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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第五話・想望を託すは双人の富者(そうぼうをたくすは ふたりのふしゃ)
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01 大臣(マチイ)

自らが生きるために生活をし、自らが行うべき事柄を行う者達が集う都市『リーヴァリィ』 一つの大きな事象を予感として感じた者達が集い始めたその場所で始まった、一つの切欠と幾多の変化。ほんの些細な事だったとしてもいずれ大きくなる事柄に対して、真正面から向き合い己の出来る事を探す一人の強面傭兵。そしてそんな彼の為に行動したいと願った、一人の願いの奏者。

二人が出会い、事象が改変されて行くにつれて変化するその世界に待つ未来とは、果たしてどんなものなのか。この物語はそんな二人の願った未来と行うべき事柄を視詰めた、物語の一幕である………






「……以上が、サンテンブルクが先日出動した経緯報告でございます。マチイ大臣。」

「ふむ、報告ご苦労だったな。サインナ将。」

「勿体ないお言葉でございます。」

初夏を迎えた現代都市リーヴァリィの中心街から、少し離れた位置に存在する組織『現代都市治安維持部隊(げんだいとしちあんいじぶたい)』 その場に集いし者達を束ね頂点に君臨する、大臣と呼ばれた初老の男性は提示された文書に眼を通しながら台詞を口にしていた。

整った身なりに年長者の持つ独特かつ絶対的な威圧感を放っているものの、その場に立つ美麗な女性は返答をしながら静かに頭を下げていた。濃い緑色の髪の毛が背後で綺麗に纏められたその姿は美しく、組織の者達が身に纏う制服でも所々に装飾が施された深紅の服を身に纏う。彼女はこの組織内でも確かな実力を納めている者なのだろうと、雰囲気から解るくらいのオーラを放っていた。

そんな二人の立つ一室の中には、そんな二人とは違い普段着に近い衣服を纏った青年も立っていた。印象的な金色の髪をオールバックにしつつも所々に棘を作っているかの様に、風に凪いだ際の姿そのままを感じさせる軽く日焼けした褐色の肌を持つ強面の青年。その場に集いし部隊員達すらも圧倒させるくらいに鍛え上げられた肉体を持ち合わせた彼はその場に同席するも、威圧感もオーラさえも気にしない様子で平然とした様子でその場に立っていた。

「……… それにしても、小規模でそれだけの事を成す者達が現れたとはな。現代都市の治安に対する不信感が湧き出ても、不思議ではない事件だ。」

「仰る通りです。こちらも部隊編成の後に警備体制を強化し、各支部に対しての巡回と警戒を行う様手配しております。」

「ふむ。それに対する行いと労働力に対しては、宛はあるかい。」

「想定の範囲内で収まる部分が大半ですが、一部に対してはやはり穴がある現状でございます。」

「なるほど。他の部隊から招集すると言う検討は、サインナ将はしているのかな?」

「いいえ、他の部隊にはそれぞれの役目がございます。我々の一存による行動への実行には決定打も欠けている為、現在は検討しておりません。」

「では、現状は『サンテンブルクのみで行う』という方針を出した訳だな。」

「その通りでございます。」

だがそんな場に立つ青年は二人の交わす会話に静かに耳を傾けているだけで在り、今の所発言する様子は無くただただ肩幅に足を広げて立っているだけだ。あくまでその場に居る事こそが『役目である』と言う雰囲気を漂わせているが、これでも彼は部外者でありその場に立つ者達の会話を聞いて良い身分ではない。しかしそれが許される現状がその場には有る為、傍から見れば『どれだけの力を持った相手なのか』と不思議に思われても無理は無いだろう。

それだけの疑問を解消するだけの経歴が彼には有る、とだけ今は言っておこう。

「分かった、今はその方針で動いてくれたまえ。追って経過報告に対する文書も、こちらに送るように。」

「了解です、マチイ大臣。」

青年が静かに会話に耳を傾けそれぞれの顔ぶれに視線を向ける中、二人はやり取りを終えお互いに会釈をするのだった。無事に話が終了し手元の文書を邪魔にならない場へと移動させると、マチイと呼ばれた男性は静かに自らの重心を腰かけていた椅子の背もたれへと預けだした。そして先程まで向けられていた女性から隣に立つ彼へと視線を向け、再び体制を戻しデスクに肘を付けながら静かに両指を絡め、話す体制に入った。

「ギラム元准尉も、今回の助力には感謝しよう。謝礼に関してはいつもと同じく用意をしておく、後日取りに来ると良い。」

「了解です、マチイ大臣。」

「サインナ将、君は先に職務へと戻りなさい。私は彼に、まだ少し話がある。」

「了解です。ではギラム元准尉、(わたくし)はこれにて。」

「あぁ、お疲れさん。」

ギラムと呼ばれた青年は静かに返事をしながら女性に対してそう告げると、彼女は一歩下がった後に頭を下げ部屋を後にした。廊下と部屋を仕切る扉が音を立てない様気遣いながら去るその姿は、完璧にこの施設内での規律が表される瞬間とも言えよう。それだけの規律の中で行動する彼女がどれだけの実力を持っているかは、考えれば考える程に膨らむと言っても良いだろう。

彼女がその場に隣席し立っていた彼に無礼を働かない様気を配る姿は、やはり只者ではないと言える。

「……いやはや、君が部隊を抜けた後に部隊員と同じ行動をさせる事になるとはな。これも運命か因果か、困ったものだ。」

「それに関しては、俺にも解りかねます。 ……ですが。例え部隊を離れた身とは言え、俺は現代都市とその環境内で生活する人々を放って置く事は出来ません。故に『現代都市治安維持部隊』と似るも異なる行動が出来る『軍事会社セルベトルガ』が、俺にとって一番動きやすい場なのかもしれません。」

「ふむ。確かに君は、我が部隊と言う枠組みの中では少々肩身が狭いかもしれぬな。今の組織内で活動する君の声明に関しては、この場に居ても良く耳に入る。」

「勿体ないお言葉です。」

「何、私の言葉で恐縮する事は無い。君には君のやり方があって、それを生かせる場がそこだったと言うだけの話だ。今もこうしてこの場に赴き我々の依頼に応えてくれる時点で、私は君の活躍を視る事が出来る。それで良い。」

「ありがとうございます、マチイ大臣。」

部屋に残された者達同士で交わされる言葉は何処か意味深な部分が多いが、恐らく説明をする必要もなく解った方も多いだろう。彼は元々この部隊に所属し、自らの磨いて来た実力と知識によって『准士官』の立ち位置にまで上り詰めた若き期待の星だったのだ。彼の指揮する部隊員達からは憧れの眼差しが絶えず存在し、当時から部下であった『サインナ』もまた彼に慕っている存在だ。当時から彼等の上司としてトップに立っていた『マチイ』もまた彼に対しては強い信頼を寄せており、立場が変わった今でも会話をする程の間柄なのだ。

誰もが憧れを抱いてしまいそうな井出達と雰囲気を漂わせる彼が、現在進行形でその場に居ない理由。

それは一つの切欠と出来事が、それを変えたのだ。


「……あぁ、それと一つ。」

「? はい、何でしょうか。」

今では知る者が極少数と言えるその出来事を把握している大臣はしばしの談話をした後、彼に対して補足する様に言葉を告げだした。不意にやって来た言葉に対して彼は耳を傾けると、相手からは重い内容の質問が放たれた。

「今回捕まえた者達の件だが、君はどう考える。」

「……… 表向きに出す事を視野に入れますが、それでも詳細に関しては可能な限り伏せておく必要があると思います。応戦して解った部分を踏まえて述べるとすれば、彼等は皆『常人』とはかけ離れた力を使っていたと俺は考えています。」

「うむ、私も君と同意見だ。その辺りに関しては、私とサインナ将との間で情報開示部分を検討するとしよう。」

「お願いいたします。こちらの組織内でも似た情報が出た際には、俺自身も治安維持部隊の情報に合わせて話を進める次第です。」

「そうして貰えると有難い。早急にまとまり次第、君の所には伝達が行く様にしよう。」

「分かりました。では、俺はこれにて。」

「うむ、ご苦労だったなギラム元准尉。」

何やら大きな事柄が終えられた際の事後処理を行うような内容ではあるが、実際の所それだけの事柄がつい先日彼等の手によって行われていた。自らの元にやって来た者達との出会いによって変化していく現実を目の当たりにした彼は、手にした力を把握し事象を変える為に戦っていた。だがそれは一つ間違えれば世界という領域から足を踏み出す程の可能性を秘めた力とも言え、誰もが得られる力とはまた違った領域に存在している。

誰もが消したい望むかもしれない、誰もが変えたい望むかもしれない『願い』に対して、絶対的な力となる『魔法』 その力を使用する事が許された存在である彼は一部の者達しか知らない事柄を一つ一つ変えていくべく、これからも表舞台では語られない行動をする事を選ぶだろう。

それは誰かの言葉によって始まったモノだったとしても、自らの意思で選び今この瞬間を立っている。自らが選び取ったのだと己の意識に深く刻んだかのように、青年はその場後にし施設内を歩き出した。



彼の名前は『ギラム・ギクワ』

そんな彼がこの物語の主人公であり、現実世界の異変と鉢合わせするも逃げる事を選ばなかった一人の強面傭兵なのであった。


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