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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第五話・想望を託すは双人の富者(そうぼうをたくすは ふたりのふしゃ)
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27 白鳩(みちびきのしるし)

テインからの変わった依頼を受けた二人はその後、水族館を早々に後にし元来た道を慣れた速度で移動していた。頼まれたからと言う名目も多少あるが、彼等からしても少年の話には気にかかる部分があったのだろう。その足取りは何処となく速く、半ば早歩きであった。

「しっかし、楽観視する訳じゃねえけど。結構ホイホイ依頼を受けるんだな、ギラムは。」

「ん、意外か?」

「それなりに仕事が出来るってのは知ってるから、依頼の受託に本人なりの基準とか設けてそうな気もしてたからさ。親しい相手からの依頼だったら、どんな小さいレベルでも請けそうだよなって思っただけ。」

「ま、否定はしないぜ。事実知り合いからの依頼だったら大抵請けてるし、どんな内容であろうと大体行ってる。無論、本能的に拒否するのもあるから『全部』じゃねえけどな。」

「『売春』とかか。」

「否定はしねえが、何か極端だな………」

道中での他愛も無い話をしながら軽く表情を歪ませるギラムを視てか、デネレスティは軽く苦笑していた。確かにエリナス達の例えが極端かと問われると、甲乙つけがたいと回答するしかない。しかし自身の相棒であるグリスンも少し変わったニュアンスの回答をする事もゼロではない為、恐らく個体差と言えるくらいの差であろう。

改めて述べるとすれば、エリナス達はとても『個性的』である。仮にもし『ギラムも個性的過ぎるだろう』と言う突っ込みがあったとしても、あえてのノーコメントとしておこう。

「まぁでも、それくらいの方が安全っちゃあ安全か。」

「ん、何の話だ?」

「なーんでも。 ……あっ」

そんなやり取りをしていた彼等は道を進んで行くと、お目当ての純白の鳩と再び再開する事が出来た。車道から少しだけ離れた歩道に鎮座するかの様に座っていた鳩は彼等を視るも、特に動くことなくその場に居座っていた。足を曲げて羽毛に隠れたその姿は、完全に調度品レベルの置物の様である。

「アレだな、さっきの鳩。ある意味微動だにしてねえ。」

「その方が有難いけどな。調べるっつっても、こんな場所で探すところあるのか……?」

軽く首を傾げながら鳩へと近づくと、案の定相手はその場に立ち上がって移動し、ギラムから避ける様に移動し始めた。しかし避け方が行きの時とほぼ同じで元居た位置に戻る気配がない所を視ると、何か意図があって向こうへ避けるのだろう。そう思った彼は後を追うように静かに歩み寄ると、その意思を汲み取ったかのように鳩は彼等を誘う様に誘導して行くのだった。


白い鳩に導かれて彼等が向かったのは、ショッピングストリートの向かい側に位置する住宅街の一角。群れを成すかのように連なる軒先に向かって鳩は歩き、ギラム達はその後を追うかのようにゆっくりと進んで行く。半ば散歩の方な雰囲気にも視えなくはないが、正直言って彼等の心情は言うほど穏やかでは無い。

完全に道案内するかのように歩む鳩の姿は何処か美しいが、彼等の脳裏には先程まで水族館で交わしていたやり取りが再生されている。迷信交じりの憶測に過ぎない出来事が仮に事実だとすれば、この先に誰か助けて欲しいと願う者達が居るかもしれない。そうであった時の事を考えれば考えるほど、穏やかでは無いのは当然だ。


寧ろ、冷静な表情と雰囲気を見せているギラムの方が凛々しいくらいだ。


そんな彼等が住宅地の一角に差し掛かったその時、突如として鳩が翼を広げて空へと飛び出した。不意な事に対して驚く二人であったが、飛んで行った先に視線を降ろした時、彼等は驚愕した。

「……おいっ、デネレスティ……! 作り話じゃ無さそうだぞ!」

「みてえだな……!! おい、しっかりしろ!!」

彼等が視た方向にあった光景、それは地面に横たわる豹獣人の姿であった。民族衣装に近い装束を身に纏った相手は何処かで戦闘したのか、身体の至るところに傷を作っており、軽く血を流しているのが分かった。駆け寄った彼等は安否確認の後、まだ息があることを確かめた。

「……うぅっ…… ……リア……ナス……?」

「誰にやられたんだ!? お前のリアナスはどうした!?」

「……頼む……俺の、マスター……を……! この、先……に………!!」

「分かった。デネレスティ、ココ頼んだぞ!」

「お、おうっ!」

軽く息絶え絶えの相手から告げられた言葉を聞き届けると、ギラムは立ち上がり再び周囲を見渡した。すると家の曲がり角に先程飛び立った鳩が姿を見せているのを見つけると、彼は走って駆け寄り曲がり角の先を視た。そこには豹獣人の言った相手であろう、リアナスと思われる男性がうつ伏せで倒れていた。

「おいっ、しっかりしろ!!」

「………ッ」

『出血量が酷えな…… このままじゃ衰弱死しちまう……!』

周囲に流れたであろう鮮血の光景に怯む事無く彼は駆け寄り安否確認すると、こちらも何とか息がある事を確認出来た。しかし先程の相手と比べると完全に弱っている事が分かり、彼は辺りを見渡し危険が無い事を確認した後、ポケットに忍ばせていたセンスミントを取り出した。そして手慣れた様子でロックを解除して番号を入力し、何処かに連絡を取り始めた。

すると、ワンコールしない内に相手は電話へと出てくれた。

【はい、サンテンブルク。】

「サインナか……!? すまん、専用回線使っちまうんだが救護者だ! 至急、リーヴァリィ東北エリアの治安維持部隊の車を出動させてくれ! 『P-4』ポイント付近の住宅街だ!」

【……只事では無さそうね、解ったわ。すぐに要請するから、事情も後で説明して頂戴。】

「頼むぜ!」

【了解よ!】

連絡を入れた彼はセンスメントを降ろすと、即座に上着を脱ぎ相手の身体に巻き始めた。出血量の多い個所を重点的にカバーする様にしっかりと結ぶと、近くに落ちていたレンガの上にスカーフを置き、倒れた相手の体制を横へと変えだした。すると相手は苦しそうに咳き込んだ後に呼吸を再開し、彼は一安心しつつ相手の外傷を確認し出した。

倒れていたのは自身と同じくらいの二十代後半の男性であり、左肩と腕を始めとした左方に大量の傷を負っていた。どうやら鋭利な物体を用いて切られたと思われたが、患部に巻いた服に血液が染み込む所を視ると深い傷である事が分かった。皮膚ではなく筋肉層に達するレベルと考えれば、必然的に使われたモノにも推測が行く。

しかし相手が『リアナス』であるとすれば、その判断には誤差が生じる。

『こいつがリアナスなら、戦闘で負傷したって考えた方が良いな。相棒の奴も深手を負ったみたいだし、せめて何を使ってやられたのかさえ分かれば、治療班に情報を回せるんだが………』



「ギラム、ココに居たか。」

「?」

ひとまず救援隊が到着するのを待とうと考えていたその時、彼の上方から自身を呼ぶ声が聞こえてきた。

身体を動かし相手の姿を探すと、屋根伝いにやってきたラクトの姿があった。どうやら連絡を聞いて駆けつけてくれた様であり、大まかなポイントから探し出してくれた様だった。

「ラクト! お前、どうしてココが?」

「お嬢からの連絡を受けてな、都市内に居たから先に状況把握の為にと派遣されただけだ。……そいつが、要救護者か。」

「あぁ、エリナスが近くに倒れてたから『リアナス』の可能性が高い。でも誰に何をされてやられたのか、俺には解らなくてな。」

「なるほどな。」

状況を簡単に説明された彼はその場に膝を付き、相手の近くへと顔を近づけた。すると相手は薄目を開けて何が近づいたのかを確認すると、しばし眼が合った後、再び苦痛に表情を歪ませだした。

「……リアナスで間違いなさそうだな。俺が視えている。」

「やっぱりそうか…… ってことは、創憎主か……」

「例の教団員かそれに準ずる者達の仕業、と考えるのが妥当だろうな。……怪我は『風』に近い『刃物』によるモノだな。これくらいなら俺でも解る。」

「属性を重ねて、切ったって事か?」

「憶測だがそうなるな。」

しばらく様子を見た彼はその場で両手を掲げ、患部を覆う様に冷気を放ち出した。すると止血の為にと巻いていたギラムの上着が徐々に硬度を増して密封状態に近い空間が完成し、外部からの細菌侵入を抑えるのだった。幸い服を事前に巻いた事もあってか直に傷口へ空気を送る事無く冷やす事が出来ており、中々に良い応急処置と言えそうだ。

「とりあえずはコレで良いだろ。ヴァリアナス共が来る頃には、氷は溶ける。」

「助かったぜ、ラクト。」

「礼はまだ早い。もう一人居るんだろ、救護者は。」

「あぁ、そうだった。」

自分達の可能な限りの応急処置を済ませると、二人は一時その場を離れ、もう一人の怪我人の元へと向かって行った。しかし路地を一つ曲がった先で倒れていたであろう相手の元へと二人が向かった時、その場に居たのはデネレスティだけだった。

「デネレスティ。さっきの豹獣人はどうした?」

「……手遅れだった、とだけ言っておこうか。ギラムに相棒を託して安堵したのと、体力的に限界だったらしい。消えちまった。」

「えっ!! どういう事だ!?」

再び戻ったその場で聞かされた事実は酷なモノであり、報告を聞いたギラムは驚愕した。生命線ギリギリだったとはいえ、まさか獣人本人がその場から消えてしまうとは考えて居なかったのだろう。何故消えてしまったのか解らない、という表情を見せていた。

「俺達エリナスからすれば、リヴァナラスは異世界であり『夢』の様な場所。故にこの世界で敗北すれば、この世界には居られなくなる。」

「ギラムが高い所から落ちる夢を見た時と同じような感覚って言えば、解りやすいかもな。そんな感じで元の世界に戻されるんだと。」

「じゃ、じゃあ死んだ訳じゃねえんだな……?」

「そうだな。……一部を除けば。」

「え?」

二人から告げられた話に安堵したのも束の間、ラクトの口から消えてしまった彼等の末路を教えてくれた。


元々獣人達にとってリヴァナラスは『異世界』であり、本来彼等が居る事を望まれなかった世界だ。救済措置として創られた今のクーオリアスが存在している中で移動をする事、それは人間達からすれば『夢渡り』をする様な感覚に近い。その為、恐怖体験の様な夢の直後に目覚める感覚の如く彼等も元の世界へと引き戻され、自らの意思で再びこの世界に足を付ける事が出来無くなるのだ。

しかしこれだけであれば対したデメリットでは無くギラムが安堵するのも解るが、問題はその先である。

「イレギュラーが極一部だがある。消えた奴がどの段階で来てるかによっては、それが通用しない。ましてや『個人の力』でこっちへ来ていれば、猶更だ。故に、安堵はし辛いだろうな。」

「!!」

「……少し酷だろうが、ギラムは知っておいた方が良いと思う。……ま、その心配も無いだろうけどな。」

「えっ……?」

「お前は俺達エリナスを『道具の様には扱わないから』だ。そうじゃない奴等程、知れば知る程俺達の扱いが粗末になる。ましてやこの世界で消えれば、どう足掻いてもこっちへは来られない。」

「………」


「……… 本当に、お前はリアナスには向かない考えを持ってるな。」

やってきた過程によっては死を意味する事を告げられたギラムは複雑そうな表情を見せるも、ラクトは特に気にする事無く静かに視線をそらした。しばらくして連絡を受けた救護者用の車が到着し、応急処置したリアナスは病院へと搬送されるのだった。


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