38 集真憧士達(つどいしまどうしたち)
一人教団員を拘束したリズルトとリブルティ達が合流した、その頃。ギラムとテイン達は揃って中庭での戦闘を繰り返し、双方共に引け目を取らない戦いを繰り広げていた。
「さてさてさてぇ。今度はどのようにして楽しませてもらいましょうかねぇ~ 真憧士の強者と対峙するのは久々なのでぇ、とってもとぉ~っても楽しみで仕方ありませんねぇえ!」
「ご気分が高揚している様ですが、あまり燥ぎ過ぎて破壊活動に勤しまないようお願いいたします。」
「分かってますよぉー ですがですがですが、それは向こう様にお願いしないといけませぇん。本気で挑まれてしまえば、抑えなどあっという間に型が外れてしまいますからねぇえ!」
突発的な強襲を退け、見事に形勢を戻したハイプリースは高らかに声を張り上げ完全に戦闘へ身を投じている事を身体で表現し出した。元より戦いに対して否定的な意思は無いのだろう、純粋に彼等との戦闘を楽しんでいる様にも取れなくはない高揚振りに、テンペランスが警告する程である。一体どれだけの真憧士達と戦ってきたのか、その辺りも含めて危険な言動であった。
そんな精神的にズレた感覚を見せ始めた敵を視て、男性陣二人組は眉を顰めていた。
「……ど、どうしようギラム…… 向こうはすっごくやる気みたいだけど………」
「何、その辺は想定内さ。……とは言っても、無駄に長引けばテインの家にも迷惑が掛かりかねないからな。あの時の向こうの教団員みたいに『空間系』でも展開出来れば、少しは被害が抑えられるんだが……」
「空間系?」
「現実とは異なる世界を開いて、そこで戦闘出来る力を放った創憎主と教団員が居てな。グリスン達には『使わない方が良い』って止められてるから、俺からする気は無いぜ。もちろん、テインも同様だ。」
「う、うん……そうだよね。あんまり日常的に使わない力だし、下手に身体に負担をかけるのは良くないよね。」
「そういう事だ。俺達は抑えが効く分、真憧士で居られるんだろうからな。」
完全に相手の調子に怯んでいるテインを宥めながらも、ギラムは次の対抗策を見出そうと思考を巡らせていた。彼自身は比較的『戦闘』に対しても経験を積んでいる事もあり、どのような状況になろうとも憶する様な事はないと言っていいだろう。その考えは彼の周りを囲む存在達全員が周知している事でもあり、敵味方含め自らの調子に持って行くだけの志が常に働く傾向がある。
彼の言葉がどのような影響を与え、そしてどのような結果を創り出していくのか。
それは誰しもが気になる事柄と成りうるからこそ、彼は結果的に教団員達に目を付けられてしまったのだろう。事実に悲観的になるやもしれない結果に立ち向かう様に、彼は常に好転的な言葉を口にするのだった。
「とりあえず、さっきの戦法ならある程度持ち込む事が可能なのは解った。あとはどうアレンジしていくかで、変えていけるだろ。テイン、行けるか。」
「うん、大丈夫。インドラは一回撤退しちゃったけど、他にも呼んでみたい子達は居るからね。きっとギラムの手助けをしてくれるはずだよ。」
「十分。行くぜ……!!」
「お願い、ギラムに力を貸して……!! 『チュウヒ』!!」
互いに交わすべき言葉を口にしたのも束の間。ギラムの発した言葉に応える様にテインはそう叫ぶと、彼の周囲に再び創誓獣が召喚された。
彼の目の前に現れた相手、それは全体的に黒くテインの身体の半分程あるやもしれない体系を持つ鷹だった。『インドラ』と呼ばれたライオンと同様に眩い光の中から創り出された相手はしばし空中を飛んだ後、創り手であるテインの近くを飛び指示を待つかのように相手を視界に捉えて離さなかった。
「あらあらあらぁ、またしても動物が召喚されましたねぇ。」
「恐らくその類の魔法が得意という事、ココはあえて消耗を狙う事にしますか。」
「いいですねぇ、その冷静沈着な考え方は嫌いじゃありませんよぉお! それぇえ!!」
再びやって来た創誓獣に対して警戒するも、体制を崩さない様子で彼女達は口々に言葉を交わしだした。そして迫り来るギラムに対しけん制を行うかのように、双方は動きを見せた。
先手を打ったのは、後から動いたハイプリースの放つ書籍の雨だ。動きがバラバラだが確実に相手を狙うかのように迫り来る攻撃を目にし、ギラムは再び手元に拳銃を創り出し弾丸で弾く様に幾つかの本へと発砲した。あたかもゴムで弾かれた物体の如く強い引力で軌道修正された本達は、互いにぶつかり彼の動きを阻害しない様に左右の地面へと落下するのだった。
彼の動きを後方で見ていたテインも続けて動くように、彼の後を追う様に創誓獣に指示を出した。
「当たる前に何とかしちまえば良いんなら、こっちは怖かねえよ!」
「ハイフライトでスルーして、そのまま一冊にワインドボム!」
《キュィイー!!》
周囲に響く鳴き声を放った直後、チュウヒと呼ばれた鷹は広げた翼で周囲の風を一気に圧縮し、手ごろな場所を飛来していた一冊の書籍に対して撃ち放った。すると、風を受けた一冊の書籍は再び軌道修正され緩やかな軌道とは明らかに違う、直線的かつ猛進する勢いで作り手であるハイプリース目がけて飛来しだした。
迫りくる攻撃を眼にした相手はその場から避ける様に後方へと避けると、高らかに声を上げた。その時だった。
「当たりませんよぉお!」
「だったら、もう一冊お見舞いしてやるぜ……!! 受け取りなぁああ!!」
ガンッ!!
やってきた一部の攻撃を回避したのも束の間、彼女の動きを眼にしたギラムは近場に落ちていた書籍をその場で蹴り上げ、そのまま後ろ回し蹴りで相手に向けて攻撃を仕掛けたのだ。視界外からやってきた猛烈な一撃には対応出来ず、ハイプリースの左肩に書籍は命中し鈍くも厚みのある音が聞こえて来た。
完全に攻撃が決まり相手の身体がよろけるのを視ると、ギラムは体制を立て直しつつ相手の動きを視る様に手元の拳銃に弾丸を装填しだした。
「中々やりますね。ですが、防戦一方に等しいこの状況下。どうなさるおつもりですか。」
「そんなもん、時期が来たら勝手にどうにかなるに決まってるだろ……! グリスン!! フィル!!」
「!?」
「まっかせてー! ギラム!」
「キキキュー!」
攻撃を逆手に取った彼等が次に取った行動、それは先程から姿を見せていなかった相棒の招集だ。彼の発言を耳にすると同時にやって来た言葉を聞いて、教団員達は軽く動揺しつつ辺りを警戒した、まさにその時。
彼女達の背後左側から、グリスンとフィルスターが突如として姿を見せたのだった。
「いつの間に……!」
「フィルスターとこっそり練習してたけど、まさかこんなところで役に立つなんてね! 暑い熱風と冷たい気候、それに水飛沫を大量に出して周囲の気流を操作したら、何処にだって出来るって解ってたから!」
「まさか『蜃気楼』を意図的に……!? 気配まで消すなんて……!」
「グリスン達はお荷物として隠れてたんじゃねえ、俺の戦い方を理解して常に回ってくれてるだけだ! エリナスを媒介にしようって輩なんぞに、グリスン達を渡さねえ!!」
背後を取ったグリスンは即座に武器を構えて強襲をかけると、テンペランスは慌てて両手に銀の杯を召喚し攻撃を防いだ。勢いに押されて軽く身体がのけぞる中、グリスンは諦めずに体重をかけながら相手を押すと、即座にフィルスターが援護をするかのように彼の背後から相手に目がけて氷の吐息を放った。動きを見かねた彼女はグリスンの一撃を押し返してその場を退避すると、即座にその隙を付いてギラムが再び彼女達に対して拳で殴り掛かった。
再び迫りくる攻撃を見かねた彼女は手にしていた杯を相手に投げつけると、距離を取ろうと周囲に創り出した流水で移動しようと試みた。しかしその動きを再びグリスン達が阻害し、その隙を付いてギラムが強襲をかける。
完全に攻撃主体となった彼等に連携攻撃に悪戦苦闘していると、そんなテンペランスを見かねたハイプリースは攻撃を阻害する様に分厚い書籍を放ち、隙を付いて彼女を回収しだした。
「雄叫びが凛々しすぎて涙が出ちゃいそうですよぉお! ならばその逆手を取るまでですかねぇえ!」
「そうはさせません。」
「!?」
「たっぷりと、お浴びなさい!」
だがそれで、ギラム達の猛攻は止まる事は無く再び彼女達の耳に別の相手の声がやってきた。声を耳にした教団員達は驚愕すると同時に気配を感じ取り、背後を振り向いた時だった。
その場に立っていたのはドレスに身を包んだリブルティであり、両手を頭上に掲げ空気中の水分を利用してその場に流水を創り出していたのだ。彼女の掌には渦巻く水が徐々に増大している光景が眼に入り、既に魔法を放つ準備が整っており彼女がそう言い放った。
まさにその時だ。
「残念ですよぉー」
「何っ!! グリスン避けろ!」
「……ぇっ?」
「わっ! えっ?」
ザブァアアッ!!
「あばばばば!! ……うぅっ 冷たぁーい……」
「ぁ、申し訳ありません。」
「ぁー、遅かったか……」
ハイプリースの言葉を聞いたギラムは直観的に危険と思われた相棒の名を叫ぶも、時既に遅し。気付いたその時には教団員達の立っていた場にグリスンが立っており、リブルティは成す術も無くそのまま魔法を頭上から放ってしまったのだ。
滝行の如く降り注いだ大量の水を浴びたグリスンは身体に力を入れ重力に耐えるも、瞬時に視界が青く変化し自らの体毛と衣服がずぶ濡れとなり、直後にやって来た風で軽く身震いをするのだった。先程までのフワフワの体毛は何処へやら、完全に湿り切った毛皮と化していた。
「そいつ等は『場所替え』する魔法が咄嗟に使えるから、不意打ちくらいじゃ難しいんだ。」
「そうでしたか…… 申し訳ありません、お怪我はありませんか。」
「う、うん…… ちょっと濡れちゃったけど、大丈夫。」
「何なら乾かそうか? 火、貸すぞ。」
「リズルトがやったら丸焦げになっちゃうよ。夏毛なら、乾きが早いんじゃない?」
「うん、一応ね。そんなに寒く無いし大丈夫だよ。」
「そっちは無事だったみたいだな。リブルティも平気だったか。」
「デネレスティが居ますので、こちらは大丈夫です。向こう様の狙いも、私の様でしたので。」
攻撃の波に支障が生じるも、仲間の身を案じるのは彼等らしいと言えよう。知り合って間もない仲間達は各々で言葉を口にし、グリスンは軽く移動し身体を左右へと振り可能な限りの水気を取り除きだした。水浴びをした動物の様に視えなくもないが、事実彼は『虎獣人』のため細かい部分は割愛しておこう。
お互いの無事を知ったギラムは軽く口元に笑みを浮かべた後、再び教団員達へ視線を向けだした。
「あらあらあらぁ、ラバーズはしくじってしまったようですねぇ。」
「味噌付きに予想される結末でしたね。ですが、姫がその場に居る事にも不快感を覚えます。」
「まったくですよぉ、フールは何をしているのでしょうかぁ?」
「さーて、こっちは増援が来たが…… そっちはどうする。今なら降参を認めるぜ。」
「いえいえいえぇ、せっかく面白くなってきたところですからぁ。こちらも本気で行かせてもらう事にしましょうかぁ」
「そうですね、ご要望通り『空間系』の魔法を使う事にしましょう。貴方様が勝てなければ、代償を頂き退散するとしましょうか。」
「手土産をやるつもりはねえが、受けて立つぜ。」
「その意気の強さと雄々しさは、私も好きですよ。」
体制を立て直した様子の双方の言葉が放たれた時、再び富者の庭園にて戦いが行われるのだった。