12 動物愛好(どうぶつがすき)
久々の外部から会社に宛ててやって来た依頼に対して参加したギラム達一行は、今回請けた依頼に対して普段とは違うおもてなしを受けていた。何やら波乱の幕開けとも言わんばかりの歓迎も何のその、子息の部屋に招き入れられたギラム達はその心配も周りからのモノでしかなかった事を改めて知る事になるのだった。
「そっかぁ、ギラムはそれでココに依頼を請けに来てくれたんだね。確かに家庭教師は沢山居るけど、優秀云々の基準は僕には解らないや。皆頭固いし。」
「だろうな。俺自身勉学も得意な方じゃないから、そういう部分も混みで人選をした基準が解らずにいたんだが…… 今回の一件で納得行ったぜ。」
部屋へと招かれた彼は近くのドリンクサーバーから注がれたオレンジジュースによる持成しを請け、グリスンと並んでソファに腰かけていた。何時の間にか興味対象がフィルスターとなっていたテインの膝には幼き龍が楽し気に尻尾を振りながら座っており、優しく頭を撫でられてるのを見た彼は一息ついた後、部屋を軽く見渡しだした。
『スターリング・ファウンテングループ』が元々玩具会社である事を知っていたギラムであったが、難しい年頃ともなるテインの部屋はそれとは違った雰囲気を見せていた。部屋はパステルカラーで統一された可愛らしい道具や小物で揃えられており、恐らく勉学スペースと思われる場所にはカーテンが掛かり重々しき役職の方々使っていそうな木製のデスク一式が備わっていた。デスクの傍には幾多の本棚がズラリと並び、教科書や参考書が所狭しと並んでいるがほとんど手を付けていないのか新品同様の代物まで多種多量に揃えられていた。
本人曰く『詰め込められる時代にやっておくのが当然のスタイルだ』と言うのが親の考えらしく、本人の興味は度外視で並んでいるとの事だ。その反面が普段使い用の部屋の光景だと思うと、違和感など感じられない『本来のテイン』の姿なのだろうとギラムは納得するのだった。
「でも凄いよね、リズルトの一撃を察して受け流す前に避けちゃうんだもん。そう言う人、初めてじゃない?」
「あぁ、面と向かって視た時から『普通のリアナスじゃない』とは思ってたけどな。最凛が一目置くわけだ。」
「最凛?」
「あ、ギラムは知らなかったね。『最凛』って『スプリーム』の事なんだよ。『ミドルネーム』って言えば解りやすいかな。」
「へぇー ……って事は、グリスンにも『フルネーム』が有るのか。」
「うん、一応『グリスン・煌音レンダ』って名前があるよ。でも別にそっちで呼んでもらいたい訳じゃないから、今まで通り『グリスン』で良いよ。その方が僕も嬉しいから。」
「そっか。」
「ちなみに俺は『リズルト・棟条エフォート』だ。煌音と同じく、俺もファーストネームで呼んでくれ。」
「了解。」
隣に座るグリスンが口にしたジュースを飲みながら説明をしてもらい、改めて彼等エリナスの知らない事実を彼は知る事となった。
今作で登場する獣人達の殆どには呼び名である『ファーストネーム』の他にも『ミドルネーム・ラストネーム』を含んだ名前がしっかりと存在しており、普段は彼等が望んだ呼び名で呼ばれているのだ。今回の例を参考にしてしまえば、アリンと契約したスプリームの本名は『スプリーム・最凛マスイープ』であり、どちらの呼ばれ方をしても彼自身を表す事になる。しかし本人達からすればファーストネームの『スプリーム』の方が、ラストネームの『マスイープ』よりも好んでいる傾向が多い為、基本的に名前で呼ぶことを望む獣人達が多いのである。リズルトの場合は『ミドルネーム』で呼ぶ事が基軸となっている為か、彼の事を『最凛』と呼ぶのだ。
ちなみにこれはほんの一例の為例外も存在しており、わざとラストネームで呼ばせる獣人も居れば『ミドルネームが存在しない獣人』も中には居る事を忘れないでいただきたい。既に執筆済みの作品内でも一部その様な呼び方をさせる獣人が居る為、もし良ければ探して楽しんで頂けたら幸いだ。
「キュ~」
「……にしても、フィルが撫でられてそこまで懐くのも珍しいな。テインは動物が好きなのか。」
「うん、大好きっ 一番大好きなのは『ヒヨコ』だけど、それ以外の動物も大好きだよ。ドラゴンって初めて視た。」
「ちょっと経緯があってな、俺の所で育ててるんだ。」
「そうなんだ。ねぇねぇ、僕も『フィル』って呼んでいい?」
「キュウッ」
「……駄目みたいだな、そっぽ向いてる。」
「僕も前に呼んだ時、首を横に振られたからギラムだけにそう呼んで欲しいみたい。ギラム、呼んでみて。」
「え? フィル。」
「キュッ!」
「ほらね、威勢良いもん。」
「そっかぁ、じゃあ仕方ないね。フィルスターなら良い?」
「キュッ」
「ありがと。」
そんな名前も些細な問題なのかもしれないが、やっぱり本人達からすれば重要な事柄に変わりはない。名前の他にも愛称や名称が存在する様に、彼等からすれば『こう呼んで欲しい』や『こう呼ばれたくない』という物が存在するものであり、親しい間柄であればある程いろいろな要望が生まれると言うものだ。エリナスではないフィルスターにもその要望は少なからず存在しており、ギラム以外には愛称で呼ばれたくない為か首を横に振るのが基本である。
ただし例外で『女性人』からは『フィルちゃん』や『フィルんちゃん』と呼ばれている為、その辺りの境界線は本人にしか分からないと言っていいだろう。事実ギラムにも『何故自分だけそう呼んで欲しいのか』と言うのが解っていない為、この辺りはしっかりと本人が喋れる様になった際に説明してもらう事としよう。
ちなみに余談だが、メアンからの『フィルル』はフィルスター自身があまり好ましく思っていないらしい。呼ばれてもそっぽ向く事が多いと言うのは、グリスンの談である。
「まぁとはいえ、お互いリアナスなのは解った。とりあえず仕事の名目上顔を出す機会が増えると思うが、監視役も要らなそうだし何を教えたら良いんだろうな。この状態だと。」
「そしたら僕、ギラムが今まで倒して来たって言う『創憎主』の話を聞いてみたいな。何時も避けて来ちゃったから、良く解らないし。」
「え? 何でその話知って…… ……あぁ、そっか。スプリームから聞いたのか。」
「そーゆー事。お前さんが普通じゃないって言うのを聞いて、その話をテインにもしたからな。コイツは魔法の力に対しての馴染みも強かったから応戦しても平気だとは思うんだが。」
「僕、そう言うのってちょっと苦手って言うか……… 喧嘩とかもした事無いし、加減とかも解らないから。下手に使ってリズルトに迷惑かけたくないし、応戦した事は一度も無いんだ。やっても脅かす程度。」
「そうだったのか。そこまで参考に成るかは解らないが、それでも良ければ構わないぜ。」
「うんっ、ありがとうギラム!」
「どういたしまして。」
しかし話をすればする程、テインは至って普通の少年である事がギラムは理解する事が出来て居た。親が子に似るとは言うがまだあのトゲトゲしさは殆ど無く、グリスンと並ぶ『子供っぽさがある』と言い表した方がきっと良いのだろう。口調も何処となく似ている似ている為、読者の方々からすれば理解に迷う部分があると思うが、御愛嬌として理解して頂けたら幸いだ。
現に著者本人以外は『解らない』というコメントを頂いているほどである。何処かに違いがあると思い把握が要因になる手段を見つけ次第、即導入したい程だ。
「そしたら、面会も済んだし俺は一回お暇するぜ。もう一カ所顔を出さないといけない場所があるからな。」
「えっ、他にも仕事があるの?? ギラムは働き者なんだね。」
「傭兵はそんなもんさ。グリスンはココに居ても良いし、先に帰ってくれてても良いぜ。」
「うん、解った。フィルスターはどうする?」
「そうだな………」
そんな面会も無事に終えたギラムは次の仕事へと赴く前に、フィルスターをどうするかと検討しだした。
彼の言う次の目的地は『リブルティ』からの依頼であり、本人側の要望もある為下手に同席させるわけには行かないだろう。ましてや今回仕事で手を組む相手は完全に見知らぬ相手であり、相手の反感を買えばコンビとしては成り立たないとも言える。仕事での支障は可能な限り減らしたいと思う反面、ギラムには気がかりな部分が存在していた。
それは例の『ザグレ教団』である。
「……何時もグリスンに任せてばっかりだったからな。今回は赴いても平気な場所だろうから、俺が連れて行くぜ。」
「うん、解った。」
「そしたらフィル、俺と一緒に行くぜ。」
「キューッ」
軽い検討の後フィルスターを連れて行く事を決めたギラムは彼を回収すると、フィルスターは慣れた手付きで彼の身体を昇り定位置の左肩上へと居座るのだった。本人が一番落ち着く場所に到達した幼き龍はホッと一息つく様にのんびりし始め、様子を見たギラムは優しく頭を撫でていた時だ。
「あっ、ギラム。一個だけ良い……?」
「ん? どうした、テイン。」
「もし良かったら、僕にも連絡先教えてくれないかな。あんまりリアナスの話が出来る人居なかったから…… ギラムが都合が良い時で良いんだ、またさせて欲しい。」
「あぁ、良いぜ。こっちとしても、リアナスの仲間が出来るのは心強いからな。無理に参戦させようとは思わないから、その辺は気にしなくても良いぜ。」
「うんっ、ありがとう!」
「じゃあ依頼主にも、一通りの流れだけ伝えておくぜ。休みと出勤日の都合も、追々付けておくからさ。」
「うん、解った。これからよろしくね、ギラム。」
「あぁ、よろしくなテイン。リズルト。」
「おうよっ」
本人からの申し出もあり、ギラムはまた新たにリーヴァリィに存在するリアナスとの連絡先を手に入れるのだった。仲間が確実に増えているという『実感』と共に、自らと同じく使命によって命を落とさない様『護ろう』と言う意思を再確認出来るこの行動。ギラムが一番の原動力に出来るであろう事実を知るたびに、彼はまた一段と逞しくなるのだ。
そんな一行とのやりとりを終えたテイン達は部屋の外まで見送りをすると、壊した扉の欠片を適当に片付け扉があった部分にカーテンを仕切りだした。これは普段から良くやる手法であり、使用人を始めとした面々から『無駄に接触されない様にする為』の彼なりに考えた知恵なのだ。リアナスである事を話せず外部に相談も出来ないからこそ、彼等とは必要以上に接点を持たない様にしようという、少年らしいちょっと弱気な心の表れなのだった。
「……… でも凄いね、こんな風にあっという間に会えるなんて。僕思わなかったよ。」
「偶然で片づけられそうだけど、こう言うのは全部『必然』って言うんだろうからな。俺達の所の神様が結び付けてくれた縁なのかもな。」
「リズルトの所の神様? 凄いね、そう言う人が身近に居るんだ。」
「つっても、眼に視える相手じゃないが何処にでも居る存在ってだけだからな。直に声が聴ける相手も限られてるっぽいぞ、聞いた限りだと。」
「そうなんだ。」
そんな少年の心を見透かす様にリズルトは言葉を掛け、再び部屋へと戻り彼の話し相手に成るのだった。