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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第五話・想望を託すは双人の富者(そうぼうをたくすは ふたりのふしゃ)
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16 勤務表(シフト)

朝食時のやり取りを終えて、夏の日差しが降り注ぐ現代都市リーヴァリィへと赴いたギラム。その日から本格的に依頼の仕事を請ける事が確定していた事もあり、適度に時間は気にしつつも慣れた道中を移動しながら目的地へと向かっていた。

軍事会社セルベトルガで仕事を請け負う外部班の傭兵達は、基本的に今のギラムの様に特定の過程を踏んだ上で仕事をするのが基本だ。それは会社内での決まりであり外注元である企業にも守らせている制約も含まれている為、過程を守らなければ以後の依頼を請けない定めと成っている。無論その制約を破り個人で所属を望む傭兵が居れば離職も例外は無く、ましてや資金の水増しなどの隠ぺいもゼロでは無い為、何処からそのルールが変わるかすら分からない。

故に定めた事柄を護る事は、ギラムの様に『稼ぎ頭』の名目を得ている者達の決まり事と言って良いだろう。ルールに則った仕事をするのは当然であり、法に触れる違法は御法度ごはっとなのだ。


そんな今日のギラムの予定は、一足先に面接をした『テイン』の所での仕事だ。表向きの仕事内容は『家庭教師』と成っているが、正確には『監視役』であり雑談込みで彼の自由時間の相手をする事が仕事と成っていた。その為比較的気軽な仕事内容と思われがちだが、彼が勉学に勤しんでいる間は他の使用人達と同じ扱いで手伝いをする事も含まれていた。

なので、簡単に纏めると『休憩時間が一定量で監視と雑務が仕事』と思って頂ければOKだ。しかし休憩時間そのものも本人の取り方によって変動する為、如何に監視役を楽に過ごせるかがポイントと言えよう。

どうぞ我が身に置き換えてシュミレートしながら楽しんで頂ければ幸いだ。

「へぇー じゃあ、ギラムは何時もそんな感じで『創憎主』と戦ってるの?」

「まぁ、そう言う事になるな。そう言う意味では、そこまで『才能が有った』とか『猛者だった』とかじゃないぜ。現に魔法の使い勝手からしたら、他の仲間達の方が断然それっぽいし強いからさ。」

「そうなんだ。」

そんなギラムが彼の邸宅に到着し仕事を開始したのは、昼前の事だ。その日も朝から家庭教師との勉学に勤しんでいた彼を待つ事も含めて、彼は朝の時間を有意義にするべく邸宅内をグルっと一回りしてきた後だった。

起業家の家ともなれば相当な部屋数が当然の様にあり、勤めている使用人の数も種類も予想を大きく超えても不思議ではない。現に今日の彼はそちらを把握するのを前提で動いていた事も有り、大体の部屋の用途と立ち入り不可の場所もほぼ把握しているのだった。こういう所も、仕事が出来ると考えて良いだろう。

「リズルトは見た事あるんだっけ、ギラムの魔法。」

「んーや、二人とは別行動で応戦してたからな。丁度良い所で最凛が来てくれたからバトンタッチして、その後はテインの所に行った感じ。」

「あぁ、そっか。その日はもう予定で早めの帰宅だったもんね。ねぇねぇギラム、何か魔法見せてー?」

「見せてって言われてもな……… 言うほど派手な魔法じゃねえぞ、俺のは。」

「良いの良いのっ」

「……まぁ、そこまで言うなら良いが………」

勉学後に入れ違いで彼の部屋に戻ってきた彼は軽い雑談込みで頼まれていた話をすると、テインは興味を持った様子で彼に早速ワガママを言い出していた。元より年下を相手にする事が無かったためか、ギラムは慣れない相手に戸惑いながらも自らの魔法を見せるべく、軽く右手首をスナップする様に動かした。すると彼の手元には瞬時に銀光する拳銃が召喚され、彼はそれを見せる様に掌の上に安定させながら差し出した。

即座に現れた辺りから魔法である事を理解した彼等であったが、二人が使用する魔法とは違うのか興味深々に視線を向け始めた。

「基本はコレだな、俺の魔法は。」

「うわぁー、拳銃だ! しかも銀色、始めて視たよっ!」

「造りもしっかり本物寄りだな。マジモンがあるのか、コレは。」

「あぁ、ちゃんと現物があるぜ。前の職場で愛用してた拳銃がそれだったから、今でも使ってるって感じだ。」

「いいなー 僕もあんな風にカッコいい魔法が使えてたら、もっと堂々として居られたのかも。」

「堂々と?」

「僕って消極的な方だから、あんまり強気にいろいろ言えないんだ。今はリズルトが居るから心細く無いけど、そうじゃないと……ね。」

「あぁ、そう言う事か。世間慣れすれば、いずれそれも出来る様に成ると思うぜ。俺も普段がこんな感じだからそう見えるのかもしれないが、仕事じゃそこまで前に前にって出てないぜ。」

「そうなの?」

「現にココへ来た時もそうだったからな。目上の相手には、基本そうするもんだ。」

「そっかー やっぱりそっちも気にしなくちゃ駄目だよねー…… あんまり好きじゃないけど。」

「いずれ解るさ、テインにもな。」

「うん、ありがとうギラム。」

自らの魔法を視て満足した様子の二人を視てか、ギラムは軽く安心した様子で手元から拳銃を消失させた。扱いそのものはグリスンと雰囲気が似ている事もあってか言葉に迷いが無い彼だが、テンションが上がった際の話の乗り方はメアンに似ている所が見受けられ、その点で苦手意識が有る様にも思える。感情で動く傾向のある相手は、何処となく彼の扱い難い分野のようにも思えた。理由は恐らく、彼自身が『表立った感情を全面的に出して行動する事が無いから』だろう。

だが実際の彼は状況下と仲間が関係していれば、必然的にその感情を見せる事が多い。そのため『機械的ではない』部分もしっかりと持ち合わせており、相手の感情の揺れに付いて行けないわけでは無いのだ。何故そこまで波を激しくするか様に頻繁に感情を出せるのか、そこが解らないのである。

落ち着いた相手を視ながら用意されたドリンクを口にし、一息ついていた。その時だ。


リンリンッ♪


「ん?」

「ぁっ。リズルト、お客さんだよ。」

「おっ、もう来たのか。相変わらず早いな。」

彼等の居る部屋に対して、透き通ったハンドベルの様な音が突如として響き渡った。音を耳にしたギラムは軽く辺りを見渡し音の発生元を探していると、目の前に座っていた二人は音の正体を知っているかのようにそれぞれ動き出した。その場から離れだしたリズルトの赴く先に視線を向けると、そこにはバルコニーに通ずる大きな窓ガラスがあり、そこに立つ一人の存在の姿があった。

相手の元へと到着しガラス扉を開けると、外に居た相手は静かに入室し彼等の元へと戻ってきた。

「ご機嫌よう、お坊ちゃま。お代わりは無いですか。」

「うん、おかげさまで。おねえさんも平気?」

「はい、キリエはいつも通りです。リズルト、こちらが次回分のシフト表です。依頼件数は前回と大差ございませんので、お時間を視てお越し下さい。」

「おう、毎度毎度悪いな。」

来客ではあるが親しみがある様子でやりとりを交わされる光景を目にし、ギラムは軽く視線をずらし相手の姿を見る様に眼を配りだした。やって来たのは彼が始めて視る『雌の豹獣人』であり、いわゆる『女豹』と言うのに相応しい相手であった。しかし性格そのものは穏やかであり身に着けている眼鏡が更にその印象を遠ざけているが、何処か言葉の圧を感じるストレートな物言いが特徴的だった。

「………? こちらの方は、何方ですか。」

「あぁ、紹介するぞ。『ギラム』って言って、最近ココに出入りする様になった傭兵だ。リアナスだから、俺等の事は見えてる。」

「そうでしたか。お初にお目にかかります、ギラム。『キリエ・ラルゴ』と申します、以後お見知りおきを。」

「あぁ、ご丁寧にありがとさん。『ギラム・ギクワ』だ、よろしくなキリエ。」

「よろしくお願いします。」

その後紹介される形で相手の事を知ると、お互いに名乗りつつ挨拶をし軽いやり取りを交わしだした。

キリエと名乗った相手は、何時ぞやから眼にするようになったベネディスやサントスと似た装束を視に纏っており、こちらは白色でも翠色でもない『山吹色』の装束を視に纏っていた。スラリとした体格を魅せるかのように巻かれた布地は何処か美しく、ついついその身体のラインに眼が言ってしまう程の井出達であった。だが何時ぞやに見かけたドレスの美女に比べればまだ青い方の為、こちらの方が若く見える印象をギラムは覚えるのだった。

「では、キリエにはまだ職務がありますのでコレで失礼します。」

「えぇー、もう帰っちゃうの?」

「申し訳ありません、お坊ちゃま。またいずれお暇を頂戴して赴きますので、その時に是非。」

「うーん……… 解った、お仕事頑張ってね。」

「ありがとうございます。ではリズルト、お坊ちゃまをお願いします。」

「あぁ、任せとけって。」

しばしの歓談をするのかと思いきや、相手は直ぐに持場に戻る様子でその場を離れだした。軽く名残惜しそうな言葉を漏らすテインを宥める辺りを察すると、結構な頻度でこの場所に足を運んでいる事が理解出来た。リズルトとのやり取りも馴染みある光景にも思えた為、三人は仲が良いのだろうとギラムは思うのだった。

退出後にギラムが聞いた話によると、その感覚に間違いは無く二人は『幼馴染』なのだそうだ。

「………当り前な事言っちまうけど、『獣人エリナス』にも雌獣人が居るんだよな。普通に。」

「あぁ、世界の半分は雌(女)だぞ。こっちに赴いてる連中で目立つ事してるのが雄獣人だからかもな、そう感じるのは。」

「ギラムは見た事無かったの? おねえさんみたいな人。」

「初めてだな。相棒も雄獣人だし、つるんでる連中も全員そうだったからな。」

「そうなんだ。」

しかし今回のやり取りでギラムが驚いたのは、やはり直に『雌獣人』を目の当たりにした事だろう。話では居る事は知っていたが眼にする事が殆ど無く、実際に居るのかすら良く解らない不確かな存在だとギラムは思っていた。容姿の可愛さで言えばヒストリーとリミダムが雄獣人らしくない素振りを見せる事はあるが、実際の性別は間違いなく雄だ。そのため今回の様に『女性だ』と言うのをパッと見で分からせる相手が現れた事は、やはり相当なインパクトがあったと思える。

改めてそんな質問をしてしまうあたりに、その衝撃さが伺えた。

「……で、さっき何を貰ったんだ? 書類みたいなのを手渡されてたが。」

「コレか? シフト表。」

「シフト? 仕事のか。」

「リズルトは僕のパートナーだけど、クーオリアスでもちゃんとお仕事してるんだよ。運送業みたいな事をしてるんだよね。」

「そそ。一応所属は『黒翼こくよくガーゴイル宅急便たっきゅうびん』っつって、そこで荷物の運搬から送迎を担当してる。通称は『ガイル便』な。」

「凄いな、本来の世界でも仕事をしてこっちでもやる事をやってるのか。」

「働き者だよね~」

「ま、良く言われるけどな。でも普通に考えたら、何も変じゃないけどさ。」

「そうなのか?」

「良く言うだろ? 『馬車馬の様に働け』って。」

「……それは、遠回しな意味が込められてそうな内容だな。お前馬獣人だし。」

「かもなー」

だがそんな働き者のリズルトではあるが、周りにどう言われようと動いて行く意思は持っている様にも思えた。それは彼の本質なのか性格なのかは良く解らないが、彼自身が目指している暮らしが何処かにあるのだろう。


自分が大事だと思う相手との時間も大切であり、本来居るべき世界でやる事をやるのも大切。


ある意味亭主の鑑とも言えそうな立ち居振る舞いである。

「今度は何時出勤?」

「んーっと、丁度明日だな。ギラムが顔出してくれる日だから、テインも寂しくねっだろ?」

「うん、大丈夫。……ぁ、でも家庭教師も明日は多く来る日なんだよね……… それだけ残念かも。」

「さっき入れ違いですれ違った人が居たが、明日も来るのか。」

「って言うか、ほぼ『毎日』なんだ。家庭教師は。」

「若いうちに詰め込み教育らしいからな。今くらいだな、テインがゆっくり出来るのはさ。」

「そうなのか……… こう言ったら悪いが、大変だなテイン。」

「気にしないで、何時もの事だから。」

そんなリズルトが大好きなのだろう、留守の時間を思う度に表情を曇らせる瞬間があった。先程自身で卑下していた部分も恐らく含まれている顔色であり、ギラムは軽く同情しながらも留守を任された身としてテインを見守って行こうと改めて思うのだった。誰しも暗い表情で居る事は望まない、明るい表情で日々を過ごして欲しいのだ。

明日の仕事で大事な部分を改めて認識した、その時だ。


コンコンッ


「ん? はい。」


ガチャッ


「お仕事お疲れ様です、ギラム様。お食事の方をお持ちしましたので、お願いしてもよろしいでしょうか。」

「あぁ、もうそんな時間か。了解。テイン、ランチタイムだぜ。」

「はーい。」

彼等の居る部屋に対して扉をノックする音が聞こえ、何時ぞやのメイドが料理を持って彼等の元にやって来た。家庭教師が居ないランチタイムの間もギラムが視る事になっている為、彼はそのまま台車ごと食事を受け取り部屋で食事が取れる様準備をするのだった。しかし大体の準備は部屋の隅に置かれている棚から出せば済む話の為、食事も俊敏に取れるのであった。

そんな彼等の準備が整い料理の上に被せられていた蓋を持ち上げると、そこには豪華なフレンチのランチプレート達が顔を出した。片方は前菜と思われるサラダであったが、もう片方は彩りもさる事ながら盛り付けに拘りを感じるラム肉達が鎮座していた。皿そのものも大きい為、育ちざかりとは言え学生のテインでも少し多く感じる量であった。

「……しっかしまぁ、予想はしてたがすげえ豪華だな。いつもこんな感じか。」

「うん、全然食べきれないんだけどね。いつもはリズルトと一緒だから気にした事無いけど、今日はギラムも一緒だから何か嬉しいな。」

「嬉しい?」

「家族と一緒に食べる事、ずっとしてないから。二人共ほとんど居ないから良いんだけど……… こう言うと、親不孝者に成っちゃうよね。」

「まぁ、多少はな。でも気難しい相手だとは思うから、無理にしなくても良いと思うぜ。いずれそれも改善されるだろうからさ。」

「うん、そうする。ギラムはその量で足りる? もっと増やせるけど。」

「あぁ、平気だぜ。さっきからドリンクも飲んでたからな。」

「そっか。じゃあいただきまーす。」

「頂きます。」

日々の暮らしがあからさまに違う事を目の当たりにしつつも、彼が家族と共に過ごせる時間も少ないだろう。過去の自分が過ごして来た環境とは違う日々を送る少年を視ながら、彼もまた昼食を取るのだった。


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