22 遊戯運転(おたのしみのうんてん)
ギラムの家にしては珍しく賑やかな時間となったその日の午後の事。再び彼等と協力する事を約束したリミダムは自由に彼の家を満喫し、何時ぞやに見せていたギラムとの初対面の頃の様子を見せていた。
基本的に遊具や娯楽用の道具が無い彼の家での時間は『読書』がベターだが、今の彼の家にはフィルスターが居る。その為彼の面倒を見ながら遊ぶというのがエリナス達なりの遊び方となっており、ギラムもまたその生活を送ることが多かった。物覚えが良い幼き龍の吸収力は素晴らしく、興味を持った分野は躊躇無く質問しそれに対する回答を主人達がする為かフィルスターはとても楽しそうに日々を過ごしていた。ましてや主人のギラムが久しぶりに家に居ると成れば、猶更彼にとって充実した時間を過ごせると言ったものだ。その証拠に、帰宅以降フィルスターはギラムの元から一切離れようとしないのだった。
そんな午後を過ごした彼等はその日の夕方、一同揃って食卓を囲んでいた。
「ご馳走様でしたぁー」
「はい、お粗末さん。」
夕食を食べ終えたリミダムは威勢良く挨拶をし、満足げな笑みを見せながら合掌しだした。その日の夕食は『ベーコントマトパスタ』であり、材料として使用した『玉ねぎ・ベーコン・にんにく』を食べやすいサイズに刻み『オリーブオイル』で炒めホールトマト缶と生パスタを和えた一品だ。味の調整用にブイヨンを使用している為か、後味もしっかりと楽しめる代物であった。
「ギラムって、思ってたより料理上手なんだねぇー オイラ、改めて見直しちゃった。」
「言う程手の混んだ物は作ってねえけど、そう言ってもらえて良かったぜ。」
「一応チラっとは聞いてたから、それなりに予想はしてたんだけどねぇ~ でも、普通に美味しかった。」
「ありがとさん。」
客人であるリミダムからの評価を聞いて嬉しかったのか、ギラムは返事をしつつ笑みを見せていた。その後慣れた様子でグリスン達が食器を片付けるのを見た彼は同様に食器を持って移動し、慣れた様子でギラムは食器を洗い始めるのだった。彼が洗っている間にグリスンは布巾を手にテーブルを拭き始め、リミダムはその間フィルスターの様子を視つつギラムの傍へと近づいた。
「んー 美味しい物を食べてゴロゴロしたい気分だけど、オイラちょーっと気になる部分があるんだよね。ギラムー」
「ん?」
「ちょっとで良いからさぁー オイラを『ギラムの愛車』に乗せてくれない?」
「え、ザントルスにか?」
「そぉー」
軽く手を世話しなく動かすギラムに対しリミダムは頼み事をすると、彼は手を止め相手の顔を見始めた。何をもって言い出したのかは分からない彼であったが、先ほどからジッと背丈の高いギラムをリミダムは見続けていた。眼で何かを訴える事無く見慣れた眼差しを向けているところを見ると、単純な興味本位からなのでは無いかと推測出来る顔つきをしていた。
「ココへ来た時から、ずぅーっと気になってたんだよねぇ~ あのバイク、普通のじゃないでしょ。」
「いや、普通のバイクショップで買ったぞ。」
「そっちじゃなーい!」
「え、どっちだ??」
「キキュキッ キーキュッ」
「……『既製品じゃない』って意味?」
「そぉー フィルスターは解ってるぅっ」
「キュッ」
意図とは違う返答にリミダムが軽く憤慨する中、彼の考えを汲み取ったフィルスターの発言で一同は理解を得ていた。確かに彼は興味本位による申し出をしたものの、その先には探求心があった様だ。フィルスターと楽し気に燥ぎだしたリミダムは軽く跳び跳ねており、中々に意気投合していると思われた。
しかしリミダムと違い、フィルスターは跳ねていない。
「あぁ、そういう意味か。確かにあのバイクは、オーダーメイドに近い代物だぜ。買った店の店主が趣味で造ってた奴を、俺が昇進したタイミングでお祝い込みで買わせて貰ったんだ。」
「ぉー 出世祝い?」
「まぁそんな感じだな。皿洗い終わった後で良ければ、別に良いぜ。」
「やったーっ!」
購入経緯と共に乗車許可を貰ったリミダムは再び跳び始め、彼の肩を飛び越えんばかりに垂直跳びを披露し出した。自らの背丈の倍以上の跳躍力を見せる猫獣人は井出達に似合わず俊敏であり、装束がお飾りに見える程である。コレで動きやすさを重視したスポーツウェアを着せた際には、一体どんな動きを見せてくれるのだろうか。
むしろそちらが気になるテンションの上がり方であった。
「……ってなわけでぇ~ オイラ、ギラムとランデヴーしてくるね。」
「……何で僕に言うの?」
「なんとなくっ」
「意味は無いんだね……」
「相変わらずだな、お前も。」
そんなハイテンションに付いていけないグリスンが軽く呆れる中、ギラムは苦笑しつつ食器洗いを終えるのだった。その後ギラムは軽く荷物を纏め出かける支度を整えると、リミダムと共に外へと出かけて行った。
彼等が外へと出た頃は黄昏時を既に終えており、夜の闇が都市内を包み込まんとばかりに暗がりが増えた風景が広がっていた。自らの背後から放たれる借家のライトアップで近隣は明るいモノの、車道近辺は街灯以外の明かりは無く、バイクによるヘッドライトのみが辺りの認識を手伝ってくれるくらいと言えよう。そんな中でも平然と出かけるギラムなのだから、夜でも左程危険な運転はしない様にも見て取れた。
夜の闇が徐々に広がる外へと出ると、彼等はその足で駐輪場へと趣き自身の愛車が止まっている場所へと到着した。そこにはマンションと駐輪スペース用の街灯の明かりで照らされた、日中とはまた違う輝きを放つザントルスの姿があった。
「おぉー 改めて視ると、スッゴイ綺麗なボディなんだねぇ~」
「定期的にって程じゃねえが、ワックスがけも少ししてるからな。後ろ、乗れるか?」
「にゅっ、オイラそれくらい出来るもんっ!」
「悪い悪い。」
子供扱いが嫌いな相手の反発を軽く買いつつも、ギラムは成れた手付きで操縦し駐輪場から少し離れた広いスペースへと移動した。街灯の真下へと移動した彼はスタンドでバイクを固定すると、リミダムは軽く跳び移る勢いで乗車しシートに跨る様に着地した。
しかし、
「……乗れたは良いけど、これじゃ装束がタイヤに巻き込まれちゃうねぇ。今着替えるから、ちょっと待っててー」
「あぁ、ゆっくりでいいぞ。急ぐ旅じゃねえし。」
「ありがとぉー」
彼の身に着ける衣装は完全にバイク向きではなく、下手をすれば布地が巻き込まれ事故へと繋がる危険性も秘めていた。事前にその事に気付いたリミダムはそのままの体制で上着を脱ぎ始め、装束の下に身に着けていた肌着姿へと変わった。翠色の布地の下から出てきたのは白地に空色の刺繍が入ったノースリーブシャツであり、どちらかと言えば細部に拘った代物の様にも思えるような服だ。完全に薄着になったリミダムは尻尾に注意しながら布地を纏め始めたのを視て、ギラムは服を回収しシート下の収納スペースへと入れてあげるのだった。
「うっしっ、準備万端っ」
「そしたら、背中捕まっててくれるか。爪立てるなよ。」
「はぁーい。」
「うし、行くぜ……!」
準備を済ませた彼等はお互いに乗車し発信準備を済ませると、夜の街へと飛び出した。




