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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第五話・想望を託すは双人の富者(そうぼうをたくすは ふたりのふしゃ)
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19 占術会議(せんじゅつかいぎ)

世に生きる者達に対し、仮に『世界で起きた出来事を全て把握出来ているか』と問われた何と答えるだろうか。歴史上の事から世界の事まであらゆる時代と土地を遡り、尚且つ秒刻みで進む世界の実態を把握する事は不可能に近いだろう。ネットを用いた情報配信であっても時間差が生じ、結局のところ限界があると言うのが正論だろう。

無論『特異的な力をもってそれを可能にする』者が居るのだとしたら、それはまた別の話だ。主人公の様に成れる力を持ち合わせている存在達が世界の大半を占める場所など、無いに等しい。故に今の現代都市リーヴァリィにも、誰もが気付いていない事柄もたくさん存在するのだった……



カツンッ…… カツンッ……


グリスン達エリナスがギラム達の住まう世界を『リヴァナラス』と呼ぶ、この世界。人々で賑わう都市区を離れた地域に存在する場所に、地下へと向かって下る靴音を響かせる空間が存在していた。あたかも天高くそびえる塔を下るかのような感覚に陥れるこの場所で、燭台に灯された明かりを頼りに下る者が居た。黒か紺かすら分からない位に染められた漆黒のローブを身に纏い、動きに合わせて緩やかに動く布地達。

暗がりに等しい階段を下り終えたその先に待っていたのは、木製のテーブルを囲み同様に燭台を手にした者達であった。

「……おや、遅いお着きです事。」

「何、少々雑務が滞りましてね。集会そのものに遅れた失態、別で稼がせてもらいます事よ。」

「結構。本日の議題を開始しましょう。」

簡単に今の現状を表現するとすると『魔女集会』と言う表現が正しいだろうか。一同が同じ格好、同じ燭台を手にして集う様はまさしく『集会』であり、この場に集った者達は一つの計画を遂行するべく、話し合いを開始した。参加者は全員で十五名居るが、皆同じ格好はしているものの対格差がある為、人影全てに統一感は無かった。しかし身だしなみは全員ローブであり、顔元を隠すかのように黒のヴェールを垂らしており、表情は口元のみ視える状態となっていた。そのためよく見てみると、参加者は女性だけではなく男性も混じっていることが伺えた。

参加者全員が集ったその瞬間、司会進行役と思われる相手が燭台を軽く掲げた後、会議は開始された。

「先日の騒動は、皆様方も耳にされてる通り。我がデッキに存在する者達が、敵の手に堕ちました。欠員は六名、全員が『シングルナンバー』です。」

「何と……! 早くもシングルナンバー達が落ちたというのか……!」

「このような失態、過去に事例がありましたでしょうか。」

「有りはしないでしょうね、そうでなくては困りますもの。」

「現在堕ちた者達は『現代都市治安維持部隊』の監視下にあります。早急に脱出を試みる事は大事ですが、即座に狙えば相手の警備が強固に成るだけ。今はその案件は避けたいと考えます。」

「仲間を見殺しになさるおつもり?」

「何、場合によっては別の構成員で補えば宜しいだけの事。さして我々の支障ではありませんわ。」

集会の議題に対し異論を唱える者もいれば、冷静に状況を分析して言葉を放つ者も居る。どんな会議に対してもよくある光景がその場で広がっているが、口出しせず静かにやり取りを見守っている者もゼロではない。現に喋っている者達は参加者の半数以下であり、それ以外の者達は耳だけ傾けている状態だった。

参加者達はそれぞれの意見を交えながらやりとりを行い、内容は次第に濃い物へと変わって行く。

「それで、その行いを阻害する者達を如何して仕留めるおつもりか? 相手は中々の手練れと視ます。」

「現実世界に適用しつつも、真憧士としての力も有する者。とても手ごわい相手に代わりはありませんわ。」

「集団で色仕掛けなさるのは如何かしら? 所詮は男、堕とすのは容易いでしょう?」

「それが可能ならば苦労はしませんわね。相手が手練れならば、そう簡単に闇落ちする事は期待しない方が宜しいでしょう。」

「ならばエリナスを早急に殺すと言うのはどうかしら。糧にならないのならば不要でしょう?」

「それも作戦としては有用ですが、下手に火種を燃やせばいずれ炎と成って我々を焼き尽くします。ラグナロクの戦火を燃やすには、まだ早すぎますわ。」

「では、何か良い考えがありまして?」

誰もが決定打を出せないジレンマに駆られながら進む話合い程、歯がゆい物は無いだろう。それだけの相手が敵側に回っている事をしらしめられる現状を打開出来れば、集会の参加者達が勝利を収める事も簡単だろう。手強い相手だからこその障害は、何度立ちはだかれたとしても初回が一番苦戦を強いられるものだからだ。

そんな一同の沈黙を破ったのは、一人の参加者の声だった

「以前は対象に近い者達を排除する事を考え、失敗に終わりました。我々の考えを遥かにしのぐ者達である事が判明。対象のクローバーを封じても無駄である事が解りました。ならば次に叩くべき場所、それは………」

「それは………?」

「『力に勝るだけの鉄槌を下す』と言ったところでしょうか。」

「鉄槌……?」

「力付くでは勝てない事は証明されております。それでも尚、我々は歯向かう事は忘れてはなりません。何よりも相手は『排除すべき対象』なのですから。」

「ですが一本気で攻めるのは些か無駄でありましょう。」

「ならばその一本を二本に変えてみるのはどうかしら? 二本が駄目ならば三本、三本が駄目ならば四本と……… 非常なる追撃程、相手が推される現状はありませんわ。」

「なるほど……… 相手の素質と志を折って行くと………」

「彼に味方する者達には限りがあるならば、周りを折って行く事を行えば宜しいのですよ。増やされてはこちらの数がいずれ負けますわ。」

「ふむ、中々に面白い作戦だな。」

興味深いかと思われたが至ってシンプルな決定となり、集会の参加者達は決議を取り終了となった。計画遂行日等々が未だに未定で不明確な部分はあれど、次に行うべき事柄と参加者が決まれば簡単な部分もゼロではない。一部の者達が一足先にその場を後にする中、一同に対し言葉が放たれた。

「では、参りましょう。あの男をリーヴァリィに残しておくわけには行きませんわ。」

「その通りですわね。」

集会参加者である『ザグレ教団員』達は燭台を掲げた後、自らの野望の為に向かっていくのだった。


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