04 茶会逢引(ていあん)
企業の応接間でのやり取りを終えたギラムとリミダムはアリンと別れると、再びリーヴァリィの街中へと姿を現した。
太陽が頂点へと昇り立ち少し時間が経った頃なのだろう、ギラムは不意に取り出したセンスミントで確認した時刻を視た後、その場を歩き出し次の目的地へと向かい出した。
ちなみに表示されていたのは少し遅めの昼食時であり、気分的にも何か口にしたい頃合いだ。
彼の後に続いて駆け出すリミダムと共に、二人は再び移動を開始した。
「次は何処行くのぉー?」
「次は飯がてら、イオルの話を聞く感じだな。」
歩道を歩き交差点へと差し掛かった彼は信号待ちをしつつ、隣に立っていたギラムに次の目的地を訪ねた。
すると彼は視線を左右へと向けながら返事をし、彼の馴染みの店である『カフェ』に赴く事を教えてくれた。
彼が定期的に足を運ぶ喫茶店『ミドルガーデン』は基本的に日中営業しており、不定期な休みを挟めど彼が行く日は扉に鍵がかかっている事は無い。
夜間や深夜の時間帯は閉まっている少し変わった店ではあるものの、彼としても居心地が良いためかよく待ち合わせ場所として使用していた。
店内の奥に予約者限定のスペースがあるのもその理由であり、以前からアリンやサインナを始めとした女性人との会合の際にも利用していた。
今回はそんな中でも一般人だが世間の眼を避けたい相手だった為、この場を指定した様だ。
相手の名前を聞いたリミダムは不意に浮かんだ相手の姿に茶々を入れつつ、彼が異性にモテるのではないかと質問をしだした。
しかし即答で否定されてしまった彼は疑いの眼差しを向けつつ再度問いかけると、彼はこう答えるのだった。
「よく考えてみろ、この顔でそれがあり得るか? あり得たらとっくに交際相手くらい居るっつーの。」
「ボッチ民だったギラム。」
「うっせっ」
質問へ対する回答を貰ったリミダムは再度茶々を入れながら道中を進んでいくと、彼等は目的地であったカフェへと辿り着いた。
平日の昼間に相応しい賑わいを見せていた店内の様子を軽く伺いつつ、ギラムは扉を開け二人揃って店内へと入店した。
リリリン♪
「いらっしゃいませー」
何時もと変わらない店員の挨拶を受けながら二人は来店すると、ギラムはリミダムを残し近くで食器を片付けていた女性店員に声をかけた。
作業の手を止め応対する彼女と軽いやり取りを交わしながら相手は御辞宜をすると、その場を離れ奥のカウンター内で作業していた店長に声をかけだした。
店長はその後ギラムの顔を視て何時もの笑顔を見せた後、店員に指示を出し部屋の奥へと向かわせるのだった。
何やら慣れた様子のやり取りを目撃したリミダムは再び不思議そうな眼を向けた後、ふとある事を思い付き彼にこう言うのだった。
「逢い引きぃー?」
「そのネタは二度目だぞ。」
「じゃあ『不倫でぇーと』」
「結婚すらしてねぇよ。」
しかし相変わらずのやり取りだったのだろう、あっさり流されてしまいやって来た女性店員に導かれるがまま二人は店の奥へと通された。
店内の廊下を移動しながら奥に用意された予約者限定のスペースへと到着すると、先程の令嬢と変わらずも美しいアイドルが彼等を出迎えるのだった。
「ギラムさーん。」
「お待たせイオル。」
「やっほぉー」
「こんにちは、リミダムさんっ。ご一緒に来てくれたんですね?」
「そだよぉー オイラもゴチになりまぁーっす。」
「はーい、じゃあギラムさん。今日もお好きなのをどうぞっ」
「ありがとさん。俺も出すから、何時も通りで頼むぜ。」
「フフッ、ギラムさんも何時も通りですねっ」
その場で待っていたのはネットアイドルとして活動する『イオル』であり、今日はコンビで行動するメアンは居らず現在のギラム同様、エリナスであるヒストリーと共にやって来ていた。
来店と同時に提供されたお冷とお絞をテーブルに残して出迎えてくれた彼女の笑顔は眩しく、ついその気は無くとも自然と表情が緩んでしまうのは男の定なのだろう。
気分的に悪くないと思いながらいつも通りの返事をした彼を視てか、彼女は改めて笑い合い席に着くのだった。
その後やって来た店員に商品の注文をしつつ一足先にやって来た飲物を口にしながら、四人はその場で会話を楽しみだした。
とはいえ、話題はあまり明るいモノでは無かった。
「……へぇー ファンクラブの連中がな。」
「そうなんですよー 前の自宅襲撃もそうですけど、こういうのって始まると中々治まってくれないんです。お熱が光に向かってくれるのであればボクも嬉しいんですけど、闇に向かうとキリがありませんっ」
「ゴシップも火種になると、全然収まらないもんねぇ~ 人間って単調だしぃ。」
「本当ですよね。ボクとしては、ちゃんと一線を弁えてくれてるファンの方々に申し訳ないくらいです。どうにかして沈静化を図りたいんですが、鶴の一声にはなりません。」
「寧ろ熱くなるしな。」
「本当にそれですっ!」
本日彼が呼び出された理由、それは単なるお茶会でありながらアイドルならではの愚痴である。
元よりネットアイドルの中でも人気を誇る彼女にとってファン達からの視線は常に向けられており、下手な所で情報を落せばネットワークの力を用いて嗅ぎつけてこない輩はゼロではない。
故にデータが残る場では一切彼女はその様な言葉を口にする事は無く、相棒であるメアンと共に零す時も有ればこのように信頼出来る相手と共に消化をするのだ。
ちなみにこのような招集が始まったのは少し前からであり、依頼と共に仕入れた彼女の連絡先がその切欠と言っても過言ではない。
元々『ヲタク』と呼ばれる文化に縁の無かったギラムは情報に疎い事も踏まえ、女性へ対する対応は比較的普通であり一線を弁えた応対しかしていない。
そう言った部分でも話しやすく、尚且つ仕事の関係上『情報を黙秘する』事になれていたが故に選抜されたと言って良いだろう。
ましてや彼はリアナスでありヒストリーも視えているからこそ、これ以上の逸材は無いと言えた。
今回はおまけとは言えリミダムが居た事も有り、双方共に子連れでやってきている感覚だ。
シングル同士の二人には丁度良い状況下である。
そんな彼女の愚痴を聞いたギラムはどうしたもんかと考えていた矢先、不意にメロンソーダを口にしていたリミダムがこう言い出した。
「いっその事、ギラムが絞めちゃえば良いんじゃない? 百人組み手くらい余裕でしょ。」
「悪いが、治安維持部隊が出動する可能性のあるものは控えさせてくれ。流石にサインナと大臣に顔向け出来ねえよ。」
「ぁー、そっかぁ。根絶やしの後があるもんねぇ。」
「それに、以前ボク達とギラムさんがお買い物をした現場を見られてますからね。下手にギラムさんを使うわけにはいきません、ギラムさんのお家がピンチです。」
「有名人だねぇ、ギラムぅ。」
「変な意味でな。後はそうだな…… 沈静化って意味では、そっちの一線を弁えてる連中を上手に逆転出来れば良いんだろうけどな。」
「逆転?」
「数が多ければ、必然的に発言権限が高くなる心理だな。そいつらの発言が正しいとして、連中内でルールを設けられる様にしてやるんだ。スタートを切るのはイオル達になるだろうけど、リターンは大きいと思うぜ。」
「なるほどっ 良い人達を厳選して、そこに眼を向ける活動を行えば良いんですね? それなら出来そうっ」
「良い手あるの~?」
「はいっ、丁度行うかどうしようか迷っていた『催し』があるので、それをしてみましょうっ!」
「頑張れよ、イオル。メアンにもよろしくな。」
「はいっ、ありがとうございますギラムさんっ♪」
口々にアイディアを出しあい最終的にギラムの案が可決されると、四人は笑い合いその日の目的は無事に達成された。
その後話し合いのタイミングを見計らってか、やって来た料理達を口にしつつ彼等は女性人達との付き合いを終えるのだった。