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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第五話・想望を託すは双人の富者(そうぼうをたくすは ふたりのふしゃ)
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14 懐柔会合(かわしあうかいごう)

新たな協力者として二組の同士達とギラムが面会をし、無事に依頼を受理し掛け持ちで数ヵ月間行う事が決定した。その頃、彼等の住む世界とは違う『クーオリアス』では、新たな動きが起こっていた。



リヴァナラスの世界と同じ様で異なる時限に存在する、獣人達の世界『クーオリアス』 その日も青空の中に点々と浮かぶ雲が美しい晴れ間が広がる中、城塞都市『ヴェナスシャトー』の中に構える大きな城の一室。獣人達を束ねる中枢組織である『WMS(ウォルジメイヘント・シパリティ)』の主要メンバー達が集まり、会合が行われようとしていた。

「ティーガー教皇、全員揃いました。」

「………うむ。ではこれより、ウォルジメイヘント・シパリティの会合を行う。一同、礼。」


スッ


その場に集いし七人の獣人達は一人の虎獣人の言葉に続いて起立した後、静かに頭を下げだした。そして外部からの情報源が一切無いその場で、彼等の会合が行われるのであった。

「今回の会合は、輸送隊からの報告による『真憧士』で在りながら『創憎主』と似た行動を取り計らおうとする者達の報告会である。代表者『レーヴェ大司教』殿。前へ。」

「ハッ!」

今回も会合の進行役を務める象獣人の発言と共に席を立ったのは、会合の出席者の中でも年少者の部類に入る獅子獣人の青年だ。彼の隣に座る女性人達の視線を集めながらも立った彼は凛々しい顔付をしており、軽く装束を直しながらその場を歩き出し代表者の定位置と化した中央の場へと赴きだした。雄の獣人らしい逞しい身体付きは服の上からでも分かる程であり、そんな彼が納める輸送隊が今回の会合招集をかけた主であった。

「ご紹介に預かりました。輸送隊所属、レーヴェ大司教こと『サントス・モデラート』です。本日は会合にお集まりいただき、ありがとうございます。」

「それでレーヴェ大司教殿、話を急ぐ様で悪いが中々に興味深い報告会の内容であると思ったが。詳細がどのような形に成っているのか、見せて頂けるかな。」

「勿論です、マウルティア司教殿。我が隊に所属する部下が戦地に潜り込み、そこから得た情報を元として制作しました。どうぞ、ご一読下さい。」

「うむ。」

軽く挨拶をした後サントスは彼等の元に配られる資料として制作した書類を手元に取り出すと、各代表者の元に自動的に運ばれる中央板の上で書類を手放した。すると紙達は静かに風に舞う様に一度天井付近へと送られ、そこから静かに舞い散る様に各席に座る代表者達の手元へと向かい始めた。


配られた書類には、彼の部下であるリミダムが主要となって対抗した『ザグレ教団』の組織に対する一部の情報と、彼と共に活動を行ったギラム達の手によって捕獲されたメンバーの簡易プロフィールが纏められていた。しかし書類そのものにはリミダムの名前は明記されておらず、隊の中で濁すべきだと判断した部分を濁しており、変に危機感を覚えられない様細心の注意が施された書類がその場にあった。無論ギラムの写真や同行者であるアリン達のデータも簡単にだが纏められているが、こちらに対しても抜かりない配慮が行われてるモノと成っていた。

「ほぉ、またしてもこやつによる事件終息と言うべき内容か。若人ながら中々にやりおる。」

「それでレーヴェ大司教、捕縛した方々の命は向こう側で管理しているという解釈で良かったのかしら?」

「はい、それで間違いありません。人命についてはリヴァナラス側、教団員達が使っていた物資については我々『輸送隊』が回収し、各分野の調査に詳しい『衛生隊』の協力の元、行わせて頂きました。」

「ワシ等の所で知り得た情報を元にすれば、奴等教団員の者達はこちら側で使用される培養液から機材に関するデータを一部保有している可能性が出てきた。データの横流しが行われた痕跡については、目下調査中じゃよ。」

「衛生隊がそのデータを流した…… という事かしら。」

「一重に否定出来ぬが、その可能性も重々承知の上じゃ。皆の信用を落とす事になりかねぬが、ワシは隊の部下達を信じる所存。無下には出来ぬ。」

手元に配られた書類を見た代表者達が各々で発言をすると、その視線は次第にマウルティア司教こと『ベネディス』の元へと向けられ始めた。今回の報告は主にギラム達の行動によって知り得た教団員の報告もあるが、敵因子と成りかねない存在達の元に何故そのような技術が提供されたかを明らかにすることも含まれていた。リミダムがギラムに報告した通り『誰が横流ししたのか解らない』という現状を放置しておけば、更なる技術の提供に加え自らの納めるWMSの危機感にも繋がりかねない。

視線を送られるも臆する事のないベネディスは平然とした様子を見せており、部下達を護る事も含め自身の潔白さを証明するかのように堂々としているのだった。

「ザグレ教団なる者達と接触したエリナスの情報につきましては、ある程度こちら側で観測は出来ております。しかし世代タイミングの把握は行えましても、その時点では『ウォルジメイヘント・シッパリティ』としての完全なる組織編成は行えていない状態。衛生隊全てが責任を負うと言う厳罰は『下す事は難しいでしょう』と、キリエは考えております。」

「あら、規律に厳しい警務隊の長らしいお言葉ね。アタイはそんな生易しい言葉には、惑わされませんことよ。」

「何、仮にそれがフォローなる者ならば我々皆が一堂に決を取り罪を定めれば良い事。早急に急ぐ案件ではなかろう。」

「問題は、あきち等『エリナス』がその教団員の糧とされている事だすよ。書類整理をしていると時折見かけていた失踪者データとそれが一致すれば、教団員の構成メンバーの割り出しからリヴァナラスへの影響力をどれだけ持っているのかを調べる事は、施設隊なら楽勝だす。」

「リアナスと接触したエリナスは足が付きやすい、故にそれが足枷(あしかせ)になる……… エレファント枢機卿、ラーテ大司教に手を貸しなさい。」

「御意、ティーガー教皇!」

報告を耳にしたティーガー教皇こと『ニカイア』は静かに考えを纏めると、隣に座っていたエレファント枢機卿こと『グロリア』に指示を仰いだ。教皇からの命を受けたグロリアは高らかに返事をすると、端の席に座るラーテ大司教こと『アニデ』に静かに視線を送り互いにコンタクトを取るのだった。

会合は基本的に報告に対する各々の発言を統合的に纏め進行するのが基本の為、変に討論が行われる事は無い。しかし重要な案件に成ればなるほど話し合いがヒートアップするものである為、主要人物となるニカイアが基本的に静かに耳を傾けているに過ぎない。そのため彼自ら発言し何かを問う事はほとんど無い為、ある意味静かなやり取りとも言えよう。

「では次に、ザグレ教団へ対する今後の対抗措置について。輸送隊内部で検討した内容についてご提案します。」

「うむ。レーヴェ大司教が検討した、彼等へ対する措置とはどんな措置だ。」

「少々危険な綱渡りの有るかとは存じますが、それは先日から我々が眼に付けていました。真憧士『ギラム』を主力に置いた迎撃戦です。」

「ハッハッハッ、若人の多い輸送隊ならではの血気盛んなやり方だなぁ! レーヴェ大司教、よくお主もその提案を受理したモノだ。」

「自身もこの会合内では年少者に部類されるため、そう考えられても無理はありません。ですがこれに対してはメリットが多く存在します。」

「ほう、メリットとな。」

「今のリヴァナラス内に存在するリアナスの内、一部がこのザグレ教団に引き込まれていると言う事は対立する真憧士が存在しても不思議ではありません。世界のコトワリに準ずる『バランス』が取られると言う事は、必然的にこの勢力が比例して大きくなるとも言えます。無論、傍観者と成る事を選ぶ者達も居りましょう。」

「確かに、そう考えるのが無難じゃな。現にギラムは『ザグレ教団からの誘いを断った』とある。ならば反対勢力として行動するのは確定な上、彼等の傍にいる面々を考えれば『リーダー』としての力も備えられていると言う事。十分過ぎる素質じゃな。」

「仮にもしギラムがその反省力側のリーダーと成ったとすれば、それは我々獣人側からすれば利用する価値が多く存在します。彼は元より我々獣人を『一人の存在』として認識する傾向がある故、適切な過程を踏みさえすれば裏切られる事は無いでしょう。力を行使して何かをするのであれば、逆に我々がねじ伏せてしまえば良い。」

「なるほど、そのやり方に関してはオレ様も賛同する。確かに綱渡りと言えようなぁ。」

次に話し合われた内容について各々が発言すると、グロリアは何かに納得した様子で自身の象牙を撫でるような仕草をしだした。物事には順序があり正しく行われれば不意の失敗に繋がる事は無い、そう考える存在達はこの世界に住む獣人達にも数多く存在してる。ましてやギラムは相手からの敵意や敵視については敏感な方とも言える為、下手な小細工をすればそこから一気に真実を見抜かれ対策をとっても不思議ではない。教団員達との交戦最中もクローバーが無かった状態で戦う事を選んだ彼ならば、どんな手段をとってもおかしく無いのだ。

そんな彼の傾向についてはサントスが一番良く理解している為か、リミダムからの報告も含めその流れが一番良いと考えていた。ましてや彼はこの会合内で数少ない、ギラム達リアナスを護ろうとする考えを持っている者達だ。下手にギラムを討たれでもすればその計画は一気に窮地に陥る可能性もゼロでは無い為、彼を巻き込まない事が出来ないのならば有利に立てる状況下を用意する必要がある。輸送隊の中で話し合われた内容は基本的にそちらが主と成っている為、計画の進行云々については比較的シンプルにまとまっているのだった。

その証拠に、何時どのような切欠を始まりとして行うかなどは、一切明記されていない。

「ではレーヴェ大司教、その綱渡り役を何方がやるとおっしゃるんですかい? 相応しい人材があると?」

「現段階ではその役を行える者が、我が部隊には一人おります。中々に問題視される部分はありましたが、その反面に対する才能と言える部分なのでしょう。その行いを完遂出来ると、既に盟約を結んでおります。」

「……だ、そうだ。ティーガー教皇、どのようにお考えか。」

「ふむ………」

伏線としてリミダムの安全確保も同時に行ったサントスからの提案を聞いて、ニカイアはその場でしばし考え込む様な仕草を見せだした。その間他の参加者達は静寂を貫く様にその様子を静かに見守っており、空間内は完全に無音の環境と成るのだった。

それから再び彼が発言したのは、ほんの数分後の事だった。

「……… 確かに綱渡りと言えるべき作戦だが、レーヴェ大司教が考えているやり方に対して我々獣人側が無理に全体で動く必要は無い。以後の作戦の為にも、真憧士ギラムの力の源が何なのかを解明する事、それは我々にとっても大事な要素の一つ。敵を知る事は大事だ。」

「では、ティーガー教皇様はこの作戦に賛同なさると。」

「そうだな、現段階ではその方が利口だろう。レーヴェ大司教、機会を用意する。役を担えると考えるその者を、俺の所に後日連れて来なさい。」

「ハッ! ティーガー教皇、ありがとうございます!」

無事に提案は受理されリミダムの面会機会を獲得したサントスは心の中でガッツポーズしつつも、その場では冷静に返事をし感謝の言葉を述べるのだった。話し合いが無事に終了した事とニカイアの考えがまとまった事に対して他の参加者達から静かに拍手が送られ、静寂に包まれていた一室に再び音が戻り始めるのだった。

「では今後、ラーテ大司教のバックアップは、パンター大司教にお願いするとしよう。マウルティア司教はそのままサンプルの解析と、彼等の保有して良そうな素材に対する対抗策の検討を。」

「仰せのままに、ティーガー教皇。」

「仰せのままにしよう、ティーガー教皇。」

「プルムベア大司教とレーヴェ大司教は、現在『マルズトーチ』地区で検討している『参道整備』の基盤調査を引き続き行う様に。」

「仰せのままに、ティーガー教皇様。」

「ハッ! ティーガー教皇!」

「それでは本日の会合を終えます。一同、礼。」


スッ


こうして集められた者達による会合が無事に終了すると一同は再びお辞儀をした後、各自解散となった。



「……やれやれ、中々に骨が折れる会合じゃわい。レーヴェ大司教殿も大々的に報告する事もなかろうに。」

「何、いずれはおれっちもリミダム含め輸送隊を危険にさらす事を覚悟して行動しなくちゃならない。ギラムがこれくらいの事で根を上げる程、軟な身体も精神も持ってない事くらい把握済みさ。」

「そうじゃな、それに関しては同意する。ピニオも久しぶりに会えたと、中々楽しそうに話しておったからな。」

会合が行われた場からしばらく移動した通路では、その場に参加していたベネディスとサントスが道中を一緒するかのように歩いていた。一同が集められた帰路は大体一人か参加者同士で戻るのが基本の為、今現在彼等の周りには人気は無く静かなやり取りが交わされていた。

二人は元より同士の考えを持ち合わせている為、ギラムを巻き込むも安全な場を確保する責任があった。発言権の低いベネディスに変わってサントスが肩代わりする事は無論の事、技術力では桁違いに等しい衛生隊を味方に付けるのはサントスにとっても都合が良いと言えよう。そんな二人の接点は今から大分過去に遡った場所で成されるが、その話はまた追々する事としよう。

「お二人共。お話し中、失礼致します。」

「?」

帰路を一緒にする二人の獣人達の元に対し、後方から声をかける存在の姿があった。声を耳にした二人は静かに背後を振り返ると、そこには先ほどまで会合に参加していたパンター大司教こと『キリエ』が眼鏡の位置を静かに直しながら立っていた。

「おや、パンター大司教殿。何か情報不足がございましたかな。」

「いいえ、レーヴェ大司教の会合につきましては十分な情報は既に得ております。少しお暇を頂戴する事をお伝えしようと、参りました所存。ラーテ大司教殿には数日間の責務を、先程お願いして来た所です。」

「ほう、もうそんな時期か。お主も真面目じゃのう。」

「キリエは何事もやるべき事を成し、その上でクーオリアスの未来を創る事に賛同しておりますので。不要な事柄は一切行うつもりはございません。」

「相変わらずと言うか、ディルらしい考え方だな。了解、こっちもリミダムとのスケジュールを組まないといけないからさ。そっちはそっちで頑張りな。」

「ありがとうございます、レーヴェ大司教。」

ほんの数回分のやり取りで互いに交渉するべき事を終えると、彼女は静かにお辞儀をした後その場を去る様に歩き出した。あたかも百合の花の如く美しい後姿に二人は軽く魅了されるも、彼等も持場に戻ろうとその場を後にするのだった。


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