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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第五話・想望を託すは双人の富者(そうぼうをたくすは ふたりのふしゃ)
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29 事後報告(じごほうこく)

デネレスティ達と共に救護した患者が無事に病室へと運ばれ、追々の作業や事後処理をサインナ達に任せた次の日。ギラムはその日も依頼をこなすべく私服姿に身を包み、都内で生活する豪邸の一室に足を運んでいた。


「……じゃあ、本当に怪我した人が居たんだね。迷信っぽいかなって思ってたけど、改めて聞くとビックリ。」

「本当にな。だがテインが俺に依頼をしてくれなかったら、二人共危なかった事には変わりねえんだ。そこは幸運だったと思うぜ。」

「そうだね。……あんまりウジウジ考えてたら、リズルトに怒られちゃうかも。そうするよ。」

「あぁ、その方が良いぜ。」

片方の依頼先であるテインの部屋へとやって来た彼はいつも通りのもてなしを受けつつ、先日の報告を交えながらやり取りをしだした。誰もが疑い、また誰もが信じるかもしれない『話』によって動き出した出来事に対する刺激は強く、簡単に処理出来る様な事象にはならない。ましてやリアナスと言えど『死傷者が出た』ともなれば、話は更に重くなる一方である。

だがそれでも相手の事を考えて話すギラムの言葉を聞いてか、テインは頷きながら表情を戻し、手元のグラスに注がれた飲料を口にした。

「そういや、今日はやけに屋敷内が静かだな。使用人達の姿もあんまり見てねえけど。」

「ぁ、多分『レセプション』の準備と会議をしてるんじゃないかな、そろそろその時期だと思うから。」

「レセプション?」

「僕の家で定期的に行われてる『立食パーティ』の事だよ。小さい頃から出席してるけど、やっぱりちょっと窮屈なんだよね…… 身だしなみもキッチリしてなきゃ駄目だって言われるし。」

「なるほどな。」

その後話題を変える様にギラムは話を振ると、テインは何かを思い出したかのように返答しはじめた。彼の家では定期的に『パーティ』なる催し物が開催されており、都外を含む多くの『富裕層』の人々が一堂に集まる日が存在する。時期によって様々な趣向を凝らした内容となっているが、特に今回の様な格式の低い立食形式は『使用人達』に一任されている所が彼の家ではあった。

その為、仕事の合間を縫って会議を行っている事も多く、普段よりも邸宅内は静寂に包まれているのだった。おまけに現状『リズルト』も居ない為、猶更静かである。

「ギラムも来る? 美味しいモノ、沢山食べられるよ。」

「良いのか? お偉いさん方も沢山来るんだろ。」

「まあね。でも大丈夫、ギラムなら堂々としてれば全然違和感無いと思うもん。良ければスーツ、用意してあげよっか?」

「一応、礼装なら職場の制服ならあるが…… あぁ、ココへ始めてきた時の恰好な。」

「アレだったら大丈夫かな。ベストもあったりする?」

「あぁ、あるぜ。」

「じゃあ全然平気、僕の関係者なら使用人の人達にも何も止められる事も無いと思うから。紹介とかも僕がするから、任せて。」

「ありがとさん。」

仕事の名目でも食事を提供してもらえる話となると、ギラムは内心嬉しそうに返事をしだした。どんな場でも容認されやすい職場の制服姿で話が通ると、彼は相手から様々な質問をされ、それに答えるのだった。

基本的な質問内容は『好き嫌い』に対するモノであったが、人によっては身体に現れやすい『アレルギー』等にもテインは気を配ってくれていた。大まかな参加者が決まっているとはいえ指示が無ければ動きにくい事実もある為か、彼なりに使用人達に何かしてあげたかったのだろう。彼が大好きな『肉』と『魚』をメインとした料理の内容を含ませながら、テイン本人があまり得意ではない『大きい花』を避ける様、内容を考えるのだった。ちなみに何故苦手かと言う理由に対しては、テインは答える事は無かった。

質問が大まかに終わり内容をメモし始めた、そんな時だ。



ガチャッ


「ただいま、遅くなってめんご。」

「ぁっ、お帰りリズルト。お仕事お疲れ様。」

彼等の居る部屋とバルコニーを繋ぐ硝子扉が開かれ、その場へリズルトがやって来た。初日に見かけた井出達とは違う服装に身を包んだ彼は、少し暑そうにしながら頭に巻いていたバンダナを取り、軽く汗を拭い出した。バンダナを取り除かれると同時に濃い紫色の長い髪が姿を現し、容姿に似合わないボリュームで彼の肩に持たれかかった。

パッと見て肩から上だけの後ろ姿を視ただけならば、女性と勘違いされても不思議ではない位のサラサラ感であった。現に軽いウェーブが掛かった髪の毛の艶は大変良く、ある意味『女子力』と捉えられそうなケア振りである。

「今日は仕事だったのか、リズルト。」

「まあな。日中シフトだから何時でも抜けられっけど、下手に抜けて迷惑かけるのも難だしな。現にコッチに来てて穴空けてるし。」

「凄いよね、ちゃんとそういう部分を考えて仕事出来るって。リズルトみたいに仕事出来る人だったら、普通に一人で出来そうなのに。」

「つっても、俺が出来る事なんて高が知れてるからな。共同作業じゃない分は賄えてるけど、そうじゃない部分はどーしようもねえよ。」

「そうなんだ。」

半ば神輿を担ぐ勢いで無邪気に言い出したテインであったが、実際に社会に出ているリズルトからすれば対した事ではないようだ。幾多の同業者達と司令塔が有るからこそ出来ている彼の仕事にとって、人手不足になればなる程『個人へ対する負担が増える』と考えていた。事実それによる負担が増えている事も理解している為、キリエから渡されたシフト表以上に出られる時は自ら足を運んでいるそうだ。

その為、最近は留守の日の方が多いらしい。

「……ぁ、もうこんな時間か。悪い、そろそろ俺席外すぜ。」

「あれ、今日は別の仕事もあるの?」

「それプラス、呼び出しだな。パーティの日時だけ、確認しておいても良いか?」

「明後日の夜だよ。楽しみにしてるね、ギラム。」

「了解。当日よろしくな、テイン。」

「うんっ」

仲良く話す二人の様子を見ていたその直後、ギラムはズボンの中に忍ばせていたセンスミントを取り出し、思い出したかのようにそう言い出した。珍しくダブる勢いで仕事をしていた彼に相手は驚くも、いつも通りの彼に押されながら日時を告げて見送るのだった。

再び人気が落ち着き二人になると、テインは退屈そうに椅子に腰かけだした。

「……そういえば、ギラムもお仕事出来る人だよね。全部一人で片付けてるみたいだけど。」

「ギラムはそっちの方が性に合ってるって、言ってたな。案件そのものをストックする場はあっても、やるかどうかはギラム本人が決めてるらしいし。」

「そっか。……そしたら、ちょっと悪い事言っちゃったかな。」

「気にする方が、ギラムには悪いと思うぞ? 些細なやり取りに関しては、気にしないタイプらしいからさ。」

「うん、わかった。」

何も気にしなくて良い空間にも関わらず落ち着かない少年を視て、リズルトはその場に腰を下ろしながらそう言い出した。最近知り合った友人のギラムに対してテインは興味を示しており、リズルトから視ても『自身の本音を晒せる相手』として認識している事も解っていた。依頼で自らの元に来る日を心待ちにしているくらいであり、フィルスターを介してどんな相手かを知れば、たくさんの刺激と新鮮味を味わえている。無論ワガママを言って引き留めない所は、彼なりの我慢の表れの様にも見て取れた。

そんな優しい少年を視て、リズルト優しく頭を撫でるのだった。


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