。ただ単に逃がしたくないだけなのかもだけど。」

「一般社会の規制はそんなもんさ。……だからこそ、その枠を超えてまで理想を追い求めようとした准尉は凄いと思う。不透明な世界の中でも、ただただ自分の意思と出来る事をする為だけに外へと出て行ったんだからな。鷹鳥人の俺ですら、そんな事が出来てないって言うのにさ。」

「傾向は多いよね、確かに。」

共に広がりを見せる夜空を見上げながら世間話を交わしつつ、お互いにコーンアイスを口にしだした。一方は前歯を使ってアイスを削りながら食べているが、もう一方はくちばしで軽く啄みながらナッツを先に食べ、後にアイスを掻き込む様にして食べていた。各々で食べ方の違う獣人達の暮らしが見受けられる一方、その内容はクーオリアスでは無くリヴァナラスの話となっていた。



双方の世界で築かれて行った法則と法律、そして守るべき規律が交差する中で活動する異世界の民達。目的があってその場に居るが故に表立った事はしないものの、それでも意志は確固としたモノの様子で行動する鷹鳥人。そんな友人の言葉を聞きながらリミダムは返事をしつつ彼の心中を知りつつ、時折彼から耳にしていた『准尉』と呼ばれた相手の事を理解するのだった。



彼の中ではもはや伝説とまでされた人物の話を、リミダムは興味の有る無し問わずに聞かされており覚えている部分は多数存在していた。自分達よりも年上であり他の人間達の追随を許さないその相手は彼の憧れに成った存在であり、人間ではあったが他のヴァリアナス達よりも幾多の理想や希望を抱かせてくれた相手。親しみやすさも有れば近寄りがたい部分も兼ね備えていたモノの、根は良い人であり鷹鳥人の彼の心を鷲掴みにした相手だ。

元より自身と同じく他の人間達に興味を示さなかった友人の言葉には、リミダムも興味があり自然と『その相手に会ってみたいかも』と思わせる程だ。名前はあえて聞かなかったものの、彼も面と向かってその人物に合えば何かが変わるのかもしれないと密かに思うのであった。



楽し気に話し出す友人の様子を見ながらリミダムはアイスを食べ終えると、彼の想いに賛同するかのようにこう言い出した。

「それじゃあ、オイラ達の世界に帰って来るのはまだちょっと先っぽいねぇ。代わりにちょっと報告しておいてあげるよ。」

「ぉ、サンキュー 俺の方も報告がまとまったら戻るから、それだけ言っておいてくれ。」

「りょうかぁーい。……ぁ、そうだ。」

「?」

リミダムの発言に相手は喜びながら返事を返した一方、後からやってきたリミダムの言葉に眼を丸くしだした。ベンチから飛び降りる勢いで地面に着地すると、リミダムは面と向かって相手を見上げながらこう言い出した。

「衛生隊の住処ところに帰らなくても、君なら造れるよね。『魔精薬マエル』」

「あぁ、余程変な病気でなければ。なんかあったのか?」

「実はオイラの知り合いのリアナスの相棒が風邪を引いちゃってね、それが悪化した時の薬を処方して欲しいの。時間かかる?」

「んや、そのレベルなら秒数単位で行けるぞ。」

「じゃあ余裕のよっちゃんだねぇ。それ、似たような話を聞いたら渡してもらっても良い? 誰かは言わなくても、多分君なら解るかもだし。」

「了解。……でもお前、そんなに興味持てるリアナスが見つかったのか? 俺と同じで契約する気何て無かっただろうに。」

「契約はしないけど、オイラは好きだから視てるだけぇー 報告書って面倒なんだよねぇ、作るの。」

「基本業務を怠慢するとか、WMSじゃ許されねーぞ? 現にしてるのは知ってっけど。」

「いーのいーの。じゃあアイス代のかわりに、よろしくねぇー」

「ゲッ! それ混みかよ!?」

密かではあったが事後承諾の勢いで要件を押し付けると、リミダムは一足お先にと公園を後にして行った。残された鷹鳥人の青年は軽く「してやられた」と言わんばかりの表情を浮かべる中、軽く頭部の羽根を掻きながら彼の言う相手とは誰なのだろうかと考えるのであった。


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